タイプ
論考
日付
2018/11/22

トランプ対策で苦悩する民主党の通商政策

 

米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)について演説するトランプ大統領(2018年10月)     写真提供 GettyImages 

 

上席研究員/プロジェクト・リーダー

久保文明

 

「幸せな時代」とその終焉

アメリカは将来にわたって世界の自由貿易体制を擁護していくであろうか。この問題について、近年急速に疑問が高まっている。

 

19世紀後半、さらには20世紀前半を顧みれば、アメリカは元来保護主義的な体質を強く持っていた。南北戦争後から第二次世界大戦終了後あたりまで、アメリカの通商政策は高関税を基本としていた。関税の高低は、政党政治と密接な関係を持っていた。北部の製造業を重要な支持基盤とする共和党が政権をとると関税は上がり、南部を支持基盤とし、そこで綿花の輸出を重要な収入源とする民主党が勝つと関税を下げる、というのが南北戦争後のパターンであった。これは第二次世界大戦時まで続く。

 

共和党の多数派が関税引き下げに賛成し始めたのは、第二次世界大戦中のことであった。ここで、自由貿易的考え方が、超党派的基盤をもち始めた。それは1960年代にかけて強化された。

 

しかし、幸せな時代は長く続かなかった。1970年代にアメリカの経済的競争力が落ち始める。同時に、1930年代以来労働者と労働組合との関係を深めていた民主党は、徐々に自由貿易主義に批判的になった。ただし、共和党はこの時期でもかなりの程度、自由貿易主義の信奉者であった。

 

このようななか、民主党のビル・クリントン政権が北米自由貿易協定(NAFTA)を支持し、強力に推進したのはこのような民主党内の流れの中では異例のことであった。実際、1990年代末頃までに、労働組合だけでなく、環境保護団体、少数民族集団なども巻き込んだ自由貿易反対の連合が確固として成立し、民主党内での反自由貿易派の影響力はさらに強化された。その象徴が、1999年11月末から12月初めにかけてシアトルで開催されたWTO閣僚会議の際に起きた激しい抗議運動であった。 

民主党の左傾化

民主党の左傾化は、自由貿易の問題だけで見られたわけではない。アメリカがイラク戦争後の占領統治に失敗したことにより、イラク戦争に賛成した中道派は党内での影響力を失った。2008年の金融危機も、それまで金融規制緩和を推進してきた党内中道派の威信を失わせることになった。

 

今世紀に入ってからは、民主党下院議員団についていえば、自由貿易協定(FTA)に反対する傾向が顕著になった。2007年に交渉が妥結した米韓FTAの議会での批准は、下院で民主党が少数党に転落する2011年まで待たねばならなかった。

 

一つの例として、2015年に行われた貿易促進権限(Trade Promotion Authority)に関する投票を見てみると、2015年通商法に関する5月22日の上院の投票では62対37で可決されている。共和党多数の上院において、5人を除く共和党議員全員がTPP成立を目指すオバマ大統領を支持し、対照的に民主党議員の多くが反対票を投じた(ただし、14人の民主党議員が賛成に回っている。共和党議員1人が投票せず)。民主党の議席総数は55議席(そのうち2議席は民主党と会派をともにする無所属議員)、共和党は45議席であった(共和党は45人のうち39人が賛成、民主党は55人のうち14人のみが賛成)。

 

下院では、6月18日に2回目の投票が行われ、そこでは類似の法案が218対208のわずか10票差で可決された。ここでも多数の共和党の賛成票(196票)、多くの民主党の反対票(160票)というのが基本的構図であった(共和党から50人が反対票を投じ、民主党から28人が賛成に回った)。投票時で民主党の議席数は188、共和党は246であった(欠員1)。(註: なお、この投票はTPPを直接認めるかどうかについての採決ではない。連邦憲法において、通商を規制するのは連邦議会であることが明確に規定されている。しかし戦後、連邦議会はTPAあるいはファーストトラックなどと呼ばれる法案を可決することによって、自由貿易を推進するために通商権限について自己抑制し、議員が修正案を提出することを禁ずることにした。すなわち、大統領が交渉してきた結果について、賛否のみを採決することにした)。

