タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2009/5/11

2009年度第1回国連研究プロジェクト研究会(議事録概要)NO.1 「海賊対象法案の概要」

2009年度第1回国連研究プロジェクト研究会(議事録概要)
「海賊対象法案の概要」
作成:都築正泰(東京大学大学院法学政治学研究科)

1.出席者
北岡伸一(主任研究員)、鶴岡公二(外務省国際法局長)、池田伸壹(朝日新聞GLOBEシニアライター)、岩澤雄司(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、星野俊也(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)、紀谷昌彦(外務省国連企画調整課長)、坂根徹(日本学術振興会特別研究員)、ジョン・A・ドーラン(海洋政策研究財団)、蓮生郁代(大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)、潘亮(筑波大学人文社会科学研究科専任講師)、関山健(東京財団研究員)、都築正泰(東京大学大学院法学政治学研究科)

2.日時・場所: 4月14日18:30~21:00、東京財団A会議室

3.報告者
(1)鶴岡公二氏(外務省国際法局長)「海賊対象法案の概要」
(2)池田伸壹氏(朝日新聞GLOBEシニアライター)「国連安保理における日本を考える」


4.鶴岡氏報告
(1)法案の背景
頻発するソマリア沖・アデン湾における海賊行為に対して、日本、国際社会は多層的取組を展開。まず、問題の根本的解決策として重視されるのは、ソマリア国内での取締強化・治安回復、それと同国に対する民生開発援助の2点。これらが「車の両輪」と言われる。しかし現時点でこれらが成果を上げることは困難。それはソマリアで正当な政府が機能していないため。また中長期的には、ソマリア周辺国の取締能力の強化も課題。このような現状から、当面、ソマリアの海賊問題は喫緊の課題として続くだろう。

3月13日、本件について麻生総理が談話を発表。この際、冒頭で述べたのは「海賊対処法案」の閣議決定。その後に、同日の海上警備行動の発令に関する閣議決定に言及。つまり、海賊対策で新法を成立させる意思を内外に明確に宣言した。

4月15日より、衆議院テロ防止・海賊対処特別委員会において、同法案の審議開始。

(2)法案の概要
国連海洋法条約は、「人類普遍の敵」である「海賊行為」に対して、すべての国が「普遍的管轄権」を行使することを認めている。これは慣習国際法の明文化。

しかし現在、日本に限らず各国の海賊取締の法制では、法益を自国に密接に関連する船舶(自国籍船、自国民が乗船する外国船、自国の船舶運航事業者が運航する外国籍船、又は自国の積荷を輸送する外国籍船)に限定。それ以外は保護の対象外。

今回の「海賊対処法案」では、国連海洋法条約に沿って「海賊行為」を定義し、さらに具体的にその犯罪の類型とそれに対する罰則を明記。外国籍船も保護の対象とする。これは非常に画期的なことで、国際的に同法案の動向が注目されている。また成立すれば、ある種の「国際的公共財」になると期待されている。

「海賊行為」への対処では、海上保安庁が必要な措置を実施。海上保安官は警察官職務執行法第7条の規定により武器使用をする(「警察比例の法則」適用)。その他、他の船舶への著しい接近等の海賊行為を制止するため、他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるときには、その事態に応じて合理的に必要と判断される限度において、武器使用(停戦射撃)ができる。

上記の「その他、」以降の内容が今回新たに追加された要素。重火器等で武装する海賊行為に対処する上で現行法の武器使用の規定は不十分。これが新たな武器使用の権限付与になるという議論が法案審議過程で予想される。しかし、任務が特定、また諸条件が明記されている以上、野放図に武器使用を認めるわけではなく、現在の規定を抜本的に変更するものでもない。法案審査を行った与党のPTもこの見解で一致。

海上自衛隊については、海賊行為に対処するため特別の必要がある場合に、防衛大臣が、内閣総理大臣の承認を得て、海賊対処行動を命ずることができる。承認を受けようとする際は、原則として、対処要項(海賊対処行動の必要性、区域、部隊の規模、期間等を記載)を内閣総理大臣に提出。内閣総理大臣は、承認したとき及び海賊対処行動が終了した際、国会報告を行う。

あくまでも司法警察官としての職務は海上保安官が担う。海上自衛隊の艦船にも海上保安官が乗船する。

(3)実施体制
派遣される海上自衛隊の艦船について、各種物資の補給や休養のための活動拠点として、ジブチの海軍基地を使用する。すでに同国とは地位協定締結済み。なお、ジブチには、米軍、仏軍も所在。

海賊行為を行った被疑者の扱いについては、現在、ソマリア・コンタクト・グループ内部で検討中。日本の船舶に被害を与えた場合には、日本に連行して訴追することも選択肢の一つ。また一方、他国の法益を侵した場合には、ケニアなど特定の国に被疑者を引き渡し、訴追することも検討されている。ちなみに、ケニアは英連邦の国で、アフリカ諸国のなかで比較的司法手続が整備されている。海賊法もあると聞く。また、同国には死刑制度がないため、欧州諸国が被疑者を引き渡す上での障害が少ない。

船舶の多国籍化の問題への対応。たとえば、船籍はA国、船長はB国、船員はC国、積荷はD国と言った場合の調整について。これは民間主導で調整。外航海運の情報交換が民間の船会社の間で取極められている。

(4)主要争点
海賊対処行動には世論の高い支持があり、その意義を疑う議論はほとんどない。法案審議過程における与野党間の主要争点は次の3点。

1)国会承認。海上自衛隊の派遣について、政府案は、内閣総理大臣が海賊対処行動の承認時と終了時に国会へ報告すると規定。これに対して、野党は国会の事前承認を要求。しかし、現行法制下の海上警備行動も国会の事前承認は不要で、閣議決定で派遣が決定できる。この点との整合性を考慮する必要がある。

2)なぜ海保ではなく海自なのか。「なし崩し的」な自衛隊の海外展開の一歩であり、あくまでも海保主体でやるべきという議論。また、海賊対処業務に自衛官を派遣するとしても、別組織の身分を自衛官に「併有」させる案もある。しかし、海保も海自もいずれも国の機関で、いずれも実力行使することがある。それぞれに異なる目的・能力を持っており、それらを必要に応じて活用しないのは非合理的。

3)日本の船籍は別として、なぜ他国の船籍を守らなければならないのか。この議論には、国際協調の視点が欠落している。ソマリア沖の海域は広大で、一国が単独で海賊対処行動を展開することは不可能。また周知のとおり、この海域の安全確保と安定化は国際的に急務な課題。国連安保理もすでに4点の決議を採択している(1816、1838、1846、1851各決議)。各国が役割を分担して海賊対処行動を国際協調でやろうという機運が高まるなかで、保護する対象を自国の船籍に限定することは許容されにくい姿勢であろう。



・・・NO.2「国連安保理における日本を考える」(池田氏報告)へ続く