タイプ
レポート
日付
2012/8/29

開幕式(9:30-10:00)


1. 中国社会科学院 李楊副院長



 尊敬する河野先生様、尊敬する丹羽大使様、ご来賓の皆様、おはようございます。このすばらしい秋の季節に、中国社会科学院フォーラム「東アジアの新秩序構造と日米中関係」の開催にあたり、心よりお祝い申し上げます。
 私は中国社会科学院を代表いたしまして、中国、日本、アメリカからいらっしゃる皆様に対し、心より歓迎の意を表したいと思います。また今回のフォーラムの開催にあたって、いろいろとご尽力をいただいた東京財団、国際交流基金の皆様に対しても、心より感謝の意を表したいと思います。

 今回のフォーラム開催は、非常に適切な時期だというふうに思っております。現在、全世界の政治経済の構成が大きく変わろうとしています。東アジアの情勢も大きな変化が起きています。疑いなく、東アジアの新秩序の構築の過程は、日米中関係にもっとも重要な役割を果たす時期でもあります。

 したがって、日米中三カ国がお互いに連携を図り、調整を図ることはきわめて重要な意味があると思います。日米中三カ国は、世界でももっとも重要な経済体であり、その三カ国の経済の規模は全世界の40%程度を占めます。お互いに重要な経済的パートナーでもあり、お互いに人材、資金、情報などの交流も盛んに行われています。日米中関係は、東アジアのみならず、世界的にもきわめて重要な影響を及ぼしています。日米中関係の動きは、アジアの全体地域の変化、また世界の経済情勢の発展にも大きな影響を及ぼしています。

 それと同時に、日米中関係は非常に複雑な関係でもあります。東アジアは従来から大国の争う場でありますし、冷戦終了後、日米中三カ国のお互いの戦略的な関係がかなり変わりました。三カ国はお互いに新たな関係の構築に、いま努めております。とくに21世紀に入ってから、アメリカ発の金融危機以降、東アジア地域における経済の連携など相互依存がますます深まる中で、中国の台頭、それから海外進出の戦略の実施、また日本の正常な国の地位への追求など、東アジアの関係、構図が大きく変わろうとしています。

 こういう背景をもとに、三カ国の地域の秩序に対する構図、また自らの位置付け、さらにお互いに対する理解には、いろいろな食い違いもあります。政治、経済、軍事、文化などの分野においても、摩擦しながら調整し、また競争しながら連携、協力をするというような関係に、いまございます。

 日米中三カ国の東アジアにおける衝突もありますが、それと同時に、東アジアにおいて重要な戦略的な権益、また地域の安全、経済、貿易の協力などの分野においても、実は大きな協力、連携の可能性もひそんでおります。したがって、調整しながら、本格的な衝突ではなく、協力し合うということが東アジアにおける三カ国の関係の基本的な基調でもあります。

 中国にとってみれば、これから直面する大きなチャレンジは、国内経済、また社会の問題の解決であります。したがって中国の外交の基本的な重要な役割は、やはり中国の持続的な発展のための外部環境の構築であります。日米中三カ国の関係においては、また日米、中米、日中の関係も、この大きな戦略の枠組で考えるべきであります。

 中国政府は科学的な発展、それから調和のとれた社会というようなコンセプトの下で国を発展させていますが、これは将来においても他国に対する脅威にはならないものであります。日米中の関係に関して、恐らく重要な議論の課題として、以下のようなものがあります。

 まず1つ目が、お互いの戦略的な信頼関係の構築であります。戦略的な信頼関係は、これはバイ、またマルチの関係の維持の重要な保証にもなります。日米中の三カ国それぞれにとって、実は戦略的な利益の背景にちゃんとステークホルダーがあるわけです。したがって、お互いの本当の戦略的な協力により利益を拡大し、そのためには、それぞれのレベルにおける戦略的な対話を通じて相互信頼を増進する必要があります。

