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タイプ
レポート

第37回「NATOと日本:日本は米欧同盟とどう協力していくか」

日時
2010/12/16  16:30~18:00 [終了しました]
場所
日本財団ビル1階 バウ・ルーム
担当
上村

NATOと日本:日本は米欧同盟とどう協力していくか


第37回東京財団フォーラムは、米国ジャーマン・マーシャル・ファンド(GMF)との共催による2日間のセミナーの一環として開催され、日本と北大西洋条約機構(NATO)の新しい形の協力関係をめぐって討論が行われた。NATOは2010年11月、世界中の国々との間でパートナーシップを拡大すべく新たなアプローチをまとめた「新戦略概念」を採択した。

12月16日に東京財団で開催されたフォーラムのスピーカーは、石井正文(外務省総合外交政策局)、ギレ・ヴァンダー・ギンスト(NATO本部)、鶴岡路人(防衛省防衛研究所)、フィリップ・スティーブンズ (フィナンシャル・タイムズ)、クレイグ・ケネディ(GMF会長)の各氏。東京財団の渡部恒雄上席研究員がモデレーターを務めた。以下は各スピーカーの発言と質疑応答の概要。


加藤秀樹 東京財団理事長
多くの日本人にとって北大西洋ははるか遠い存在に見えるだろう。日本と太平洋地域との間に比べれば、それほど交流があるわけでもない。そのような中で、NATOは先月(11月)開催したリスボンでの首脳会合で「新戦略概念」を発表、その中で、テロ、環境、感染症などの地球規模の課題に対する方針や、日本を含む加盟国以外の新たなパートナーとの連携を打ち出した。

日本も、国際社会において果たすべき役割について考えていかなければならない。これまで世界第2位の国内総生産(GDP)を誇ってきたが、いまや中国に追い越されようとしている。過去の成功の記憶にいつまでも浸るべきではなく、その意味でNATOのこのたびの構想は国際社会での新たな役割を模索する日本にとっても非常に重要であると言える。

何といってもNATO最大の加盟国である米国は、日本にとって最も重要なパートナーであり、その意味ではNATOはそれほど遠い存在ではない。米国のジャーマン・マーシャル・ファンドと共催する今回の東京財団フォーラムが、米欧同盟と日本との新しい協力の形を考える機会となれば幸いである。


石井正文 外務省総合政策局審議官
加藤理事長が触れたように、国際社会における日本の役割は変化しつつある。かつては15%だった日本の対世界GDPは、いまや8.5%である。国連への拠出額も、全体の20%を占めていたのが、今では12%に低下、間もなくドイツと同程度になるかも知れない。

こうした中で、日本はどのように世界と関わっていくべきだろうか。これはまさに時宜を得たテーマである。NATOの「新戦略概念」は、日本、韓国、オーストラリアといった非加盟国とのパートナーシップの拡大を求めている。日本も、明日発表する新防衛大綱の中で、韓国やオーストラリア、インド、インドネシアなど、価値観を同じくする国々とのネットワーク強化を呼びかけているが、NATOは、我が国と基本的な価値観を共有する最大のグループである。

NATOは新戦略概念の起草に先立ち、日本の当局者と意見交換を行ったが、こうしたやりとりは今後も続いていくだろう。今後日本とNATOによる意見交換をすべき分野としては、ロシア、中国、そしてテロ対策や脆弱国家の問題を抱える戦後のアフガニスタン、の3つがある。

ロシアは欧州とアジアにまたがる大国であり、ロ欧間対話は、常にロシアとアジアの関係に強い影響を及ぼしてきた。ミサイル防衛が良い例である。また、仮にロシアのミサイルが欧州側から撤去されたとしても、それがアジア側に再配備されてしまえば、安全保障に寄与したことにはならない。

また、中国は目覚しい成長を続けており、日本は中国との間で平和と繁栄の構築を模索しなければならない。これはアジアだけの課題ではなく、欧州の課題でもある。なぜなら、中国と欧州の関係にいかなる展開があったとしても、それは明らかに日中関係にも大きなインパクトを与えるからである。

アフガニスタンの戦後の課題に関して、NATOは「新戦略概念」第20項で、「危機や紛争が、国境を越えてNATO加盟国の国土や国民に直接的な脅威を与える可能性がある。その場合にNATOは、必要な時、可能な場所において、危機を防止し、危機に対処し、紛争後の安定化と復興に関与する」としている。もし、アフガニスタンでテロリストの掃討に成功すれば、テロリストは、次にはスーダンのような別の脆弱国に移動する可能性がある。こうした事態は、状況が過度に複雑化する前に防がなければならないが、予防のための活動は日本が貢献できる分野といえよう。


鶴岡路人 防衛研究所教官
日本とNATOは、地理的に見れば遠く離れている。どちらか一方が紛争に巻き込まれたからといって、もう一方が助けに向かうということは考えにくいかもしれない。ではなぜ、協力関係を築く必要があるのだろうか。日本が現在直面している安全保障上の問題のほとんどは、実際に紛争が起きる前に対処しなければならないものであり、このことがNATOとの共通の関心事となっているのである。

日本はNATO主導の作戦に直接の軍事的貢献はできないかもしれないが、それでもNATOは日本として「使い出」のある極めて優れた枠組だといえる。日本にとってNATOが重要性を秘めているのにはいくつかの理由がある。NATOは、基本的な価値観を共有する政治的パートナーであると同時に、作戦上のパートナーであり、また、日米協力の別の側面であり、さらに多国間協力のモデルでもある。

