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論考「歴史的な分水嶺となる8月30日の総選挙と次期政権の政策の方向性」

July 23, 2009

渡部 恒雄
上席研究員
政策研究部ディレクター(外交・安保担当)

衆議院が解散し、8月30日に総選挙が行われることとなった。自民党が大勝した前回の郵政選挙から4年。今回の選挙は、現在の自民党と公明党の連立政権から、民主党を中心とした新政権に政権交代する可能性が高いと予想されている。

なぜ次の総選挙が歴史的なのか?

次の総選挙は日本の民主主義の歴史の中で、きわめて重要な意味を持つ選挙になるだろう。これまで、1955年に保守合同により自由民主党が結成されてから、93年に一年に満たない非自民政党の連立である細川内閣と羽田内閣が成立したのを例外とし、自民党が、50年以上にわたり、単独あるいは連立政権として、政権与党の地位を占めてきた。

50年以上にもわたり、本格的な政権交代が起こらなかったという、民主主義としては異例の歴史である。これまでも、その一党支配の民主主義の構造について、政治学的では多くの研究がなされてきたが、コンセンサスとして、その背景に長期にわたる経済成長と冷戦構造による国際構造の安定が指摘されている。

つまり、1955年から93年までは、政権選択のオプションは示されながらも、民主制と自由主義経済の陣営を代表する自民党以外の選択肢は、社会主義を代表する社会党のようなイデオロギーの違う政党しかなかった。したがって、自民党に不満があるときは、社会党などの政党に投票をして不満は表明するが、市場経済と民主主義を積極的には支持しない社会党に政権運営を任せる投票行動はとらなかった。

1993年に初の非自民の連立政権ができて以後は、新進党や現在の民主党のような市場経済と民主主義を支持する自民党以外の現実的なオプションが初めて提示された。しかしこれまでの選挙では、55年以来40年ちかく、安定した国家運営と経済成長と比較的均等な所得配分をしてきた自由民主党の実績評価と信頼を上回ることはできずにいた。

しかしながら、最近では、自民党の支持層をささえる基本的な条件、高度経済成長、富の均等な配分というような基本的な条件が失われてきた。同時に、一つの政党が長らく政権に留まっていることで生じる政府官僚との癒着や腐敗、また官僚組織の非効率化などの問題が露呈してきた。例えば、現在の国民の多くが、将来の国民年金が健全に運営され、自分が相応の年金を受け取れないのではないかという危機感を持っている。この問題などは、政府の収入が増加し続けている高度経済成長時代には想定されていない運用問題が低成長時代になって生じたことに加えて、政府の官僚組織の制度疲労による不適切な年金運営が顕在化してきたことが重なって、深刻な事態を引き起こしている問題といえる。

加えて、長らく自民党の支持組織であった農協、医師会、土木・建設業界、特定郵便局長会などの支援も構造的に弱体化し、自民党は特定の支持団体からの支持を徐々に失ってきた。したがって、90年代に出現した現実的な野党に対抗するためには、自民党は既存組織以外に支持を広げなくてはならない状況となった。それを、効果的に行ったのが、2001 年から自民党総裁に就任した小泉純一郎である。小泉内閣は、地方自治体への政府の交付金や公共事業費を削減し、郵政事業の民営化を目玉とする市場重視の規制改革の政策を訴え、既存の自民党の支持層以外の、都市住民の支持も拡大し、一大ブームを巻き起こした。

しかし、小泉改革を持ってしても、自民党が古い支持組織から、新しい支持層に変化するようなダイナミックな党の体質転換を行う機会を逃した。むしろ、小泉首相個人のカリスマ的な魅力に依存して一時は支持を得たが、小泉首相が任期を終えると、むしろ自民党内での古い体制と新しい課題の間で、構造的な矛盾が露呈した。

特に、自民党の長年にわたる国会議員に対する個人後援会とよばれる支持組織は、党主導の組織ではなく、自民党政治家の支持の源泉であった。しかし、このような地域共同体に根差した個人的な組織は、新しい能力を持った政治家を発掘するよりは、安定的な組織維持が自己目的化し、組織の誰もが納得する候補である現職国会議員の子息を後継者に選ぶことが多く、自民党国会議員の世襲化が進んだ。(この点に関しては加藤創太氏の 論考「世襲議員と政策形成能力のあり方について―『政治主導』時代へのインプリケーション」 を参照)

2006年9月に人気絶頂の中で首相を退任した小泉純一郎の後は、総選挙の洗礼を受けずに、自民党の総裁を受け継いだ安倍、福田総理だった。この二人は、リーダーシップを発揮することに失敗し、それぞれ一年ほどの短命政権に終わり、現在の麻生政権も、低い支持率に苦しんでいる。自民党は、政党としての伝統的な支持組織の支持の弱体化という制度疲労とともに、リーダーシップを作り出す制度疲労にも苦しんでいる。

安倍、福田、麻生の直近の不人気な総理大臣に共通に見られる特徴は、父・あるいは祖父が総理大臣を経験した自民党の有力政治家で、その地盤を大きな苦労もなく継承していることである。したがって、彼らのリーダーシップの弱さは、厳しい競争に晒されずに二世が議席を継承することができるという構造上の問題ではないかという批判がなされている。

民主党は1998年に結党されて以来、はじめて、本格的な政権の座につく可能性が高い。それは、自らの能力を示して支持を勝ち取ってきたというよりも、自民党の制度疲労が明らかになり、有権者が、政党間を競争させることで、政治の質を上げようという意識を持ち、一度は政権を任せてみようと考えているからだと思われる。

試されていない民主党新政権の政策の方向性は?

