タイプ
論考
プロジェクト
日付
2013/3/7

防衛駐在官 ― 「欧州」にこそ必要なのではないか


東京財団研究員兼政策プロデューサー
西田 一平太


先月28日に発表された政府のアルジェリア事件検証報告書には、日本の対外情報収集能力を強化すべく各種の検討がなされている*1 。平素からの情報収集手段としては、今まで手薄だったアフリカを念頭に、報告書は防衛駐在官の「新規派遣や兼轄、未派遣地域に影響力を有する国への増員」の必要性等を指摘している。これは方向性としては間違っていない。しかし、よく耳にする欧州からアフリカへの配置転換は短期的には実効性が低い。アフリカ諸国の軍事・治安情勢を把握し、戦略的な観点から地域全体のテロ動向までを察知するのであれば、旧宗主国であり経済的権益を多く有する欧州との連携を強化することが先決である。

増やせない。増やしたところで即効性はない

残念なことに、防衛駐在官の定員は必要性に基づいて算出されたものではない。現在、防衛省からは防衛駐在官49名と内局部員13名の計62名が在外公館へ派遣されているが、これは防衛省内に外務省職員の「事務官等定員を振り替え」ることによって規定される*2 。政府の総人件費改革にも関係するため、新規純増派遣は容易には行えないのが実情だ。このため、防衛駐在官を増やすということは、防衛省内の外務省ポストを増やすか、内局部員の数を減らすかの選択肢しかない。定数が変わらない場合には、これまで通りスクラップ・アンド・ビルド(派遣先の振替え)を続けるしかない。小野寺防衛相が「省内で配置を考え、(要員の)増加については政府全体で相談して検討したい*3 」と述べるのは、こういった事情が背景にあるからだ。現在、アフリカ54ヶ国のうち防衛駐在官はエジプト・スーダンに各1名が派遣されている。仮に数名増強したとしても、その効果は限定的かもしれない。


より本質的な問題は、新参者の日本がどこまで情報を確保できるかということである。新規に派遣された防衛駐在官は、任国における内政事情と利害関係を理解し治安体制と軍事動向の詳細を把握するとともに、政府・軍・治安当局や各国の駐在武官との関係をゼロベースから構築することが求められる。ただし、途上国では情報が個人に依拠し、必ずしも行政機構が効率的に機能しないことが多い。このため、非公式なチャネル(NGOや民間警備会社、部族社会・市民社会など)の開拓と信頼関係の構築も重要だ。暴動の予兆や過激派組織の活動実態などを正確に把握するためには、このチャネルが極めて重要になる。先進国での活動とは異なる任務遂行能力が求められるなか、要員を配置しただけでは十分に機能しない恐れもある。

英仏への防衛駐在官を倍増すべき

現在、イギリスには海上自衛官1名、フランスへは航空自衛官1名が、防衛駐在官として派遣されている。これに加え、アフリカの国々を兼轄する防衛駐在官を両国に派遣するべきだ。現地での肌感覚を必要とする活動と旧宗主国での諜報機関等との高度な連携という任務の二面性を考えた場合、陸上自衛隊が最も適しているのは間違いない。彼らは海外での活動経験を多く有し、現場での情報収集能力に優れているからだ(2010年には情報科を創設し情報要員の育成も行っている)。

英仏両国は、伝統的に対外情報活動に長けている。特に、アフリカの旧植民地については、石油や鉱物資源等の採掘や輸出を含む各種の権益があるだけでなく、自国の安全保障という観点からも注力している。地域の安定は共通の関心事項であるだけに、日本との協力は惜しまない筈である。実際、筆者が昨年11月にジブチを訪問した際には、在ジブチ仏軍高官から日本は(アフリカでの)プレゼンスを強化しても良いのではないかとの指摘もあった*4

なお、前政権下での武器輸出三原則の緩和決定を機に、フランスとは既に情報保護協定*5 が結ばれ、イギリスとも交渉が始まっている*6 。日本では一般に「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」と呼ばれるこの協定は、軍事技術情報の保護やハイレベル会合での情勢認識といった場面だけでなく、今後はアフリカ等の現場における情報共有においても積極的に活用すべきであろう。

安倍首相が呼びかけるように、アジアの安定のためにも英仏との関係強化は必要である*7 。日本からはアジアの軍事・安全保障環境についての情報を提供し、英仏からはアフリカを含めた日本がカバーしきれない地域の情報を得ることが相互にとって好ましい。このためにも、両国の防衛駐在官を2名体制にすることは必須である。

EUとの政治的関係強化を前進させよ

これに加えて、日本は欧州連合(EU)との連携を強化すべきだ。アフリカにおいて、EUはほぼ全域に代表部を置き、欧州全体の権益を代表している。近年は、新たに設立された欧州対外行動庁(外交・安全保障・開発援助を束ねる統合機構)を通じてソマリア沖での海賊対処のための軍事作戦(EU ATALANTA)やアフガニスタンでの警察ミッション(EUPOL)など、様々な軍事作戦と文民による活動を行っている*8 。日本ではEUを経済パートナーとして認識し、安全保障は北大西洋条約機構(NATO)と切り分けて考える傾向があるが、これは誤りである。また、EUはNATOの代替でもない。軍事組織のNATOとは、サイバー・宇宙・ロシア・アフガニスタン等に関する軍事ならびに準軍事的事案についての協力が今後も必要だ。EUは、その国際的安全保障環境を補完する政治的パートナーとして認識する必要がある。かねてから指摘されるように、日本には両者を使い分ける視点が必要だ*9

