タイプ
論考
日付
2018/10/17

中間選挙をにらんでの共和党議会

写真提供 Getty Images

 

早稲田大学社会科学総合学術院教授

中林美恵子

 

いよいよアメリカの中間選挙が間近に迫ってきた。トランプ大統領が誕生してから初めての国政選挙であり、国民の審判が気になると同時に、共和党にとっては両院の多数派を維持できるかどうかが問われる選挙になる。

 

現時点では下院で民主党が、そして上院で共和党が過半数を獲得するのではないかという予想が多い。トランプ政権にとっては、もし共和党が議会多数派の地位を失えば、多くの政策実現が極端に困難になることであろう。またオバマ政権時代の8年間、思うような政策実現ができなかった共和党議員たちにとっても、トランプ大統領誕生のお蔭でやっと減税や規制緩和にまい進できた2年間が、あっという間に終わることになる。

 

選挙結果によっては、予算編成も困難を極めることになるだろう。また確率は低いとはいえ、仮に上院が逆転することにでもなれば、大統領による政治任命職の承認が困難になると容易に想像できる。ブレット・カバノー[1]最高裁判事の他にも続くかも知れない(例えばルース・ギンズバーグ判事は85歳の高齢)最高裁判事の指名や承認なども、全くおぼつかなくなってしまう可能性がある。 

分割政府か統一政府か

トランプ大統領にすれば、この中間選挙で共和党の多数を維持したいのは山々だが、図1のとおり最近では(9.11同時多発テロ当時のブッシュ大統領は例外とし)就任2年後に分割政府(大統領と議会の多数派が異なること)を経験しなかったのはカーター政権くらいである。

 

最近のアメリカでは、統一政府よりも分割政府である傾向のほうが普通になっており、これは政治や政策において三権分立によるチェック&バランスを望む国民の選考を反映しているともいわれる。ただしそれは同時に、行政府と立法府の対立を激化させ、国内政策のこう着状態を生む原因にもなる。もし議会によるチェック&バランスが厳しくなれば、トランプ大統領にとってはロシア疑惑や弾劾裁判訴追などを含めて、ストレスの多い政権運営が待っていることになるだろう。

  

1 近年の米国における政党バランス 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 出典:米議会HPをもとに中林美恵子作成

 

下院は現在、9月28日から11月13日までの休会に入っている。上院は10月11日にようやく休会に入り、11月13日に戻ってくる予定だ。したがって、11月6日に選挙結果が出てからでも、レイムダックセッションを開催して忙しく働く予定である。それでは共和党議会は中間選挙前に、どのような立法作業に奔走し、選挙後の立法活動について如何なる準備をしたのであろうか。

駆け込みのミニバス歳出法とCR成立

懸案だった今年の政府一部閉鎖は、中間選挙前は何とか回避できることになった。議会は10月1日の新会計年度を前にした9月28日、いくつかの歳出法と暫定的なCR(つなぎ予算)を一括で可決し、同日にトランプ大統領が署名した。

 

今年は特にミニバス(minibusはomnibusよりも小分け感が強い)の手法が用いられた。かつて歳出法は12本に分けて成立させるのが普通だったが、近年は歳出法審議が会計年度の期限に間に合わないケースが頻発し、歳出法案をひとまとめにすること(consolidated appropriations)が多くなっていた。それでも、今年ほど多くのミニバスが準備されたのは初めてのことだ。

 

9月21日には、エネルギー省・水資源開発、そして連邦議会、さらに軍事建設・退役軍人省の歳出法案がミニバスとして成立した(H.R.5895)[2]。さらに、国防総省および労働省・厚生省・教育省の歳出法案の2つの歳出法の合体版(H.R.6157)[3]というミニバスも成立した。したがって、12本のうち5本の歳出法案がミニバス方式で成立したことになる。

 

結果として、新会計年度前に成立させることのできなかった歳出法は、

  1. 国土省・環境保護庁、
  2. 財務省・ホワイトハウス・総務関係、
  3. 農務省・農村開発・食品薬品管理局、
  4. 運輸省・住宅都市開発省、
  5. 商務省・司法省・裁判所、
  6. 国務省・対外援助、
  7. 国土安全保障省 

