公開フォーラム

タイプ
レポート
プロジェクト

第21回「地球環境問題 ~地球システムと調和的な新しい文明(人間圏)とは~」

日時
2009/2/9  14:00~17:30 [終了しました]
場所
日本財団ビル2階 大会議室
担当
井野
東京財団では、外務省の支援(日中研究交流支援事業)により、日本と中国の青少年に環境問題に関する啓発を目的に、「地球環境読本」を作成しています。この読本では、地球環境問題について、地球システムと人間圏という視点で、問題を整理し、文明の本質から今後のあり方まで、日中の研究者が考え方を共有し、各章を共同で執筆しています(2009年3月に日本語、中国語でそれぞれ発行の予定)。

2009年2月9日、執筆者による共同会合のために中国人研究者が来日するのを機に、第21回東京財団フォーラムとして、「地球環境問題~地球システムと調和的な新しい文明(人間圏)とは」を開催しました。

フォーラムでは、まず、文明をどう捉えるかについて日本側、中国側の代表者による基調講演を行い、その後のパネル討論では、人間が地球システムにどういった影響を及ぼしているか、これからの人間社会のあり方について、語っています。フォーラムには、学生、環境NGO、民間企業、メディア関係など、幅広い層より100名あまりの方々にご参加いただきました。基調講演、パネル討論の概要は、以下のとおりです。

(当日の様子を動画にて配信中です。詳しくはこちら )





※この動画は2009年2月9日に実施された東京財団フォーラムより抜粋してお届けしています。

基調講演


人間圏文明論

松井孝典:東京財団特別上席研究員、東京大学教授

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地球環境問題は、文明が引き起こした地球システムの擾乱であるといえる。人間は、約1万年前、それ以前の狩猟採集という生き方から、農耕牧畜という生き方に転換した。生物共通の狩猟採集という生き方に対し、農耕牧畜という生き方は、地球システムに手を加え、それにより人間圏を形成することになった。人間圏を作って生きる生き方こそが文明である。

人間圏の発展段階は、駆動力(蒸気、石油、天然ガス、原子力等のエネルギー)を持たない段階と持った段階の2段階に分けられる。駆動力を持たない時代の人間圏は、地球システムと調和的であった。駆動力を追究し、自由に欲望を解放し、人間圏が拡大したことにより地球システムに多大な影響を及ぼしている。これが、地球環境問題、資源・エネルギー問題、人口問題、食糧問題の根幹である。

地球環境問題を考えるにあたって、地球をシステムとして捉える視点が必要になる。石油に変わるエネルギーとして、クリーン・エネルギーである太陽光をという議論があるが、これは気候システムに影響を与え、地球システムと調和的だとはいえない。「地球環境読本」では、個別の問題を全体の中で位置づけ整理している。この読本を通じて、日本、中国の若い世代に、地球を俯瞰的に見る視野を提示していきたい。

技術進歩と生態文明

馬中:中国人民大学教授・環境学院院長

生態文明とは、新たに人類と自然の関係を考え、認識することだと考えている。現代文明は、人と人の関係が主であり、自然の関係があまり考えられていない。
古代文明では、人類と自然の関係について常に考えてきた。中国でも数千年の歴史において、自然が尊重されてきた。自然と調和した技術として「水利プロジェクト」が挙げられる。これは、2千年の歴史があり、自然のメカニズムに即す形で発展してきた。

科学技術は、現代文明のシンボルであるが、自然のプロセスや様相を変え、人類の未来をも左右する。私たちは、科学技術の進歩が生態環境にどう影響を与えているかを考えるべきである。技術至上主義が普遍化し、さらに人の欲望が技術の進歩を促進し、加速化している。これらが自然や文明を変えてしまっている。

新しい意味での生態文明を構築するためには、技術進歩のモデルを考え直すことが重要である。個人レベルでは、次世代、子孫のことを考えていても、公共の政策では、短期的な見方をしていることが多い。個人と公共の意識のずれを調整しない限り、現在の科学技術に対する盲目的な崇拝を助長してしまう恐れがある。
今後、科学技術の中で長期的な発展に貢献できるものとして、循環型社会を提唱する。技術について先進的であるか、経済性だけで見るのではなく、環境への影響、社会性、教育的な影響、どういった人類を導いていくのかといった視点が必要ではないか。

パネル討論

モデレーター 住明正:東京大学サステイナビリティー学連携研究機構教授

第1部 人間圏の拡大による地球システムの変動

パネリスト
長谷川眞理子(総合研究大学院大学教授)
符淙斌(中国科学院大気物理研究所教授)
陶澍(北京大学都市与環境学院長)
王民(北京師範大学教授)
任文偉(復旦大学生物多様性科学研究所准教授)


