タイプ
その他
日付
2008/6/4

第16弾「菜種油」(2/5)


2.どうやって作られるのか


菜種の種まきは、9月上旬頃。横浜町では化学肥料を使う農家も多いが、牛糞などを利用した堆肥も入れる。農薬は一切使わない。品種は平成2年、青森県の奨励品種になったキザキノナタネで、たくさん摂取すると心臓に負担のかかるエルシン酸が少ない。油の含有量も多く、菜種油づくりに向いている。また、オリーブオイルの人気の理由である、動脈硬化をおこしにくいオレイン酸が多く、リノール酸やリノレン酸は、オリーブオイルの倍だという。他にも、同じような東北農業研究センターの育成品種に、キラリボシ、西日本に向く、ななしきぶ等がある。

種まきをすると約2週間ほどで発芽。そのまま越冬する。「菜種は、本当に手間は要らない。ただ撒いておけば育つ」と農家も言うように、下北半島の冬の寒さにも、吹きつけるやませ(偏東風)にも負けない。ただ、連作障害を起こしやすく、同じ畑に二度植えにくいので、この町では、じゃがいもやにんじんなどと輪作している。

収穫には、平成元年に共同で使えるコンバイン機を導入。仕事が楽になって菜の花を植える農家も増え、日本一の面積にまでなった。

搾油については、現在、横浜町で3つの団体が菜種油を販売している。
「青森下北ふるさとの会」では昨年、小さな搾油機を購入したばかりだ。

美しいガラス瓶入りのプレミアム・オイルを販売しているのは、市民団体「菜の花トラスト in 横浜町(鳥山洋一会長)」の宮佳子さん。

2003年に発足、今も3ヘクタールのトラストの畑を維持し、さらに2006年、補助金が切れた後も、農家に菜種作りを続けて欲しいと苦労して搾油機を購入。

2008年からは、本格的に農家から菜種の買い取りを始めた。現在、横浜町の農家の手取り価格は、国や町の助成金を足して60キロで12,000円。トラスト運動では、25キロを4,500円(2008年=60キロで10,800円)。「食べていくのに一生懸命な農家さんも、やっぱり菜の花を作っていきたいと、赤字にならなければ続けていこうと言ってくれた」。取材をした時点で、10農家との契約を終えていた。注文が殺到した昨年は、原料不足で苦労した。今後も何とか農家をめぐって説得し、毎年、少しつづ契約農家を増やして行きたいという。

ここではまず、風味を生かすために無焙煎の一番しぼりにこだわる。焙煎すれば、種に含まれる約40%の油分を充分に搾り取れるが、焙煎しないと30%に落ちる。油分を加熱するのは、一度だけ。普通の油は140度ほどに加熱し殺菌するが、ここでは、搾油機で搾る段階で、約70度ほどになるだけ。無焙煎なので酸化しにくい。

(1)収穫した菜種は、焙煎しないので天日干しする。水分が多いとスクリュー式の圧搾機が詰ってしまうのだ。





(2)これを圧搾機でしぼる。1キロの種から、約300グラムほどしかとれない。






(3)一度、ろ過した後、数日間寝かせ、雑味の原因になる不純物を下に沈殿させる。






(4)上澄みだけをろ過機にかける。3~4回、ろ過を繰り返し純度を高める。






(5)不純物チェックとキャップ付けも手作業でおこなう。





搾油機は、その日の温度や湿度によって、油を搾る時間が大きく変わる。夏は早く、冬は何倍もかかる。搾油機が、約70度に温まるまで待ってから搾油する。一度詰れば、重たい搾油機を分解して掃除するのは、至難の技だ。

また、「工業では、油分を徹底的に搾るためのヘキサンという化学薬品を加えることが多い。搾りかすにこれを加えてオイル化したものも多いんですよ」と、ヘキサン使用後の白くなった油かすを見せてくれた。それに比べ、ここの油かすは濃い緑色。たんぱく質も含まれるため、今年から、有機飼料で育つ青森県ブランド牛「元気牛」の餌になり、さらなる地域循環の輪を広げる。





(上がヘキサンを使った搾りかす。下が使っていない搾りかす。)


2008年、全部で6回ろ過した『御なたね油』を完成。

美しいガラス瓶に納まった油は、もったいなくて天ぷらには使えない。ぜひ生で使いたい高級油だが、その舌に滑らかな食感と風味は、どこかイタリアのリグーリア地方の繊細な黄色いオリーブ油を彷彿させ、白身魚とも相性が良さそうだ。八戸のイタリア料理『オステリア・デル・ボルゴ』のシェフ、滝沢英哲氏も「自己主張の強いオリーブオイルより、さらに素材のよさを引き出すオイルと」誉めてくれた。

但しこの方法だと、息子さんを加えて3人で汗だくになってがんばっても、せいぜい一日45リットルしか搾れない。

「この風味は、ただ馬鹿正直に作るという搾油の方法だけではなくて、海と山に恵まれた横浜町の風土の味わいだし、農家が農薬もかけずに作った菜種の質の高さでしょうね」と宮さんは言う。


「JA横浜町」では、埼玉県熊谷市の米澤製油に委託して搾油している。
この米澤製油は現在、横浜町だけでなく、北海道の滝川町の菜種も扱っており、国産菜種の約4割ほどを手がけている。
米澤製油が1892年に創業した頃、熊谷市には一面に菜種畑が広がっていたという。埼玉県だけで約600軒もの油屋がひしめいていたが、今ではここ一軒が残るのみとなってしまった。宮さんたちのような小さな搾油所に比べれば、製油所然とはしているが、それでも大手に比べると、一日に精製できる量は100分の1だという。

ここでは、次の要領で搾油・精製している。

(1) まず、ふるいにかけて選別する。



[写真中:4748オーストラリア産][写真右:4750国産]

(2) 115~120度の直火で焙煎して、油を絞りやすくする。




働いている人には暑い夏など大変だろうが、明治時代に遡るという煉瓦造りの炉は風情さえある。

(3) ローラで圧ぺいし、圧搾機で搾ると、ふくよかな香りが出てくる。



[写真右:一番搾り]


(4) 黒いどろどろした不純物を水で取り除くことを、脱ガムという。




(5) 少量の湯を油と混合し、お湯で不純物を取り除くという湯洗い精製を6回。




(6) 電熱加熱によって脱臭し、冷却してタンクで保管する。




(7) 缶詰の作業。





(8) 菜種かすは肥料として出荷される。





(9) 浄化された工場の排水。





1968年のカネミ油症事件では、九州の製油会社で、米ぬか油の精製の過程で使われていたポリ塩化ヴィフェニール=PCBがパイプの破損から油脂に混合。2000人ともいう被害者を出した。米澤製油ではこの事件を教訓と受け止め、苛性ソーダ、リン酸、活性白土といった合成化学物質を使わない製法を追求。試行錯誤の結果編み出したのが、この湯洗い洗浄精製である。最初は不透明だった油が、6つめの槽でお湯洗いされた後には、すっかり透明になる。菜種の風味はやや薄れるものの、さらりと淡白で安定しており、揚げ物などにも使い勝手がいい。