タイプ
論考
日付
2018/6/5

次が見えない民主党の闇

上智大学総合グローバル学部教授

前嶋和弘

 

 予測不能な発言を続けることで就任以来、アメリカ国内でも世界的にも大きな注目を集め続けているトランプ大統領に比べ、民主党側の影がすっかりかすんでいる。中間選挙の分も下院を中心に悪くないはずだが、政治的分極化もあって、民主党の反トランプの動きが構造的に目立たなくなっている。

1.飽きられる民主党の指導者たち

 民主党のリーダーシップ不足は深刻だ。下院のトップであるペロシ院内総務は78歳。1987年に下院議員となり、すでに31年目である。見た目もかなり疲れている印象があるが、今年の中間選挙でも再選を目指す。もし、民主党が下院で多数派を奪還した場合、ペロシが再び下院議長となる可能性もかなりある。ペロシのリーダーシップに対してかなりの疑問を呈したリベラル派の雑誌『アトランテック』の今年初めの特集はワシントンの政策関係者の間で大きな話題となっている[1]。実際、超リベラルで既存のエスタブリッシュメントとの関係が深いという点で共和党側からは、絶好の攻撃対象となっている。

 

 上院をみても、院内総務に昨年就任したシューマー氏に対する求心力不足を嘆く声も少なくない。シューマー氏もすでに67歳。出身州ニューヨークで影響力を持つ金融機関との緊密な関係もあり、民主党支持者の一部には強い反発もある。

 

 2020年の大統領候補に挙がってくる名前には、民主党のホープとされるカストロ兄弟(ホアキン=下院議員、フリアン=前住宅都市開発長官)のように40歳代もいるものの、パトリック前マサチューセッツ州知事やマコーリフ前バージニア州知事らは60歳前後、ウォーレン上院議員は68歳、サンダース上院議員は76歳、バイデン前副大統領は75歳。もちろんこれからさらに有望な若手も台頭するかもしれないが、少なくとも現時点で全米に名が知られているのは、高齢な政治家ばかりだ。

 

 共和党のトランプ大統領は71歳とビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ両元大統領と同じ年だが、破天荒な言動もあり、「若々しさ」では群を抜いている。

 

 民主党政権に近いワシントンの友人は、「全くしらけている。一昔前の飽きられた政治家がそろっている」と指摘する。

2.追い風(?)の中間選挙

 連邦議会は現在、上院では5月末現在、共和党51、民主党49(統一会派の無党派2を含む)であり、極めて僅差である。ただ、中間選挙の改選35のうち、26が民主党(統一会派の無党派2を含む)、共和党が9とここでは民主党が不利だ。

 

 ただ、11月の中間選挙に向けては、民主党には下院では追い風であると言える。下院は共和党235対民主党193(7欠員)であり、42議席差だが、下院で引退・上院や州知事選に転出する共和党議員が相次いでいる。その数は5月末現在、共和党で37人となり、民主党の17人に比べると倍以上であるほか、例年は平均が各党20人以下であるため、共和党側の引退が目立っている。辞める議員をみると穏健派の共和党議員や重要な委員会の委員長が辞めることを決めている。なかでも下院の要であるライアン議長が引退を決めたのは衝撃的だった。

 

 下院では再選率が9割を超えるため、共和党が42議席をリードする現状はかなり有利なはずだったが、引退議員の急増で状況は一気にわからなくなっている。2大政党の争いであるため、42議席差というのは、民主党が21議席をひっくり返せば多数派奪還が可能だ。セクハラに対する「Me too運動」も後押しをするかもしれない。

 

 9.11(ナインイレブン)直後の2002年中間選挙では、ブッシュ大統領の共和党は微増だったといった例外はあるが、基本的には1期目の大統領の中間選挙では自分の政党は議席を失うのが「方程式」である。オバマ前大統領の1期目の2010年中間選挙では、少数派党だった共和党が63議席を奪い、多数派に返り咲いた。また、クリントン大統領の1期目の1994年中間選挙では民主党は54議席を失った。いずれも、いわゆる風が吹いた「ウェーブ選挙」の典型例となっている。

 

 さらに、ロシア疑惑がまだ全く終わらないトランプ氏に対して、民主党側は「トランプ弾劾」を大きな争点として選挙を戦う戦略も可能である。民主党が下院で多数派を取った場合、トランプ氏の弾劾を上院に上訴できる。上院では3分の2が同意しないといけないため、実際の弾劾までは至らないとみられるが、それでも国内政治は秋以降大きく停滞する可能性がある。いずれにしろ、トランプ氏は大きな曲がり角にぶち当たるため、支持者向けだけを意識していた政権運営が変わっていく可能性がある。

3.分極化の中で

 ただ、その中間選挙では、トランプ叩きで乗りきっていくのか、民主党としてはまだ動きが固まっていないのが現状だ。そもそもペロシ院内総務ら指導部に対する求心力が足りないため、選挙戦略もまだ明確でない。

 

 各種世論調査を見れば、安定的だが、就任1年4カ月の大統領としてはかつてない40%弱の低空飛行の支持率を続けているトランプ大統領に対し、民主党側の巻き返しが全く目立っていない。

 

 トランプ大統領を見ると、全く別の世界が存在する。パリ協定の離脱、ロシア疑惑や「便所のような国」発言などで批判が殺到しているため、民主党支持者にとってトランプ大統領は「とんでもない人物」である。民主党支持者のトランプ氏の支持率は10%に満たない。逆に共和党支持者にとってみれば「既存の政治をぶっ壊してきたスーパーヒーロー」であり、トランプ氏の支持率は8割を超える。両者の差は70ポイントに至る。

 

 同様に分極化が進んでいたオバマ前大統領1年目も景気回復時に支持率が全く呼応しなかった。ただ、その時は民主党支持者からは8割を超える支持、共和党支持者からは10台半ばの支持だった。両者の差は60ポイント台だったことを考えると、トランプ政権のこの1年4カ月は、保守とリベラルの分極化がさらに大きく進んだといえる。

 

 2018年度予算が決まらず、ちょうど就任1年目の1月20日に政府機能が部分停止することになったことについても、党派性が強く表れている。共和党側は「国境の壁」を主張し、民主党は「非合法移民の子供たちの合法滞在制度(DACA)が廃止されることについての対策」を主張し、意見が全くかみ合わなかった。

 

 この分極化の中で、民主党がもしトランプ下ろしを企てれば、「やりすぎ」「フェイクニュースに踊らされる」というわかりやすいレッテルを共和党支持者は貼るだろう。規制緩和や税制改革、インフラ投資といった経済関連の政策に対する期待感が非常に大きく、期待感が先行するかたちでオバマ政権から引き続いて実際に経済も成長し続けている。これが「トランポノミスク」の核心だが、民主党としてはトランプ下ろしを進めた場合、「景気を悪くした党」というイメージダウンも必至だ。

 

 分極化の中、民主党がこれからどう進むのか。その先には深い闇があるのかもしれない。

 

 

[1] https://www.theatlantic.com/politics/archive/2018/02/speaker-pelosi/553334/