タイプ
その他
プロジェクト
日付
2017/4/27

緊迫化する北朝鮮情勢ー小原凡司研究員に聞く

 

――北朝鮮によるミサイル発射実験や核実験などはこれまでも何度も行われてきましたが、現在、ここまで緊張が高まっている理由は何でしょうか?

 

小原  アメリカが北朝鮮に対する脅威認識を上げたことだと思います。ここ20年間、アメリカは戦略的忍耐政策をとってきましたが、トランプ政権はこのやり方が間違っていたという認識に基づき、全てのオプションをテーブルに載せるという態度を示している。これに対して北朝鮮が強く反発をしている、というのが現在の状況だと思います。
 
その背景にあるのは北朝鮮の核技術の進展に対する懸念です。去年の早い段階から北朝鮮は核弾頭という言葉を使い始めていますし、さらにはミサイルの射程を伸ばして大陸間弾道ミサイル(ICBM: intercontinental ballistic missile)の完成が近いのではないかと思わせています。言葉だけでなく、直接アメリカを核で狙えるという状況が生起し得る、これがアメリカの危機感を高めたということが言えます。

「非合理の合理性」と「不確実性」

 連日の報道で軍事衝突への緊迫感はもちろんのこと、トランプ大統領、金正恩委員長という、不確定要素をもつ両者が与える危うさに不安を覚える人もいるでしょう。これまで米国や北朝鮮がとってきた戦略の文脈でとらえきれるのか不透明だからです。

 これまでは、北朝鮮は1960年代の中国と同じ「非合理の合理性」という戦略をとってきました。相手に自分が合理的な考え方をしない、何をするかわからないと思わせることによって、結果、相手がより警戒し、慎重に行動することになるという戦略です。

 他方、トランプ大統領は「不確実性(uncertainty)の原則」を利用していると言われます。これは、北朝鮮と同じように、どこがアメリカの限界なのかということを示さないことによって、相手により慎重に行動することを求めるものです。レッドラインを示すということは、その手前まではアメリカは軍事力を行使しないということを示してしまうことにもなりますし、本音は行使したくないという意思や意図にもとらえられかねないわけです。実際、オバマ大統領の時には、北朝鮮だけでなく中国もそのひかれたレッドラインに挑戦し、少しずつ越えてみせて、アメリカは何もしないということを見切ったところで、堂々とそれを踏み越えてくるということをやってきました。

 ですから、トランプ大統領のやっていることは、相手にアメリカは本当に実力を行使するかもしれないと思わせる、ということです。いずれにしても、今の状態では何が起こるのかを正確に見極めるのは難しいわけですが、少なくともアメリカが軍事力行使のためのハードルを下げる努力が見て取れることから、北朝鮮の出方によっては、軍事力行使をすることも考えられると思います。

 

――アメリカ、北朝鮮ともに軍事攻撃の可能性を示して、両者威嚇しあいながらも衝突を避けるという可能性はあるのでしょうか?

 

小原  もちろんあると思います。それも北朝鮮、金正恩氏の出方次第だと言えますが、しかし北朝鮮がこのまま挑発行為を続ければ、アメリカはどこかの段階で軍事攻撃をする、この方針をトランプ大統領は変えることはできないでしょう。
 
1994年にクリントン大統領が北朝鮮に対する軍事攻撃を計画した時は、韓国に50万人の死者が出ると予想されて計画を断念したと言われていますが、当時と今の状況は大分違います。当時の北朝鮮は、大陸間弾道ミサイル開発にはほど遠い段階で、核弾頭もできていない。しかも、アメリカや韓国との対話の兆しも確認できたこともあって軍事攻撃しなかったのです。

 その頃から一貫して、アメリカは北朝鮮に対して軍事攻撃のオプションをもっていたはずで、アメリカが直接狙われる可能性がある現段階で、トランプ大統領はアメリカの安全や理念をおびやかすものに対しては躊躇なく軍事力を使うということを示していますから、ここでやめることはできないと思います。やめてしまっては、オバマ大統領と何も変わっていないというメッセージを与えることになってしまうので、状況に応じて軍事攻撃に踏み切らざるを得ないのではないかとみています。

 先日、ペンス副大統領が韓国、日本およびオーストラリアを訪問しましたが、これは万が一アメリカが軍事力を行使してもそれを容認し、支持するようにという内容も含めての話だったはずです。現在、米海軍航空母艦のカール・ヴィンソンが、日本近海に向かう途中で海上自衛隊と共同訓練を行っていますが、その前にオーストラリアでも共同訓練を行っています。同盟国との結束を改めて確認してまわっているということは、軍事力の行使がゼロではないということを示唆しているものだと考えられます。

事前退避勧告は政治的判断

――実際に軍事攻撃が行われ朝鮮半島が有事となった際に、韓国に住む日本人や米国人、その他の国々の人々に対して事前の措置、例えば避難勧告などが出されるのでしょうか?

 

小原  民間人を退避させれば軍事攻撃が近いと北朝鮮は認識しますので、北朝鮮側も攻撃への体制を固める、あるいは追い詰められたと感じて先制攻撃を仕掛けてくる可能性もあるでしょう。ですから、兆候を先に見せることが、必ずしも軍事的に賢明か否かは政治的な判断によると思います。

 もちろん、国民を韓国国内に残しておくことのリスクは非常に高いので、その点を承知したうえで、38度線にある北朝鮮の部隊を壊滅するような攻撃を大規模に奇襲的に行えるのであれば、そうした作戦をとるかもしれません。しかしそれを成功させるためには、アメリカ軍の動向を常に監視しようと努力している中国が北朝鮮に対して情報提供をしないことも重要な要素になってきます。

 さらに、米国は6月にソウルで米国人の避退訓練を行うとしています。緊張がいったん緩み、外交努力によって対話のプロセスを進めるとする一方で、北朝鮮がソウルを攻撃しても米国に被害が及ばないようにし、米国の軍事力行使のハードルを下げているのです。また、米国は軍事的オプションを実際にとれることを北朝鮮に示すことにもなります。

 

――日本が最も懸念すべきことは何でしょうか?