 

2016年の大統領選挙において民主党候補に指名されたヒラリー・クリントンは、2009年から13年までの国務長官時代に環太平洋経済連携協定(TPP)を熱心に推進したにもかかわらず、大統領候補としてはTPP反対の立場をとらざるをえなかった。対立候補として善戦したバーニー・サンダース上院議員はより徹底的にTPPに反対であった。筆者が出席した同年の民主党全国党大会では、ほぼ代議員全員が掲げた反TPPのプラカードが会場を覆っていた。 

有権者の態度とのねじれ

ところで、民主・共和それぞれの政党支持者の自由貿易・保護貿易に対する態度を見ると、興味深いねじれが観察される。同時に2008年の金融危機以後、重要な変化も看取できる。

 

まず変化の方に触れると、それは共和党において見られる。金融危機の頃までは民主党支持者と共和党支持者の間で、自由貿易協定に関する態度の違いは顕著でなく、超党派でそれを支持していた。厳密にいうと、むしろ共和党支持者の方が自由貿易協定を支持していたともいえる。ところが2010年頃から共和党支持者は支持を減らし、その減り方は2016年になるとかなり目立つ。17年にやや持ち直したものの、民主党支持者との違いは31ポイントも存在する(67%対36%)。すなわち、トランプ候補登場以前から共和党支持者は自由貿易協定に批判的であり、彼の選挙戦参入とほぼ同時並行的に、それに対する批判を強めていった。[1]  

 

Continued partisan divides in views of the impact of free trade agreements

 

2018年3月にトランプ大統領が決定した鉄鋼・アルミニウムに対する関税についても、共和党大統領の決定ゆえに同党支持者の支持率が高いという党派的な側面が存在している可能性を否定しえないにせよ、やはり共和党支持者の支持が際立って高い。そして、自由貿易協定はアメリカ経済にとってプラスとマイナスかと聞いた質問に対しては、民主党支持者の方がはるかに高い数値でプラスであると答えている(73%対51%)[2]

 

それでは、なぜ共和党議員は同党支持者が自由貿易協定に批判的であるにもかかわらず、その多数が自由貿易協定を支持し、また民主党についてはその逆のパターンが見られるのであろうか。

 

共和党議員の場合、多額の選挙資金を提供するのは企業経営者や経営者団体である。その多くは保護主義より自由貿易を望む。長らく党員・議員ともに自由貿易を支持してきたこれまでの慣性も存在する。リバタリアン的イデオロギーをもつ団体、あるいは関税も税金の一つと考えて反対する反増税団体などの影響力も過小評価できない。

 

逆に民主党においては、選挙において資金と運動員を提供するのは労働組合と環境保護団体であり、これらの団体は自由貿易協定に正面から批判的である。アフリカ系アメリカ人の団体も同様の傾向をもつ。興味深いことに、選挙というプロセスを通過すると、民主党支持者の本来の立場である自由貿易支持は屈折させられ、強烈な反対となって表面化する。

 

労働組合や環境団体の介入ないし圧力と重なるが、数では説明しきれない争点に対する熱意・思い入れ・こだわりの強さ(intensity)という側面も存在する。一般論として自由貿易を支持する民主党支持者は多数存在しても、それは漠然とした支持に過ぎないかもしれず、政治過程のなかでは徹底的にそれに反対する少数派に圧倒されている可能性は否定できない。これは、マイケル・シファー氏(上院外交委員会民主党スタッフ)が筆者との意見交換の中で指摘した点でもあった(2018年8月28日の筆者とのインタヴュー)。

 

さらに、民主党支持者が共通して抱く傾向がある反大企業的立場も重要な要素であろう。自由貿易を支持するのは経済界、大企業、そして多国籍企業であるとの印象は、民主党支持者の間で強い。何となく自由貿易に肯定的態度をとっている程度の民主党支持者の場合、最終的に大企業への反発になびいてしまう可能性は大きいであろう。 

