タイプ
レポート
日付
2011/9/30

持続可能な日米中関係を求めて

中国社会科学院日本研究所30周年記念
日米中3極シンポジム開催報告(1)


東京財団研究員兼広報渉外ディレクター
今井 章子


「日本が日米中3国の関係のなかで努力するべき問題は、まず、中国との国民レベルの感情の中にある、お互いの不信感を払しょくすること。中国も『我々は覇権を求めるものではない。王道を歩むのだ』とのメッセージをもっと効果的に打ち出すべきだと思う。米国は『中国ともっと協調を進めるつもりだ』と世界に向かって発信してもよいのではないか」。2011年9月6日、中国社会科学院日本研究所30周年記念シンポジウムは、河野洋平・前衆議院議長による日米中それぞれに対する印象的なアドバイスから始まった――。

これに先立つ1月、東京財団は、李薇・社会科学院日本研究所長より、同研究所が設立30周年を迎えるのを機に、日米中の3カ国関係を中心にした東アジアについて考えるシンポジウムを開催したいとの要望を受けた。近年、日中米の意見交換の場は激減しているといわれており、私たちはそのような時こそ中立・独立のシンクタンクが尽力すべきとの考えから、米国のエズラ・ボーゲル=ハーバード大学名誉教授と協力しながら準備を進め、このほど「東アジアの新秩序構造と日米中関係」と題するシンポジウムを北京国際飯店で開催、その後、参加者のほとんどが来日して、日本政府の震災対応や東北被災地視察を行った。本稿では、北京でのシンポジウム概要を2回に分けて報告する。


世界GDPの4割を占める日米中の新たな役割

えんじ色を基調とする大広間の正面に設置された紺色の大型看板を背に、8人のパネリストが並ぶ議場は、中国的な形式美と荘厳さがあふれていた。シンポジウム開会式の冒頭に講演したのは、李楊・社会科学院副院長。「東アジア地域に新たな秩序構造が出現しつつある」とし、3カ国で世界のGDPの4割を富を生み出している日米中3カ国が、この新秩序をリードすべきだと語った。


続いて、長らく日中関係に尽力し、また外務大臣経験者として米国からの信頼も厚い河野洋平氏が基調講演をおこなった。河野氏は、日本の高度成長に伴う日米摩擦の時代を知る政治家であり、また対中ODAが過去最高額を記録していた2000年、唐家セン外相に、中国の軍事力増大への懸念とともに円借款の見直しを告げた外務大臣でもある。外交の最前線での経験からくる誠実で敬意に満ちた「忠告」は、双方向のやりとりをあまり取り入れない中国でのシンポジウムにあって、「対話」への刺激的な触媒となった。


日中間に横たわる「両国民の間の相互理解」の問題について、丹羽宇一郎・中国大使は開会式のあいさつの中で改善の必要性を体験を交えて、次のように語った。
あるNPOの世論調査によると両国の相手国に対する印象は、回答者の7~8割で悪化しており、しかもその感情は「嫌中」「嫌日」である。両国にはいまの時代ですら、日本人、中国人に一度も会ったことのない人が、圧倒的に多い。そういうことを考えると、国民感情の改善というのがいかに難しいかを実感する。

日本の等身大の姿というものを知ってもらうために大使として中国の全土を歩いてみて、時間がかかっても、引き続き、両国民の接触・交流をあらゆる分野で継続し、増やしていくことが、何よりも大切だとひしひしと感じている。日本人も、中国の等身大の姿を知るべきである。そのためには、教育や行動がいかに大事か。言葉だけでなく、何をするかというのが、いま真にわれわれに求められていることではないか。

ここまでの議論を受けて、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を書いたエズラ・ボーゲル=ハーバード大学名誉教授は、日米中3カ国関係のありようが国際社会に与える影響は大きいとし、そういう中で、学者が果たすべき役割は、互いの社会を深く理解することにベストをつくすことであり、また、自国民にある相手国への偏見を克服することだと述べた。「それぞれの過去や歴史が互いの国民感情に懸念を生み出し、それが大きな誤解を生んでいる。学者の責任は人々がそれを乗り越えて良好な関係を構築できるようベストをつくすことだ」として、長年日本と中国それぞれを研究してきた立場から、以下のように続けた。