 

小原  いくつかあると思いますが、アメリカがここまで圧力をかけながら北朝鮮に対して軍事攻撃ができなかったとしたら、北朝鮮の核兵器の開発は今後も加速するでしょう。暴力を使えば自分の思い通りにできる、そうした新しい秩序を国際社会の中に許すことが、日本にとって最悪のシナリオであり、最も懸念すべきことだと思います。

 もちろん、今アメリカが軍事力を行使しても、北朝鮮が日本や韓国に報復をする可能性はあるわけです。アメリカがどれだけ綿密な計画を立てて、北朝鮮のミサイル施設、核施設、あるいは日本や韓国に対する攻撃能力を全て打撃したとしても、軍事作戦は100パーセントの成果が出せるとは限らないわけで、残るものは出てくる。それが日本や韓国に攻撃を仕掛ける可能性はもちろんあると思います。ですから、北朝鮮を押さえ込むという判断をとるのであれば、後はそのリスクをどれだけ押さえることができるかという点に集中すべきだと思います。

 もう一つの懸念は、北朝鮮国内が不安定化した場合の避難民の問題です。これまでも中国は北朝鮮との国境に人民解放軍の部隊を何度も派遣して、北朝鮮からの避難民の流入を防ぐ措置をとっています。中国側、陸側に脱出できないとすると、もう一つの出口は海ですから、韓国や日本にも多くの北朝鮮避難民が押し寄せる可能性があると考えられます。洋上で遭難することも多いでしょうから、そうした避難民に対し日本はどう対処するのか、政府はすでに検討していると思いますが、国民のレベルでも考えなければならないことだと思います。

 

――対北朝鮮へ軍事攻撃が行われるとなれば、自衛隊はどのような活動が想定されますか?

 

小原  米軍に対して補給等の支援活動は行えますし、日本に対する攻撃も考えられるわけですから、弾道ミサイル防衛(BMD: ballistic missile defense)等の作戦では米軍の艦艇と一緒に行動することになるでしょう。イージス艦のネットワークというのは、米軍や同盟国ともつながっているので、情報をいかに早く入手してミサイル攻撃にそなえるか、まさに韓国と昨年締結したジーソミア(日韓秘密軍事情報保護協定、GSOMIA: General Security of Military Information Agreement)が活きてくる場面にもなります。他にも、アメリカが軍事攻撃をする場合に一緒にフォーメーションを組むとすれば、集団的自衛権に基づいてアメリカの艦艇を含む、艦隊の防御に携わる可能性はあると思います。フォーメーションに入るとなれば、全体のなかでの役割分担になりますから、役割に応じた任務を遂行するということになります。そうした協力ができる枠組みになってきているわけですから、アメリカと協力することは十分考えられることだと思います。

 

――中国に関しては、どのような役割が期待されるのでしょうか?

 

小原  もちろん各国が北朝鮮に自制を強く求めていく姿勢は変わりません。とりわけ、中国の北朝鮮に対する働きかけに世界が注視しています。中国は、表向きは北朝鮮との対話を強く打ち出していますが、他方、王毅外相等も盛んに緊張が高まっていることを発言していて、これは北朝鮮に対する圧力でもあると思います。

 今回、北朝鮮は数度中国非難をしていますけれども、これも異例のことで、そこには北朝鮮に対する中国の圧力が見えますし、これが、中国の努力を信じているというトランプ大統領の発言につながっているのだと思います。中国は、軍事攻撃も含めアメリカの北朝鮮に対する行動を水面下では容認する反面、表向きはアメリカの軍事攻撃を非難するというかたちをとっているのではないかと思います。

 北朝鮮に対する圧力として、北朝鮮からの石炭の輸入を全面的に禁止したり、中国国民だけでなく、中国経由で北朝鮮に観光旅行をすることも今はできない状態になっています。これらの制裁措置は北朝鮮にとって経済的な打撃になっていて、その証拠に、北朝鮮がロシアの支援を頼って、今月に入ってロシアと北朝鮮の間に定期便が就航するということが発表されました。かつて日本との間で就航していたことのある万景峰号を使うことも決まっているのです。

 ですから、中国がいくら押さえ込もうとしてもロシアからの支援が残るというのは非常に大きな問題です。ただ一方で、直接の経済活動等を北朝鮮に対して行っているのは中国なので、中国の支持がなくなるというのは北朝鮮にとっては非常におそろしいことではあると思います。時間をかけているとロシアとの経済協力がさらに進み中国の経済制裁の効果が薄れていく可能性もあるわけですから、ここは北朝鮮に対して強い圧力を短期間でかける必要があると言えます。

国民の理解

 最後に、核などの暴力による国際秩序への挑戦は認めないという政府の意思表示を、私たち国民も理解しておく必要があると思います。何のためにアメリカと協力して北朝鮮に圧力をかけるのか、ということです。無秩序な国際秩序の否定のためには、アメリカの軍事力行使もオプションに入ってくることを理解しなければいけません(談)。

 

◆英語版はこちら "Japan and the North Korean Dilemma: Thinking the Unthinkable" 

(4月24日収録・編集/東京財団広報)