 2つ目としては、日米中三カ国のアンバランスな政治、安全保障の関係を是正すべきであります。近年では、日米の経済関係が二等辺三角形関係にあります。ただし、日米同盟により、実は不等辺の三角関係にいまなっております。したがってこれがいろいろと警戒感、また動揺しやすい懸念ももたらしています。私から見ますと、日米にとっては、やはり中国との関係をより冷静に見るべきだと思います。

 3つ目ですが、東アジアにおける地政学的な立場を調整し、また地域の安全、北東アジアにおける北朝鮮問題も含めて、さらに経済、エネルギー、食糧、テロ、アンチテロなどの非伝統的な安全協力を強化すべきだと思います。六者協議、東アジアフォーラム、サミット、APECなどの枠組で意思疎通と相互理解を図り、地域の安定、繁栄に努力すべきだと思います。

 4つ目ですが、ポスト金融危機の時期において、三カ国の相互補完性、経済の協力性のさらなる高度化を求めるべきであります。たとえばエネルギー、環境、循環型経済、バイオ、情報通信、ニューマテリアルなどの新しい産業の協力を強化し、金融の安全、自由貿易の促進などにおいても協力すべきだと思います。これは三カ国の経済成長を促進するもののみならず、地域の協力の促進にもつながると思います。

 5つ目ですが、危機管理の強化であります。北東アジア地域においては、安全情勢は非常に複雑な環境にあります。日米中の歴史的な問題もたくさんあります。したがって、対立を避けて、衝突を避けるべきであります。また突発事件の対応なども重要であります。お互いの協議によって争議を避け、また地域の安全、安定を求めるべきであります。
 6つ目ですが、人的な交流の強化であります。本日のような交流も非常に重要であります。お互いのより多くの国民が相互理解を深め、友情を深め、三カ国関係に関する国民ベースの、草の根のベースを固めるべきであります。

 皆様、今回のシンポジウムは3つのセッションがございまして、日米中の関係および東アジアの新秩序に関する議論になるわけですが、中に日米中研究の歴史、将来性、それから現状および展望、さらに将来の東アジアの協力の見通しであります。おのおののテーマがきわめて重要なテーマでありますので、専門家の皆様の議論を通じて、知恵を絞り、ぜひその目標に向かってお互いに協力して頑張っていきたいと思います。
 ご静聴ありがとうございました。


2. 河野洋平 前衆議院議長



  河野洋平でございます。尊敬する中国社会科学院副院長・李先生、尊敬するハーバード大学のボーゲル教授、在中国の日本大使・丹羽大使、ご出席の皆さん。ここに中国社会学院日本研究所30周年を記念したこうした会が開かれるにあたりまして、私のような者をお呼びいただきましたことを、心から光栄に思い、感謝をしております。

 お挨拶を申し上げます前に、まず最初に私は日本から出席をいたしましたものといたしまして、今年の3月11日に発生いたしました東日本大震災の際、中国から、そしてアメリカから大変多くのお見舞いをいただき、物心両面にわたりますご支援をいただきましたことを心からお礼を申し上げたいと存じます。アメリカから「トモダチ作戦」と称する、本当に友情溢れたご援助をいただきました。中国からいち早く大変多額のご支援、そして人的な支援を頂戴いたしました。心からお礼を申し上げたいと存じます。

 またその際に、大変残念なことでありますけれども、福島第一原子力発電所の事故によりまして、大気中あるいは海洋の汚染という、大量の放射能を放出いたしましたことで、多くのご心配、ご迷惑をおかけいたしましたことを、この機会にお詫びを申し上げたいと存じます。

 さて、今回のシンポジウムのテーマでございます、東アジアにおける日米中三国の関係について、少し申し上げたいと思います。私共の先輩で、1930年代に上海に駐在をして、西安事件などをスクープして、中国と大変縁の深かったジャーナリストで、松本重治さんという方がいらっしゃることは、研究者の方々はよくご存じだと思いますが、松本さんは生前、アジア・太平洋の平和と繁栄のためには、日米中の3カ国が良好な関係を構築することが何より重要だと、繰り返し述べておられます。松本さんの時代には、それは理想として語られていた面がありますけれども、中国がいま改革開放路線を採用して、目覚ましい発展を遂げて、世界第二の経済大国となった現在、日米中三国の相互依存関係の深まりは、動かしがたい現実になっておりまして、三国がさらに良好な関係を強固にしていく重要性は、ますます大きなものになっていると思います。

