米国の漁業法制度の変遷と資源管理の現状と課題 (プロジェクトリーダー 小松正之)

小松正之

上席研究員

 

 著者は5~6月に米国で最も漁業が盛んな米西海岸とアラスカ州に出かけ、最近の漁業の事情を調査してきた。本稿ではその調査結果も踏まえ、米国の漁業法制度と資源管理の歴史状況、問題と課題について解説する。米国の漁業法制度と資源管理及びその政策は、漁業の歴史が長いわが国にとってもその内容が多くの点で異なり、対照的で対をなすがゆえにきわめて参考になるものであると考える。

国連海洋法の制定と米国の動き

 1945年米国のトルーマン大統領の「大陸棚及び公海上の漁業資源に対する沿岸国の管轄権を主張した宣言」に端を発して、国連での海洋の新秩序の制定の議論が始まる。そして、議論の膠着状態を経て、国連は1973年に海洋法制度の全般にわたる議論を行う「第三次国連海洋法会議」を開催した。この会議は中南米などの発展途上国に押し切られて、200カイリ経済水域の概念が盛り込まれた。その際に沿岸国200カイリ内の科学的根拠に基づく漁獲量規制も盛り込まれた。

 このような国連海洋法条約の制定の動きの中で米国は国連海洋法条約の最終的な締結を待たずして、1976年3月、米国は漁業専管水域の設定を決定した。同月には旧ソ連でも漁業専管水域の設定が決定され、これで世界の趨勢は定まった。5月には日本も漁業水域に関する暫定措置法及び領海法を公布した。国連海洋法 条約は1982年にその策定交渉が終了し、交渉参加国によって署名され、国連海洋法条約は1994年に発効した。

米国漁業保存管理法の制定

 1976年以前は米国では、国内漁業者も外国の漁業者も自由に漁業を営むことが可能であった。この年(1976年)、米国では漁業専管水域の設定とともに、外国漁業の自国内の水域からの外国漁船の締め出しを目的にした漁業保存管理法が成立した。この法律は同法のスポンサー(提出者)の名前を獲り、ステーブンス・マグナソン法(MSA)と呼ばれる。ステーブンスはアラスカ州選出の上院議員(共和党)でマグナソンはワシントン州選出の上院議員(共和党)である。

 MSAでは科学的根拠に基づく管理と、乱獲の防止が義務付けられた。この科学的根拠に基づく漁獲可能量の設定は、国連海洋法に明確に言及されている。(国連海洋法第61条)

 しかし、米国は当初、漁業の許可の制限もしなかったので、漁業の振興策はかえって乱獲競争(Race for Fish)を招いてしまった。例えば、科学的根拠(ABC; Allowable Biological Catch)に基づいて、総漁獲量(TAC;Total Allowable Catch)の制限を設定しても、TACを消化するために一度に多数の漁業者が漁業に集中して、数日間でTACを消化してしまった。また、荒天でも漁業者が出漁して、死亡事故が絶えなかった。

 このために政府を中心に、先進国の事例を参考にしながら、一方でデラウェア大学経済学部アンダーソン教授などを中心に、TACをそれぞれの漁業者に配分して、過当競争と乱獲を排除し資源と漁業の経営の安定化を図ろうとする動きが出てきた。これが個別漁獲譲渡性割当制度ITQ (Individual Transferable Quota)である。

 米国の場合IFQ(Individual Fisheries Quota)と呼んで原則として、漁業者が漁獲枠を所有する制度とした。しかし、後にその譲渡が進む間に譲渡を受けた漁業者が漁業をしなくなったり、漁業者以外の者が漁獲枠を購入するケースがみられるようになってきた。

1990年からハマグリ漁業でIFQの導入が始まる

  IFQはまず1990年に中部大西洋漁業管理委員会でのハマグリ漁業(Ocean Quahogと Surf Clam)で導入が開始された。この漁業では特定の漁業者に漁獲枠の集中が起こり、操業する漁業者の数が激減した。しかし、現在、漁業生産量と経営は安定している。

 アラスカ州の沿岸漁業のハリバットとギンダラのIFQは1995年から導入された。アラスカ州沿岸漁業は140~150年の歴史を誇るが、ハリバットとギンダラは、過当競争を続けた結果、TACに達してしまい、その漁期がハリバットはたった2日、ギンダラは7日で操業を停止した。また、死亡事故など海難事故も多発した。

 そこで漁業労働組合は、漁業管理の仕組みを変える必要があると考えて、北西太平洋漁業委員会に対して、漁業資源管理の対策を要望し、同委員会は、先行するカナダやニュージーランドとアイスランドの動向を見ながら、IFQの導入を決断した。

