タイプ
その他
日付
2008/5/7

第14弾「わさび」(3/5)


3.どんなところに残っているのか


「よく、わさびは、水の品評会なんていうけれど、肥料を加えるわけでもなく、水だけだから、その水の良さがすべてです。それに地質の影響もある。どちらの要素が大きいのか、まだまだ確定できないところもあって謎の多い作物ですが、どんなに努力しても、条件のいいところには、逆立ちしてもかなわない。だから、先代がいい場所を持っていることが第一条件かな。」と言うのは、小沢隆弘さん。食味コンテストに強い御殿場のわさびも、富士山の豊かな伏流水の恩恵だという。水の少ない場所や水の足りなかった年は、どうしても大きくならず、収量も落ちる。湧き水で、水温は13~18度。年間通じて変化が少ないのが理想で、冬は-5度以下になれば凍ってしまうし、夏の暑さには弱く、気温が高くなりすぎると、病気が発生して一気に枯れてしまう。静岡県や西日本の産地では、今後、温暖化対策に頭が痛いという。

また、わさびの生育に向くのは、水がさらさら流れる砂れきや石れきだが、適度な有機質も必要で、落葉樹林に囲まれた場所が適しているという。

日照条件は、七陰三陽と言われてきたが、実際には、ある程度日当たりのよい場所が育ちもよいという。ただ、この安倍地区でも、川沿いの日光が常に降り注ぐ傾斜に多い。茶畑と違い、わさび田は、湧き水の豊富な奥山に隠れるようにしてひっそりとあることが多く、普段私たちの目に止まることがあまりない。




湧き水、水温、日照条件、石と適度な有機物といった様々な要因が、わさびの風味を決定しているが、その因果関係には謎も多く、今後の研究が期待されるという。

また、安倍地区では、多くのわさび農家が茶栽培を兼ねている。同地区で生産されるお茶は「本山茶」として出荷される。しかも、本山茶は、半分以上の農家が手摘みだ。ところが、その緑茶も、ペットボトルのお茶が普及し、急須で淹れる習慣が若い人の間で薄れるとともに需要が落ち込んでいる。

中でも、有東木は、茶畑とそこに点在する家屋の風景が、まさに一服の絵のような美しい集落である。約70軒のうち60軒ほどがお茶を栽培し、うち40軒ほどが山にわさび田を持っている。集落は、海抜500~600メートルだが、わさび田は海抜1200メートルを越える山にもある。400年前、村人がわさびを持ち帰ったというわさび山には、見あげるような急傾斜地に百段は越える不定形の小さなわさびの棚田があり、10人の農家が同じ水を共有していた。道もなく、モノレールでしか登れないその棚田の頂で飲んだ湧き水は、甘みさえ感じる、それはおいしい水だった。

このアルプスの山脈を控えた安倍上流の山間部は、静岡県の水源でもある。




町史を紐解けば、昭和57年の台風10号しかり、だいたい30年に一度は、大きな水害に遭い続けてきた地域である。そのたびにわさび田は流され、村を上げて復興に力を注いできた。そんな厳しい条件の中に暮してきた人々が育て上げたのが、わさびという日本を代表する食文化だ。安倍地区では、かつて一万人いた人口が半減。地元は、人が減ることで、生産以前の問題として、そこに暮せなくなるという不安を抱えている。山間部の過疎化という問題が、私たちの食生活と決して無関係ではないことを、改めて痛感させられた。