タイプ
論考
プロジェクト
日付
2013/2/28

義務付け見直しから問い直す地方分権 (1) :義務付け・枠付けとは何か?

~改革論議を巡る通説の再考~


東京財団研究員兼政策プロデューサー
三原 岳


昨年末に実施された総選挙の結果、自民、公明両党が3年ぶりに政権に返り咲いた。総選挙のマニフェスト(政権公約)や政策集で、両党は地方への権限・税源移譲を盛り込んでおり、新政権の連立与党合意にも「道州制の導入を推進」との文言が入るなど、今後も地方分権改革は継続して議論されると思われる。しかし、分権改革は1993年の国会決議以降、間断なく議論と見直しが続けられており、民主党政権下でも様々な改革論議が進んだが、権限・財源を巡る国・地方の綱引きに終始している感は否めない。

こうした中、民主党政権期に成果を上げた「義務付け・枠付け」の見直しは地方自治体の自己決定権を拡大するという点で、住民自治や議会活性化、特色ある地域づくりなど様々な経路を通じて、地域住民の生活に与える影響は大きい。その一方で、義務付け・枠付けの見直しに限らず、全ての分権改革は自己決定権を拡大する代わりに、地域ごとの差異を広げる方向に働く。地方分権とは国による関与を減らすとともに自治体の自由度を認める分だけ、地域ごとの差異や格差を容認する改革だからである。さらに、義務付け・枠付けの見直し論議に際しても、国を「悪」、地方を「善」と見なす二項対立の構図が語られたが、国から地方に権限・財源を移すことが常に正しいのだろうか。権限や財源の移譲を迫る地方が常に「善」で、これに反対する国が常に「悪」なのだろうか。本稿は義務付け・枠付けの見直し論議を通じて分権改革の意義を問い直すとともに、分権改革を巡る「通説」を再考する契機にしたい。

義務付け・枠付けとは何か?

義務付け・枠付けとは法律上、「~してはならない」「~しなければならない」といった形で、自治体の事務を縛る規定のことを指す*1。2000年の地方分権一括法施行を受けて、国が包括的な指揮監督権限を有していた機関委任事務が廃止され、国の事務を自治体に受託させる「法定受託事務」と、自治体の判断に委ねる「自治事務」に区分された。しかし、自治事務とされた行政分野に関して、国が法令で事務を縛っているのは自治体の裁量性を損ねているとして、見直し論議が自民党政権期の「地方分権改革推進委員会」で始まった。

対象となったのは図1に示した通り、自治事務に関する義務付け・枠付けのうち1万57条項。その後の議論は民主党政権期の「地域主権戦略会議」で継続され、計636条項が2次にわたる一括法で見直されて2012年4月までに施行された*2。具体的には、当該基準に従う範囲内で地域の実情に応じた内容を定める条例は許容されるものの、異なる内容を定めることは許されない「従うべき基準」、合理的な理由がある範囲で異なる内容を認める「標準」、国の基準を参酌すれば異なる内容を認める「参酌すべき基準」に整理された。このうち、最大の焦点となったのは保育所の設置基準である。児童福祉法に関する厚生労働省令では、ほふく室(乳児がはいはいする部屋)を1人当たり3.3平方メートル以上と定めているが、地方が「待機児童解消など地域に即した少子化対策が可能になる」と主張したのに対し、厚生労働省が「保育の質が下がるかもしれない」と難色を示した。結局、設置基準を定めた省令は従うべき基準に整理されたが、待機児童数が多い都市圏*3 は2014年度までの時限措置として、省令を「標準」と整理した。


◇図1 義務付け・枠付けの見直し対象 ≪拡大はこちら≫


(出所)内閣府資料を基に筆者作成



法改正の結果、各自治体は2013年3月までに条例を制定することとなり、内閣府の集計などによると、歩道の幅を2.0メートル以上と定めていた道路構造令の規定が条例委任されたのを受け、岐阜県が1.5メートルまで縮小して整備することとした。さらに、歩道の設置が困難な場合、道路構造令では0.5メートル以上とするよう定めていたのに対し、香川県は1メートル以上とすることを明文化した。長崎市は坂の多い地形上の特性を考慮し、道路の勾配を最大12%から最大17%まで可能にする条例改正を実施した。

さらに、保育所の面積基準に関しては、東京都が年度途中で定員を超えて入所させる場合、1人当たり2.5平方メートルまで緩和できるようにした。さらに、大阪市は5平方メートル以上に引き上げる一方で、待機児童が発生している区域については1.65平方メートルまで緩和できることとした。このほか、公営住宅の入居基準や図書館運営審議会の委員資格、道路標識の寸法・文字を定めた大きさ規制なども緩和され、各地で地域特性に応じた条例制定が進んでいる。

つまり、義務付け・枠付けの見直しで与えられた権限を上手く使えば、地域づくりのツールになり得るのである。同時に、条例化の作業を通じてローカルルールの在り方を自治体・議会で議論し、自ら決定できる機会を作っている点で、正に分権改革の本質を問うていると言える。しかし、中には「◎◎省令に定める通りとする」という形で国の基準を単純に援用するなど、今回の見直しを活用しようとしない地域も散見される。実は、同様の構図が以前も道路構造令に関して見られた。今回の見直し前の段階でも「柔軟規定」を使えば裁量を持った道路整備が可能だった*4 が、実際には図2の調査結果*5 の通り、柔軟規定の存在を「ほとんど知らない」「詳細は知らない」と答える市町村が約8割に及び、権限をフルに活用していたとは言い難い状況だった。新藤義孝総務相は義務付け・枠付けの見直し法案を通常国会に提出する考えを示す*6 など、今後も見直し論議は続くことが予想されるが、結果的に国準拠になったとしても、自治体・議会は住民のニーズや地域特性に沿ったルールの在り方を模索するべきである。自治体や議会が付与された権限を使い切る姿勢を見せなければ、「地方分権」という美名の下、いくら国に権限・財源の移譲を求めたとしても、全く説得力を持たないことを肝に銘じるべきである。同時に、地方分権とは決してバラ色だけの世界ではなく、自己決定と自己責任を伴う分、自治体や議会が住民に対して重い責任を負うことと同義であることを改めて確認する必要がある。


◇図2 道路構造令に関するアンケート調査の結果 ≪拡大はこちら≫


(出所)国土交通省柔軟性のある道路構造令のあり方検討委員会提言(2009年1月)15ページより抜粋





 本稿執筆に際しては、国・地方自治体の職員など関係者から有益なご示唆や情報を頂いた。
*1 義務付けは「自治体に一定の活動を義務付ける規制」、枠付けは「自治体の活動について手続きや判断基準を枠付ける」という違いがある。
*2 1次一括法は2011年4月、2次一括法は2011年8月に成立した。その後、3次一括法が2012年3月に国会に提出されたが、衆議院解散に伴って廃案となった。
*3 待機児童数が100人以上で、三大都市圏住宅地の公示価格の平均を上回る埼玉、千葉、東京、神奈川、京都、大阪、兵庫の39市区町村が対象。
*4 道路構造令は都市部以外の高速道路を第1種、都市部の高速道路を第2種、地方部の一般道路を第3種、都市部の一般道路を第4種と類型化した上で、地形や交通量に応じて級を定めている。
上記は第3種に類型化される地方部の一般道路の基準であり、柔軟規定は自治体の判断に応じて第3級を第4級、第4級を第5級といった形で1つ下の級に下げることができる。
*5 調査は2008年9月~10月に実施された。全自治体を対象に実施し、有効回答は1712団体。
*6 総務省ホームページ2013年2月5日総務大臣閣議後記者会見。