となった。実のところ1.~4.についても、別のミニバス方式(H.R.6147)で審議が進んでいたが、両院協議会での妥協が図れず、会計年度期限に間に合わず不成立となった。そこで残ったものを全て、暫定的なCR(つなぎ予算)にまとめ、12月7日までの期限付きにして、2つ目のミニバス(H.R.6157)に付帯させ、9月28日に議会を通過させたのである。ミニバス方式でいろいろな歳出を抱合せたことにより、トランプ大統領の拒否権を封じることにもつながったようだ。こうして中間選挙前の政府一部閉鎖は回避でき、それを目指した共和党議員たちの必死の努力は実った。

 

ただしCRは、中間選挙後のレイムダックセッションに仕事を積み残したことになる。選挙結果によっては、共和党が残った来年度歳出法を成立させたくても年内に民主党の協力を得られない場合も想定できる。だからといって、新議員を迎えて新たな会期が始まる来年1月を待ってしまえば、なおさら法案成立が難しくなる。本当の政府閉鎖の危機は、中間選挙を経た12月7日にやってきそうである。

 

トランプ大統領が9月28日に出した声明が指摘するように、国防費の7,160億ドル(約81兆円)確保は共和党議会の今年の大きな成果だった。しかし議会民主党と(特に上院で)妥協が必要な共和党は、大統領の選挙公約だったメキシコとの間の壁建設費用を、国土安全保障省の予算に十分盛り込めなかった。そのため、もし大統領が歳出法に拒否権を発動したり、あるいは議会の合意形成がCR期限切れに間に合わなかったりした場合は、政府一部閉鎖になる。 

選挙直前減税法案と選挙後の株価暴落説

共和党らしい政策といえば、減税や規制緩和(そして本来は財政規律)である。中間選挙を目前に控えた共和党が支配する下院では、会計年度末の9月28日、大型税制改革のダメ押しともいわれる個人減税の恒久化を審議して、可決させた。

 

実は2018年から施行された個人減税は、2025年までの時限措置になっていたのだ。そこで大型減税の第2弾として共和党がアピールしたのが、減税期限の撤廃および更なる経済刺激効果だった。ただし2028年までの減税規模は6,000億ドルに上ることになり、財政規律に不安は残る。いずれにしろ上院では、成立不可能なものとされていた。そもそもこの法案は(財政調整プロセスに含まれない)通常法案であるため、上院では民主党によるフィリバスターが行われる可能性があるし、共和党内に財政規律を重視する議員が存在する。したがってこうした下院による駆け込み立法の動きは、中間選挙目当てのアピールということになる。中間選挙で苦戦が予測されている下院共和党として、このようなパフォーマンスを行ったのである。

 

また議会では、中間選挙前にブレット・カバノー最高裁判事の承認プロセスが大いに紛糾した。共和党支持者にしてみれば、10代の頃の性暴力疑惑を持ち出してまで保守的な最高裁判事就任を阻止しようとする民主党に対し、有権者として自らが共和党を支持する本来の意義を強烈に認識させられる機会となった。一方の民主党支持者たちは、保守化してしまう最高裁判所の行く末とトランプ大統領の存在に危機感を覚えることとなった。

 

こうしてカバノー最高裁判事の一件は、中間選挙へのインパクトとしては、共和党色の強い選挙区や州では共和党候補が支持率アップを確実にし、どちらかというと民主党色の強い地域では民主党候補が支持率をアップさせることになったようである[4]。FiveThirtyEight[5]によれば、10月6日のカバノー最高裁判事就任後の10月14日時点で、上院民主党が過半数の議席を得る確率を(一週間前の約22%から)約20%に引き下げた。そして反対に下院のほうは、民主党が多数を獲得する確率を(一週間前の約74%から)約80%に引き上げた。

 

株価と中間選挙結果をリンクさせる話題も出始めている。下院は民主党勝利でも株価は織り込み済みとされるが、もしも民主党が上院を奪還すれば株が大暴落するとして、支援者たちの引き締めを狙っている。株価は既にピークだとの認識も浮上するなか、下落理由は選挙には限られないものの、もし民主党が議会を牛耳れば立法府がリベラル色を強め、規制緩和も歳出項目も逆転が始まって、企業や産業は大きな痛手を被ると指摘される。

 

民主党は確かに基本的には大きな政府を志向し、自由貿易にも非常に消極的だ。社会保障制度についてもリベラルである。休会直前の上院では10月10日、民主党が中心となって起草した健康保険に関する法案[6]を採決し、50対50で否決した。今年選挙に直面している法案提出者のタミー・バルドウィン上院議員(ウィスコンシン州、民主党)を民主党上院議員たちが全員で支えた格好だ[7]。他にも民主党議員の間では、メディケア・フォー・オールといういわゆる国民皆健康保険制度のようなものも提唱されており、最初の10年間だけで32.6兆ドルの歳出増になると指摘される。共和党多数の上院が志向する政策とは大きく異なっていくことは確かなようだ。 

