日本の水産資源の現状 -何が問題なのか-                                           (プロジェクトメンバー 望月賢二)

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1. はじめに

 

 我が国周辺の漁業資源評価(国際管理を除く)(水産庁・水産教育研究機構、2018)によると、2017年度水準は低位46%、中位37%,高位17%で、魚種交代はあるが、最近20年大きな経年変化は認められず低位安定している。
 一方、日本の総漁獲量は急速に減少しつつあり、不漁が次々に報じられるなど、水産や海の自然に関わる暗い話題は枚挙にいとまがない。また、資源減少原因として、地球温暖化以外では主に「乱獲」が指摘され、その他は殆ど触れられない。
 さらに、内水面や汽水域の水産資源がほぼ壊滅状態であることが社会的に忘れられ、対症療法的対処は多少行われているが、根本原因解明の努力は殆どなく、沿岸域へ悪影響が及ぶ可能性などは考慮されていない。
 このような動向を見ると、日本の水産資源の現状や本当の課題、根本原因が何かなど、社会的に理解されていないと思える。本稿では、水産資源が本来のレベルまで回復した水産業の明るい未来を実現するための第一歩としてまず初めに「水産資源減少」の状況について見る。
 なお、漁獲量と資源量の関係では、漁業者数減少等も漁獲量減少に働く様々な要因があるため、資源量を考えるためには「努力量当たりの漁獲量」を用いる必要があるが、これに関するデータは殆どないため、ここではその可能性があるということで漁獲量が資源量減少の指標という仮定で話を進める。

2.日本の水産業 -何が問題なのか-

我が国の養殖業を含む総漁獲量は1984年の1,282万トンをピークに減少を続け、2016年には436万トンになった(図1など)が、この変動内容から日本の水産業の深刻な状況が見えてくる。
以下、図1から読み取れる日本の水産資源に関する主要点についてまとめる。

 

 

 図1.日本の漁業・養殖業の生産量の推移(H28水産白書より)。

 

 第1が、漁獲(資源)動向評価において、マイワシは別枠で考えるべきということである。
マイワシは、他の多獲性種と同様、数十年周期の気候・海象変動である「レジームシフト」の影響で極度の不漁期と豊漁期を周期的に繰り返す(H29水産白書、その他)が、豊漁期資源量は他種よりはるかに大きく、マイワシだけが単独で総漁獲量に大きく影響する。その一方、極度の不漁期でも資源状態は健全と考えるべきであるためである。
 第2が、日本の水産資源の状態は、海面養殖・遠洋漁業、さらにマイワシを除いた「内水面+沿岸+沖合」漁業の漁獲量で評価すべきでことである。この量は、マイワシ豊漁期前が400~500万トンであったが、1978年の587万トンをピークに長期漸減傾向になり、最近は半分近い300万トン台になっている(図1)。
 これに漁具・漁船改良や人工衛星情報活用などの漁獲効率向上等を加味したものが「日本の水産資源の基礎数字」であり、これの減少傾向が続くことが問題の核心の一つで、生育環境の悪化と生態系劣化を示唆している(海面養殖も減少傾向が続き同様のことを示唆している)。
 第3が、壊滅的状況に至った汽水域を含む内水面天然資源問題である。これに対して対症療法的対策はあるが、根本原因解明・対処法研究は殆どなく、その影響が海域まで及ぶ性質の問題であることは意識されていない。これがもう一つの核心である。
 以上3点を要約すると、マイワシ・遠洋漁業・海面養殖等を除く日本の水産資源が、漁獲能力発展下にありながら、「内水面資源の壊滅的状況+沿岸・沖合域漁獲量の長期減少傾向」にあることが問題の核心であり、当該水域の環境悪化による生態系劣化を強く示唆している。今すべきことはこれらの根本的諸原因を特定し、その対処法を明らかにすることである。
 なお、乱獲問題はこのような資源減少下にあって大きな問題になることで、現状で大変重要な課題であるが、本質的問題ではないことを理解すべきである。
以下、「根本原因」について、地下水を含む水循環系を基礎に、「森川海連環と人(社会)」の視点で考えていこう(地球温暖化等については紙幅の関係でここでは論じない)。
 
3.日本の水産資源減少に関わる真の原因を考える

 