 ちなみに私の名前、河野洋平という名前は、太平洋上、波平らかなれといって、私の親が付けたものでございます。1937年に私は生まれまして、そういう名前をもらいましたけれども、残念なことに、37年以降は必ずしも太平洋上は波が平らかでなかったことを、まことに残念に思っております。それは余談でございますが。

 現在の中国の目覚ましい発展は、いまもお話がありましたように、新たな局面をもたらしております。たとえば我が国の一部には、こういうことを言う人がおります。中国は経済の躍進を背景に軍事力を強化して、その活動を活発化させている。たとえば航空母艦を手に入れた。さらに建造計画も進んでおる。こう言って、神経を尖らせている向きがあります。

 これに対して、恐らくアメリカもまた大きな関心を持っておられるに違いないと思います。これはアメリカがそこに大きな関心を寄せることは、日本もまた必然的にそうした問題に無関心ではいないわけでございまして、またマスメディアの一部にもそうしたことを大きく取り上げる部分もございます。

 そうしたメディアの取り上げ方に対して、いろいろな反応が出ておりますけれども、私は実はそういう見方をとりません。それは現実と違うだろうと、私はむしろ思っております
 先だってのアメリカのバイデン副大統領の訪中というものを見ましても、アメリカがいかに中国との関係を重要視しているかということは、疑いのないところのように私は思います。アメリカの最高首脳部は、中国と良い関係を結びたい。そう思っておられるでしょうし、アメリカの経済界もここに大きな期待を寄せていると思います。さらには一般国民の中にも、米中関係の将来について大きな期待を持っているというふうに私には思えます。

 それはもちろんアメリカの国防関係者、防衛政策の担当者の中には、違った意見を持つ人もおられるでしょう。こういうことはどこの国に行っても、イデオロギーの面で極端な主張をする人がいるわけでございまして、さまざまな異論が出てくることはあってしかたのないことだと思いますけれども、われわれはアメリカの主流は、良き米中関係を志向しているというふうに、しっかりと見きわめる必要があると思います。

 一方で、私は中国が国際社会の一部にある中国脅威論を積極的に打ち消すために、中国は覇権を求めるものではない。中国は決して覇権を求めるものではないということを、もっと繰り返し、もっと丁寧に説明をすべきではないかと思います。中国は覇権を求めていない。王道を歩むだけだという主張というのを、もっと丁寧に言葉で、あるいは行動ではっきりと示す。そういうメッセージをもっと効果的に打ち出すべきだと私は思うのです。

 一時期、中国の人民解放軍の幹部が外に向かって大変強硬な発言をされたことがあります。海洋権益など、中国が非常に強く主張するというような背景があったと思います。そしてまたこの海洋権益についての主張が、中国が他国の主張と見解が異なる。そういう場面において、たとえば中国の外交部の報道官がきわめて激しい口調で、こうしたことを言われたというのを私は見たり、聞いたりしたことがありますけれども、こうした主張は、あれでは中国は友人を減らすのではないかということを、私は心配しているわけでございます。

 もちろん人民解放軍など、軍関係者は常にそうした主張、そうしたマインドを持っておられるということはわかりますけれども、こうしたことは中国の政権がしっかりとコントロールする。こういうことができているはずだと思います。それは何も中国だけの問題ではなくて、アメリカの国防省の発言の中にもそうしたことがありますし、日本でも、たとえば『防衛白書』の中にあるさまざまな意見というものが、果たしてあれは日本の政府のどういう姿勢から来るものかということについて、しっかりと考える必要があると思うのです。

