タイプ
論考
日付
2018/8/6

鉄鋼、アルミニウム、自動車関税と対北朝鮮制裁の比較ー手法の類似性ー

 

同志社大学法科大学院嘱託講師

村上政俊

 

通商拡大法第232条と鉄鋼、アルミニウム関税

トランプ大統領は、2016年の大統領選挙中から貿易赤字への不満を公言していた。就任直後の2017年3月31日、行政命令(Executive Order)第13785号と第13786号を立て続けに発出し、貿易相手国の不公正な関税、政府補助金、非関税障壁などを調査するよう命じた。両命令の中で、中国は名指しこそされなかったが、習近平国家主席をフロリダ州別荘に迎えての米中首脳会談を間近に控え、中国に警告を送ったという見方が多くあった[1]

 

会談直後の4月20日、通商拡大法(Trade Expansion Act)第232条に基づき大統領覚書(Presidential Memorandum)が発出され、安価な鉄鋼流入が安全保障や防衛産業を弱体化させているとして、商務省に実態調査が命じられた。

 

1995年の世界貿易機関(WTO)発足以後、同条に基づく調査はわずか2件のみである。クリントン政権期の1999年、原油についての調査では、国家安全保障に対する脅威が認定されたものの、大統領に対しては輸入に係る是正措置を行わないよう勧告され、大統領も対応しなかった。直近ではブッシュ政権期の2001年、鉄鉱石と鋼塊半製品(semi-finished steel)が対象となったが、その際は安全保障への脅威なしと商務省が判断している。この実例の少なさに鑑みれば、トランプ大統領はまさに「抜かずの宝刀」を抜いたといえよう。

 

本年1月11日、調査結果が大統領に提出、2月16日に公表されて、同条が定めるところの安全保障を損なうおそれが認定された。3月8日、トランプ大統領は布告(Proclamation)第9705号[2]を発出し、通商拡大法第232条、通商法(Trade Act)第604条に基づき、鉄鋼に25%の従価関税(ad valorem tariff)を課すことを決定した(NAFTAメンバーであるカナダ、メキシコは留保)。

 

3月22日、第9705号を発展させる形で布告第9711号[3]が発出され、豪州、アルゼンチン、韓国、ブラジル、EUが新たな除外対象として挙げられた。続いて4月30日の布告第9740号[4]で、韓国の除外が決定、豪州、アルゼンチン、ブラジルとは原則的に合意、カナダ、メキシコ、EUについては適用除外が6月1日まで延長された。ナヴァロ大統領補佐官は、延長措置はこれが最後と述べ、交渉進展を促した。5月31日の布告第9759号[5]で、豪州、アルゼンチン、ブラジルについては長期的な適用免除を決定したのに対して、カナダ、メキシコ、EUへの適用免除は延長されなかった。

 

アルミニウムについては10%の関税が課された。昨年4月27日、鉄鋼から遅れること一週間、通商拡大法第232条に基づいた調査を命じる大統領覚書が発出された。今年になってからは鉄鋼とそれぞれ同じ日に、すなわち3月8日に布告第9704号、3月22日に布告第9710号、4月30日に布告第9739号、5月31日に布告第9758号が発出された。5月31日の布告でブラジルが適用除外にならなかったなど若干の差違はあるものの、ほぼ同様の流れが看取される。

 

鉄鋼、アルミニウムへの関税賦課による世界経済への影響は限定的だという見方もある。大和総研の試算によれば、各国による報復関税までを織り込んだとしても、世界経済への影響は-0.02%に留まるという[6]。より深刻な影響が懸念されるのは、自動車への関税が発動された場合だろう。

自動車関税を巡る動き

5月23日、ロス商務長官はトランプ大統領の指示を受け、自動車(SUV、ヴァン、軽トラックを含む)と自動車部品(automotive parts)に対して、通商拡大法第232条に基づく調査を開始した。これまでに自動車が同条に基づいた調査対象となったことはなかった。今後の展開は現時点では不透明であるものの、右で紹介した鉄鋼及びアルミの経過が応用される可能性は充分あるだろう。ただし、鉄鋼及びアルミの例と異なり、調査を指示する大統領覚書はいままでのところ出されておらず、若干の異同が認められる。なお同日、ホワイトハウス[7]と商務省[8]がそれぞれ声明を発表し、後者は「本日、トランプ大統領との会談(conversation)に従って」というくだりで始まっているが、トランプとロスの面会が調査開始の根拠となっていることは、大統領の権限行使の在り様を考察する上では興味深い。

 

調査には一定の時間(鉄鋼の場合は開始から大統領への提出まで約9か月)を要するが、調査結果の大統領への提出と公表を経て、その中で安全保障への影響が認定されれば、大統領布告による関税設定という流れが想定されよう。ロスは7月26日、調査結果が8月に大統領に提出されるだろうという見通しを示しており、11月6日に予定される中間選挙も睨みながら、鉄鋼の例よりも急ピッチで調査が進行していることが窺える。

