タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2012/2/20

2012年2月20日 研究会報告「財政、社会保障、人口を巡る課題と改革」講師:加藤久和氏

2012年2月20日、明治大学政治経済学部加藤久和教授より「財政、社会保障、人口を巡る課題と改革」について報告を受け、その後議論を行った。 

1.社会保障支出の増加は経済成長を抑制する

 社会保障負担と経済成長の関係は、日本に当てはまらないものもあるが次の6点が考えられる。?社会保障負担の増大による消費の低下、?企業負担増加による投資減、?働くインセンティブ低下による労働供給減、?年金等の充実に伴う民間貯蓄の減少と、それによる資本ストック貯蓄の鈍化、?社会保障の充実に伴う非効率な政府の関与の拡大、マクロ経済の効率性の低下、?社会保障支出の拡大による財政赤字拡大と長期金利の上昇(クラウディング・アウト)。
実際に、社会保障支出が増えると経済成長率が低下するという分析もある。また年金給付規模が拡大すると貯蓄率が下がるという分析もある。
 社会保障関係費は、近年では毎年およそ1.2兆円ずつ増加しており、これは消費税率およそ0.5%に当たる額。社会保障関係費の増加と経済成長の相互関係を考慮する必要がある。


2.年金、医療などの制度が抱える課題と改革の方向性

 年金制度や医療・介護保険制度にみられるとおり負担を現役世代が担い老齢世代がその受益を受ける「賦課方式」は、少子高齢化で現役世代の負担が増加するため持続可能性が危ぶまれている。これを自らの老後のために貯蓄する「積立方式」に移行するには、移行している期間の年金給付分と自分の将来のための給付分の両方を負担する「二重の負担」が問題となる。この二重の負担を現役世代だけでなく将来世代とも共有することで負担を軽減しようという「事前積立」は、概念としては議論できるが、実際どのようなスケジュールで実行していくのかも重要な研究課題となっている。
年金の課題では、高所得者に対する年金給付の問題もあり、厚生労働省が検討中である。カナダの年金制度では高所得者に一部税として国に払い戻す「クローバック制」が導入されており参考になる。
日本の国民医療費は現在およそ36兆円。国民医療費はGDP比でおよそ8.1%だがこのうち6.6%の部分が公的医療費でまかなわれており、OECD平均より公的保険が賄うカバー率は高い。今後も増加する医療費を公的負担に頼ることは難しい。平均余命、健康寿命が伸びることは喜ばしいことである。問題なのは、医療費の負担の仕方と受診行動等のあり方。
 医療の積立方式は年金に比べて実施しやすいのではないかと考える。これは20歳になったら医療のための貯蓄をし、主として高齢期にそれを支出する制度である。政府は、医療貯蓄で賄えないビッグリスクへの対応を重視する。軽微な疾病等に対する窓口負担割合の引き上げ、窓口負担における免責制の拡大、予防等の重点化や、保険者機能の強化、管理競争の導入、フリーアクセスの見直しなども考えられる。とりわけ受診する医療機関を自由に選べるフリーアクセスによる非効率な支出の影響は大きいと考えられる。

3.日本財政の持続可能

 日本の債務残高は、およそ900兆円、GDP比でおよそ2倍である。
金利が上昇しない理由は、民間である金融機関が国債を吸収することができた(日銀がだいぶ買い上げていた)、経常収支の黒字があり、外貨準備も十分なため、国債のデフォルトに陥る心配がない、インフレ期待が低い、民間貯蓄がある、国債の所有者の多くは国内の経済主体である、と言われてきた。しかし、いつまでこの状況が続くかわからない。貿易赤字、民間貯蓄の減少、日本国債の所有者の外国人増加の状況を考えれば、金利が上昇してもおかしくない。金利が上がれば政府の利払い費が一気に増加する。
 経済成長率と財政収支の関係は、最近では財政収支が改善しているほど経済成長率が高いように見える。昔のケインズ経済学のように財政赤字を出すことで、経済成長率が上がるという、いわゆる有効需要を引き上げる関係はない。政府支出が民間需要に及ぼす効果の検証を行ったところ、かつては3年目まで考えると政府支出の1.4倍とか1.5倍の効果があったが最近では3年目でも2分の1程度しかない。


4.世代間の闘争ではなく「世代会計」の算出を

 世代格差の問題の原因は複雑である。人口構造が変化、社会保障の賦課方式など財政方式そのものの問題、日本特有の雇用慣行の問題、近視眼的な政策対策(政務債務が急増する中、政府支出を増やせば経済成長するといった政策対応)、また経済成長が鈍化したことなどである。高齢者は、日本の礎を築き、また自分の親を社会保障制度以外で支えてきた。そのため後の世代がその分を社会保障として支えるという考え方はある。しかしその負担があまりにも重くなりつつある。
世代間格差の問題は、若者世代と高齢世代の争いではない。若者世代とこれから生まれる将来世代の間にも格差は生まれる。今ある不公平は過去にさかのぼり修正することは不可能であり、今の関係を変えるというより今後どういう制度を作るかが重要である。
個人が政府に支払った金額と、補助金など政府から受け取った金額を換算しそれを世代ごとに集計する「世代会計」を算出することが重要だと考える。ある政策を行った際にどの世代にプラスで、どの世代にマイナスかを把握し世代間の格差をうめる修正をする指標になる。それぞれの政策に対し、どのように世代ごとの給付と負担があり、問題になるのか示していくことが大事だ。


5.将来の日本人口推計

 ある年までに出生率が回復したら日本の人口はどの程度で落ち着くのかを国立社会保障・人口問題研究所のデータを使って計算した。たとえばTFR(合計特殊出生率)の水準が1.35で続くと2200年に1160万人、現在の10分の1まで人口は減少する。2030年までにTFRが2.1まで回復するとの仮定では2120年ごろにおよそ9900万人まで下がり、その後安定する。2050年までにTFRが2.1に回復すると2140年ごろにおよそ8700万人で安定。さらにTFRが2030年に2.1に回復し、2020年から5年間200万人の移民を受け入れたとすると、2120年ごろに1億200万人程度で落ち着く。人口1億人のレベルを維持するには、TFRを2.1に回復し、かつ5年間に若い移民の受け入れが必要との結果である。また、その際65歳以上人口の割合は、最終的に人口が定常化するので、いつTFRが2.1に回復しても構わず、おおよそ26.7%で安定する。現在23%なのでそれより高い。しかしTFR1.35が続くと高齢化率は41.2%でだいたい落ち着く。2060年ごろに高齢化率40%となりその値が続くのだ。高齢者も若年者も数が減ってくるので、その比率は変わらないまま縮小していくという形になる。

【その後行った議論では、社会保障関係費の増加と経済成長の相互関係は、最新のデータでは確認されにくくなっているのではないかといった意見や、少子化対策に成功をしているとされるフランスの政策を見習うべきだが、フランス並にTFRを2.0程度とするのは現実的に日本では相当難しいという意見が出された。】

文責:東京財団研究員兼政策プロデューサー坂野裕子