資源管理の経済効果:米国漁業におけるキャッチ・シェア・プログラムを参考に (プロジェクトメンバー 寳多康弘(南山大学教授))

寳多康弘

南山大学経済学部教授

水産資源の特徴と資源状況

 

 海に囲まれた日本は、世界で有数の排他的経済水域(EEZ)を持ち、古くから水産資源の恩恵を受けてきた。日本は水産資源が豊富だといわれてきたが、日本周辺水域の資源水準の状況が低位である魚種は多数ある(水産庁『水産白書』)。また、国際的に共有される水産資源の中で、寿司ネタで人気のクロマグロや、土用の丑の日に欠かせないウナギ(シラスウナギ)が、資源量の減少が著しいことから、ワシントン条約(CITES)や国際自然保護連合(IUCN)といった国際会議の場で話題となったことは、記憶に残っているのではないだろうか。水産物は加工品も含めて国際貿易が活発で、適切な資源管理が行われないと、水産物の輸出国では外貨獲得を目指して過剰な漁獲をする可能性がある(Takarada, Dong, and Ogawa 2013)。

 水産資源は、過剰に漁獲しなければ持続的に利用することができる森林資源と並ぶ典型的な再生可能資源の一つである。技術進歩により人間の漁獲能力が高くなったことと、健康志向や経済発展を背景とした水産物に対する世界需要の増大とが相まって、漁獲圧力は強くなっている。

 資源の枯渇が懸念され水産資源の適切な管理が求められている中、本稿では米国漁業におけるキャッチ・シェア・プログラムを参考に資源管理の経済効果について考察する。

資源管理の手法と期待される効果

 水産資源の持続的な利用のために、様々な資源管理の手法が用いられている。漁獲方法や漁期などの規制、禁漁区の設定、漁獲量の規制がある。いずれの規制も重要だが、中でも個別の漁業者の漁獲量を適切に規制することが効果的であるといわれている。

 資源管理は、資源の持続的利用に資するだけでなく、経済的な効果ももたらす。資源が豊富になると、魚群を探すための燃油や時間が節約できたり、漁獲サイズが大きくなって同じ重量でも単価が高く売り上げが増えたりする。つまり、資源が豊富になると漁業の生産性は高くなる。

 漁獲量の規制について、科学的根拠に基づいて、ある魚種の漁獲量の上限である総漁獲可能量(TAC)を規制するだけでは十分でないことが知られている。これは漁業が利益を追求する経済活動だからである。

 総漁獲可能量の設定だけの場合、個々の漁業者にとっては、漁獲上限に達する前にできるだけ多く漁獲することが利益となる。漁業者の間での先取り競争に勝つために、高性能な漁船にすべく多額の設備投資が行われる傾向にある。できるだけ早く魚群を探して漁場に到着して漁獲するためで、これは生産コストの上昇につながる。先取り競争の結果、漁期は短くなるとともに、短期に大量の漁獲物が市場に供給されて、漁獲物の価格の低下や質の低下を招く。これは収入にマイナスとなる。

 他方、総漁獲可能量を設定するだけでなく、個別の漁業者に漁獲可能な量の上限を割り当てる個別漁獲割当(IQ)の場合、各自の漁獲可能量は確保されているので、他に先駆けて漁獲する必要がなくなる。このため、過剰な設備投資は必要なく、他に先駆けるために荒天時に無理に漁に出る必要もない。これは生産コストの低下、漁業者の労働環境の改善につながる。また、漁業者は、市場価格を見ながら割り当てられた漁獲枠をどのように使うかを考えるようになる。漁期が長期化することで、市場に質の良い漁獲物が長期にわたって適量供給され、漁獲物の価格低下を防ぎ、消費者は質の良い漁獲物を手に入れられるようになる。

キャッチ・シェア・プログラムとは

 では実際に漁業者に漁獲枠を割り当てるとどうなるのであろうか。すでに欧米を中心に、複数国で漁業者に対する漁獲割当は実施されている。この論考では、一国の排他的経済水域内にとどまるような水産資源を扱うこととする。よって、国内政策として資源管理を適切に行えば効果が出る場合である。

 ここでは、米国において実施されている「キャッチ・シェア・プログラム」(catch share program)と呼ばれる産出量規制の手法とその経済効果について、米国商務省NOAA(海洋大気庁)の報告書(Brinson and Thunberg 2013)を基に見ていく(以下、NOAA報告書と呼ぶ)。15のキャッチ・シェア・プログラムの内、多くは2010年前後から開始されている。NOAA報告書の中心的な内容は、それぞれのプログラムに関する事例研究となっている。

 この報告書を取り上げる理由は以下の通りである。キャッチ・シェア・プログラムと呼ばれる新たな資源管理手法の経済効果に関する最初の公的な報告書であること、キャッチ・シェア・プログラムによる漁獲量や資源管理による資源量の変化が、漁業者に対してどのような経済的インパクトを与えたかを知ることは、プログラムの成否を判断する上で極めて重要であること、があげられる。