対北朝鮮制裁との手法の類似性

最後に米国による対北朝鮮制裁[9]との共通性を指摘しておきたい。対北制裁というとテロ支援国家(State Sponsors of Terrorism)への指定を想起する向きが多いかもしれない。そもそも北朝鮮は、大韓航空機爆破事件(1987年11月、死者115人)を受け、翌88年11月にレーガン政権によって初めて指定された。その後、ブッシュ政権期の指定解除(2008年10月)やトランプ政権での再指定(2017年11月)は、政策変更の証として注目を集めた。

 

ところが指定や解除には実質的な意味合いよりも象徴的なそれの方が強く[10]、制裁の実際は大統領権限の活用に委ねられていると考えられる。現在まで続く対北制裁の直接的な起点は、2008年6月に発出された行政命令第13466号だ。この命令は、国際緊急事態経済権限法(International Emergency Economic Powers Act)と国家緊急事態法(National Emergencies Act)に基づいており、敵国通商法(Trading with the Enemy Act)の適用終了を穴埋めする形となっている。オバマ、トランプ両政権の制裁措置は、政権交代を経てもなおこの命令の延長線上に行政命令を重ねることで構成されている。

 

鉄鋼については、布告第9705号(アルミは第9704号)を直接の始点としながら、関税についての措置が発動されていることは右で述べた通りだ。根拠法を示しつつ、ある大統領令(行政命令、大統領覚書、布告の総称)を起点として措置を重ねるという手法には、対北制裁との類似性が認められる。 

今後の見通し

なお鉄鋼とアルミへの調査を命じた昨年4月の大統領覚書にはどちらにも、基幹産業(core industry)として鉄鋼、アルミ、自動車、航空機(aircraft)、造船(shipbuilding)、半導体が例示されており、ここまでで言及した以外では、半導体関連の企業買収阻止にもトランプ大統領は動いた。本年3月12日、国防生産法(Defense Production Act)第721条に基づいて命令[11]を発出し、シンガポール・ブロードコム(Broadcom)による米クアルコム(Qualcomm)の買収を安全保障上の懸念から阻止している。なお半導体については別稿で詳述の予定だ。今後は航空機、造船にもトランプ政権は対象を広げていくのだろうか。この点も見守る必要があろう。

 

いずれにしても当面の注目は、鉄鋼、アルミニウムあるいは対北朝鮮制裁と同様に、大統領権限の十全な活用、すなわち根拠法を示しながら特定の大統領令を起点として大統領令を積み重ねていくことで措置を拡充するという手法が、自動車にも応用されるのかだろう。

 

 

[1] 例えばEvelyn Chen, “Trump's newest orders warn China: Get ready for a tough talk next week” (https://www.cnbc.com/2017/03/31/xi-summit-trump-executive-orders-warn-china-of-tough-trade-talk.html)

[2] White House, “Presidential Proclamation on Adjusting Imports of Steel into the United States” (https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/presidential-proclamation-adjusting-imports-steel-united-states/)

[3] White House, “Presidential Proclamation Adjusting Imports of Steel into the United States” (https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/presidential-proclamation-adjusting-imports-steel-united-states-2/)

[4] White House, “Presidential Proclamation Adjusting Imports of Steel into the United States” (https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/presidential-proclamation-adjusting-imports-steel-united-states-3/)

[5] White House, “Presidential Proclamation Adjusting Imports of Steel into the United States” (https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/presidential-proclamation-adjusting-imports-steel-united-states-4/)

[6] 小林俊介、廣野洋太「続・米中通商戦争のインパクト試算 大和総研試算 VS 国際機関試算」 (https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20180720_020214.pdf)

[7] White House, “Statement from the President on Potential National Security Investigation into Automobile Imports” (https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/statement-president-potential-national-security-investigation-automobile-imports/)

[8] Department of Commerce, “U.S. Department of Commerce Initiates Section 232 Investigation into Auto Imports” (https://www.commerce.gov/news/press-releases/2018/05/us-department-commerce-initiates-section-232-investigation-auto-imports)

[9] 村上政俊「大統領権限と制裁――対東アジア(中国、北朝鮮)を中心に」東京財団政策研究所監修、久保文明、阿川尚之、梅川健編『アメリカ大統領の権限とその限界――トランプ大統領はどこまでできるか』(日本評論社、2018年)

[10] 詳しくは前掲注9150頁を参照

[11] White House, “Presidential Order Regarding the Proposed Takeover of Qualcomm Incorporated by Broadcom Limited” (https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/presidential-order-regarding-proposed-takeover-qualcomm-incorporated-broadcom-limited/)