【地球環境における生物多様性の重要性】
システムとしての地球環境は、複雑な生物のネットワークによって復元力が保たれている。時間をかけてつくられた種が、生物間の相互作用が発見される前に、とても早いスピードで消滅している。生物多様性や気候変動の問題は、起こってから取り組むのでは遅すぎる。生物多様性は存在として価値があるのか、人間のために必要なのか?人間は、科学技術をもってしても細胞一つ作れない。再生不可能という状況で、他の種を殺していいのか、これは倫理的な問題として取り上げられている。

【中国における環境に対する需要】
20年前、中国の東部沿海地域では、環境問題の意識はなかったが、生活レベルが上がり、環境を意識するようになった。しかし、広大な中国では地域格差が大きく、環境に対するニーズが違うことを認識すべきである。発展にはそれぞれの度合いがあり、それぞれの人が高いレベルを求めているが、消費には限度が必要である。過剰な消費は、環境に悪影響をもたらす。世界の経済の衰退は、地球環境にとっては悪いことではない。

先般、中国政府は、多額の資金を投入し内需拡大を行ったが、新しいタイプの汚染が起こるのではないかと懸念がある。資金の投資先が問題であり、環境分野では資金が不足している。環境事業に資金を投入し、新たなビジネスチャンスの創出が必要である。

【環境倫理について】
環境問題の倫理については、多くの環境保護組織が、消費について語っている。例えば、チベットでは、ヤクを消費するとともに保護しており、多くの国では、こうした文化が残っている。物質的に豊かでなくでも精神的に豊かな生活は送ることができる。将来の人間圏を考えるにあたって、精神的な要素も考えていく必要がある。日本では、里山・里海のコンセプトがあり、人間が積極的に自然に関与し、楽しみながら自然環境を保護していけるような新しいスキームを考えていくことが大事である。

【環境教育の重要性】
環境教育において大切なのは、知識と行動を一致させることである。中国の若者は、知識はあるが、行動がともなっていない場合が多い。例えば、学校では車は汚染源だと教えながら、家に帰れば車を買おうという話をしているなど矛盾した状況がある。どうすれば、節度ある消費になるのか、発展と同時に環境を保護するような方向性を示すことが大事である。

お金を使わない幸せがどういうものかを教えることが、環境教育になるのではないか。貨幣経済は、人間関係をなくして、抽象的なお金を手に入れることで幸せになるという幻想を抱かしている。こういった哲学を徐々に変えていくことが新しい考え方となるではないか。


第2部 人間圏の内部システムの設計

パネリスト
稲永忍(地方独立行政法人鳥取県産業技術センター理事長)
植田和弘(京都大学大学院地球環境学堂教授)
氷見山幸夫(北海道教育大学教育学部教授)
馬中(中国人民大学教授・環境学院院長)
田均良(中国科学院水利部水土保持研究所研究員、前所長)


【金融危機と地球環境問題】
これまで経済学者は、貧困、不平等、恐慌について考えてきた。4本柱として、環境と資源の問題も考えていく必要がある。金融危機と地球環境問題は、グローバリゼーションの現れである。各国の政府はあるが、グローバルには対処できる枠組みは何もない。
金融危機が実体経済に影響を与えていることは大きな問題である。本当は取引してはいけないものを取引に入れてきたといえる。公正な市場はどういうものかを考えていく必要がある。

また、非物的、非貨幣的な考え方は重要である。新しい生き方として、「半農半X」(持続可能な農ある小さな暮らしをしつつ、天の才(個性や能力、特技など)を社会のために生かし、天職(X)を行う生き方、暮らし方)いう考え方がある。例えば、働く時間をドイツ並み(日本との平均労働時間の差は年間400時間)に能率的にして、残りの時間を地球環境ために、農業や町づくりにあてるというのはどうだろうか。

【農村の貧困問題】
アジアでの大きな問題は農村の貧困問題である。中国の西部地域は、生態環境が脆弱で貧困層の多い地域である。中国政府は、貧困をなくすために生態システムから着手し、農地の拡大、生態環境の悪循環を断ち切る政策をとり、少しずつ貧困問題が改善されている。環境問題と貧困問題は、セットで考えていく必要がある。

貧困地域にもテレビが入り、消費を煽っている。中国の永安では、土地の酷使で荒廃、砂漠化していた地域の近くに石油、石炭が採掘されたことで、若い人は農作業をせず街に出て石油、炭鉱関連の産業に就き、緑が回復している。人々は、本当に農業をやりたがっているのか?人々は経済社会、物欲の社会からは逃れず、仙人のような暮らしはできない。なぜ、農業の産品は安く、自動車が高いのか、こういったことを今こそ議論するべきである。

食糧生産という面からみて、農業を守るというのは農地を守るに留まらず、農村コミュニティーをどう守るかが重要。若い人々がそれぞれの土地で暮らしていく意欲を持てるような環境、社会を作っていくことが大事である。環境の問題を考えていくのには、ローカル、リージョナル、グローバルなマルチ・スケールなものの見方を広めていくことで新しい考え方がでてくるのではないか。
(文責:井野麻美)