タイプ
論考
日付
2018/7/26

中間選挙と女性候補

 

早稲田大学社会科学総合学術院教授

中林美恵子

 

今年11月6日の中間選挙では、トランプ大統領を支えるアメリカ連邦議会の勢力バランスの変化に注目が集まっている。その他にもう一つ、今年になって急増した女性候補者たちの健闘ぶりが目を引きつつある。トランプ大統領の女性蔑視とも取れる発言や、セクハラ問題で盛り上がった#MeToo運動をきっかけに、女性たちが政治参加への関心を高めていることが背景にあるとされる。

 

列国議会同盟(IPU)のデータによれば、米国連邦議会における女性議員の下院議員の割合(2018年6月1日時点)は19.2%で、世界全体では102位、G7中では日本に次いでワースト2位である。今年の中間選挙を通し、米国のランキングに変化が生じるかどうかも注目される。

中間選挙の特性

今年の中間選挙においては、435の下院全議席(共和党235議席、民主党193議席、空席7議席)および100人の上院議員のうち補欠選挙2議席を含む35議席(共和党9議席、民主党26議席)が改選予定である(上下院共に5月21日時点)。トランプ大統領が他の大統領よりも幸運だと称されるのは、少なくとも上院では民主党議員の改選議席のほうが圧倒的に多いという点が根拠である。また基本的にアメリカの議員は再選率が高く、下院も通常は80%~90%以上が再選される[1]

 

それでも、大統領の政党が中間選挙で議席を増やしたケースは過去には少ない。たとえば下院では1906年まで過去を遡っても3回しか増えたケースがない。ほとんどの大統領は多くの議席を失っているのである。これは大統領への批判票が大統領側の政党に入る傾向強いからだと一般に指摘されている。また近年では、ほとんどの大統領が最初の2年は自分の政党と同じ議会の上院と下院で多数を獲得しても、中間選挙後は(子ブッシュ大統領を除いて)分割政府(大統領と議会の多数派が異なること)に直面する場合が多い。トランプ大統領にとっても、最初の中間選挙は決して楽な選挙でないことが明らかだ。

 

また、アメリカ連邦議会の選挙には予備選があり、これはすでに始まっている。皮切りは3月6日のテキサス州、そして最終は9月18日のマサチューセッツ州となる。

女性立候補の現状

今年の中間選挙の特徴として、女性候補の急増が挙げられる。11月の中間選挙を目指して出馬を表明している女性の数も、過去最高水準となった。特に民主党から立候補する女性が多い。今年の予備選挙では、民主党だけで387人が名乗りを上げた。共和党も含めると、530人という記録的な女性候補が立候補の届け出をした。アメリカで過去に行われた3回の下院選挙を振り返っても、女性候補者の数は約150~180人で推移していたので、驚異的な増加といえよう。今後、予備選が進み敗退者が増えると候補者の数は徐々に減っていく過程をたどるが、今年の中間選挙が終了した時点で過去最高の女性当選者数を出す可能性は濃厚である(表1参照)。

 

表1 予備選挙における女性候補者の数(2018年7月24日時点)

出典:Center for American Women and Politicsのデータ をもとに中林美恵子作成(2018年7月25日)

 

また、今年の予備選挙に立候補する女性の数には、民主党と共和党の政党差が大きくみられる。これは民主党のリベラルな政策が、女性候補に立候補し易い環境となっている可能性がある。例えば、人工妊娠中絶を女性の選択の権利として支持するプロチョイスの民主党に比べ、共和党はプロライフ(人工妊娠中絶に反対する立場)を掲げており、女性候補者支援団体にもプロチョイス派が多い。実際に、女性議員数を民主党と共和党で比較すると、近年は特に政党差が広がる傾向にある(図1参照)。 

 

図1 米連邦議会女性議員数:民主党と共和党(1917~2018年)

 出典:“History of Women in the U.S. Congress”, Center for American Women and Politicsをもとに中林美恵子作成(2018年7月23日)

(注)下院の議席数には、コロンビア特別区、アメリカ領サモア、プエルト・リコ、アメリカ領ヴァージン諸島及びグアムより選出される、投票権のない代表(Delegate)を含まない。 

女性候補の急増と選挙への影響

今年、予備選挙の先陣を切った南部テキサス州では、約50人の女性が立候補した。テキサスは、もともと共和党支持が強い州だが、下院第23選挙区では、女性として元空軍将校ジーナ・ジョーンズ候補が民主党側の予備選に名乗りを上げた。選挙そのものが初めてだということもあって、今年の中間選挙らしい一例にされている。こうした新人女性を奮い立たせたのが、トランプ政権を嫌悪する層だとされる。