 キャッチ・シェア・プログラムとは、総漁獲可能量の一定割合(シェア)を、個別の漁業者(individual fishermen)、漁業協同組合(fishing cooperatives)、漁業共同体(fishing community)あるいは他の事業体(entities)に与えて、ある一定量の漁獲を許可する制度のことである。この米国の制度の大きな特徴は、個別の漁業者だけでなく、漁業協同組合といった事業体に対しても漁獲枠が付与される場合がある点にある。事業体に付与される場合は、一つの事業体として漁獲量に上限があるということである。事業体に属する個々の漁業者に対して、どのような方法で事業体としての漁獲枠を遵守してもらうかは、事業体に任されている。

 日本においてキャッチ・シェア・プログラムを事業体について当てはめるならば、例えば、地域の漁業者の団体である漁業協同組合や都道府県レベルの漁業者の団体に漁獲枠を配分するような場合である。各事業体は、漁獲枠内で漁獲するように、事業体に属する個々の漁業者の漁獲を管理すればよい。

 NOAA報告書によると、初期の漁獲枠の配分の対象者は、通常、過去から漁獲を行っている漁業者である。個別割当の漁獲枠を譲渡できる場合もあって、譲渡の期間は、永久譲渡や1年ごとのリースといったものである。譲渡先は所定の資格のある個人または事業体で、その個人または事業体は、実際に漁業をしていなかったり、漁船を所有していなかったりしてもよい。よって、加工業者が漁獲枠を所有することも可能である。

キャッチ・シェア・プログラムの経済効果

 全体としてキャッチ・シェア・プログラムは概ね成功したとNOAA報告書は評価している。以下で主な結果を紹介する。

 このプログラムによるプラスの効果は次のようなものがある。漁獲上限を越えて漁獲してしまうことは希で、漁獲上限が遵守されている。決められた漁獲枠内で操業しているかどうかを確認するために、漁業者に対するモニタリングをしっかりと行っていることが背景にある。先取り競争がなくなって、同じ漁獲量を達成するための操業回数が減っており、漁業者の生産性が改善している。また、荒天時に操業する必要がなくなって、漁業従事者の安全面も向上した。

 興味深い点として、キャッチ・シェア・プログラムが、漁獲そのものだけでなく、漁獲設備(fishing capacity)の減少をも引き起こしていることがあげられる。プログラム自体は漁獲量に直接作用するものだが、漁業者が長期的な視点から行う設備投資にも間接的に影響を与えている。先取り競争がないので、漁船数を最低限に絞り込んで生産性を高めることができる。

 マイナスの効果をもたらすかもしれないのが、漁業の事業体数の減少(寡占化)である。漁獲を実際に行っている漁船数が減少していて、この原因として漁獲枠を持っている漁業者の減少があげられる。つまり、漁獲枠を他の漁業者に売却して漁業から退出する者と、漁獲枠を購入して以前より漁獲枠を増やす者とがいることを意味している。特にキャッチ・シェア・プログラム導入直後に譲渡が一気に進んでいた。非効率な事業体が退出して効率的な漁業者が残ることになるので、漁業の生産性は向上し、プラスの効果となる。

 しかし、寡占化によって、漁業者は自らの漁獲量が市場価格にどのように影響を与えるかを気にし始めることになる。つまり、価格支配力を持つようになる。それを表す興味深いこととして、いったん減少した漁獲量がその後、増加しない傾向にあることがあげられる。キャッチ・シェア・プログラムの開始時点では、資源管理の強化のために総漁獲可能量が減るので、実際の漁獲量も減少する。これは漁業者に対しては生産量の減少でマイナスの効果である。その後、資源が回復して総漁獲可能量が増えて個別漁獲割当も増えたとしても、漁獲量は増加するどころか減少することがある。これは寡占化によって価格支配力を行使していると推測される。供給を絞ることで水産物価格が上昇すれば、漁業者にとっては利益につながるが、水産物の加工業者や消費者にとっては不利益になる。加工業者が漁獲もしている垂直統合の場合は、利益を最大にするように漁獲するので、利害不一致の問題は起きない。

 漁獲枠が少数の事業体に集約されることは、所得分配の問題を引き起こす。漁獲枠を所有する事業体とそうではない事業体の間で、漁獲枠のリース料や利用条件次第であるが、所得分配は公平性を欠くかもしれない。漁業の効率性の向上と公平性の問題はバランスが重要で、それぞれの漁業の特性に合った追加的な規制(例えば一つの事業体の漁獲枠所有の上限設定)を考える必要があるかもしれない。


 

<参考文献>

環境経済・政策学会 編(2018)『環境経済・政策学事典』丸善出版

寳多康弘、馬奈木俊介 共編著(2010)『資源経済学への招待:ケーススタディとしての水産業』ミネルヴァ書房

Brinson, A.A. and E. M. Thunberg (2013) The Economic Performance of U.S. Catch Share Programs. U.S. Dept. of Commer., NOAA Technical Memorandum NMFSF/SPO-133, 160 p.

Takarada, Y., W. Dong, and T. Ogawa (2013) “Shared Renewable Resources: Gains from Trade and Trade Policy”, Review of International Economics 21 (5), 1032–1047.