タイプ
論考
プロジェクト
日付
2009/1/30

総会緊急特別会期という制度

中野 健司(国連事務局総会課次長)


はじめに
 去る1月15日~16日、ガザ情勢を巡り総会の緊急特別会期(emergency special session)の会合が開催されました。この総会緊急特別会期は、1950年11月3日に総会で採択された「平和のための結集(Uniting for peace)」決議(決議377A)に基づくものです。

国際法の教科書で必ず言及される同決議は、1950年6月の朝鮮戦争勃発後、中国代表権問題のために年初から安全保障理事会を欠席中だったソ連が8月に議長国として戻り、安保理における審議が拒否権の行使により行き詰ったのを受けて、総会で米、英、仏、加、比、トルコ、ウルグアイの共同提案により採択されたものです(投票結果は52-5(ソ連、チェコ・スロバキア、ポーランド、ウクライナ、白ロシア)-2(印、アルゼンチン))。決議の核心は主文第1段落で、「平和への脅威、平和の破壊または侵略行為があると思われる如何なる事案においても、安全保障理事会が、常任理事国間の一致が無いために国際の平和と安全の維持に関する主要な責任を遂行できない場合には、総会は、集団的措置(平和の破壊または侵略行為の場合には、必要であれば軍隊の使用を含む)について加盟国に適切な勧告を行うことを目的として、その問題を直ちに審議しなければならない。総会が会期中でない場合には、そのための要請があってから24時間以内に緊急特別会期で会合することができる。この緊急特別会期は、安全保障理事会のいずれかの7カ国の投票に基づく要請、または国連加盟国の過半数の要請があったときに招集される」となっています。

 同決議を根拠とする総会緊急特別会期は、過去に第1会期(1956年招集、スエズ危機)、第2会期(1956年、ハンガリー動乱)、第3会期(1958年、レバノン情勢)、第4会期(1960年、コンゴ動乱)、第5会期(1967年、第三次中東戦争)、第6会期(1980年、ソ連のアフガニスタン侵攻)、第7会期(1980年、パレスチナ情勢)、第8会期(1981年、ナミビア情勢)、第9会期(1982年、中東情勢)、第10会期(1997年、パレスチナ情勢)の例がありますが、総会と安保理との権限関係等を含め、多くの論点を提供してくれています。本稿では、総会緊急特別会期という制度について、手続面を中心に、今回のガザ情勢に係る事例にも触れながらご報告したいと思います。なお、本稿はあくまで筆者の個人的な見解であり、国連事務局の公式な立場ではないことをお断りしておきます。


招集の手続
 「平和のための結集」決議によれば、総会緊急特別会期は「安全保障理事会のいずれかの7カ国の投票に基づく要請、または国連加盟国の過半数の要請があったときに招集される」となっています。更に同決議主文第2段落に基づき、招集のための手続が総会手続規則8 (b)に詳述されており、「総会決議377Aに基づく緊急特別会期は、安全保障理事会のいずれかの9カ国の投票に基づく要請若しくは加盟国の過半数の投票に基づく要請を事務総長が受理してから24時間以内、または規則9に則る加盟国の同意があったときに、招集されなければならない」となっています(なお、総会手続規則はhttp://www.un.org/ga/ropga.shtmlに全文が掲載されています)。ここで「9カ国」となっているのは、1963年12月に採択、1965年8月に発効した憲章改正で、安保理の理事国数が11から15に拡大(23条)、手続事項の決定に要する票数が7から9に増加(27条2項)されたことを受け、1965年12月の総会決議2046に基づき当初の「7カ国」から変更されたものです。