 しかし、いずれにせよ、そうしたことはそれぞれの国、中国、アメリカ、日本の政府が、あるいはそれぞれの政権が、しっかりとこの三国の関係について、良い関係を結ぶことがそれぞれの国益であり、またそれぞれの国が国際社会の平和と繁栄のために果たすべき重要な役割だということを認識する必要があるのだと思います。

 皆さんのように学術的な背景のある方々と違って、私は学問的な背景はありません。素人の1人、民間人の1人としてここで発言をさせていただいておりますから、ご無礼があったらお詫びをいたしますけれども、さらにもう少し乱暴に、個人的意見を申し上げさせていただくことをお許しいただくならば、最近のアメリカは、イラクやアフガニスタンからの撤退開始や、日本、ヨーロッパと共通する政府債務の累損問題、株価の下落など、1つの曲がり角を迎えているように見えるのです。それだけに、アメリカにとって、新しい時代に備えて、先ほど申しあげましたように、これまで以上に中国との関係を深めることが、どうしても必要になってくると思います。

 そして、その米中関係の整備は、世界経済の動向にも大きな影響をもたらすでしょうし、世界のこれからのいき方にも影響を与えることになると。それだけに、アメリカはさらに明確な形で中国ともっと協調して、世界のために動こうということをはっきりと世界に向けて発信すべきではないかというふうに思う。それはただ単に、アメリカが中国の経済力を少し貸せというのではなくて、明らかに世界全体の動向について、米中両国がお互いに責任を担おうということに他ならないと思うからであります。

 アメリカに対して、あるいは中国に対して、私は少し乱暴なことを申しました。しかし、それでは日本はどうかというと、日本もまた、いま極めて重要な場面を迎えております。政権が新しくなりました。新しい政権に対して国民の期待は非常に高いものがございます。世論調査の数字がそれを物語っています。しかしこの世論調査の数字は、必ずしもいまの政権の力に対する評価ではありません。これまでの混乱から抜け出したということに対する国民の安心感が、あの数字を示していると思うのです。まだまだ日本の政権はそれほど安心できる状況ではありませんが、しかし少なくともいままでよりは良くなるであろうと国民が期待をしているということはいえると思います。

 そこでわれわれはいったい中国との関係、アメリカとの関係の中で何をしなければならないかということを自らに問わなければならない。難しいことはたくさんあります。経済の問題もあるでしょうし、安全保障の問題もあります。しかし私は、日本のわれわれがまず日本にとって、自分たちにとってやらなければならない最初で、一番大きな問題は何かといえば、日本と中国との間の国民的な感情問題について、日本が持つ中国に対する不信感、嫌中感、そういう感情をはっきりと解消させるための努力をどうやってするか。そしてこれを解消させるべきだ。いや、それは100%というわけにはなかなかいかないでしょうから、もっともっと、いま以上に中国は信頼すべき相手だ、好ましい相手だ、将来を共にすることができる相手だということを国民が納得する。そういうことをわれわれは日本の国内でやっていかなければならないのではないかというふうに思うんです。

 いまの日本人の中国に対する意識の中には、たとえば率直に言って、年輩の方々、お年寄りの方々は、戦前へのノスタルジーみたいなものもあって、そういうものを持っておられるかもしれません。あるいはもう少し若い人になると、中国との間の経済的格差は自分たちのほうがはるかに優位であった。つまり日本が大変幸運に恵まれて、世界経済の中でグーッと成長したときには、中国はまだ改革開放政策の以前であって、むしろ自分で自分を縛って、言ってみれば、アイスホッケーのペナルティボックスに自分を入れていたような状況で、世界経済の中に非常に優位な立場に立っていた時のことを考えて、上から目線で、見下ろすような形で中国を見ていた、そういう感じが残っていて、いまはちょっと違うなと。中国が自分たちよりもはるかに勢いがあって、はるかに大きな経済力を持つようになったということについて、戸惑っている。そういうことがあると思うのですけれども、こういう戸惑いは、明らかに間違いです。明らかに説明をし、納得をさせて、正しい見方、正しい判断というものを持てば、日本人は冷静に、正しくものごとを判断する力がありますから、正しく判断しさえすれば、こうした問題は解決するはずだと私は思うのです。それ以外のさまざまな感情的な問題も、時間が経てば解決するよというのではなくて、もっと積極的に解決するための努力が必要なのではないかというふうに私は思っています。

