タイプ
論考
日付
2018/10/10

民主・共和両党から提起される家族休業制度の改革論

 

                      写真提供 Getty Images

 

杏林大学総合政策学部専任講師

松井孝太

 

1. 問題の多いアメリカの家族休業制度

アメリカ中間選挙において一般的に重要と考えられている要素には、選挙前の経済状況、現職大統領政党の議席数減少[1]、現職議員の再選率の高さなどがある。なかでも今年11月の中間選挙で特に注目されるのは、トランプ政権の二年間に対する有権者の審判であろう。ギャラップ社の世論調査(9月上旬)では、「アメリカが直面する最も重要な問題」として、最多の29%が「政府に対する不満(Dissatisfaction with government/Poor leadership)」を挙げている[2]。また8月の論考で触れた最高裁人事も、その後カバノー氏の学生時代の性的暴行疑惑が浮上した結果、中間選挙で共和党に打撃を与えかねない注目争点となってしまった。それに対して、経済や社会保障などの政策をめぐる議論は、貿易交渉等を除いて相対的に陰に隠れてしまっているような印象も受ける。

 

とはいえ、個別的な政策争点が、個々の選挙戦において、あるいは2年後の大統領選挙に向けて重要性を失うわけではない。そこで本論考では、2018年中間選挙や2020年大統領選挙との関連で注目される政策争点のひとつとして、最近共和党側からも積極的な政策提言が行われている家族休業政策(family leave)[3]について取り上げたい。

 

ご存じの読者も多いと思われるが、日本の労働基準法では、産前6週間と産後8週間の休業を取得する権利を女性労働者に与えている。その間の賃金支払いは使用者の義務ではないが、休業を取得した労働者には健康保険から出産手当金が支給される(賃金の2/3相当額)。それに加え、子どもが1歳になるまでは、男性労働者も含めて育児休業を取得する権利が育児・介護休業法で認められている。休業中の所得保障としては、雇用保険から育児休業給付金が支給される(最初半年は賃金の67%相当額、その後は賃金の50%相当額)。さらに父母ともに育休を取得する場合は1歳2か月まで、保育所に空きがなく子どもを預けられない場合には最長で2歳になるまで、所得保障付き休業を取得することができる。

 

それに対してアメリカは、所得保障のある家族休業制度が存在しない極めて例外的な先進国である。州レベルでは、カリフォルニア、ニュージャージー、ロードアイランド、ニューヨーク、ワシントン(2020年~)の5州とワシントンD.C.(2020年~)が所得保障付き家族休業制度を導入している。しかし全国的には、1993年の家族・医療休業法(Family and Medical Leave Act、以下FMLA)によって、産後1年以内に最大12週間の休業付与が義務付けられているに過ぎない。FMLAでは休業中の賃金が保障されていないため、労働者は育児のための休業取得と所得喪失という難しい選択を迫られることになる。さらにその適用対象は、50人以上の被用者を有する企業に限定される。2015年の労働省の調査によれば、勤め先から有給の家族休業を取得できるのは民間部門労働者の12%に過ぎない[4]

 

アメリカは若年移民の流入に加えて、先進国の中では比較的高い出生率を維持していたため、日本ほど高齢化問題が深刻視されてこなかった。しかしそのような状況も変わりつつある。2017年合計特殊出生率(暫定)は、1978年以降最低となる1.76にまで低下した[5]。出生率低下の要因としては、キャリア形成のために出産を遅らせる女性の増加などが指摘されている[6]。出生率の低下は、持続可能性が危惧されるソーシャル・セキュリティ(主として公的老齢年金を行うプログラム)の財政悪化をさらに加速させる恐れがある。

 

そこでアメリカにおいても、出産育児とキャリアの両立を支える所得保障付き家族休業制度(paid family leave)の導入を求める声が強まっている。最近では、従来から家族休業制度の見直しに積極的であった民主党だけでなく、共和党からも今後の選挙を見据えた具体的な政策案が提示され始めている。 

