タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2012/7/25

マイナンバー法案の審議を急げ!


東京財団研究員兼政策プロデューサー
坂野裕子



1.共通番号法案の審議ようやく開始か

国民一人ひとりに番号を割り振り、社会保障や税制で活用する社会保障・税番号に関する法案「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」(マイナンバー法案)の審議が、ようやく本格化する。今年2月に国会に提出されたものの消費税増税法案をめぐる政治の混乱などで放置されてきたが、この制度は社会保障・税一体改革を進める上でも重要な制度である。番号制度の導入で、正確な所得に基づく負担(税、保険料)と給付(社会保障)を実現させることができるからだ。

2.番号制度は行政事務を効率化させるインフラ

マイナンバー法案は、その目的を

(1)行政機関等行政事務を処理する者が特定の個人や法人を識別す機能を活用して、効率的な情報の管理や利用をできるようにするほか、他の行政事務を処理する者との間で迅速な情報のやりとりができるようにすること、
(2)行政機関に申請、届出などを行う国民が手続の簡素化による負担の軽減や本人確認の簡易な手段を得られるようにすること、
(3)番号や特定個人情報の取扱いが適正に行われるように行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律を定めることとし、

利用範囲を、社会保障分野(年金、労働、福祉・医療・その他)、税分野、防災分野に限定している。

以上からは行政事務の効率化が中心であるように見えるが、マイナンバー法案の第三条には、番号の利用の基本として、「情報を共有することによって、社会保障制度、税制その他の行政分野における給付と負担の適切な関係の維持に資すること」と記されている。番号をどのように使うかだけでなく何のために使うかという目的こそが大切であり、番号制度は社会保障改革、税改革を達成する手段である。

3.社会保障・税一体改革における番号制度の大きな役割

現在進められている社会保障・税一体改革は、社会保障の機能強化・機能維持のための安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指している。この中で番号制度は、「社会保障給付や負担の公平性、明確性を確保するためのインフラとして社会保障・税番号制度の早期導入を図っていかなければならない」(社会保障・税一体改革大綱 2012年2月17日閣議決定)と記され、一体改革における番号制度の役割の大きさがわかる。

番号制度が社会保障給付や負担の公平性、明確性を確保するためのインフラとなりうるのは、番号を税務で活用することで、より正確な所得を把握することができるためである。税務当局は、各種支払調書や給与所得の源泉徴収票などの法定調書と納税者からの申告を名寄せ・突合させ、課税を執行する資料情報制度を導入している。番号が導入されれば、住所の変更や外字など手間取っていた名寄せ・突合が正確に行われ、過少申告か否か、扶養控除の有無について、チェックを正確に行うことができる。ただし、個人の経済状況の実態を把握するには、源泉分離課税になっている預金利子についても支払い調書を求めるべきであろう。個人の経済状況をより総合的に把握できてこそ、状況に応じた効果的な社会保障政策が可能となるからだ。

合わせて番号制度の適切な活用方法に関する議論も進めるべきだ。例えば番号制度の導入は、税制と社会保障を一体的に設計し低所得者への所得再分配を厚くする政策「給付付き税額控除」の導入にも道を拓く。貧困や格差問題が深刻化する中、納税者に対しては税額控除を与え、控除しきれない者や課税最低限以下の者に対しては現金給付をする給付付き税額控除は、諸外国で多様な政策ツールに活用され効果を挙げている。日本では消費税の逆進性対策として提案されているが、諸外国では、働けるのに働かない低所得者の問題に対して、所得に応じた給付を行い勤労インセンティブを高める政策として導入する事例が多く、日本でも導入に向けた検討が期待される。まさに一体改革で取り上げられるべき政策である。

4.個人情報保護の課題

番号制度で国民が懸念しているのが、個人情報保護に関する問題である。

対策として、情報提供ネットワークシステムでの情報提供を行う際の連携キーとしてマイナンバーを用いず個人情報の一元管理を不可能にする仕組みを構築する。そして個人のプライバシー等に与える影響を予測・評価し、想定されるリスクに対する影響を軽減・緩和させる措置を策定する。また個人が自宅のパソコンから情報提供等の記録を確認できる仕組み(マイ・ポータル)をつくるほか、第三者機関(個人番号情報保護委員会)の設置、罰則の強化も合わせて規定されている。対策で肝心なのは、「安全神話」を前提とせず、個人情報の漏洩や不正使用のリスクがあることを前提に対策を考えることであり、これは国民の理解を得ていくしかない。

加えて第三者機関については、個人情報保護法に関連して番号以外に係る個人情報についても苦情の受付や制度運用の監督を行う権限を与えるべきとの意見があり、「個人情報保護法制の全体像を視野に入れた構想における選択肢の一環として検討する必要がある」(個人情報保護専門調査会報告書 2011.7)とされている。マイナンバー制度にとどまらない個人情報保護法制の全体像を明らかにすることも個人情報保護の観点から求められている。また現在、我が国の個人情報保護制度の国際的な整合性が求められていることもこの機会に考慮する必要があるのではないか。

東京財団では、2009年に「納税者の立場からの納税者番号制度導入の提言」を行い、社会保障・税番号制度は、厳しい財政制約の中で可能な限り公平で効率的な社会保障制度を実現する上で不可欠な制度と位置づけ研究を続けてきた。(東京財団フォーラム「番号制度から見た税・社会保障改革」2011.9)
また、番号制度の活用方法として、給付付き税額控除を提案している(「給付付き税額控除 具体案の提言~バラマキではない『強い社会保障』実現に向けて~」2010年8月)。

「効率的な行政」、「効果的な政策」、「公平な社会」の実現に向け、大きな意味をもつ社会保障・税番号制度。国会で議論を尽くし実効的な制度として活用できるよう早期成立に向けた審議を期待したい。