安保理による要請
 要請の第1の形態である安保理の要請ですが、第1~4及び第6、第9会期は安保理決議により招集されました。例えば第1会期は、1956年10月29日のイスラエル軍の侵攻開始、30日の安保理決議案への英仏の拒否権行使を受け、31日、安保理決議119が賛成7、反対2(英仏)、棄権2(豪州、ベルギー)で採択、翌11月1日に総会緊急特別会期が開催されました。安保理決議の主文は1段落のみで、「1950年11月3日の総会決議377Aの規定に基づき、適切な勧告を行うため、総会緊急特別会期を招集する」との内容です。
 決議119のように常任理事国の反対票にもかかわらず安保理決議が採択された例は、1956年以前には手続事項に関するものが4件だけありました。具体的には安保理決議34(1947年、議題からギリシャ問題を削除、ソ連・ポーランドが反対)、同87(1950年、台湾問題に関し中華人民共和国・中央人民政府の安保理出席を承認、中国(国民党政権)、米、キューバが反対)、88(1950年、朝鮮国連軍司令部報告書の議論の間、中華人民共和国・中央人民政府の安保理出席を承認、中国、キューバが反対)、110(1955年、憲章再審議のための加盟国全体会議を、総会第10通常会期までに開催するとの憲章109条3項の規定にもかかわらず、同会議を今後適切な時期に開催するとの総会決議992に安保理として同意、ソ連が反対)です。「平和のための結集」決議が西側主導で採択されたにもかかわらず、初の適用により覆したのは英仏の拒否権行使であったというのは、皮肉な巡り合わせです。
 他方、スエズ危機と同じ1956年10月の23日に始まったハンガリー動乱につき、緊急特別会期の開催を決める安保理決議120が採択されました(投票結果は10-1-0。ソ連が反対)。緊急特別会期の第1会期開催中の11月4日のことです。ソ連の拒否権行使を覆した形になり、第1会期と攻守逆転となりました。結果として、第1会期(11月1日~10日)と第2会期(11月4日~10日)とが並行して開催される事態となります。なお、第1会期では最終的に国連緊急軍(UNEF)に関する決議1001等を採択します。その後、第3会期は安保理決議129(全会一致)、第4会期は決議157(8-2-1。ソ連、ポーランドが反対、仏が棄権)、第6会期は決議462(12-2-1、ソ連、東独が反対、ザンビアが棄権)、第9会期は決議500(13-0-2、米英が棄権)により招集されています。

加盟国による要請
 要請の第2の形態として上記の総会手続規則8 (b)に掲げられている「加盟国の過半数の投票に基づく要請を事務総長が受理してから24時間以内」の例はありませんが、第3の形態である「規則9に則る加盟国の同意があったとき」の招集は、第5、第7~8会期、及び第10会期が該当します。総会手続規則9は、「いずれの加盟国も緊急特別会期の開催を事務総長に要請できる。かかる要請があった場合には、事務総長は直ちに他の加盟国に通告し、右要請に同意するか否か照会しなければならない。事務総長の通告から30日以内に加盟国の過半数が要請に同意する場合には、規則8に則り緊急特別会期が開催されなければならない」との趣旨で、例えば最新の第10会期招集に至る経緯は次の通りです。1980年3月19日に安保理の非理事国であるカタールが安保理会合の開催を要請、同国及び理事国であるエジプトが提出した決議案が21日に審議され、米国の拒否権行使で否決されるに及び、カタールは31日に事務総長に総会緊急特別会期の招集を要請、事務総長は4月1日付で右要請を他加盟国に通告、22日までに加盟国の過半数が右要請に賛同した旨事務総長が加盟国に通告し、第10会期が4月24日に招集されました。第10会期招集に至るカタールと同様の役割を果たしたのは、第5会期ではソ連、第7会期ではセネガル、第8会期ではジンバブエでした。

