タイプ
論考
日付
2019/1/11

2018年州知事選挙の結果は2020年トランプ苦戦を予見させるか?(上)

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杏林大学総合政策学部専任講師

松井孝太

中間選挙日に実施された州知事選挙

2016年大統領選挙と比べると、2018年中間選挙は、世論調査に基づく事前予測がおおむね的中する結果となった。上院では、改選議席35のうち26議席が民主党現職という共和党有利な状況を背景に、共和党が2議席を増して多数派を維持した(共和党53、民主党45)。それに対して全議席が改選される下院では、トランプ支持率の低迷を受けて民主党が40議席を増し多数党となった(共和党199、民主党235、未決定1)。

 

また中間選挙が実施された11月6日には、連邦上院・下院に加えて、州レベルの様々な公職選挙が実施された。その中でも特に注目を集める役職が、州知事である。州知事の多くは4年任期であり、中間選挙の年に過半数の知事選挙が実施されている[1]。今年の中間選挙でも36州で知事選挙が実施され(現職は共和党26、民主党9、無所属1)、共和党が20州、民主党が16州で知事職を獲得した。

 

民主党は、7州を増したことに加えて、2016年大統領選挙でトランプ勝利の鍵となったいわゆる「ラストベルト」地域(ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア)で共和党に勝利することができた(図1)。2016年大統領選挙でこれらの地域を落とした衝撃が大きかっただけに、2020年大統領選挙に向けて民主党にとって希望の持てる結果となった。

 

図 1  2014年州知事選挙(左)・2018年州知事選挙(右)・2016年大統領選挙(下) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大統領選挙を占う先行指標?

上述のような結果となった今回の州知事選挙であったが、全国政治との関連で州知事選挙の重要性を指摘する議論の中には、主に二つのロジックが存在する。予め述べておくと、本論考で焦点を当てるのは②の観点である。

 

①州知事の政治的影響力

州知事は、州の執政権や州議会法案の拒否権を持つなど、各州の政策に対して大きな影響力を有している[2]。また、連邦下院や州議会の選挙に用いられる選挙区割は、10年ごとに実施される国勢調査の結果を受けて、州政府が決める。つまり、今年の州知事選挙において勝利した政党は、2020年の国勢調査後に実施される次の選挙区割において、自党に有利な選挙区割の再編(ゲリマンダリング)を行える可能性がある。

 

ただし選挙区割の見直しは、(具体的な手続きは州によって異なるものの)州知事のみによって決定されるものではない。また、ゲリマンダリングが選挙結果に与える効果についても、未だ不明な部分が大きい。この点についての検討は別の機会に譲りたい。

 

②大統領選挙予測の材料としての州知事選挙

州知事選挙では、州全体をひとつの選挙区として、最多票を獲得した候補者が選出される。大統領選挙はより複雑であるが、州ごとに切り分けて見ると、州全体で最多票を獲得した候補者が当該州の選挙人を総取り(winner-take-all)するという点で、州知事選挙と類似している。そのため、中間選挙年の州知事選挙で勝利した政党が、2年後の大統領選挙でもその州を獲得する可能性が高いのではないかと考えても不思議ではない。そのような議論は、今回の中間選挙結果に対する論評においてもしばしば見受けられる。

 

ただし、このロジックが成立するためには、いくつもの仮定が必要である。特に重要なのは、有権者の党派性が比較的安定しており、州知事選挙であれ大統領選挙であれ、有権者が主として党派性に基づいて投票するという仮定である。もしも有権者が(党派性以上に)州政治と全国政治の全く異なる争点ないしは候補者要因に基づいて投票するのであれば、両者が連動する保証はない。

 

言うまでもなく、現時点で2020年大統領選挙を予測することは極めて困難である。今後2年間の経済状況や政治環境の変化には、不確実性が大きい。何より、民主党内での候補者選定が本格化するのは、まだこれからである。また、現時点での具体的な動きはないが、共和党予備選挙でトランプに挑戦する候補者が出てくる可能性もゼロではない。