 日米中三国は、環境を重視したクリーンな経済の実現を目指さなければなりません。日本が持つ経験と日本が持つ事実。こうしたものはでき得る限り提供する必要があるでしょう。また保有する金融資産の有効活用。これらについてももっと積極的であるべきだと私は思います。また一方で、高齢化社会に適me応できる社会保障制度の構築。これはアメリカも、中国も同じような問題を持っているわけですから、一緒にいろいろな研究をすることができるはずだと思います。

 こうした共通の課題というものを、お互いに研究をし合いながら、学び合いながら、すべて必要があると。中国が示された第12次5カ年計画ですか。あの5カ年計画を詳細に拝見してみると、私はこうした時代の要請に応えようとする意欲が、あの12.5にはあるように私は思えて、大変好感を持ってあの計画を拝見しました。1つのわれわれの努力目標と言いますか、研究材料としてまことにいいものではないかというふうに思います。

 素人の門外漢が勝手なことを申し上げました。本日のシンポジウムには、これからの日米中三国の関係を担って行かれる中堅、若手の方々も大勢参加しておられます。この機会に相互理解を深めて、次代の研究者、実務家のネットワークが出来上がっていきますことを心から期待をしたいと思います。最後に、このシンポジウムの開催にご尽力をいただきました、中国社会科学院、とくに日本研究部の皆さん、そして加藤理事長をはじめ東京財団の皆さん、国際交流基金、こういう方々に敬意を表し、シンポジウムが有意義な成果を収められますよう、お祈りを申し上げます。大変ご無礼を申し上げました。ありがとうございました。


3. 丹羽宇一郎 特命全権大使中華人民共和国駐箚



  尊敬する李楊・中国社会科学院副院長、尊敬するエズラ・ボーゲル・ハーバード大学教授、尊敬する河野洋平・元衆議院議長、ご来賓の皆様、こんにちは。中国社会科学院日本研究所設立30周年記念シンポジウムの開催にあたりまして、まず心からお祝いを申し上げたいと思います。私に与えられた時間は5分でございますので、その範囲内で終わるようにお話をしたいと思います。

 日本と中国は、すでに2000年以上の交流の歴史を持ちました。これから数千年間も一衣帯水の間柄にあり、習近平さんなど何回もお目もじをする機会がございますが、いつもおっしゃっているのが、一衣帯水の間柄にあって、引っ越すことのできない永遠の隣国であると。日本と中国は、争えばお互いに傷つき、和すれば双方がともに栄えるという関係だということでございます。仲良く協力する以外、選択の余地はございません。政党がどう替わろうと、首相が替わろうと、中国の外交に変化はないと、私はそう言い続けてきております。

 さて、両国がお互いに協力して、安定的な関係をつくっていくのは、言うまでもなく、さまざまな問題がございますが、両国民の間の相互理解、河野先生のおっしゃったような国民感情の改善というものが第一であり、不可欠であります。しかしながら、過去と現実を直視すれば、国と国とのおつき合いにはさまざまなルールが必要であり、多くの課題が残っております。

 そういう意味で、本日は時間の関係もありまして、国民の感情というものがどのように変化をしてきて、そしてこれからどのように改善をしていったらいいかという点に、私の体験を含めて、ここでお話をしたいと思います。

 最近のNPOの世論調査によりますと、両国の相手国に対する感情は、70~80%は悪化をしております。しかも嫌中であり、嫌日であります。やはりこの国民感情を改善するということは、あるいは両国が争えば傷が付き、和すれば共に栄えるという、言うは易く行うは難しであります、戦後60年以上、多くの方々の日中関係の努力がありました。国民の意識を変えるには、1世紀、100年はかかるだろうというふうにもいわれておりますが、やはりウサギではなく、カメの歩みをするべく、時間はかかりますが、両国民の接触、交流をあらゆる分野で継続、増やしていくことが、何よりも大切なことだということが、私は中国の全土をいま歩いておりますが、その中でひしひしと感ずることであります。