 一方、カナダのブリティッシュ・コロンビア州では90年からギンダラのITQ導入をしている。ハリバットに関しては1991年から導入した。

IFQの効果と課題

 ハリバットとギンダラ漁業ではIFQの導入後、効果はすぐに表れだした。それまでは、製品の質を構わずに漁獲して船いっぱいに積み込んでいたが、無駄な操業をしなくなり、ゆっくりと陸上加工場に持ち組むようになった。この間、漁船の統合も進んでいった。微小漁獲枠IFQの保持者が、その漁獲枠を売るようにもなった。漁期も80~90日に増加していった。

 この結果、IFQの価格は高騰した。IFQ(永久枠)は106ドル/ポンドで、年間のリースの場合は、最近のハリバットの魚価が10ドルに対して7ドル/ポンドである。実に漁獲金額の70%を漁獲枠の使用代として、その保持者に支払わなければならない。これでは次世代の若い漁業者が新たに漁業に参入する場合の大きな障壁となる。東海岸のニューイングランド地方の保守的・伝統的な漁業者からも、漁業の寡占化が進むとしてIFQの導入に対して反対の声が上がった。

 ところで、1996年には国内漁業を持続的な漁業とすることを目的に漁業保存管理法の再承認(改正)が行われている。そして、IFQ導入の反対に対して、同法では、1996年から2000年までIFQの導入を一時停止することを決定した。この一時停止は2002年まで延長された。

米国漁業振興法と操業の安定

 米国はアラスカ沖の漁業の振興を図るために、米国漁業保存管理法とは別に米国漁業振興法(American Fisheries Act)が成立させた。この法律は基本的にベーリング海からの日本など外国漁業の排除を目的としたが、一方でIFQの改良というべき協同漁業(Cooperative Fisheries)が母船式漁業、工船漁業と基地式漁業に導入された。

 これは、漁獲枠を1漁船毎に使用するのではなく、漁獲枠をそれぞれの船団で共有して、操業する方式である。これによって操業の自由度が向上する。これは特に主対象のスケトウダラの漁獲枠を共有することにも有効であったが、微小な漁獲枠しか与えられない場合があって、例えばマスノスケやカニは混獲枠がとても小さい。これらを一漁船毎に所有していては、消化した時には漁船の操業を停止せざるを得ないが、数隻の船団で共有すると、操業を停止する可能性が大幅に低下する。

2006年MSA再承認でIFQを合法化

 2006年のMSA再承認法(改正)では、IFQの推進が改めて重要課題として位置付けられ、IFQの実施のため「限定許可アクセスプログラム(LLAP)」が創設された。LLAPでは、漁業の許可はあくまで国家から与えられた特権であり、いつでも取り上げられるとされたが、これまで連邦政府が取り上げた例はない。しかし、ニューイングランドではIFQに反対する漁業者が多かったために、メイン州(民主党)選出のスノウ上院議員の強い意向によりIFQを導入するにあたっては全体投票(レファランダム)が必要とされた。

 ニューイングランドとメキシコ湾岸では漁業の歴史が長く、また、中小漁業者が多く、IFQに対する抵抗が示された。そして2006年、MSA再承認法では、これらの地域でIFQ導入するためには、関係する漁業者の3分の2以上の賛成、2分の1以上の賛成が必要であることが定められた。これは事実上のIFQ導入の停止かと思われた。

ニューイングランドでもCPSの導入が進む

 しかし、IFQの導入に熱心な米国連邦政府は、ニューイングランドにセクター漁業の概念を導入することを発案し、その導入を推進した。そしてセクター漁業の概念を導入するにあたってはIFQではなく「キャッチシェア(Catch Share Program)(CSP)」との名称替えを行った。

 CSPと呼ばれるのは漁獲枠を一定の範囲の漁業者で共有するためである。この考えでは、グループで漁獲枠を共有する場合には米連邦政府はIFQに当たらず、したがって1996年の改正MSAで規定されたIFQの導入に必要なレファレンダム(漁業者の投票)も必要ではないと判断される。このため、反対の強かったニューイングランドでも2010年から約20人のグループに対して漁獲枠の配分を行うシステムを導入した。また、このようにして出来上がった17セクターのグループの間でも、漁獲枠を融通することも認められた。具体的なグループ内の漁業者間の漁獲枠の配分や使用法はすべて漁業者に委ねられた。このようなセクターが形成された背景には、セクターの中心人物が、ベーリング海やワシントン・オレゴン・カリフォルニア州沖の協同漁業などの漁獲枠の共有の経験を有しており、そこから学んでいる点がある。ところで米政府の定義ではIFQもCSPの一部としての扱いである。

