タイプ
論考
日付
2018/7/4

保守系シンクタンクの現状

 

帝京大学法学部専任講師

宮田智之

 

長くアメリカ政治の少数派の地位に甘んじていた保守派は、1970年代以降、巻き返しを図る中で、自らの政治インフラの拡充を進め、その一環としてシンクタンクの整備に力を入れた。すなわち、「小さな政府」、「自由市場」、「強固な国防」、「伝統的価値」といった原則に基づく政策アイディアや人材を生み出す場として、シンクタンク強化に乗り出したのである。こうして強化された保守系シンクタンクは、保守主義運動の先導役として機能し、共和党政権を支えてきた。ヘリテージ財団、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)、フーヴァー研究所をはじめとする保守系シンクタンクが、歴代共和党政権に数多くの人材やアイディアを提供したことは周知の事実である。しかし、現在保守系シンクタンクは、これまでに経験したことのない状況に直面している。共和党政権でありながら、トランプ政権では保守系シンクタンク関係者が少ないのである。そこで、本稿では保守系シンクタンクの現状について考察してみたい。 

存在感の乏しい保守系シンクタンク

トランプ政権では全体的に保守系シンクタンク出身者が少ないが、特に外交安保の政府高官ポストでは、4月に国家安全保障問題担当大統領補佐官に任命されたジョン・ボルトン(AEI)の例を含めても、ごくわずかである。

 

現政権において保守系シンクタンク関係者が少ない理由の一つとしては、2016年大統領選の影響が挙げられる。大統領選の早い段階から、保守系シンクタンクなどに在籍する共和党系専門家の多くはトランプへの反対を表明し、なかでも外交安保の専門家は「トランプはアメリカを危険に晒す」とする反対書簡を二度にわたって発表した。こうした反逆行為をトランプやその周辺は許さず、政権人事において、反対書簡に署名した者や、書簡に署名していなくても選挙戦中に批判的な発言を行った者を、徹底的に排除することで対抗したのである。

 

ただし、現政権において保守系シンクタンク関係者が少ないのは、「ネバー・トランプ派」に対する怒りからだけではない。トランプ自身の性格も重要である。この点に関連して注目されるのは、ヘリテージ財団をめぐる状況である。

 

ヘリテージ財団は、主要な保守系シンクタンクの中で唯一2016年大統領選でトランプ寄りの立場を掲げ、ジム・デミント所長(当時)の号令の下2016年春先からトランプの事実上の応援団となった。トランプ陣営に連邦最高裁判所判事の人事案について助言を提供するとともに、同陣営の経済チームではヘリテージ財団のスティーブン・ムーアが活躍した。また、AEIやフーヴァー研究所所属の研究員が上記の反対書簡に署名したのに対し、ヘリテージ財団関係者の中で署名した者は一人もいなかった。さらに、選挙後は、エドウィン・フルナー、エドウィン・ミース、ケイ・コールズ・ジェームズ、ジェームズ・カラファノらヘリテージ財団の重鎮がトランプ陣営の政権移行チームに参加した。そして、政権発足以降もトランプ寄りの姿勢を堅持し、昨年の秋に同財団の年次会合においてトランプ大統領の演説を実現させるなど、現政権との密接な関係ぶりを繰り返しアピールしてきた。にもかかわらず、これまでのヘリテージ財団の貢献に対して、トランプ政権は十分に応えているとは言い難い。事実、政権幹部クラスでは、ヘリテージ財団関係者はイレーン・チャオ運輸長官やリサ・カーティス国家安全保障会議上級部長(南・中央アジア担当)ら10名にも満たないのである[1]

 

