タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/12/18

【開催報告】所長就任記念座談会「経済学のフロンティアと政策研究」

概 要

 東京財団政策研究所では、初代の研究所長として松山公紀教授(ノースウエスタン大学)が就任したのを記念して、2018年12月6日、座談会「経済学のフロンティアと政策研究」を研究所内会議室において開催した。大学、研究機関、行政機関、報道機関等から招待された約70名の参加者を迎え、日本が抱える昨今の重要課題と経済学のあり方を巡り、活発な議論が行われた。

1.オープニングスピーチ(当研究所・松山公紀所長)

 本座談会は、モデレーターの当研究所・小林慶一郎研究主幹による趣旨説明に始まり、まず松山氏の所信表明を兼ねたオープニングスピーチが行われた。その中で、松山氏は、(1)内外の優秀な研究者を当研究所に結集させること、(2)優れた能力を活かせる研究環境を作りあげていくこと、(3)海外に向けた政策研究の情報発信面でも貢献していくこと、そして(4)政策研究が、研究者にとっても魅力のある分野であることを若手の研究者や大学院生に伝えていくこと、などを抱負として掲げた。

 

2.プレゼンテーション

続いて、3名の登壇者より「経済学のフロンティアと政策研究」というテーマに沿って、プレゼンテーションが行われた。

 

(1)「経済学の射程――移民・外国人労働者問題の事例」(法政大学大学院・翁邦雄客員教授) 発表資料はこちら

翁氏は、現下の政策の重要課題である移民・外国人労働者問題について、経済学的分析、それをふまえた学際的分析は十分になされているか、という観点から発表した。その中で、まず最近の外国人入国超過数は国立社会保障・人口問題研究所の予測を超えて推移しており、移民・外国人労働者の問題を論ずる際、しばしば「確定的な将来像」として扱われる日本の人口将来推計や、生産年齢人口比率・老齢人口比率等は大きく変わりうるものであることを指摘した。そのうえで、移民・外国人労働者の受け入れについて議論するにあたっては、(1)高度人材受け入れは、生産性向上に繋がるとされるが、単純労働者の受け入れ拡大は生産性向上を阻害するリスク、(2)介護を外国人に担ってもらうことで介護離職を回避できる恩恵を受ける可能性がある一方、賃金が伸び悩む可能性があるといった受け入れ国労働者への影響、(3)社会保障を提供するコストなどで財政負担が増加するかどうか、(4)受け入れ国が外国人に選ばれる国になるために必要な多様性尊重と同化支援のバランス、等の問題について十分に検討することが必要、と指摘し、政策研究における経済分析の役割、学際的研究の必要な領域等について、問題意識を披歴した。

 

(2)「名目価格体系の長期的な“歪み”を読み解いてみたいのだが……」(一橋大学大学院・齊藤誠教授) 発表資料はこちら

齊藤氏は、一向に上昇しない日本の物価と、現下の金融財政政策や市場動向を巡り、経済学者としてどう考えるべきかという観点から発表した。まず、現在起きていることとして、(1)1980年代後半以降の貨幣数量の増加と現実の物価の乖離、(2)1970年代半ば以降の国債の規模拡大と現実の物価の乖離、(3)緩やかなインフレ基調を示唆する右上がりのイールドカーブと現実の物価の乖離をデータで示し、名目価格体系を理解するための標準的な理論である貨幣数量説や、物価水準の財政理論(FTPL)、またイールドカーブによる期待インフレ率の予測が、いずれも現実の物価動向と乖離していることを指摘した。こうした一見矛盾した現状については、「僅かな可能性で物価の急上昇が起こりうる」と考えることにより説明できると指摘するとともに、現在の日本の政治・経済環境は、占領下・閉鎖経済体系下にあった終戦直後のように物価高騰で債務問題を一気に解決する条件は整っていないため、19~20世紀の英国と同様、長い時間をかけて債務問題を解決していくべきだと主張した。

 

(3)「地方支援策と経済成長」(当研究所・八田達夫名誉研究員) 発表資料はこちら

八田氏は、地方支援の名のもとに行われる政策がかえって経済成長を損なうことがあることを示しつつ、あるべき地方活性化の施策を論じた。まず、(1)現実のデータでは、成長率で見る限り「東京一極集中」は起きておらず、むしろ「地方大都市への多極集中」が進んでいること、(2)こうした大都市への集積は、農林水産業からサービス業へといった産業構造の変化や自動車の発達により避けられないものであったこと、(3)それにもかかわらず、大都市集積の利益を損なうかたちで地方支援策が実施されたことで、都市への人口流入が減少したことが、1974年以降の成長率低下の要因の一つであったことを指摘した。また、政府の地方創生政策に関しても、その前提と異なり、東京から若者を地方に移住させると出生率が増加することはないこと、および人口成長率の低下が生産性の低下を招くわけでもないことを、データを用いて反論した。そのうえで、国が国民健康保険(国保)財源を引き受けることにより、地方自治体による高齢者受け入れの阻害要因を取り除くことが、土地の相対的な安さという地方の比較優位を活かす地方活性化策であることを主張した。

3.ディスカッション

各登壇者が発表した後、経済学と政策研究を巡り多くの観点からディスカッションが行われた。その中で、経済理論を政策研究へ活かしていくことが重要なのは当然であるが、現実の政策研究から、経済学に何が足りないのか、何が求められるのか、そのために経済学をどう変えていくべきなのか、といった問題提起に繋げる観点も重要であるという認識が共有された。

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東京財団政策研究所所長就任記念座談会
日時:2018年12月6日(木) 17:00~18:30 
会場:東京財団政策研究所会議室
テーマ:「経済学のフロンティアと政策研究」
登壇者(敬称略):                        
翁 邦雄 (法政大学大学院客員教授)
齊藤 誠 (一橋大学大学院経済学研究科教授)
八田達夫 (東京財団政策研究所名誉研究員)
松山公紀 (東京財団政策研究所所長)
小林慶一郎(東京財団政策研究所研究主幹)※モデレーター

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