2. 民主党側の提案

オバマ前大統領をはじめ、民主党関係者の多くは、以前から所得保障付き家族休業の導入を支持してきた。その中でも、家族休業制度の充実を政策の目玉とする有力議員の一人が、2020年大統領選挙への出馬が注目されるカーステン・ギリブランド上院議員(ニューヨーク州)である。ギリブランド議員は、ほぼ毎年、所得保障付き家族休業制度の法案を議会に提出している。昨年7月にも、ギリブランド議員とローザ・デラウロ下院議員を提案者とする「家族・医療休業保険法(Family and Medical Insurance Leave Act; FAMILY Act)」が上下両院に提出された。

 

ギリブランド法案の構想では、父母となった労働者に対して、産後1年間に最大60日間(休日を含まないため実際には約12週間)、家族・医療休業保険(FMLI)から賃金の66%相当額が支給される。FMLIの給付は、新たに創設される連邦家族・医療休業保険信託基金から支払われる。既存のソーシャル・セキュリティ信託基金や社会保障局予算が用いられることはない。新たな信託基金の給付財源は、内国歳入法(IRC)を改正し、0.2%ずつの給与税を労働者と使用者に課すことで調達される。労働者の雇用形態や企業規模は問われず、幅広い労働者層に給付が行われる[7]

 

2017年のギリブランド法案には、他に34人の上院議員が共同提案者に名を連ねている。しかしその中に、共和党議員は一人も入っていない。現時点では、上下院ともに共和党多数となっているため、法案実現の見通しは立ちそうにない。仮に中間選挙で民主党が大勝し、下院で(より可能性は低いが上院でも)多数党の地位を獲得したとしても、共和党政権との分割政府となる。下記のブッシュ(父)政権時と同様に、トランプ政権が拒否権を行使する可能性は否定できない。特に、給付財源として増税を行うという部分について、共和党の支持を得ることは容易ではないだろう。 

3. 共和党側の提案

民主党と対照的に、共和党は家族休業制度の見直しに長年消極的であった。というのも、労働条件規制を好まない経営者団体や、性別分業的な「伝統的」家族観を重視する宗教保守派が共和党の重要な支持基盤となってきたからである。民主党クリントン政権下で成立した1993年FMLAと同様の法案は、90年と92年にも連邦議会を通過している。いずれも、共和党ブッシュ(父)政権が拒否権を行使したため成立に至らなかった。

 

しかし、アメリカの家族休業制度の貧弱さは、共和党側でも問題視されつつある。トランプ政権では、大統領の娘イバンカ氏を中心に、家族休業政策を含む子育て支援策の検討が進められてきた。トランプ大統領自身も、昨年2月の両院議会演説と今年1月の一般教書演説において、所得保障付き家族休業制度の導入に対する支持を表明している。

 

宗教保守派の姿勢にも変化が見られる。今年7月には、所得保障付き家族休業制度の導入を求めるレポートが、キリスト教系シンクタンクの公共正義センター(Center for Public Justice)から発表された[8]。家族生活と家族の一体性を守るためには、所得保障のある休業を取得できることが重要だというのがその理由である。

 

現在、共和党側で最も注目される政策案は、マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)やジョニ・アーンスト上院議員(アイオワ州)らが提案者となっている「新両親経済保障法(Economic Security for New Parents Act)」である。

 

ルビオ法案の構想では、子どもを出産または養子として受け入れた両親に対して、育児休業の間、ソーシャル・セキュリティから給付を受けるという選択肢が与えられる。所得代替率は賃金水準や休業取得期間によって変わるが、中位所得世帯が2か月間休業を取得した場合、賃金の約70%相当額を受給できる[9]。そのかわり、老齢年金給付の支給開始が3~6か月間繰り下げられる[10]。すなわち、将来の自分の年金給付を先取りするかたちで、産休・育休中の所得保障を行うという案である。このアイディアは、保守系団体として知られる独立女性フォーラム(Independent Women’s Forum)の提案がその基礎になっている[11]