 つまり日本人、中国人に一度も会ったことのない人が、両国にはいまの時代ですら圧倒的に多いということでございます。ここにご出席の皆様方は、ほとんどそういう経験をお持ちでございます。要するに中国の方が日本人に会ったこともあるし、等身大の日本人をご存じだと。日本人の方も、中国人の等身大のいまの姿をご存じです。しかしながら、チベット、新疆ウイグル、内蒙古に、青海省へ、あるいは広西チワン族自治区に、本当に日本人に初めて会ったという方が非常に多いです。そういうことを考えますと、国民感情の改善というのがいかに難しいかということがわかります。

 小さな頃の学校、両親の話、まるで白のキャンバスに絵の具を最初に塗るのと同じで、この色はなかなか消えないということであります。しかも私の体験上申し上げましても、たとえば中国でやっておりますテレビの映画でも、何十年も前の日本軍の兵士、あるいは中国人の姿が毎日のように出てまいります。そういう放映の中で、いまの両国の等身大の姿といかにかけ離れた姿が、そういう小さな子どもたち、あるいは会ったこともない両国民の方々の感情に影響を与えていったということであります。

 ここにご出席の皆様方も、ご自分の小さな頃を思い出していただければ、小さなときの教育と両親の影響がいかに大きいかということがおわかりになるのではないかと思います。そういう中で育ってくる、あるいは青年期を迎え、働きに出るようになった若者たちの国民感情が変わるでしょうか。私は非常に難しいと思います。これから何千年と、われわれが、両国民が仲良く、安定した関係を保っていくためには、どうしてもそういった両国民の普通の国民のお互いの国に対する感情というものを改善をする努力が必要になるだろうと思います。

 そしてそのために、私は中国の全土を歩いてみようと。そして日本の等身大の姿というものを知ってもらう。中国の等身大の姿も、やはり日本人も知るべきである。そのためには、教育がいかに大事か。あるいは両国民がお互いにその姿を知ってもらうための努力をするということ、行動は何よりも大事であると。言葉だけでなく、何をするかというのが、いま真にわれわれに求められていることではないかと思います。

 そういう面も踏まえまして、中国社会科学院日本研究所が、これまで政治経済、文化、社会生活、多岐にわたって日本研究を通して、日中間の相互理解促進を展開されたことに対して深い敬意を表したいと思います。今回のシンポジウムには、日中両国の専門家に加えまして、アメリカの専門家の方々も参加しておられます。単に日本研究にとどまらず、東アジアの未来を考える上でも、日本、中国、アメリカの役割、あるいは三国間の関係について、政策論議だけでなく、国民感情まで捉えた深い議論が行われると承知しております。日本と中国の戦略的互恵関係。1972年以来、日中両国の外交指針である4つの共同声明、宣言、条約の精神を踏まえた基本方針であります。まさに日中両国が協力して東アジア、さらには世界の平和、繁栄のために協力していくことが主要なねらいとなっています。東アジアという大きな枠組のもとで、またこの地域に大きな影響を与えるアメリカの役割にも焦点を当てて議論が行われるということは、きわめて重要なものであると考えます。

 また参加者の皆さんは、北京での議論の後、日本に移動されて、東北地方を訪問されると承知しております。3月の東日本大震災には、中国、アメリカを含め、世界中から温かいご支援をいただきました。このご支援に対して改めて、大使として、日本国を代表して、皆さんにはお礼を申し上げるとともに、ぜひ震災から復活しつつある日本の姿もご覧をいただければと思うところでございます。

 最後に、シンポジウムの開催に尽力されました社会科学院と東京財団の関係者の皆様のご努力に、改めて敬意を表しますとともに、本日のご出席の皆様のご活躍をお祈りして、私のご挨拶といたします。ありがとうございました。