「歴史というのはいつでも変わっていく。30年前、日本が急成長を続けていたころ、米国は日本に世界第一の経済大国の座を奪われるのではないかと脅威に感じていた。その頃の中国はまだ貧しく、日本は彼らの目標のひとつであった。その後中国は、改革開放路線によって急成長し、今では他国から脅威と見られるほどになった。中国はもはや日本を経済モデルとはみなしていない。むしろ日本や米国が、山積する自国の問題に対して自らリーダーシップを持って解決できるかどうか懸念されている状況だ。しかし、個人的にはそれでも中国はまた日本から学べることがあると考える。たとえば、社会秩序だ。日本は経済成長する以前からすでに秩序のある社会を形成していたが、今回の震災でも、窃盗や強盗もなく秩序が保たれ、電力不足に見舞われた今夏は東京を中心に人々が自発的に省エネに努めていた。成長が減速してしまった社会にあって安定的に秩序を維持するという点は、中国にも示唆的だ。将来的に中国経済は、毎年10%のペースで成長し続けることはなく徐々にスローダウンしていくだろう。その時、日本が直面したのと似たような問題を中国も抱えることになる。中国は来るべき新たな変化を覚悟するためにも、今の日本の姿を直視すべきだ。研究者の役割は、自国の社会や指導層が、正しい(correct)認識を持って未来に対する責任を全うできることができるよう、より広くより深い変化を与えていくことだと思う」。

日本研究の歴史と展望

日中米の国民感情と実務家や研究者が果たすべき役割が述べられたところで、議題は第1セッション「日本研究の回顧と展望」に移り、中国と米国の日本研究者が、これまでの30年間におけるそれぞれの国での「日本研究」を振り返り、それが自国の対日関係や国際関係にどのような影響を及ぼしてきたかを議論した。

「現実路線」の中国型

李薇・社会科学院日本研究所長の報告は、中国における日本研究がきわめて現実性が強く、中国の対日外交を色濃く反映していることを印象づけるものであった。
李所長は、中国の日本研究が改革開放の進展とともに発展してきたとし、そのうえでこの十数年、注目している研究課題は、日本の外交・国際関係、日米安保体制、日中関係、日本の防衛問題の4つであると述べた。

日本外交について李所長は、「冷戦終結後の日本はどのような方向へ向かうかという再選択の過程を経たが、小沢一郎氏の「普通の国」提言にみられるように、最近の日本はさまざまな手法で国際政治への影響を増大させ、いまだに政治大国化することをあきらめていない」とみているという。とくに「97年の日米安保ガイドラインの実施に伴う周辺事態法によって日米安保体制が強化され、適応範囲がアジア太平洋地域、ひいては世界的規模へと拡大した。しかし、日米関係が地域の安全を主導してはならないし、同盟によって第三国の主権に対して干渉してはならない。日本が米国に追随しながら、アジア諸国との外交関係をも志向していることは矛盾である」として、日米同盟の深化を日本の「政治大国化」との関連で注目していると語る。

さらに当面の日本研究の展望として、共通する戦略的利益の有無とその分析が必要であるとし、中国の平和的台頭において日本はどういう役割を果たすのか、また中国の台頭を日本に受け入れてもらうには何をすべきかが重要な研究テーマとなろうと語った。
李所長は、日米中3カ国関係は転換期に来ているとして、昨年9月尖閣沖での漁船衝突事故の際の民主党政権の対応を、「日中関係を日米同盟関係の中におくべきでない」と牽制した。

また、日中双方で互いの国民に対する好感度が著しく低下しているが、東アジア新秩序の時代にむかって、「脱工業化した日本がさまざまな構造変化に対応しているのとは異なり、中国は工業化の途上にありながらすでに構造的問題にも直面しており、このままでは持続可能な成長が実現できない状況である」とし、それぞれ発展段階の違う3カ国が相手国の立場を判断して初めて3カ国の相互理解が達成できる、と締めくくった。

「学術重視」の米国型

一方、米国の日本研究の変遷について長年にわたり観測しているパトリシア・スタインホフ=ハワイ大学社会学部教授の報告は、「日本研究の状況」を学生数、プログラム数、専攻テーマの変遷などを精査する学術的アプローチで参加者の注目を引いた。

アメリカの大学における日本研究は、かつての強固な地域研究型(area study approach)から、専門家養成型へとシフトし、さらに、学術専門型(discipline-oriented)へと変化したと言う。地域研究のアプローチでは、対象となる地域の言語や政治・経済、生活・社会を直接体験して、対象地域全体を理解しようとするもので、日本が東洋の先駆的民主国家としてユニークな存在であった時代には、このアプローチが多くの知見を研究者にもたらしたことであろう。この時代の日本研究者は、そのまま学界にとどまる人がほとんどであった。

しかし、日本が急速に経済成長し米国の「ライバル」となった80年代、90年代になると、競合相手である日本と対峙できるよう弁護士や外交官、ビジネスマンなどの専門家を養成することに重点が置かれるようになったという。つまり彼らは大学院での研究を終えると学界にはとどまらずに実社会へと移ったのである。