トランプ大統領への対抗軸

民主党にとって、トランプ大統領の通商政策は正面から反対しにくい難物である。ある意味で、自分たちの政策を「盗まれている」側面すらある。鉄鋼やアルミニウム産業の白人労働者層は、当然ながら強くトランプ政権によるこれらの輸入品に対する制裁関税を支持しており、民主党は彼らの支持をますます共和党に奪われる可能性がある。NAFTAの改定、中国への制裁関税なども同様である。

 

実際、今回の中間選挙でも、通商問題は、政党間の争点にはさほどなっていなかったといえよう。基本的にはトランプ大統領への厳しい批判者であるチャック・シューマー上院議員(民主党、ニューヨーク州)でさえ、トランプ大統領の中国との通商問題、あるいはNAFTA改定の方針について、支持・称賛している。[3]

 

このような中にあって、かつてニュー・デモクラット運動を率いたサイモン・ローゼンバーグ氏(現NDN会長)は、民主党はトランプ大統領の保護主義に対する対抗的選択肢を打ち出すべきであると主張する。それは対抗軸である以上、そして共和党が以上で見たように急速に保護主義に傾斜しつつある中で、自由貿易主義的な態度でなければならないと言明した(2018年8月28日の筆者とのインタヴュー)。 

終わりに

世界における自由貿易秩序にとって懸念されるのは、ローゼンバーグ氏の主張とは裏腹に、支持者の選好とねじれる形で民主党議員は依然として保護主義的であり、それに対して共和党の場合は、その支持者が保護主義に傾斜し始めたのと同時に、トランプ大統領に象徴されるように、議員・政治家の側が自由貿易支持の立場を捨て、保護主義に走りつつあるように見えるからである。何より深刻なのは、トランプ大統領が、保護主義は共和党内の指名争いで勝てる路線であることを実証してしまったことである。その秘密を多くの人が知ってしまった以上、近い将来同様の政策路線で大統領候補指名を目指す政治家が党内で登場する可能性は否定できない。民主党が自由貿易の党として復活する可能性もきわめて小さいであろう。

 

アメリカはかつて、超党派的支持を基盤にして自由貿易推進で指導力を発揮した。そのような時代は、当分戻りそうもない。

 

 

※本稿は以下の論考に聞き取り調査の結果並びにその後の展開を含めて加筆し、また修正したものである。久保文明「米国における保護主義の行方」『月刊グローバル経営』2018年6月号、10-11頁。

 


[1] Bradley Jones, "Support for free trade agreements rebounds modestly, but wide partisan differences remain", Pew Research Center, April 25, 2017

<http://www.pewresearch.org/fact-tank/2017/04/25/support-for-free-trade-agreements-rebounds-modestly-but-wide-partisan-differences-remain/>

[2] Ben Casselman and Jim Tankersley, "Divides Over Trade Scramble Midterm Election Messaging", The New York TimesApril 17, 2018 <https://www.nytimes.com/2018/04/17/business/economy/trade-midterm.html?auth=login-email> (The Trade Divideの図を参照)

[3] たとえば以下の記事を参照。

Bob Bryan, "Chuck Schumer, sounding like one of Trump's most hardline trade advisers, urges Trump to dig in with China", Business Insider, May 21, 2018 <https://www.businessinsider.com/trump-china-trade-deal-chuck-schumer-2018-5>

LUIS SANCHEZ, "Schumer praises Trump for China tariffs", The Hillhttps://thehill.com/policy/international/392636-schumer-on-china-tariffs-china-needs-us-more-than-we-need-them>

Al Weaver "Schumer: Trump 'deserves praise' for work to fix Mexico, Canada trade deal", The Examiner, October 01, 2018 <https://www.washingtonexaminer.com/news/congress/schumer-trump-deserves-praise-for-work-to-fix-mexico-canada-trade-deal>