それにも関わらず、現在ブリュッセルにある欧州連合日本政府代表部には専属の防衛駐在官は存在しない*10 。また、外交的には各種の戦略的対話が行われているが、防衛交流は限定的という実態がある*11 。一方で、日本とEUはソマリア沖の海賊対処活動で一部連携し、ミンダナオやアフガニスタンそしてスーダン等の和平定着の活動現場において場を共有している。トップドナーとして日本が109億円の拠出金をコミット*12 したマリへの支援では、EUはマリ国軍への能力構築支援事業(EUTM Mali)を展開している。これらの国は全て脆弱な統治機構を持ち治安は流動的である。テロ対策は重要な共通課題である。現場の実情をしてからも、EUに防衛駐在官を配置して関係を強化することは望ましいだけでなく必須であろう*13

日本とEUは2011年5月の首脳協議で拘束力を持つ政治協定を結ぶことに合意している*14 。3月下旬の日EU定期首脳協議ではテロ対策も議題に挙がるであろうが、更に一歩突っ込んで日本のEU代表部への防衛駐在官の配置や日EU間での情報保護協定といった具体的な協力のあり方が検討されることを期待する。そのような体制は、グローバルな課題への協働と東アジアの戦略環境についての欧州への情報提供を可能とする。価値観を共有する欧州とは、まだまだ協力できる分野がある。

防衛駐在官の配置は、派遣国の戦略的重要性や各種の交流事業・協働事案の有無、また近年は国際平和協力活動に絡んでのことが多いとされる。このことを考慮し、かつ防衛駐在官の適性と投入できる人的資源の限界を勘案すると、現時点においては英仏そしてEUへの派遣が妥当に思われる次第である。なお、防衛駐在官不在の大使館等に対しては、アルジェリア事件検証報告書も指摘する通り公館警備体制等の強化が喫緊である。それとともに、今は機能しているとは言い難い外務省の広域担当官制度*15 を拡充し現場での政務・警備体制を支援すべきだろう。防衛駐在官の配置はこのような観点からも検討されるべきである。




*1 首相官邸「在アルジェリア邦人に対するテロ事件の対応に関する検証委員会」検証報告書
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/alg_terotaiou/kensahoukokusho20130228.pdf
*2 防衛省「各国防衛駐在官の配置について」平成22年度政策評価書(本文)。
  http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/22/cyukan/honbun/01.pdf
*3 読売新聞オンライン 「海外で情報収集「防衛駐在官」の増員示唆…首相」(2013年2月18日22時56分 読売新聞)
*4 2012年11月8日~15日訪問。
*5 外務省「日仏情報保護協定の署名・締結」平成23年10月24日
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/23/10/1024_05.html
*6 外務省「日英両国首相による共同声明(仮訳)」平成24年4月10日
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/uk_1204/kyodo_seimei.html
*7 Project Syndicate "Asia’s Democratic Security Diamond” Shinzo Abe, Dec.27, 2012
  http://www.project-syndicate.org/commentary/a-strategic-alliance-for-japan-and-india-by-shinzo-abe
*8 European Union “EU Operations”
  http://www.consilium.europa.eu/eeas/security-defence/eu-operations.aspx?lang=en
*9 「日欧安全保障協力-NATOとEUをどのように「使う」か-」鶴岡路人 防衛研究所紀要第13巻第1 号(2010年10月)
  http://www.nids.go.jp/publication/kiyo/pdf/bulletin_j13-1_2.pdf
*10 前掲(鶴岡・2010)脚注12を参照。
*11 防衛省「欧州諸国との防衛協力・交流」(平成25年2月22日閲覧)
EUとの防衛協力・交流は含まれていない。
  http://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/nikoku/euro/index.html
*12 外務省プレスリリース「アフリカ主導国際マリ支援ミッション(AFISMA)支援国会合における松山政司外務副大臣とローラン・ファビウス・フランス外務大臣の会談」(平成25年1月29日)
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/25/1/0129_05.html
*13 NATOとEUの作戦現場・司令部は重複していることがある。例えば、ソマリア沖での海賊対処活動においてNATOはOcean Shield作戦、EUはATALANTA作戦を展開しているが、共に英ノースウッドを司令部としている。このため、ブリュッセルにおける防衛駐在官は、EU-NATOの双方を兼轄とした2名体制が望ましいともいえる。
*14 外務省 第20回EU日定期首脳協議共同プレス声明(2011年5月28日)
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/shuno20/press_y.html
*15 総務省「在外公館に関する行政評価・監視結果に対する改善措置状況(2回目のフォローアップ)の概要」(平成24年3月13日)
  http://www.soumu.go.jp/main_content/000150378.pdf