中間選挙のゆくえ

中間選挙の予測ビジネスには、様々なものがある。そこで今回は、筆者の元同僚の共和党候補にだけ注目した計算方法を紹介してみよう。もちろん一般の調査会社による世論調査を踏まえての分析になる。特に下院の勢力が逆転する可能性が高いとされるため、下院共和党候補の勝敗を中心にしている。

 

選挙区ごとに出された世論調査の結果に鑑み、まず共和党の50候補を弱い順に並べていく。現在共和党235議席対民主党193議席だが、空席の前任者所属政党を加えれば240対195となるので[8]、民主党があと23議席増やせば218議席の過半数に達する。まず、共和党候補のうち特に対立候補に溝を空けられている10人を抽出し、これらの選挙区では共和党候補が落選とみなす。次に、共和党候補が溝を空けられている順で11位から20位の選挙区について並べ、これらの選挙区では50%から75%の確率で共和党が負けると想定する。21位から30位に位置する候補は、40%の確率で落選として計算し、31位から40位および41位から50位の選挙区では共和党候補が勝るかも知れないが接戦選挙区だと考える。

 

この方式によると、共和党にとって落選確実なのは、ニュージャージー州第2選挙区、ミネソタ州第3選挙区、アイオワ州第1選挙区などだ。そして最も注目すべき選挙区は、イリノイ州第12選挙区、カンザス州第2選挙区、ケンタッキー州第6選挙区、ニューヨーク州第19選挙区と第22選挙区、テキサス州第7選挙区、カリフォルニア州第25選挙区、フロリダ州第26選挙区、テキサス州第23選挙区、ユタ州第4選挙区などとなる。

 

共和党候補だけを見て敗北の確率を計算してみると、共和党候補が22選挙区で負ける計算になる模様だ。もしノースカロライナ州第2選挙区で共和党候補が負けるとなると、共和党はその時点で23候補を失うこととなり、下院は民主党に取られることになるとされる。一方で前出のFiveThirtyEightなどは、接戦州と見られるところで共和党敗北の選挙区をより多く算出している。

 

選挙の予測には、さまざまな手法があるので確定は難しい上、情勢も変化する。そんな中で、敢えて共和党候補を中心に選挙区ごとに丁寧に見てみると、下院は民主党が優勢とされているものの、両党候補が接戦を演じている選挙区も意外に多いことに気付かされるのである。

 

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 「予算過程から見るアメリカ政治 ーCR編ー


[1] トランプ大統領が53歳のブレット・カバノー氏を指名する人事案では、10月6日に上院で承認の採決が行われ、賛成50、反対48の賛成多数で、カバノー氏は最高裁判事に就任した。

[2] Energy and Water, Legislative Branch, and Military Construction and Veterans Affairs Appropriations Act, 2019.https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/5895)

[3] Department of Defense and Labor, Health and Human Services, and Education Appropriations Act, 2019 and Continuing Appropriations Act, 2019.(https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/6157?q=%7B%22search%22%3A%5B%22H.R.6157%22%5D%7D&r=1)

[4]  FiveThirtyEight. OCT. 14, 2018. (https://fivethirtyeight.com/features/why-the-house-and-senate-are-moving-in-opposite-directions/)

[5]ネイト・シルバー氏が独自の統計解析手法により、2008年の大統領選挙で全米50州のうち49州の勝敗を的中させたことで有名。2012年の大統領選挙では全ての州でその勝敗を的中させたが、2016年大統領選挙では大きく予想が外れた。

[6] S.J.Res.63 - A joint resolution providing for congressional disapproval under chapter 8 of title 5, United States Code, of the rule submitted by the Secretary of the Treasury, Secretary of Labor, and Secretary of Health and Human Services relating to "Short-Term, Limited Duration Insurance".  Short-term, Limited-duration (STLD) insuranceと呼ばれる方式によって既存の病歴で不利になるようなトランプ政権の施策を封じようとするもの。(https://www.congress.gov/bill/115th-congress/senate-joint-resolution/63)

[7] 共和党からの唯一の造反は、メイン州のスーザン・コリンズ氏。

[8] 米下院ホームページ(https://pressgallery.house.gov/member-data/party-breakdown)