ところが、日本経済でバブルがはじけたとたん、実務家としての「日本専門家」を志向した層が、今度は中国や中東の研究へと移行していった。大学院の日本研究プログラムも主導的立場の学識者が引退・転職し、民間からの支援も撤退したためプログラム数が減少、それまで年々増え続けた日本研究者の数は90年代の半ばにピークアウトしたという。
2000年代に入ってからの日本研究の波は、日本に対する新たな文化的興味から発生してきたと言える。クールジャパンが学部生などの若い層を引き付けたのだ。またJETプログラムを利用して来日し、英語教員の補佐をしながら実際の暮らしを経験しながら生きた日本語を身につけた「日本経験者」たちが大学院で学び、博士課程への人材の供給源となっていった。

今では米国の日本研究は、これまでの進展をすべて包含する形で拡充し、80年代を上回る規模に発展している。博士課程から学部生にとどまらず、一般の国民にも日本に対する興味が広がっており、4万冊以上の日本語の研究書籍を保有する専門図書館も全米に30以上あるという。

「日本研究」は米国内にとどまらずグローバルに発展している。その傾向は大きく分けて二つあり、ひとつは欧州の「ジャパノロジスト育成型」。各研究機関がそれぞれ自由に個別に、そして「学際的に」日本専門家を育成するものだ。米国の場合は地域研究型であり、カリキュラムの中で分野ごとに専門家がいる「学術専門型(discipline-oriented)」。日本語教育などは一元的に教えるものの、あとは学術分野に応じた専門家が協力しあって後進を育成している。

また日本研究の切り口については、80年代までは日本の経済成長を対象とするものが主流であったが、90年代からは日本の社会問題に関心が寄せられ、それらを日本がどう対処したかを自国の参考として検証する傾向が強い。また、かつては先駆的民主国家として日本を欧米の一員としてとらえていたが、最近では、地理的事実に従いアジアの中の日本として回帰させ、その視点での研究が増えている。

また米国では、アメリカ人のみならず、27カ国の人々が日本を研究している。博士課程では、ほとんどが米国に留学して日本を学んでいる。また、日本から派遣者も多く、彼らは多くの新たな研究素材(リソース)を米国にもたらし、それらへのアクセスも技術革新によって大きく変化したという。

博士課程では、もともと政治学、社会学といった専門性を持った院生が、その分野を追求する中で日本に着目することが多く、したがって同時に中国や韓国など東アジアについても研究する人が多い。またテーマ選定は、指導教官の助言はあるものの、基本的に研究者の自由であり、それぞれが専門性に基づきオープンな環境で選択することから、結果としてかなり多様化している。たとえば、数年前、日本の原発について調査したことが震災後の今、おおいに注目されたりする。当時は全くニッチな研究であったもので、中国の日本研究とはかなり異なる進め方であるが、これが予想外のメリットを生むことも多い、とスタインホフ教授は報告を締めくくった。

学者は社会の雰囲気や世論とどう向き合うべきか

中国と米国における日本研究の報告に続いて、コメンテータとして最初に発言したのは、蒋立峰・日本研究所前所長である。中国の日本研究が「現実路線」であることを述べたうえで、これまでにも日中韓歴史研究や日中歴史共同研究を行ってきた経験から、今後は日米中共同で日本研究を行い、たとえば「鳩山政権で提起されながらその後動きがない『東アジア共同体』について、米国の関わり方も含めて3カ国で模索するのも一案ではないか」と述べた。

このような米国と中国のあまりに大きな研究状況の隔たりに当惑気味の参加者にとって、日本から参加した川島真・東京大学准教授のコメントは非常に示唆に富むものであった。

両国民の相互理解をめぐる河野氏、丹羽大使、ボーゲル教授の発言を踏まえ、川島教授は、最新の世論調査において、それぞれの国民の互いに対する好感度が1989年の天安門事件の時よりも、また2004年のサッカー・アジアカップの時よりも悪化していることに触れ、「こういう社会の雰囲気を受けて研究者は何ができるだろうか」と問いかける。「アカデミズムに立脚している以上、世論を憂慮すべきではあっても直接的に関与すべきでない、という考え方もあろう。たとえば、歴史認識問題が起こったときに、中国と日本の歴史研究者はどういう態度をとるだろうか。日本をめぐる言論や世論とどういう距離をとるのか、ボーゲル教授が指摘するように学術的に正しい(correct)genkと思われることをどのように社会に伝え、実社会とどのようにコミュニケーションをとるのか」と指摘した。

また、李薇所長や蒋立峰前所長のいう「中国の日本研究における強い現実性」について、日本の中国研究が古典や歴史分野には強いものの、現在の中国についての分析は弱いという現実と比べると羨ましくもある、と語る。日本において中国語の学習者はかなり増加しているが、「中国研究」を志す日本人研究者は激減しており、日本の大学院の中国関係課程には、日本人がほとんどおらず、中国と台湾からの学生がほとんどだという。

