震災復興のために政治はいま何をすべきか(2) | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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震災復興のために政治はいま何をすべきか(2)

July 14, 2011

アジア地域の中の日米同盟のあり方

渡部 東日本大震災の被災者の救援と被災地の復旧をサポートした米軍の「トモダチ作戦」と10万人を動員した例のない大規模な自衛隊の救援活動は、日米同盟の緊密な相互運用性を強めることにも成功しました。ただ、依然として停滞する普天間飛行場の移設問題など課題も山積しています。東シナ海での日中、南シナ海での中国とベトナム、フィリピンとの緊張等、波乱含みのアジア地域での日米同盟はどうあるべきでしょうか。また、日本はどういう政策を取っていくべきでしょうか。

カーティス 地震があった3月11日、僕はニューヨークにいました。驚いたのは、今回の大震災と他の地域で最近起こった震災とでは、アメリカ人のリアクションがかなり違っていたことです。今回は身内がやられた、友だちがひどい目に遭ったと思っているアメリカ人がもの凄く多い。日本は遠い国ではなくて、本当に近い国だった。普天間の問題があっても、日米関係の根深さ、網の大きさは凄いものだと感じました。

テレビの仕事で東北へ取材に行ってみると、多くの外国の方がボランティアに来ていましたが、中でもアメリカ人が一番多かった。会社を2、3週間休んで大船渡で瓦礫の処理をやっている。これからの日米関係を考えると、うれしくなるような話が多いんですよ。アメリカ人はやっぱり日本人に親しみがあるし、日本の重要性を十分わかっている。オバマ政権ももっといろいろ一緒にやりたいと考えています。

ただ、日本では毎年首相が代わる。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加も先送りされる。普天間を辺野古に移設する可能性はほとんどない。

渡部 日本とアメリカは激しい戦争を経験したにもかかわらず、冷戦期には緊密な同盟関係を保ってきました。相互不信が高まった80年代、90年代の貿易摩擦も乗り越えてきました。ただし、日米同盟や冷戦構造があったゆえに、中国や韓国などの近隣のアジアの国との関係作りに関しては、いろいろな意味で十分ではなかったような気がします。前鳩山政権で日本は貴重な経験をしました。鳩山首相は、アジア、特に中国と仲良くするためには、アメリカとの関係を弱めることが近道だと考えた。ところが、沖縄の基地問題でアメリカとの関係がぎくしゃくしだしたら、尖閣事件が示すように中国との関係も悪くなった。国家の関係というものは、そう単純ではない。日本の指導者にも、もう少し深い国際関係の理解を望みたいのですが、今回の大震災はいいきっかけになるのでしょうか。

加藤 「トモダチ作戦」などで日本人の親米感情がさらに高まったことに加え、自衛隊に対する一般の印象が劇的に改善されたと感じています。これらの影響は、今後の安全保障を考える上でも、相当大きなものになるのではないでしょうか。

カーティス 「脱亜入欧」という言葉がありますが、今の日本の若い人たちは、アメリカと仲良くするのは当たり前で、アジアと親しくすることにも矛盾はないでしょう。でも、日本がたとえば中国と親しくなることに、アメリカは少し拒否反応を持っています。それがオバマ政権になってからだいぶ変わりました。日米両国ともに、環太平洋の観点から戦略をつくろうというのは日米関係をより一層強くするからです。

加藤 「アジア版IMF構想」やAPEC発足時などがそうですが、かつてのアメリカは日本がアジア諸国と繋がることを警戒していた面があると思います。オバマ政権のそういう変化は、日本が弱くなったからというのがあるのでしょうか。

カーティス 日本が弱ったから次は他の国ということではないと思います。中国がアメリカと対等になるのは時間の問題だと思っているし、そのためにもアジアをできるだけまとめておきたいという、バランスを取る戦略があるからでしょう。それとは違った戦略で日本には頑張ってほしいですね。しかし、首相をしょっちゅう代えるだけでは、リーダーシップなど発揮できません。

渡部 そろそろ日本発で東アジア全体をどうするかという戦略や方向づけが欲しいですね。みんなそれなりに勉強しているし、専門家同士の交流もありますが、国としての覚悟のようなものが足りない。首相や政権が代わっても継続する大きなコンセンサスが必要な気がします。まずは方向性を示すことができる長期政権をつくることが求められていると思います。

日本人が今考えるべきことは、「焼き畑農業」のように、首相を1年で使い捨ててきた結果が現状だということです。力と時間を与えないから首相が何も実現できず、それゆえにまた不満を持つという悪循環です。何度、首相を取り替えても同じ繰り返しです。せめて3年は続く政権をつくってもらいたい。最近で最もリーダーシップを発揮した小泉政権の何がよかったのかといえば、長く続いたことです。

