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「選挙の司令官(electioneer-in-chief)」となったトランプ大統領に民主党はどう立ち向かうか

August 15, 2018

上智大学総合グローバル学部教授
前嶋和弘

11月6日の中間選挙まで3カ月を割る中、まだどう転ぶかはなかなか見えにくいのが現状だ。特に大統領としては異例の頻度で選挙応援をすると明言している「選挙の司令官(electioneer-in-chief)」となったトランプ大統領の前に民主党にとっては、どのように戦っていいのか、決めにくい。

1. 「追い風」なのか「誤差」なのか

「2018年中間選挙に今日投票すればどちらの党の候補に投票するか」といういわゆる「ジェネリック・ボート」調査では、民主党が共和党を2017年7月末現在、7ポイント程度上回っている(リアルクリアポリティクスがまとめた各種調査平均から)。6月はじめには3ポイント強まで数字を詰められていたが、ここにきて民主党側に風が吹きはじめているようにもみえる。

そもそもこの調査がはじまった2017年春から民主党が共和党よりも常に上回っている。税制改革が通った昨年末には13ポイント程度離していたが、徐々に共和党側が追い上げていた。このベクトルが変わりつつあるようにもみえる。

選挙の動向を占う意味で重要な各候補の選挙資金集めも民主党側は非常に順調だ。

これだけをみて、「民主党の大勝」などという声もリベラル派には起こりつつあるが、これは贔屓目にみても言いすぎだろう。「ジェネリック・ボート」調査そのものは、あくまでも有権者の直観を尋ねるだけである。

中間選挙の投票率は4割を割る。直観では「民主党」でも、そもそも選挙に行ってくれるかどうかわからない。民主党なら労組、共和党なら宗教保守団体のような組織票を除けば、投票所に向かうのは、相当政治に関心があるか、政治や社会に怒りを持っている有権者だけである。

「ジェネリック・ボート」調査は実際には「誤差」に終わるかもしれない。

2. 盛り上がりにくい事情

民主党にとっては、今回の中間選挙には盛り上がりにくい事情がある。

何といっても、上院は改選が民主党側に極端に偏っており、極めて不利な条件で戦わないといけないことが挙げられる。オバマ2期目に乗じて議席を確保した2012年当選組が35改選のうち、26(無党派で統一会派2を含む)と圧倒的だ。共和党が現在51議席と薄氷のリードだが、それでもこれだけの改選議席の不利は民主党には大きい。

一方、下院の方は、民主党はかなり目がある。そもそも現在の115議会開始時には共和党が47議席上回っており、現職の再選率は9割を超えるため、民主党は不利だったのだが、 前回のコラム でもふれたように共和党の現職たちが一気にやめている。その意味で民主党には大きなチャンスである。

ただ、民主党としてははっきりした統一した政策が今のところ打ち出しにくい。例えば、民主党としては常に有権者の関心事である経済政策での共和党との違いを打ち出したいところだが、景気は好調で代替案が出しにくい。分極化の中、いくら何でも「景気がいいのはラッキーなだけ」「景気が良いのはオバマ政権が頑張ったせい」「クリントンならさらに景気がいい」などとはさすがに言いにくくなっている。

トランプ政権が仕掛ける貿易戦争についても、民主党のコアの支持層であるリベラル派にもそもそも自由貿易に否定的な有権者も少なくない。中間選挙の民主党候補者の常套手段である中国たたきは、今年は共和党候補も同じだろう。リベラル派には移民の人権問題は共感を生むのだが、それでも、一部左派が主張するような移民関税執行局(ICE)の解体などは、到底広く受け入れられる政策ではない。

民主党の方はペロシ下院院内総務に対する党内の反発も目立っているなど、党内の統一がなかなか難しい。穏健派が予備選で敗退するなど、次第に「トランプの政党」化しつつある共和党とは対照的だ。

統一した選挙メッセージも難しい。下院の選挙をまとめる民主党下院議会選挙委員会のウエブサイトのスローガンは「トランプの共和党下院を打ち破れ(Defeat Trump’s Republican House)」であり、「反トランプ」以外はなかなか共通した選挙メッセージがない。委員長のベン・レイ・ルーハン議員はABCテレビのインタビューで苦し紛れに「人々がファースト(putting people first)」という斬新さのかけらもないスローガンを口にしているほどだ。

3. 常に「燃料投下」のトランプ人気

大統領のレファレンダムが中間選挙であるのは間違いない。それでは百歩譲って民主党下院議会選挙委員会のような「トランプにノーという」スローガンに徹するのは功を奏すかどうかわかりにくい。

というのも、そもそもトランプ大統領は共和党支持者に対して、常に切れ目のない「燃料投下」を続けている。6月半ばの1カ月強の間でも、6月12日の米朝首脳会談から始まり、終了わずか3日後の中国製品への課税の公表に始まる各国との貿易戦争、NATO批判、保守派のカバノー氏の最高裁判事任命と実にスピード感がある。米露首脳会談でのプーチン氏と蜜月とその後、一転してロシアの2016年選挙介入を認めた変わり身の早さすら、支持者には小気味いいかもしれない。

さらには非合法移民政策を民主党に実行させるために、再度の政府機関閉鎖も辞さずとトランプ大統領は明言している。選挙に近いこの時期でも、積極的に自分の政策を貫徹させるために攻め続けるのは、支持者にはたまらないだろう。

一方で、共和党側の問題はこの「トランプ人気」がどれだけ下院や上院の選挙に反映されるかどうかという点だが、明らかにボールは共和党側にある状況がなかなか崩れない。

4. 「選挙の司令官(electioneer-in-chief)」となった大統領

トランプ大統領は7月27日のフォックスニュースチャンネルのインタビューで「選挙戦の前の60日になったら、週のうち6日かすべての日を使って、全米を遊説する」と中間選挙で共和党の各候補の支援をすることを明言している。実際に忙しい大統領がそんなに時間を使えるかどうかは疑問だが、それでも政治的分極化の中、自分の政党の候補者を勝たせることは大統領にとって、2020年選挙のための自分の支持固めにも直結する。

かつては大統領が中間選挙で各候補の応援演説をすることはそもそもまれだった。筆者の記憶では2002年中間選挙での応援演説を積極的に行ったブッシュ大統領が「政策を疎かにしている」と批判された。そんな時代は過去のものになった。

分極化の中、「選挙の司令官(electioneer-in-chief)」となったトランプ大統領に民主党は立ち向き合わないといけない。選挙遊説を得意とするこの難敵に民主党側はどう立ち向かうのか、まだ読めない。

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