一方で、川島教授は研究における現実性の強さには「とまどい」も感じると言う。中国の日本研究では、スタインホフ教授が述べたように米国に見られる学術的専門性(discipline)をどう見ているのか、社会科学において政治学や経済学においてケースとして日本をとらえたり、同じような条件を持つ他国と比較するようなことは重要だと指摘する。

また、中国の発展は日本研究を根本から変えるだろうとも指摘。米国でも研究素材(リソース)へのアクセスが変わったというが、中国でも20~30年前と比べて予算は激増していると想像されることから、たとえば、日本に長期滞在して社会に入り込んで、フィールドワークを行う機会が増えれば、『築地』(テオドル・ベスター著)のような学術的専門性を導入した研究が中国の日本研究から生まれてくるのでは、と期待する。

(以下、次回へ)







■当日プログラム
中国社会科学院日本研究所30周年記念日米中シンポジウム
東アジアの新秩序構造と日米中関係
2011年9月6日(火)@北京国際飯店多目的ルーム

主催:中国社会科学院、社会科学院日本研究所、東京財団
共催:国際交流基金


9:30-10:00 開幕式


司会:孫新 中国社会科学院日本研究所副所長

李楊 中国社会科学院副院長
河野洋平 前衆議院議長
丹羽宇一郎 特命全権大使中華人民共和国駐箚


10:00-12:00 セッション1 日本研究の回顧と展望



モデレータ:エズラ・ボーゲル ハーバード大学社会関係学科ヘンリー・フォードII名誉教授


三か国における日本研究(日本の場合は政治外交研究)はどのような変遷をたどってきたのであろうか。その成果は、米国や中国の対日外交や対東アジア戦略にどのような影響をあたえ、次世代研究者の育成にどう貢献してきたのか。また、変わりゆく東アジアの国際関係や各国事情を踏まえて、中国や米国の日本研究はどのように進めていくべきか。研究対象やテーマの設定の仕方、資料やリソースへの当たり方、日本研究が目指すものは、これまでのままでよいのか。今後の東アジアに資する研究の在り方とは?

10:00-10:40
中国における日本研究(李薇 中国社会科学院日本研究所所長)
米国における日本研究(パトリシア・スタインホフ ハワイ大学社会学部教授)

10:40-11:20
中国側コメント(蒋立峰 中国社会科学院日本研究所前所長)
米国側コメント(マーク・マニン 米国連邦議会調査局アジア地域専門官)
日本側コメント(川島真 東京大学大学院総合文化研究科准教授)
日本側コメント(五百旗頭薫 東京大学社会学研究所准教授)

11:20-12:00 ディスカッション

12:00-13:30 昼 食


13:30-15:30 セッション2 日米中関係の将来



モデレータ:渡部恒雄 東京財団上席研究員


日米中各国の今後の関係について、「積極的・協力的・全面的中米関係」「戦略的互恵の日中関係」を軸に、経済協力、地球規模の課題対策、相互国民に対するパブリックディプロマシーなど。

13:30-14:30
中国(王緝思 北京大学国際関係学院院長)
米国(アラン・ロンバーグ ヘンリー・L・スティムソンセンター特別上席研究員、東アジアプログラムディレクター)
日本(高原明生 東京財団上席研究員、東京大学大学院法学政治学研究科教授)

14:30-15:00
中国側コメント(崔立如 中国現代国際関係研究院院長)
米国側コメント(ケント・カルダー ジョンズホプキンス大学教授、同SAISエドウィン・ライシャワー東アジア研究所所長)
日本側コメント(行天豊雄 公益財団法人国際通貨研究所理事長)

15:00-15:30 ディスカッション

15:30-15:40 コーヒーブレーク


15:40-17:40 セッション3 東アジアの協力と新秩序-East Asia Summitについて-



モデレータ:張宇燕 中国社会科学院世界経済政治研究所所長


東アジアサミットの開催を控え、日米中各国はEASをどのように位置づけ、戦略的な意味合いを見出しているのか。それぞれの政権に近いスピーカーがEASの在り方、各国にとっての外交戦略上の意義、問題点を議論。

15:40-16:40
中国(楊毅 国防大学戦略研究所前所長)
米国(パトリック・クローニン 新米国安全保障センター上級顧問、アジア太平洋安保プログラム上級ディレクター)
日本(柳澤協二 日本生命顧問、元内閣官房副長官補)

16:40-17:10
中国側コメント(李向陽 中国社会科学院アジア太平洋研究所所長)
米国側コメント(ケイ・シミズ コロンビア大学政治学部、ウェザーヘッド東アジア研究所助教授)
日本側コメント(渡部恒雄 東京財団上席研究員)

17:10-17:40 ディスカッション
17:40-17:50 シンポジウム総括 (黄平 中国社会科学院米国研究所所長)

18:30-20:00 レセプション 主催:東京財団