 

ルビオ議員は法案の特徴を次のように説明する。「私はソーシャル・セキュリティを所得保障付き家族休業の財源にしたくない。私は、働いているアメリカの両親たちに、『彼ら』が『彼らの』税金で負担してきた『彼らの』ソーシャル・セキュリティ給付の一部を早期に引き出すことで、『彼らの』休業の資金源とする『選択肢』を与えたいのである」[12]

 

おそらく日本であれば、ギリブランド法案のように、既存の社会保険料の上乗せないしは増税という形で、新たな給付の創設が模索されるであろう。実現の目途は立たなかったが、保育・幼児教育無償化の財源として「こども保険」というアイディアが昨年提起されたことも記憶に新しい。

 

しかし現在のアメリカにおいて、新たな財源を必要とする社会保障改革は、政治的に相当の困難を伴う。共和党議員の多くは、増税を行わないことを公約に掲げており、社会保障プログラムの拡大には強い抵抗を示す[13]。また、医療保険や年金などを含む社会保障全体について、共和党は「個人の責任」を重視する傾向がきわめて強い。過去半世紀に共和党が推進してきた社会保障改革は、確定拠出型年金の拡大とソーシャル・セキュリティの民営化、医療貯蓄勘定(HSA)の拡大など、未達成のものも含めて、いずれもリスクや責任の「個人化」(privatization)を志向するものである[14]

 

そのような観点から見ると、ルビオ法案の仕組みは、「個人の選択と責任によるソーシャル・セキュリティの管理」という共和党的な社会保障観に合致するものである。また、新たな財政負担を生み出すことなく、子育て家庭を支援する姿勢もアピールすることができる。共和党にとって悪くはないアイディアと言えよう。

 

リベラル派寄りの専門家からも、所得保障付き家族休業制度を超党派的な議論の俎上に載せたという点で、ルビオ法案を評価する向きもある。その一方で、将来の年金給付を先取りしてしまい、しかも繰り下げ期間が休業取得期間を大幅に上回るという仕組みに対しては、医療・介護リスクが高く、不確実性の多い老後の所得保障をさらに不安定化させるという懸念の声が上がっている[15]。 

4. 家族休業制度は選挙争点になりうるか?

家族休業制度は、少なくとも現在のところ、中間選挙の趨勢に重大な影響を与えるような争点とは言えない。しかし、子育てコストの増加や中間層の所得喪失リスクの高まりとともに、休業時の所得保障問題が今後も重要な政策課題であり続けることは間違いない。また、本プロジェクトの中林論考前嶋論考が指摘するように、今年の中間選挙の注目点のひとつは、女性候補者の多さである。特に女性候補者の多い民主党側では、ギリブランド議員のように、育児支援策を重点的に公約に掲げる候補者・議員が今後増えていくかもしれない。

 

また共和党にとっても、有権者の投票行動に見られるジェンダー・ギャップは課題である。2016年大統領選挙では、共和党は男性有権者票の過半数を得たが(52対41)、女性有権者票では民主党に大きく水をあけられている(41対54)[16]。それ以外の選挙でも、女性票は民主党に偏る傾向が見られる。女性票獲得のためには、共和党側にも積極的な政策案の提示が求められよう。ルビオ法案の行く末を含めて、今後の動きに注目したい。

 

 

 


[1] この現象は“midterm slump”と呼ばれ、その要因に関しては様々な仮説が存在する。代表的なものとして、大統領選挙の勝者(現職大統領)の人気にあやかって実力以上に当選した議員が苦戦すること(コートテイル効果消滅仮説)、大統領選挙がある年の議会選挙に比べて中間選挙では投票率が低いために有権者の構成が変わること(投票率昇降仮説)、現職大統領への批判的な業績評価が中間選挙に向けられること(レファレンダム仮説)、有権者選好から乖離した政策を大統領政党が過度に推進しないように有権者が政府の党派構成を均衡させようとすること(バランシング仮説)、などがある。

[2] Frank Newport. “Record-Low 12% Cite Economic Issues as Top U.S. Problem.” Gallup. September 17, 2018.