 

今回のテキサス州予備選では、前回2014年の中間選挙の予備選と比べ、民主党支持者の投票者数が87%も増加した[2]。女性と非白人が積極的に投票所に足を運んだことが理由だ。また民主党は1992年以降初めて、連邦下院議員を選ぶテキサス州内36の選挙区すべてで候補者を擁立しており、政党が女性票を期待している様子が見て取れる。

 

過去にも、米国の政治で「女性の年」と呼ばれた1992年に、突如として過去の2倍ほどの250人に近い女性が連邦議会予備選に立候補したことがあった。このときは、前年の1991年に、元同僚女性から性的嫌がらせで訴えられたクラレンス・トーマス最高裁判事候補を上院が承認し、これに抗議の声を上げた女性が数多く政界進出したという背景があった。選挙結果においても下院で女性議員が28人から47人に急増し、上院でも2人から7人に増えた年である。 

#MeToo運動と女性の政治参加

1992年「女性の年」を彷彿とさせる今年の特徴は、2017年に始まったセクハラに抗議する#MeToo運動だ。トランプ大統領も、自ら女性とのスキャンダルが多く、女性蔑視かつ攻撃的な言動が目に余るとされ、女性有権者の反発を招いている側面がある。各種世論調査を見ても、トランプ大統領を支持するという女性は男性よりも少ないという数字が示されている。例えば米ギャラップ社の調査では、2017年の1年間を通し、トランプ氏の仕事ぶりを評価するとした人は男性では45%だったが、女性では33%と12ポイントも低かった。

 

また2017年には、TIME誌の「今年の人」の表紙を「Silence Breakers(沈黙を破った人たち)」が飾った。過去の性的暴行を告発する女性たちを指している。表2は、そのような女性たちの運動を受け疑惑が浮上した著名な男性たちだ。他にもケンタッキー州議会の議員が、過去に10代の女性と性的関係を持った疑いを否定した声明を発表した後に自殺するという事件もあった。

  

セクハラ疑惑が浮上した主な著名人

 

 

 

 

 

 

 

出典:USA Today 2017年11月22日、2018年2月3日、およびNew York Times 2017年10月5日、6月21日を元に筆者作成

中林美恵子著『トランプ大統領はどんな人?』 (幻冬舎、2018年) 

 

女性の政治参加に関する研究を専門とするCenter for American Women and Politicsによれば、今年は特に、共和党現職の議席に挑む民主党女性候補のケースが目立つとされる。議員の再選率が高いアメリカでは通常、現職に挑む候補者の勝率は10%程度である。それでも今年は現職に挑む女性候補が増えた。そして共和党よりも民主党から立候補する女性が圧倒的に多い。民主党は今年とくに、女性候補を数多く擁立することで有権者にアピールする戦略である。

 

昨年11月の地方選挙でも、その兆候は見られていた。バージニア州議会選挙が行われた際、女性候補者数および当選者数が過去最多を記録したのである。州レベルではあるが民主党候補が共和党の現職議員を破った15議席のうち、11議席が女性候補者によるものだった。一般的に、再選率の高い選挙で女性が勝つには、現職候補がいない選挙区を狙うほうが圧倒的に有利だが、この選挙では現職に挑戦した女性候補者の勝率は30%近くに達していた[3]。また昨年12月には、共和党の牙城だったアラバマ州で民主党候補が20年ぶりに当選した連邦議会上院補欠選挙があった。この時は黒人女性の多くが民主党候補に投票したと伝えられている。

 

中間選挙の予備選挙は、終盤の9月までまだ時間がある。トランプ大統領の共和党が議会両院で多数を維持するのか、それとも民主党が躍進するのか、未だわからない。民主党の思惑を鑑みれば、女性候補の勝敗は民主党の議席の伸びに影響しそうである。この選挙で、アメリカの女性議員数は大きく増加するのであろうか。女性議員数における政党差は、さらに広がってしまうことになるのであろうか。今年の中間選挙には、そんな注目点も存在している。

 

 

 

[1] OpenSecrets.org

[2] “Democrat Turnout Surges 87 percent in Texas Primary Since 2014.” Newsweek, March 7, 2018.

[3] CAWP Election Watch, Center for American Women and Politics.