8月30日の総選挙の争点は何か? 有権者のマインドは、自公政権に引き続き政府の運営を任せるか、民主党中心の野党に政権を任せてみるかの二つの選択肢に集約される。つまり「政権交代か否か」である。今回の選挙が政策中心になるとは思われない。なぜなら、民主党は政権に就いた実績がなく、実際の政権担当能力は良くも悪くも未知数だからだ。民主党の戦略は、これまで自民党の失敗とその弱体化を指摘し、人々が期待する「政権交代」をキャッチフレーズに選挙を戦うだろう。

政策的に試されていないとはいえ、有権者の民主党への期待は大きい。まずは、自民党と政府官僚の癒着を切り、効率のいい政権運営をすることがその希望だ。民主党側もその部分に主張を絞り、自民党と政府官僚の制度疲労への批判と、政党主導の政権運営のための官僚組織のコントロールを掲げている。官僚組織をコントロールするために、100人程度の政治任用を送りこむという計画も発表されている。

このような未知数は、民主党政権に対する期待を膨らませると同時に、現実の政権運営においては、不安視もされている。特に、外交・安全保障政策にその部分が顕著で、これまで日本が成功してきた米国との緊密な同盟関係を不安定化させることになるのではないかという懸念が国内外にある。

実際、民主党はこれまで野党として、自民党と公明党の連立政権に対し、米国のアフガニスタンでの「不朽の自由作戦」(OEF, Operation of Enduring Freedom)への後方支援である海上自衛隊のインド洋での給油活動の延長などに、反対してきた経緯がある。また、民主党は政権構想として、米国とのより対等な同盟関係を提唱して、在日米軍の地位協定(SOFA)の見直しなどにも言及している。しかも、日米の長年の課題である沖縄での普天間基地の移設について、民主党はすでに日米政府で合意した案とは異なる主張をしていることで、調整を難航させてオバマ政権のフラストレーションを高める懸念もある。

民主党内の政治家が、日米の同盟に対する伝統的な支持をする自民党に近い現実主義者と、旧社民党出身者やリベラル派などの双方が混在していることも、民主党の政策の方向性を読みにくくしている。しかも、次の総選挙で民主党が過半数をとったとしても、参議院では民主党は過半数を維持していないため、社会民主党と連立を組む可能性も高く、この点も、政府の実務家や同盟国などから不安視される理由の一つだ。

かたや、中国や韓国などと、折に触れて関係を悪化させる原因となってきた過去の歴史認識をめぐる問題などでは、自民党の一部に存在するような保守的な歴史観を持つ議員は少なく、むしろ外交面では安心材料となる。

経済政策では、民主党が、より規制改革的な経済政策をとるのか、むしろ保護主義的な方向にいくのかが、判断が難しいところだ。小泉政権以前は、民主党は都市型の規制改革支持層が多かったが、小泉政権以降、小沢一郎前党首の主導の下、新自由主義的な経済政策に反対する地方の支持を強く集めているからだ。これにより、民主党の支持は安定したが、経済政策の方向性は不透明となった。

筆者は、民主党の外交・安全保障政策についていえば、事前の懸念ほどのマイナスの影響はないと考えている。民主党も、現実に政権を運営することになれば、現実的な対応を余儀なくされる上に、有権者の日米同盟への支持は高く、またその関心はもっぱら国内政策にあるからだ。例えば、ブッシュ前政権の日米同盟推進者の一人であるアーミテージ国務副長官は、6月に日本で行った講演で、民主党の政策について質問を受けた際、「選挙レトリックと実際の政策は異なる」と答えている。新政権は外交・安全保障で何らかの積極的な政策を行う可能性も低く、あくまでも現状維持というところだろう。もちろん、現状維持によるマイナス点も多いのではあるが。

先に指摘したように、もし民主党が次回の総選挙で過半数をとっても、参議院議員では過半数を維持していないため、連立政権を余儀なくされる。小泉内閣の郵政民営化に反対して自民党を離党した集団から成る国民新党や社民党と連立を組む可能性が高いが、自民党が総選挙で大敗した場合、危機感を持った自民党離脱者の第三政党との連立というワイルドカードもある。政策的には、自民党のほうが、民主党の保守派との政策は近いからだ。

民主党は政権与党の経験がなく、政策方向性に大きなコンセンサスもないため、新政策の方向性は連立の構造によっても大きく規定される、という事実も重要だ。次の総選挙と次期政権は歴史的な大きな意義のある選挙ではあると同時に、それにより単純に政策の方向が明確に確定されるとは限らない、ということも冷徹な事実である。

そうであれば、今後の日本の生き残りのためには、政権交代をきっかけにして、国民が求める政策を実際の政治に反映させるための、民間政策シンクタンクなどの政策コミュニティーの機能を発達させることなどの、有権者自身の努力が必要になっていくだろう。これらの機能は、政府の官僚組織が自民党のシンクタンクとして機能していたこれまでの日本では未発達のものだ。政権交代というのは、政治家にだけではなく、お上任せの国民意識にも大きな改革を求めることでもある。

    • 元東京財団上席研究員・笹川平和財団特任研究員
    • 渡部 恒雄
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