タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/9/13

日本維新の会の経済・財政・税制政策を吟味する(上)

東京財団上席研究員
森信 茂樹


1、はじめに


 日本維新の会が、国政選挙に打って出る。第3極としてそれなりの支持を得る可能性が高い。そうであれば、その政策は国民生活全体に大きな影響を及ぼすので、厳しく検証されるべきだ。その際、政策の方向だけでなく、実行可能性が重要となることは、3年前、われわれが大きな期待を抱いた民主党の政策がほとんど実行されなかったことの反省という意味でも、重要なポイントだ。
 今のところ判断する材料は、政策集である、「維新八策」である。中身を読んだ印象は、小さな政府、個人の自助努力を基本に据える新自由主義を背景にしている。首相公選制、参議院の廃止など国の統治機構を変える憲法改正がらみの項目も並んでいる。全体的な感じとして、政策の羅列だけで、全体像や「当面の」重要課題がはっきり見えてこない。
 そのような前置きで、経済・財政・税制政策に関する彼らの政策について、上下の2回に分けて、検証を行ってみた。

2、経済・財政・税制政策の概要


 まず経済政策であるが、どのような政策を進めていくのか、何%程度の名目・実質成長率を目指していくのか、どのような成長戦略をとるのかについては、不思議なほど記述がない。日銀の金融政策についても、記述があってよさそうなものだが、目新しいといえるのは、供給サイドの競争力強化、TPPの参加など自由貿易圏の拡大であろうか。もっとも、道州制という分権型国家そのものが、最大の経済政策であるのかもしれない。
次に、財政や税制の部分を見ると、プライマリーバランス黒字化の目標設定、世代間・世代内不公平の解消、受益と負担の明確化、社会保障給付費の合理化・効率化と、並んでいる項目は、民・自・公の3党路線とまったくといってよいほど同じ内容である。
しかし税制分野にいくと、さまざまな注目すべき政策が羅列してある。
 まず、「国民総背番号制で所得・資産(フロー・ストック)を完全把握」することを前提に、「資産課税も重視」としていることである。この思想はいたるところに書かれており、社会保障制度の分野でも、「所得と資産の合算で最低保障、所得と資産のある個人への社会保障給付制限」という記述がある。いずれにしても、資産の把握を前提に、税制や社会保障制度を再構築しようという意図が見えてくる。
 次に、「負の所得税(努力に応じた所得)・ベーシックインカム(最低生活保障)的な考え方を導入」としており、2箇所に書かれていることから、重要な基本政策のひとつと考えられる。
 3番目に、「超簡素な税制=フラットタックス化」が掲げられている。
最後に、「消費税の地方税化」と「地方交付税制度の廃止」「地方間財政調整制度」(の導入?)が、大きな枠組みのところで記述されている。これは、道州制への意向をにらんでの話であろう。
 このように、経済政策については、これまでとそれほど変わらないのだが、税制になると、突然新たな概念が出てきたりして、現行制度とは大きく異なるものとなっている。その意味で、維新の会の政策の特色は、「道州制とその財源を調達するための税制」にあるといってよいだろう。
 そこで、以下税制部分について個別に検証していきたい。

3、負の所得税(努力に応じた所得)・ベーシックインカム(最低生活保障)