招集された会期の「再開」
 ところで、去る1月15日~16日にガザ情勢を巡り開催されたのは、この第10会期の会合です。前回第10会期の会合が開かれたのは2006年12月(第30~31本会議)で、その最後に採択された決議ES-10/17の主文第17段落で、「第10緊急特別会期を暫時休会(adjourn temporarily)し、直近の会期の総会議長に、加盟国からの要請を受けて特別会期の会合を再開(resume)することを授権する」と規定されました。ここで言う「直近の会期の総会議長」とは、現在の通常会期の議長を意味しています。昨年末からのガザ情勢の悪化を受け、安保理決議案交渉が難航する中、マレイシア首相発ミゲル・デスコト・ブロックマン総会議長(ニカラグア)宛の1月7日付書簡(A/ES-10/434)による要請(但し通常使われる”request the resumption”ではなく”request full support to the convening”との語を用いている)に基づき、総会議長は1月7日夕刻、翌8日午後5時半から総会緊急特別会期の会合を開催する旨全加盟国に通告しました。しかし土壇場になり、総会議長は同会合を延期します。同日中にも安保理決議の採択が予想される中、一部加盟国の要請もあり延期を決定しました。代表団が総会議場に集まり始めた、午後5時20分頃のことです。同日夜9時15分からの安保理会合で、決議1860が採択されたのは衆知の通りです。その後、安保理決議が当事者双方から拒否され、13日、総会議長は緊急特別会期の会合を15日に開催することを決定、最終的に開催要請書簡を事前に送ったのは上記マレイシアに加えてベネズエラ(A/ES-10/436。マレイシア書簡と同じ用語を使用)、インドネシア(A/ES-10/440。”request the resumption”の用語を使用) 、シリア(A/ES-10/441。インドネシアと同様)となりました。こうして15日午前・午後、16日午前・午後・夜の合計5回の本会議(第32~36回)が開催されました。
 このように一旦招集された会期を暫時休会し、後日再開する方式は、第5会期で初出しました。1967年6月17日に招集後、7月4~17日に決議を4本採択(決議2252~2255)した後、同21日に暫時休会し、必要な場合に再開する権限を総会議長に授与する決議2256を採択します。その後9月18日に次回会合が開催され、同年9月~翌年9月の第23通常会期に本件緊急特別会期の議事録・文書を付託する旨の決定を行って(決議2257)会期を終了しました。第7会期にも1980年7月の招集から1982年9月の終了まで3回同様の措置が執られ、第10会期では1997年に3回、1998年~2001年に各1回、2002年に2回、2003年に3回、2004年に1回、2006年に2回、各々1日~数日間の会合が開催され、最後に同様の措置が執られました。その至近の例が本節冒頭の決議ES-10/17主文第17段落です。去る1月16日夜10時近くに終わった第36回本会議で採択された決議ES-10/18でも同様の規定があり、総会議長は将来加盟国からの要請を受ければ第10会期を再開することができます。 

 
安保理との権限関係
 1月15日午前の第10緊急特別会期第32回本会議の冒頭、イスラエルが発言を求め、(1)安保理は本件を引き続き審議中であり、今次会合は憲章12条1項(「安全保障理事会がこの憲章によって与えられた任務をいずれかの紛争又は事態について遂行している間は、総会は、安全保障理事会が要請しない限り、この紛争又は事態について、いかなる勧告もしてはならない」)に違反する、(2)「平和のための結集」決議にいう「安全保障理事会が、常任理事国間の一致が無いために国際の平和と安全の維持に関する主要な責任を遂行できない場合」に現状は該当せず、今次会合の根拠は無い旨述べました(同様の趣旨は、同国が事前に総会議長に送付した書簡(A/ES-10/439)でも指摘)。
 右論点の内(1)については、国際司法裁判所の2004年7月9日付勧告的意見(イスラエルによる壁建設の事案)で、「総会と安保理とが国際の平和と安全の維持に係る同一の問題を同時並行的に取り扱う事例は増加傾向にあり(例えばキプロス、南アフリカ、アンゴラ、南ローデシア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ソマリア)、多くの場合安保理がこれらの事案について国際の平和と安全の維持の側面に焦点を当てる傾向があるのに対し、総会はより広い視点から、その人道、社会、経済的側面をも考慮してきた。当裁判所は、総会のかかる慣習が、憲章12条1項に即していると考える」と述べられています。
 上記(2)に対しては、「平和のための結集」決議にいう安保理が「常任理事国間の一致が無いために国際の平和と安全の維持に関する主要な責任を遂行できない場合」というのは、新たな総会緊急特別会期を招集するための要件であり、既に招集されている第10会期の「再開」は、直近の決議であるES-10/17主文第17段落の要件を満たせば足りるとの反論がなされています。イスラエルは更に反論を試みますが、議長の指示により事務局が総会手続規則71(いずれかの代表団から議事進行上の申立(point of order)があった場合には、総会議長が直ちに決定を行わなければならない、当該代表団は、決定に不服な場合には総会の単純過半数の投票による決定を求めることができるとの趣旨)を読み上げるに至り、イスラエルは投票を求める訳ではないとしてその場は一旦矛を収めました。