カーティス 慣習として、3年ごとに衆参両院の同時選挙をやればいい。それ以外は解散しないとすれば、おそらくねじれも生まれない。すべての政党がそういう合意をすれば、憲法改正しなくても実現できます。

渡部 それはたいへんいい考えですね。危機の時代だからこそ、そのような慣習が必要でしょう。3年あれば首相もそれなりに仕事ができる。逆に、首相の座に就く前に、国民にビジョンを示す必要もでてきます。

カーティス 党の総裁、党首も3年間の任期にする。よほどの想定外のことが起こらない限りは落とさない。そうなればマスコミももう少し政策に注目するようになる。いつ解散になるといった話ばかりではなくなります。

加藤 自民党一党優位体制の下でいろいろな制度や慣習がありましたが、そういった制度や慣習が利害調整や意志決定をスムーズにしていた面があって、それらが崩れてしまったことが政治混迷の大きな要因だと思います。もちろん自民党のそうした制度や慣習は時代に合わなくなってきたので、新たな制度・慣行とか調整のメカニズムを作り上げていかければなりません。これがおそらく今後の日本政治の大きな課題だと思います。

今回の大震災は、変化を加速させるという面と、その一方でたとえば財政といったリソースを食い潰すところがあります。いろんな試行錯誤を通じてよい方向に行くとは思いますが、今の日本の財政状況、少子高齢化の進展などを考えると、時間的猶予はあまりない感じがします。これまで以上に動きを加速させて取り組む必要があります。

渡部 危機だ、危機だと言いますが、歴史を振り返れば、国の運営というのはずっと危機の連続なわけです。日本も、日清・日露戦争、関東大震災、日中・太平洋戦争という大きな危機を乗り越えてきた。実際に未来におこる危機は人間の叡智では予見できないわけで、あとは国のリーダーと知識人が限られた叡智の中でベストを尽くし、危機に備える体制を準備するしかありません。国家間のゲームはこれで終わり、ということはなく、永遠に続くものです。このような先の見えない苦難の航海が続くからこそ、リーダーがビジョンを提示して、国民を説得できるようなコミュニケーション能力を持つことが必要なのです。

震災復興にまず必要なのは意識の改革

渡部 震災復興の今後の方向性はどうあるべきでしょう。たとえば、地域コミュニティがやれるようなことは、そのレベルに明確な力と権限を与えたほうがいいとか、あるいは大きな観点から国全体でプランをつくって、下に下ろしたほうがいいとか、相反する意見があると思いますが。

カーティス 復興のために一番必要なのは、権限とお金を地方に渡して任せることです。そうすればもう少しうまくいきます。今求められているのは、やはり大胆に思い切った政策です。たとえば、宮城県を一つの経済特区にして、どういった規制を継続して、何を廃止するのかを知事に任せる。お金も知事に渡して、そこから南三陸町の町長に渡していくようにする。

ニーズを一番わかっているのはその土地のリーダーです。しかし、日本の官僚や政治家は地方をコントロールしたがります。今一番大事な改革は、意識改革です。思考の改革ができれば、もっといろいろなことが生まれてくると思います。

渡部 私も同感で、現場に力があるのに、むしろそれを中央が邪魔しているんです。市町村がやることを県が邪魔して、県がやることを国が邪魔しています。それが今回の震災で明らかになりました。福島第一原発の吉田所長が指示に従わなかったことで処分するという話がありました。中央の面子だけで、現場の者を潰したら最低限の機能も失われてしまう恐れがあります。

加藤 僕もまったく同感です。エネルギー問題や経済問題の議論が先行していますが、この危機をきっかけにして、政治、行政も根本的に改革しようというくらいの意気込みが必要です。その一番のポイントは地方分権です。各界の大御所を集めた復興構想会議を作って中央で方向性を考えるという発想ではなく、これからの東北を担う若い人を含め東北の人たちに考えさせ、国はサポート役とガバナンス役に徹すればいい。あの状態から復興を行うには、理性を超えた情熱や創造力が必要になります。復興庁を作るとすれば仙台に置いて、地元に対する熱意や思い入れのある東北出身の人を東京などの官庁・企業から出向させるなどして、東北の英知や情熱を結集し、彼らに今後のかたちを描いてやらせてみる。道州制の一つのモデル地区として特区制度を取り入れる。それも今までの特区ではなく、雇用法制、税制、会社法制といったところまで踏み込めるようにする。「踏み込めるようにする」というのがポイントで、実際に踏み込むか否かは、その地域の人たちの判断です。そこでうまく行ったモデルを日本の他の地域につなげていって、今後の改革の一つの起爆剤にする、といったことをやるべきです。

渡部 そのぐらいの大胆な政策を打ち出す人がリーダーになってやれるといいのですが…。本日は、今後の日本の復興とリーダーシップのあり方について、貴重なご示唆をいただきました。ありがとうございました。

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