 ベーシックインカムというのは、「すべての個人に、無条件で、最低生活のために定額の給付金を支給する」という考え方である。これは、現実の政策というより、ひとつの思想として捉えておくべきコンセプトである。維新の会も、カッコ書きで最低生活保障としており、最低限のセフティーネットの必要性を主張した、具体的な政策提言ではないものと思われる。
 次に「負の所得税」である。この制度は、よく知られているように、米国の経済学者フリードマンが主張したもので、所得税が課せられない課税最低限以下の者には、同率で税を還付(給付)していくという考え方である。例えば課税最低限が200万円、税率が10%だとすると、300万円の所得のある者には300-200=100万円に対して10%の課税で10万円の税負担となるが、100万円の所得の者には、100-200=マイナス100万円に10%をかけた10万円が還付されることになる、という制度である。
維新の会はわざわざカッコ書きで、「努力に応じた所得」としている。これは、勤労を条件として一定額を給付するという勤労税額控除(給付付き税額控除の一種)のことであろう。「負の所得税」と「給付付き税額控除」は同じ思想から出たものだが、あえて相違点を探せば、後者が勤労を条件とすることで、インセンティブが組み込まれていることである。
 私は、勤労税額控除制度を含む給付付き税額控除について10数年来研究を続けており、「経済格差の研究」(財務総合政策研究所編著、中央経済社06年)や、「給付つき税額控除」(中央経済社08年)を経て、東京財団政策提言「給付付き税額控除 具体案の提言~バラマキではない「強い社会保障」実現に向けて~」で具体案を提言してきたが、維新の会の政策はこの流れに沿うものであるということで、時宜を得た提言とエールを送りたい。
 本来の勤労税額控除制度は、一定時間・一定所得以上の勤労を条件に税額控除・給付を与えることによって、労働インセンティブを供与し就業を促進する制度である。英国等欧州の雇用政策を見ると、失業手当等の現金給付に加えて、職業紹介や職業訓練などを取り入れた積極的労働政策とよばれるものになっており、その中に勤労税額控除も位置付けられている。
 最近のワーキングプア問題の広がりの中で、わが国の雇用政策も従来型のセフティーネット方式から、市場経済からこぼれ落ちた人を職業訓練等を通じてもう一度市場経済の中に引き戻し(「トランポリン型社会保障」)、さらに勤労を通じて豊かな生活を送れるようにする(「ワークフェア思想」)という政策パッケージに変えていく必要がある。具体化に当たっては、「仕事がなく職業訓練を受けて就労チャンスを拡大させる人への支援」と「やむなく低所得の仕事に従事している人への支援」をうまく連続・整合させることが課題となる。

4、フラット・タックス


 フラット・タックスは、学問上では、ホール・ラブシカ型フラット・タックスを指す。この税制は、レーガン2期の税制改革(1986年)に影響を与え、その後の米国税制改革議論でも目指すべき理想形として唱えられてきたが、その本質は、付加価値を課税ベースとする消費課税の一種である。維新の会も、「超簡素な税制として」という前書きを付けており、単なる単一税率の所得税とは異なるニュアンスを打ち出している。
 具体的には、付加価値を、人的資本の生み出す賃金、資本の生み出す利子所得、法人の生み出す利潤とに分解し、「賃金」は個人段階で、「利子と利潤」は、法人段階で、同じ税率で課税する。米国でははがき1枚の申告書で可能と言われている簡素な税制である。
 個人段階では、利子、配当、キャピタルゲインという金融所得が課税されず、法人段階と個人段階の2度課税がなくなる。家族構成に応じた人的控除はあるので、課税最低限ができ、累進的な効果ももつ。
 法人段階では、売上から賃金・給与等の労働コストや仕入れを控除し、さらに設備投資を控除する。減価償却という複雑な制度がなくなり、全額即時控除(経費)になるので、投資促進的な効果を持つ。一方、支払い利子の損金算入は認められない。(この点について、「ダイヤモンドオンライン「目覚めよ納税者」第25回参照)
 最大の問題は、逆進性である。家族控除があるので、最小限の累進性は確保されるが、税率がフラットなので、高所得者層の税負担は大幅に低下し、低所得者層の負担は増加し、所得再分配の問題が生じるのである。
 そこで、「負の所得税」、給付付き税額控除(勤労税額控除)を導入して、低所得者には現金の給付をセットにする
 筆者は、フラット・タックスと給付付き税額控除をセットとした政策を、「理想の税制―ユナイテッド・タックス」という論文で提言したことがある。ユナイテッドという意味は、所得税と消費税を統合するということである。(時評08年7月号参照)。
 税収は今と変わらないという前提で試算した結果は別図のとおりである。

《拡大図はこちら》


 夫婦子二人モデルで現行税制と比べると、ユナイテッド・タックスのもとでは、所得が420万円までは税負担が軽くなるので、所得を得ようというインセンティブが働く。また、1750万円を超えるところで限界税率が大幅に低下するので、勤労インセンティブが増加する。他方で、420万円から1750万円までの中間層は増税になる。これを税制による経済活性効果によりどこまで緩和していけるか、この点がカギになるが、一見大衆増税となるので、国民の多数が納得するには相当の時間がかかるだろう。

 ここまでの維新の会の政策は、閉塞感の漂うわが国経済社会に新たな視点を持ち込むもので、実現性はこれからとしても、大いに意義のある問題の投げかけであると評価できる。

 次回は、道州制とその財源、地方間財政調整制度の在り方を吟味してみたい。


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