元々、トランプは政策コミュニティとの繋がりが薄い人物である。アメリカの大富豪を見ると、コーク兄弟やジョージ・ソロスに代表されるように、ワシントン政界への影響力を確保するための手段としてシンクタンクとの関係を重視し、シンクタンクに多額の寄付を行っている者が少なくない。最近では、ロバート・マーサーがそうした典型である。しかし、トランプについてはその実業家人生においてシンクタンクに多額の寄付を行ったという話を聞いたことがない。また、地元のニューヨークには、かつてルディ・ジュリアーニを支えたマンハッタン政策研究所という保守系シンクタンクが活動しているが、このシンクタンクに出入りしていたという話もない。要するに、トランプ自身が元々政策エリートへの関心がないことも現政権で保守系シンクタンク関係者が乏しい理由であろう。それ故に、政権発足当初「トランプ政権に極めて近いシンクタンク」と評されたヘリテージ財団関係者でさえも、現政権では決して多くないのである[2]

活気づく非主流派

このように、トランプ政権では保守系シンクタンクが冷遇されていると言っても過言ではない。しかし、例外もある。すなわち、トランプ側近との関係を通じて保守派内で非主流派の集団が活気づいており、たとえば、安全保障政策センター(CSP)やデイヴィッド・ホロウィッツ・フリーダム・センターといったシンクタンクが存在感を増大させている。

 

CSPは、レーガン政権で国防総省高官を務めたフランク・ギャフニーが1980年代末に設立したシンクタンクである。クリントン政権時代は、タカ派やネオコンの拠点の一つとしてミサイル防衛の推進などで大きな影響力を発揮したが、2001年同時多発テロ以降は、反イスラムの姿勢を掲げ、イスラムの脅威がアメリカ国内にしのび寄っていると主張するようになった。フリーダム・センターも1980年代末に設立され、デイヴィッド・ホロウィッツという人物が率いている。長年、「リベラル派による大学支配」を暴露することを活動の目的としていたが、同時多発テロ後は、CSPと同様、反イスラム色を前面に押し出すようになった。

 

いずれも小さいシンクタンクであり、主要な保守系シンクタンクの規模にははるかに及ばない。また、反イスラムの姿勢から、人権団体などは「イスラモフォビア」の中核であると警戒し、保守派の中でも極端な集団であるとして敬遠されてきた。しかし、そうした反イスラムの姿勢の故に、CSPやフリーダム・センターは2016年大統領選の前からトランプ陣営に対して影響力を及ぼしていた。

 

以上のシンクタンクの存在が初めて注目されたのは、2015年12月にトランプがイスラム教徒の完全入国禁止を訴えたときである。その際、トランプ陣営は「アメリカ国内のイスラム教徒の25%が、アメリカ国民への暴力をグローバルな聖戦の一環として正しいと考えている」とするCSPの資料を引用している[3]。以来、トランプの周辺とCSPなどとの関係が一部で取り沙汰されるようになった。

 

トランプの周辺を見ると、スティーブン・バノン前首席戦略官、ジェフ・セッションズ司法長官、スティーブン・ミラー大統領上級顧問、マイク・ポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官らが、CSPやフリーダム・センターなどと長年にわたって関係をもっていた。たとえば、ミラーは高校生の時からホロウィッツの助言を受けており、大学卒業後はホロウィッツの後押しもあって、議会でキャリアを積み、ミシェル・バックマンやセッションズの議員補佐官を歴任した。また、ポンペオやボルトンはCSPの活動に関わり、同センターのラジオ番組にもしばしば出演していた。後述のとおり、ボルトンはギャフニーの「復活」にも力を貸していた。さらに、5月下旬にボルトンを直接支える国家安全保障会議首席補佐官にフレデリック・フライツが任命されたが、フライツはブッシュ政権時代に国務省でボルトンの下で働いた後、CSPに移籍しこのシンクタンクの幹部を務めていた[4]

 

なお、ボルトンの政権入りに際して、ゲートストーン・インスティテュートというシンクタンクにも注目が集まった。ゲートストーン・インスティテュートは、ニーナ・ローゼンウォルドが2008年に創設し、CSPなどと同じく、反イスラム色の強いシンクタンクである。アメリカだけでなく、ヨーロッパにおけるイスラムの脅威を盛んに訴えており、ヨーロッパの極右政党とも関係が深いと言われている。ボルトンは、AEIに在籍する一方で、このようなシンクタンクの会長を2013年より務めていた[5]。 

保守主義運動の変質?