 

そのような限界に留意しつつ、本論考では、過去70年間の州知事選挙と大統領選挙の間に見られる長期的なトレンドを紹介することで、2018年中間選挙と2020年大統領選挙を考えるひとつの材料を提供したい。ただし、本論考では専ら州レベルで集計された投票結果を扱うため、個々の有権者の投票行動(大統領選挙で共和党に投票している有権者ほど、州知事選挙でも共和党に投票しているのかなど)を読み取ることはできない点には注意したい[3]

 

問1:州知事選挙と大統領選挙における州レベルの政党得票率は相関しているのか?

X州の知事選挙で、二大政党に向けられた投票のうち、共和党が55%、民主党が45%の票を獲得したとする[4]。この場合、X州における共和党の得票マージンは10ポイントである。その2年後の大統領選挙についても同様にX州における共和党の得票マージンを計算する。果たしてこの二つの数字の間にはどの程度の関連性があるのだろうか。

 

図 2 州知事選挙(t-2年)と大統領選挙(t年)の共和党得票マージン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図2は、横軸を州知事選挙(t-2年)、縦軸を大統領選挙(t年)として、州ごとの共和党得票マージンをプロットした例である。左が1994-96年、右が2014-16年の結果を示している。直近の選挙である2014-16年の組み合わせにおいては、かなりの程度、両者が連動していることが読み取れる(相関係数0.67)。それに対して、その20年前の1994-96年は、両者の間に明確な関連性が見られない(相関係数-0.04)。(1946年以降の全選挙のプロットを確認したい方は、こちらをご覧いただきたい)

 

図 3 州知事選挙(t-2年)と大統領選挙(t年)の共和党得票マージンの州レベル相関 

 

 

 

 

 

 

  

図2と同様に、1946-48年から2014-16年までの全ての組み合わせについて相関係数を計算し、その推移を示したのが図3である[5]。興味深いことに、1960年代から21世紀初頭にかけては、両者はほぼ無相関という結果となっている。ここではその要因について詳細な分析を行う余裕はないが、中間選挙での州知事選挙結果は、長らく大統領選挙の予測に関してさほど役に立たなかったようである。

 

しかし、(第二次大戦直後の時期と)過去十年間ほどは、比較的高い正の相関関係が見られる。つまり、前節②のロジックは、おおむね支持されると言ってよい。近年の変化は、トランプ大統領が積極的に共和党の州知事候補を支援した(また共和党候補がそれを求めた)ことにも見られるように、連邦レベルでの党派対立と分極化の波が、州レベルにまで波及していることの現れかもしれない。

 

本論考の後半では、州知事選挙と大統領選挙の連関について、さらに掘り下げて検討する。特に、大統領選挙において重要な接戦州の動向に注目したい。

 


[1] バーモント州とニューハンプシャー州のみ任期2年である(大統領選挙年と中間選挙年に州知事選挙)。その他は任期4年で、34州が中間選挙年、9州が大統領選挙年、3州が大統領選挙年の前年、2州が大統領選挙年の次年に州知事選挙を実施している。

[2] 州知事権力に関する最近の実証研究としては、Kousser, T., & Phillips, J. H. (2012). The Power of American Governors: Winning on Budgets and Losing on Policy. Cambridge University Press.が包括的な分析を行っている。それによれば、州知事は法案に対する影響力よりも、予算案の決定に対してより大きな影響力を有しているという。

[3] 集団レベルのデータから個人レベルの振る舞いを解釈する誤りを一般的に生態学的誤謬(ecological fallacy)という。

[4] ここでは上位2名を二大政党候補者が占めている場合に限定し、第三党候補者への投票はひとまず無視する。

[5] 相関係数は、マイナス1から1の間の数字を取る。すべての州について二つの数字の間に完全な比例関係が存在すれば1、完全に反比例していればマイナス1、全く関連がなければゼロとなる。