2006年修正MSAは2013年9月で期限切れ

 2006年に修正されたMSAは2013年9月で期限切れとなっている。期限が切れたMSAではあるが予算措置は毎年手当され、政策はこれまでの法に基づいて、実行されているので特段の問題はない。2014年5月にアラスカ州ベジチ上院議員とワシントン州のヘイスチング下院議員からMSA再承認法案が提出されたが、廃案になった。その後も2015~2018年と法案が提出されているが、特段の進展はない。科学的根拠の向上と科学的評価に費やす作業の軽減を意図とする相対する考えが流布しているが、基本的には、これまでの法で特段の問題がないという声が一般的である。(2018年6月時点)

資源管理に重要な科学評価・調査体制の充実

 上記のようなITQやCSPの導入を支え、後押しするのは、米国内の科学調査と魚種の資源評価(魚の資源状態が健全かそうでないか)の実施である。評価を行う科学機関は米政府大気海洋庁(NOAA)に属し、資源評価は行政のニーズに応えて行っているが、その結果については独立した判断を下す。資源評価結果について、行政庁が介入することはなく、得られた資源の評価の結果については、地域漁業管理委員会 に報告される。

TACを独立して設定する地域漁業管理委員会

 地域漁業管理委員会は米国の北太平洋(アラスカ)やニューイングランド地域など全米8つの地域ごと設立された行政から独立した機関であり、報告された資源評価を検討し、これに合わせて経済的要因を加味してTACを決定する。また、漁業の操業に必要な漁業規則の原案を決定する。これらのTACと漁業規則は、その後商務省が官報に掲載し、正式な決定となる。

 地域漁業管理委員会は連邦政府の役人の手から離れて漁業資源の管理を行うとの意思に基づいて設立されたものである。メンバーは知事が任命する各州の漁業者の代表、州政府の役人、連邦政府の役人有識者など約12人で構成される。

IFQの課題と日本への適用

 5~6月にかけて実施したオレゴン州、ワシントン州とアラスカ州の漁業関係;連邦政府職員、州政府職員、アラスカ大学科学者、連邦政府と州政府科学者、漁業団体関係者、漁業者と水産加工業者らとの広範協議の内容と、2015年10月以降の訪米・加の経験他を加味してレビューして見ると、IFQは、①資源の回復と安定に貢献したこと、②漁業経営の過剰な投資とコストの節減に貢献したこと、③マーケットに対応した漁獲と供給を行えることから価格の上昇が見込まれ収入が増大し、その結果収益性が増大したことなど、その評価は高い。

 しかしながら、それらの成果によって、IFQの経済的価値が高まり、その価格が高騰しているという状況も起きている。すなわち、IFQの個人ないし会社の所有が進み、その所有者のIFQ価値が上がることによる弊害が生じている。これらの問題は複雑に絡み合っており厳密に区分することは困難であるが、およそ問題点を区分すると以下の通りとなる。 

 

1.経済力のある特定の者にIFQが集中し、それらの者はそれをリースするだけで多額の収入が得られること。逆にIFQのリースを受けて漁業操業する漁業者のIFQの調達のための多額のコストが生じたこと。

2.IFQの導入から約25年が経過し、IFQを受けた第1世代が引退しつつあり、次の世代である第2世代が漁業を開始しつつあり、そのためには多額のIFQの調達資金を必要とする。これはIFQの導入以前にはなかったことである。この多額の調達資金(コスト)のために新規参入が阻害される。高額なITQを購入しまたはリースして漁業を開始すればその費用の支払いと返却のために、 自らの年間漁業収入の60~70%の高額を支払いに充てることが起こっていること。

3.IFQの集積で漁業地域の漁業者と漁船数が激減した。また、IFQの保持者数も集約・減少した。保持者の中には、漁業地域から外に出てしまい、漁業地域への貢献もなく、前者の問題と相まって漁業地域の衰退が生じていること。特にカニ漁業で著しかった。

 

今回の訪問で明らかになったのは、アラスカ州、オレゴン州とカナダ・ブリティッシュ・コロンビア州でもこれらの問題に対応する検討が開始されていることである。

その対応例としては、

 

1.新規の加入者用の漁獲枠を全体のTACの中に新たに創設する。

2.漁業者にIFQを与えるのではなく、漁業者を含む市などの漁業地域全体(グループ)に集積したIFQとして与える。そのグループから脱退・退去した漁業者は漁獲の権利をグループに残しそれ  を有さない。

3.期限付きのIFQとする。

4.定期的に一部を入札に付する。

 

などである。

我が国はITQの導入実施の後進国であり、これらの先進事例を取り入れて、制度設計が出来る立場にあり、今後このような重要な課題の真剣な検討が必須である。

 (了)

参考文献

小松正之「世界と日本の漁業管理 政策・経営と改革」(成山堂)(2016年12月)

小松正之他「実例でわかる漁業法と漁業権」(成山堂)(2017年11月)

東京財団水産業プロジェクト「漁業資源管理と日本の課題」(東京財団)(2017年10月)

小松正之「2018年5~6月米国西海岸出張報告書1~17号」(未公表)(2018年6月)