このように、非主流派が勢いづく中で、その動向は保守主流派にとっても無視できなくなってきている。そのことを象徴するのがギャフニーへの対応である。

 

反イスラムの主張から、保守派内部で、ギャフニーにはクリントン政権時代のようなかつての影響力はもはやないと見られていた。ギャフニーは、ムスリム同胞団がワシントン政界に浸透しているとの「陰謀論」まで展開し、著名な保守主義者であるグローバー・ノーキストを工作員と名指ししたことで、2011年に保守派の年次大会の保守政治行動会議(CPAC)を主催するアメリカ保守同盟から、同大会への参加禁止処分を受けた。また、同じ頃にはCSP設立以来、多額の資金を提供してきた保守派最大の助成財団であるブラッドレー財団が、資金提供を打ち切った[6]。明らかにギャフニーは過去の人となりつつあった。しかし、トランプ現象の追い風に乗って、ギャフニーの存在感が増してくると、2016年にアメリカ保守同盟はCPACヘの参加禁止処分を解く。この参加禁止処分の解除に向けては、ボルトンが積極的に動いたと言われている[7]

 

保守主流派が非主流派を無視できなくなっている例としては、セバスチャン・ゴルカのケースも指摘できる。ゴルカも、ギャフニーらと並んで、イスラモフォビアの中心人物の一人と見られているが、昨年夏に政権を離れた後、フォックス・ニュースのアナリストに就任するとともに、ヘリテージ財団とコンサルタント契約を結んでいる[8]

 

以上のように、これまで保守主義運動を牽引してきた保守主流派のシンクタンクがさほど目立たない一方で、以前であれば影響力をほとんど発揮できなかった、極右とも呼べる専門家が活気づき、保守派内での地位を上昇させつつある。こうした保守派の専門家をめぐる現状は、保守主義運動が変質しつつある一つの証しなのかもしれない。

 

 


[1] 宮田智之「トランプ政権とシンクタンク」『UP』第539号(2017年9月)、7-11頁。

[2] 現在もトランプ政権とヘリテージ財団の関係を強調する報道は時折見られる。Jonathan Mahler, “How One Conservative Think Tank Is Stocking Trump’s Government,” The New York Times, June 20, 2018.

[3] Eli Clifton, “Meet Donald Trump’s Islamophobia Expert,” Foreign Policy, December 8, 2015; Philip Bump, “Meet Frank Gaffney, the anti-Muslim gadfly who produced Donald Trump’s anti-Muslim poll,” The Washington Post, December 8, 2015.

[4] Robert O’Harrow Jr. and Shawn Boburg, “How a ‘shadow’ universe of charities joined with political warriors to fuel Trump’s rise,” The Washington Post, June 3, 2017; Lauire Goodstein, “Pompeo and Bolton Appointments Raise Alarm Over Ties to Anti-Islam Groups,” The New York Times, April 6, 2018; Abigail Hauslohner, “New NEC chief of staff is from group that believes Muslims are plotting to take over U.S.,” The Washington Post, May 30, 2018.

[5] NBC News, “John Bolton presided over anti-Muslim think tank,” < https://www.nbcnews.com/politics/white-house/john-bolton-chaired-anti-muslim-think-tank-n868171>

[6] Peter Beinart, “The Denationalization of American Muslims,” The Atlantic, March 19, 2017; Daniel Bice, “Bradley Foundation, Ron Johnson distance themselves from anti-Islam group,” Milwaukee Journal Sentinel, December 14, 2015.

[7] Peter Beinart, “John Bolton and the Normalization of Fringe Conservatism,” The Atlantic, March 24, 2018.

[8] Max Greenwood, “Gorka contracted to deliver Heritage Foundation speeches,” The Hill, November 28, 2017.