タイプ
その他
日付
2008/6/18

第17弾「短角牛」(2/5)


2.どうやって作られるのか


日本短角種(短角牛)の特徴は、「夏山冬里方式」と呼ばれる飼養方法にある。すなわち、夏は山の上にある広大な放牧地でたくさんの牧草を食べ、冬になると里の牛舎で生産農家の家族の一員として過ごす。

主な産地である岩手県岩泉町では、桜の花が散り、新緑が芽吹く5月中旬頃になると、北上山地のなだらかな丘陵が続く標高800~1,000mの放牧地へ短角牛の親子が放たれる。一つの牧区は25~30haあり、この広大な放牧地に40頭~50頭のメス牛と2~3月に生まれたそれぞれの子牛たち、そしてたった1頭のオス牛(「まき牛」という。)が放牧される。

各生産者のトラックに乗せられて山へ上がった短角牛は、体重測定と衛生検査が済むといよいよ牧野に放たれる。これを「山あげ」と呼ぶ。そしてこれから10月の山下げまでの間、たくさんの牧草を食べながら運動し、子牛は母牛の母乳をたっぷり飲みながら丈夫な体に成長していく。「べこ守り(まぶり)」さん(放牧期間中の牛の管理人)のお話によると、夏の暑い日は木陰で休み、虫の多い時期は身を寄せ合い、お腹を壊すと自ら薬草を食べ、何不自由なく過ごしているそうである。

放牧期間中の最も重要な仕事は、次の子牛を生むための交配だ。黒毛和牛が人工授精で生まれるのに対して、岩泉町の短角牛は90%以上が自然交配である。その重要な役割を果たすのが、40~50頭のメス牛の中に、たった1頭放たれる「まき牛」である。優れた血統を持ち、選び抜かれた「まき牛」であるが、さすがに重労働であると見えて、繁殖期には100kg以上体重が減るという。

一方、黒毛和牛の場合、ほぼ100%人工授精により年間を通して計画的に誕生する。黒毛和牛の仔牛は2~3ヶ月後には母牛から放され、生後10ヶ月前後で市場に出荷される。(子牛を生ませ、市場へ出荷する農家を繁殖農家という。)市場へ出荷された牛は、オス牛であれば肉用牛として、メス牛であれば肉用あるいは繁殖素牛(次の世代の母牛)としてセリにかけられる。肉用牛は、約20ヶ月飼育され食肉市場へ出荷される。(子牛を買い肉用に育てる農家を肥育農家という。)肥育期間中は乾草やトウモロコシを中心とした濃厚飼料をたっぷりと食べさせる。

出荷した肉の評価(格付け)は、歩留まりと肉質で決まり、格付けが良いほど高値での取引となる。肉質ではサシの入り具合(脂肪交雑)が重要であるため、黒毛和牛は運動を制限され、効率的に太らされるのである。

夏が過ぎ、山の樹々が赤や黄色に色づく10月半ばになると、夜間は氷点下になることもあり、山での放牧生活も終了する。春先に生まれ、放牧地でたくさんの母乳と牧草を食べて育った子牛は立派な若牛となり、また、母牛は次の子牛を宿しての「山下げ」となる。

「山上げ」同様、牛たちは里へ帰ることを覚えており、リーダーを中心に自然と集まってくる。

里へおりて一息つくと、子牛の市場が開かれる。昔は各地で子牛市場が開かれ、「おせり」と呼ばれて村祭りの様相であったが、今日では岩手中央市場で開かれるのみとなった。この市場で子牛たちは、生みの親である繁殖農家から育ての親となる肥育農家へと出荷されていく。




一方、母牛は繁殖農家の一員として、里の牛舎で冬を越す。冬の間の食糧は、牛が山に上がっている夏の間に、里の田畑で自給した稲ワラやデントコーンサイレージ(飼料用とうもろこしを茎ごと乳酸発酵させたもの)、天日で干した野草などである。放牧期間中に自然交配した短角牛の出産は、2月~3月がピークとなる。外の気温が-10度以下まで冷えこみ、降った雪が凍り付く寒さのなかで、新しい命が逞しく誕生し、春が来ると再び山の放牧地へ放たれる。

市場で肥育農家へと競り落とされた子牛は、14~18ヶ月間に渡り、美味しい肉となるために育てられる。肥育期間中は地域で自給した乾草・サイレージ・稲ワラなどとともにトウモロコシなど穀物を使った濃厚飼料が与えられ、健康的な赤身肉に育てられる。岩手県では、濃厚飼料は非遺伝子組み換えの原料を使用し、ホルモン剤なども含まないものが与えられている。こうして誕生から22~25ヶ月頃になると、順次出荷され、短角牛肉として流通される。

ここで問題となるのは、放牧中に自然交配し、2~3月に出産が重なるため、出荷適期も重なることである。そこで、通年安定供給を求める飲食店・消費者の希望に応えるため、生産者は様々な工夫を凝らしている。その一つが「2シーズン放牧」と呼ばれる肥育方法で、誕生から2年目の夏に再び山に放牧し、肉として仕上がる時期を遅らせている。しかし、見方を変えれば短角牛肉には“旬”がある訳で、言うなれば、より自然の摂理に沿って生産される牛肉なのである。

このようにして、健康的で旨みの凝縮した短角牛肉は生産されている。

なお、販売される短角牛肉には個体識別番号が付けられており、インターネットで検索すると、誕生から出荷まで、誰がどこで育てたか、エサは何を与えたか、等を確認することができる。