[3] 本論考では主として産休・育休の側面に焦点を当てるが、家族休業(family leave)には、介護や療養等のための休業も含まれる。なおleaveの訳として「休暇」を当てることも一般的であるが、ここでは日本の制度との比較を念頭に「休業」という用語を用いる。

[4] “DOL Fact Sheet: Paid Family and Medical Leave.” United States Department of Labor. June 2015. (https://www.dol.gov/wb/paidleave/PDF/PaidLeave.pdf)

[5] NCHS, National Vital Statistics System. “Births: Provisional Data for 2017.” (https://www.cdc.gov/nchs/data/vsrr/report004.pdf)

[6] Sabrina Tavernise. “U.S. Fertility Rate Fell to a Record Low, for a Second Straight Year.” New York Times. May 16, 2018.

[7] https://www.congress.gov/bill/115th-congress/senate-bill/337

[8] Rachel Anderson and Katelyn Beaty. Time to Flourish: Protecting Families' Time for Work and Caregiving. The Center for Public Justice. July 2018.

[9] “Economic Security for New Parents Act (Senator Marco Rubio)” (https://www.rubio.senate.gov/public/_cache/files/c434ed78-d855-4c7e-8716-4707d06f16b9/0E8DD4331CC02644842606DF4343990B.economic-security-for-new-parents-act-rubio-updated.pdf)

[10] 2018年現在、アメリカの公的老齢年金は62歳から受給することができるが、満額を受け取るためには66歳から受給を開始する必要がある。満額支給年齢は現在67歳への引き上げ中である。

[11] Kristin A. Shapiro. “A Budget-Neutral Approach to Parental Leave.” Independent Women’s Forum. January 2018. (http://pdf.iwf.org/budget-neutral_approach_parental_leave_PF18.pdf)

[12] ルビオ議員のツイッター(https://twitter.com/marcorubio)2018年8月3日。原文は次の通り。“I don’t want to fund #PaidFamilyLeave with #SocialSecurity. I want working American parents to have the OPTION of funding THEIR paid leave by drawing early on a portion of THEIR social security benefits which THEY paid for with THEIR taxes.”

[13] 公約を破って増税を支持した共和党議員は、共和党内の予備選挙や一般選挙において、資金力を持つ反増税団体や保守系運動の激しい攻撃を受けることになる。久保文明「共和党保守派のメカニズム-経済成長クラブを手がかりとして」五十嵐武士・久保文明編『アメリカ現代政治の構図-イデオロギー対立とそのゆくえ』(東京大学出版会、2009年)

[14] Jacob S. Hacker. The Great Risk Shift: The New Economic Insecurity and the Decline of the American Dream. Revised and Expanded Edition. (Oxford University Press, 2008); Jacob S. Hacker and Ann O’Leary ed. Shared Responsibility, Shared Risk: Government, Markets, and Social Policy in the Twenty-First Century. (Oxford University Press, 2012).

[15] Jill Cornfield. “Families take a dim view of the high cost of Rubio's proposed leave plan.” CNBC. September 16, 2018. (https://www.cnbc.com/2018/09/14/parents-weigh-in-on-marco-rubios-paid-family-leave.html?ref=hvper.com&utm_source=hvper.com&utm_medium=website); Elizabeth Bauer. “Update On The Rubio Family Leave Bill: Reading The Text.” Forbes. August 27, 2018. (https://www.forbes.com/sites/ebauer/2018/08/27/update-on-the-rubio-family-leave-bill-reading-the-text/#5bb1fb7443dd)

[16] Roper Center for Public Opinion Research. “How Group Voted 2016.” (https://ropercenter.cornell.edu/polls/us-elections/how-groups-voted/groups-voted-2016/)