会合の構成
 その後、総会議長、副事務総長(事務総長は中東へ出張中)、安保理議長(仏)の他、82の加盟国(米、イスラエルも含む)・オブザーバー(パレスチナ・バチカン)が演説し、決議を採択しました。
 今回のような10年前に招集された第10会期の再開ではなく、新たな会期の招集の場合には、もっと形式的な議事進行上の手続が冒頭に加わります。具体的には、毎年9月の通常会期の招集に当って使われる総会手続規則が原則としてそのまま適用され、黙祷(規則62)、議長・副議長選出(規則30)、委任状委員会委員の任命(Credentials Committee、規則28)や、分担金不払いのため憲章19条により投票権を喪失している国に係る報告、議題採択(規則16~19)等が行われます。
 但し、議長・副議長や委任状委員会委員は現通常会期のチームをそのまま充てる慣例であるため、今回のような「再開」であっても特定の通常会期中初めての再開の場合には、慣例に基づき選出する措置を執りますし、分担金不払い国についても、再開した時点で新たな状況が生じている場合には必要な措置が執られます。この点は今回も例外ではありませんでした。

決議の採択
 会期の終了までに1乃至複数の決議が採択されるのは通常会期と同様です。今次会合では、総会議長自らが15日午後に決議案(A/ES-10/L.21)を加盟国に配布、16日中の採択を強く促しました。決議案を総会議長が提出するのは通常加盟国間で合意がある場合に限られ、本件のような投票が予想される案件で議長案が登場するのは異例です。議長案が投票にかけられた例は、最近では人権理事会設立に係る決議60/251だけ(170-4-3。米、イスラエル等が反対、ベラルーシ、イラン、ベネズエラが棄権)です。16日にイスラエルがL.21に対する投票を要求する旨事務局に通告(=無投票でのコンセンサス採択は認めない、という意思表示)、これを受け夕刻の第36回本会議の冒頭、総会議長が、投票の要求があったため、総会手続規則36(総会議長は総会の権威の下でその機能を果たすとの内容)に鑑み議長案を撤回すると述べました。この後、間髪入れずエクアドル常駐代表が、議長案の文言に一部変更を加えて自らの提案とする旨発言、続いてエジプト常駐代表が、パレスチナやEUとも同意した別の決議案を提出しました。エジプト案は議長案に基づきつつも、エクアドル案よりもEUが容認しやすい文言になっていました。
 複数回の議事中断の後、先に提出されたエクアドル案よりもエジプト案を先に投票にかけるようエジプトが要求(手続規則91では決議案提出順の投票が原則となっているが、「総会が他に決定を行わない限り」とされており、例外を設けることはできる)、手続投票の結果エジプトの要求が受け入れられました(112-10-20)。次いでエジプト案が投票にかけられ、142-4-8で採択されました(決議ES-10/18)。反対票を投じたのは米、イスラエルの他に別の思惑でしょうがベネズエラも入っており、シリア、イラン等は棄権に回りました。
 後刻、ベネズエラは棄権する意図であった旨議事録に注釈を入れるための様式を事務局に提出しました。代表団がボタンを押し間違えたと主張する場合、このような措置を執れば議事録の投票記録の後に、「A国は、本来の投票意図は○○だったと事務局に後刻通報した」との注釈が加わりますが、投票記録自体は一切変更されません。

おわりに
 総会緊急特別会期という制度は、冷戦下の米ソ対立を背景に生まれたのであり、冷戦後安保理における拒否権行使の数が激減し、決議は原則コンセンサスで採択される傾向が続く中で、当初の姿からは当然ながら変質してきているように思われます。35年振りの露中”double veto”として注目を集めたミャンマーに係る決議案(S/2007/14、2007年1月12日)やジンバブエに係る決議案(S/2008/447 、2008年7月11日)の否決に際しても、米英仏が総会緊急特別会期という手段に訴える訳ではありません。そうするメリットが無いからです。
 現代の国際政治の下では、総会緊急特別会期の要請を巡る対立軸としては、やはり反イスラエル的な安保理決議案に対して拒否権を行使する米国と、それに不満を抱いたアラブ諸国という構図が最も鮮明であり、これが正に1997年の第10会期招集の背景でした。結果として冷戦後の総会緊急特別会期は第10会期が唯一であるという事実に、国際政治の現状が看取されるようです。