タイプ
その他
日付
2008/4/23

第13弾「鮭のサッチェプ」(5/5)


6.人物ファイル



●村木美幸さん (アイヌ民族博物館 伝承課及び学芸課長)
昭和60年に勤めてから伝承・調査活動に尽力、現在は北海道食育コーディネーターとしてアイヌ料理の紹介・普及にも取り組んでいる。

村木さんは「現在紹介されるアイヌ文化は、江戸時代後記~明治初期の頃のものがどうしても多くなり、今の暮らしとは大きくかけ離れている部分がある。また、どうしても日本の文化と違う部分がクローズアップされてしまい、アイヌのくくりが自然との共生という部分で紹介されることが多い。現在はそのような暮らしをしているわけではないため、アイヌをどう表現していくか、周りがアイヌをどう捉えるかというのは大切な問題である。しかし近年はアイヌの人たちと一緒に考えるよう、表現する周りの人たちの理解していこうという姿勢が見られるようになってきている」と話す。

かつてはアイヌ文化を調べるのは和人だったが、今はアイヌの人たちも多くなってきているという。彼らは家庭で伝承されることがほとんどないため、調査・研究活動に参加しなければ知りえない状況にあり、自分のルーツ・文化を知るために民族博物館で働く人が増えているという。

民族の文化研究施設であるとともに観光の場でもある博物館。今後はこれらをどう融合していくか、そしてアイヌの子どもたちが使える史料作りを、アイヌ自身が自分たちがどうあるべきかを考える場でありたいという村木さん。

自身、幼少の頃からアイヌにいいイメージがなかったそうで、博物館に勤めて「アイヌという言葉が人という意味なんだ」と知ってから、もっとアイヌについて知りたいという欲求が出てきたそうだ。

「アイヌ文化を知ることは、自分の中のアイヌに対するイメージを変える手段だった」という村木さんの言葉は、今の時代を生きるアイヌの人たちが、自分たちの祖先が行ってきたこと、どう生きてきたかを知らないという現状を表すものであり、またこれからを生きていく人たちのためにも、この博物館が行っていることの重要性を物語るものであろう。


●新井田幹夫さん (アイヌ民族博物館伝承専門員)
「自然があって、自分が生かされている」と語る新井田さんは、イナウ(木幣)を作るための木の見立てや採取、チセの建て方やその際に使う葦(アシ)・キナ(ゴザ)を編むためのガマの穂の確保、山菜の採取、マレク(突き鉤)鮭漁の実演、カムイノミ(儀礼)の祭壇づくりなど、職員にアイヌ文化を伝承している。また、アイヌのお祭りやイベントなどでも積極的に文化伝承の協力をしている。

新井田さんは、こういった様々なアイヌ文化を民族博物館に入ってから、多くのエカシ(おじいさん)やフチ(おばあさん)に学んだそうだ。「その当時、年寄りがよくイナウや丸木舟を作っていたのを見よう見まねで始めたんです」。今ではイナウを作る際も自分の頭の中で出来上がりをイメージし、無駄に木を切らないようにしているという。

毎年9月初旬に行われているペツカムイノミ(川の祈り:鮭を迎えるために川で祈る儀礼)も、博物館自体が鮭漁を行っているわけではないのだが、「鮭の上がる川の河口で行いたい」「鮭漁が始まる前に行いたい」と儀礼の意味合いを大切にし、守るべき部分は職員の中で話し合い、しっかりと守り続けている。


●山丸郁夫さん (アイヌ民族博物館伝承係長)
父親がアイヌ民族博物館初代館長。現在は古式舞踊・儀礼など、特に伝統的な儀式では祭主を務めるなど、アイヌ民族博物館のある白老ポロトコタンの「顔」として、自身がアイヌ文化を継承しながら次世代に伝えている。

現在のアイヌの人たちの暮らしは私たちとなんら変わりはない。そんな中で、古くから伝わる民族の伝統を受け継ぎ、現在の新しい感覚を取り入れながら、新たなアイヌ文化を伝承している山丸さん。ここ数年は「ポロトコタンの夜」といった新たなイベントを行い、厳かな雰囲気の中、カムイノミ(儀式)やリムセ(踊り歌)やウポポ(座り歌)などを披露し、多くの人たちにアイヌ文化に触れる機会を増やしている。








●ポロトの母さんの会
アイヌ民族博物館/白老ポロトコタン(大きい・湖・村)にある、民芸品販売店のお母さんたちが集まって出来たのが「ポロトの母さんの会」。同会は数年前からアイヌの伝統文化を伝え広めていくことを目的に、主に山菜などの採取などを中心にアイヌ料理を提供し、ツアーをサポートしている。

お母さんたちは民芸品販売店の傍ら、アイヌ料理を提供しているため、今のところ、事前に連絡して都合が合えば食べることができるという状態である。

料理を作りながら、使用していた山菜の保存方法や料理法、効能などを説明してくれたのだが、改めて自然とともに暮らすための知恵が豊富で、自然に対する敬意と感謝の念、物を大切にする心や人との接し方など、今の私たちの生活に最もかけている大切なものを、お母さんたちの料理が教えてくれる。

「自然は神。草1本にも神様が宿っている。この世には人間と神様しかいない」「狩りした動物はその場で魂を送る儀式をし、皮・肉は持って帰るが、内臓は野に置き、他の生き物たちに分けた。鳥の分は木の枝にかけ、小動物には脂身などを野においていった」「天候の見方は、男の子が男親から学ぶ。山猟や漁業に最も大切なことだから」といった話を聞くことができるのも、貴重であろう。



取材・文:長尾道子
撮影:菊地和男