(1)本来の陸域水循環系と機能
 
 まず、深刻な状態にある内水面漁業を考えるため、それに関わる陸域水循環系の本来の姿と機能を整理しよう。雨は山地の森林を中心に降り、地表に達した水の多くが浸透して地下水となる。その一部は湧出して細流となり、次第に集まって川になり、海に達する。河川水はその直下の伏流水や地下水との間で活発な行き来があり、大きな割合を占める地下水系と一体の水循環系を形成する。
 この水循環系は自然界において重要な役割を果たしている。主なものには①雨が森を育み、森は良質な水資源を産み出し、適度な土砂流出を支える、②地下水湧出や流れに応じ、湿地や河川、河口、海岸等の多様な水域を産み出す、③土砂を流出・堆積させ、地形を形成し、環境の多様性を産み出し、豊かな生態系を支える、④地下や地表で様々な物質を溶解・運搬し、淡水域~海域まで栄養塩等を供給、多様な生物を育み良質な水質を維持する、⑤水生生物の移動経路になり、淡水~海域の生物を育む、⑥水辺・湿地帯~陸域の次第に乾燥していく連続的環境を形成、水依存度が異なる多様な生物を育む、⑦遷移よる変化を洪水で一掃し、自然を一定の範囲に収め、特異環境に適応した生物を育む、などがある。
 この水循環系に基づく自然の健全性は豊かな内水面資源を育み、河川水や地下水を通して海域に及ぶことから、沿岸域から沖合域の健全性と豊かな水産資源を支えていると考えられる。

 

(2)淡水から沿岸域の自然環境の現状 -人の手による破壊とその結果-
 
 水循環系の重要な出発点である山地森林では、戦後、人工針葉樹林化が急速に進められた。一方、材木輸入自由化や第二・三次産業立国化などを原因として多くの山林が放置され「荒廃林」になり、機能の多くが損なわれた結果、河川の荒廃、斜面崩落、洪水の深刻化等が進行している。
 また、大部分の河川・細流で流路の直線化や掘下げ、落差形成、コンクリート護岸化、多数のダム・堰類の設置、河床の礫の間隙の目詰まり、河口や周辺の埋立・人工化等が進み、殆どの河川で本来の機能が完全又は様々な程度に壊され、この環境悪化から生物多様性や現存量が極度に減少した。
 また、沖積平野の水田・小川、河川敷、アマモ場、干潟とその後背湿地、小水域等の開発・埋立等も水産資源を含む多くの生物の生育場の消滅原因になった。ゴミ増加、多様多種の化学合成物質、農薬・除草剤・化学肥料等の多用、大量の下水処理水の放出、コンクリート多用による「灰汁」の大量流出等、生育阻害原因は急速に増加している。
また、地下水が大量に揚水される一方、市街地・舗装道路等の拡大や水田の現代型乾田化と耕作放棄地増加等による雨水の地下浸透量の減少等、地下水資源の減少が進み、湧水地の枯渇が進んでいるが、その水生生物への影響は計り知れない。
 海岸域を含む沖積平野の市街地化が進み、海岸域埋立・護岸化や漁港等の拡大等の自然の破壊が進んだ。更に流下土砂量減少等による海岸浸食の深刻化等に対し、漂砂防止用コンクリートブロック多量投入や堤防類建設が進み、仔稚魚等の重要生活場である砕波帯が失われるなど、海岸域の生息環境悪化が急速に進行中である。
 この他にも水産資源減少原因は多数あり、年々増加・深刻化している。その悪影響は淡水から沿岸域に至る生態系劣化から、沖合域の生態系劣化・水産資源減少に及ぶだろう。

 これらの行為が進められた理由は、「現代社会の歴史的発展」とそれに伴う「人(社会)の変化」である。戦後の70年間、第二・三次産業立国化が進み、対応して第一次産業から都市への若年層の移動が強力に進められた。

 沖積平野を中心に、周辺丘陵地まで含む急速な都市膨張と交通・輸送網拡大が進み、日本の自然を支えた第一次産業の現場は高齢化・過疎化が進んだ。これらの変化は、用地拡大需要の増大、電力や水資源を含む物資の大都市集中を進め、洪水や津波等の災害防止の重要性を増大させ、地方荒廃が進んだ。更に地域社会における人間関係や生活様式・感性・自然観や自然との関係の変化を伴った。
 これら「社会の歴史的発展」とそれに伴う「人(社会)の変化」が、上記の様々な生息環境悪化に繋がる諸行為等を必要とした理由であり、その結果が生態系劣化や現存量の低下を通して日本の水産資源減少につながったという意味で、水産資源減少の真の原因である。

 

4.今後の展望
 
 前記の水産資源減少原因は、社会がそれを必要としたことは間違いない。問題は、日本においては「自然の機能」への社会的理解が極めて貧弱で、河川改修工事、防災工事、海岸護岸・港湾工事などの殆ど全ての事業立案段階でその重要性に対する配慮がなかったことである。それが少しでもあれば、事業内容の多少の修正や別案採用は必要だっただろうが、現状のような深刻な事態に至らなかったか、その前に手を打てたであろう。
 自然の機能を無視した結果は、「国家の食料資源とそれを支えた健全な自然を損なう」もので、中・長期的マイナスは各事業によるメリットを上回り、結果として国力低下に至る問題である。
 今後は、科学的かつ客観的な立場で現状の詳細な把握と分析を進め、その全ての結果を社会的に共有することがまず必要であろう。その上で、実行可能で社会的な合意ができたところから改善していくことである。大変遠回りのように思うかもしれないが、結局はそれ以外にないのである。 

 

以上