作戦上の関係を結ぶことは非常に困難だが警察を含む文民面の協力など、現状において可能な分野もある。また、自衛隊のアフガニスタンへの派遣もしばしば言及されているが、もしそれが実現する場合には、日々の安全情報の提供や非常事態時の支援等において、日本はNATOに依存せざるを得ない。日本が世界中のすべての安全保障上の課題に対して、独力で立ち向かうことはできない以上、志を同じくするパートナーと協力する必要があるのである。

NATOは、何十年にもわたって多国間ベースで安全保障の問題に取り組んでおり、相互運用や多国間のプラニングや作戦遂行に関する実績の豊富な蓄積もある。日本が自衛隊を海外に派遣するとなれば多国間協力の枠組みが前提となるが、多国間枠組の中で他国とどう協力を進めればよいか等について日本はNATOから多くのことを学べる可能性がある。

協力分野について石井審議官が指摘した点にもう一つ付け加えたいのが、抑止である。核の要素を含む拡大抑止の信頼性を維持する観点からも、NATOとの対話はますます重要になりつつある。特に、核兵器の役割とミサイル防衛の関係については、米国と米国の同盟国の間で幅広く議論する必要がある。NATOでは、抑止態勢に関する新たなレビューのプロセスが開始されようとしている。こうした問題は、各国が個別に考えるのではなく、互いの知恵を共有することが重要だ。


ギレ・ヴァンダー・ギンスト NATOグローバルパートナーセクション各国担当責任者
私はNATO本部のグローバルパートナーシップセクションに所属しており、そこで担当している国の一つが日本である。NATOの「新戦略概念」は、主に三つの考え方に基づいている。一つ目は、我々はもはや冷戦時代の組織ではなく、その役割を定義する新たな概念を必要としているということである。1999年時点の加盟国は16カ国だったが、現在までに12カ国が新たに加わった。我々は自国の領土の域外で二つの大規模な作戦を行ってきている。コソボとアフガニスタンである。

新概念は、安全保障環境の変化を反映したものとなっている。現在、従来型の脅威のリスクは低下しているが、核兵器の拡散、エネルギー安全保障、サイバーセキュリティといった分野で、新たな安全保障上の課題に直面している。このような新たな脅威はグローバルな性質を持っており、従来の国境線は意味をなさない。従って、NATOの域外で発生した脅威が、域内に広がり不安定化させることもあり得る。

我々は、NATOの役割について誤解を払拭したいと思っている。NATOはグローバルに展開しようとしているわけでも、国連と競合しようとしているわけでもなく、世界の警察官になるつもりもない。グローバルな脅威にさらされている世界で、日本のようなパートナーと協力して、グローバルな対話と解決を求めているだけである。

我々の二つ目の使命は、人道的危機を含むあらゆる段階の危機管理に関するものである。アフガニスタンの例にみられるように、軍事的なアプローチが常にうまくいくとは限らないため、我々はパートナーと協力してやり方を修正して、可能な限り危機を回避していこうと考えている。

三つ目の使命は、国際的な安全保障を強化することである。この10年で日本との協力関係はかなり拡大した。正式な協定は結んでいないものの、日本は事実上のパートナーとなっている。政治対話も行われており、現に、最近も石井氏がNATO本部を訪れて意見を交換してくれた。我々はいくつもの場面で協力しており、災害救助などで共同作業プログラムや共同訓練を実施している。我々は、NATOの戦略概念に従って行動するというよりも、現状に合わせて戦略概念を調整している。


フィリップ・スティーブンズ 『フィナンシャル・タイムズ』副編集長
私は新聞のコラムニストで専門家ではないため、なぜ日本とNATO、さらにはEUとのパートナーシップが発展しつつあるのか、そのあたりの背景について少し述べたいと思う。

これに関しては明らかな理由がある。例えば、世界の動きは加速している。我々が話しているのは、まだまだ先の2020年や2030年、2040年に起こるかもしれない激変についてではない。今起こっていることである。我々は多極化 ―必ずしも多国間化ではない― が進む世界の中で、こうした事態に対処できるような新たなシステムを必要としている。我々は、日本は西側の一員に属すというような、第二次世界戦後のシステムのままで未だに活動している。このシステムでは、新興国家に対応することができないだろう。

アジアの新興国の多くは、責任感を培う前に力をつけてしまったという傾向にある。これらの国々はどのようなルールに従うべきか、よくわかっていないし、こうしたことから、我々は過渡的な世界に生きていると言える。歴史を見るとわかるように、これは非常に危険な状態であり、このような時期に戦争が発生することが多い。安全保障政策を束ねるのは、パートナーシップと協力でなければならない。

新たに生まれる秩序は、中国のみならずインド、ブラジル、インドネシアといった新たなプレイヤーを組み込んだものでなければならない。そのために国際体制の中である程度の競争が生じるだろうが、それを抑え込むのではなく、プラスの方向に持っていくべきである。米欧諸国の利害に偏狭的にこだわり、「西側対その他の国々」あるいは「民主主義対独裁政治」といった視点で状況をとらえてはならない。それはゼロサムゲームの考え方である。新たな秩序は、台頭する勢力を責任あるステークホールダー(利害関係国)として国際システムに招き入れ、開放性を増すようなものにすべきである。これは我々の価値観や制度を捨てるという意味ではない。多極化が進む状況に合わせ、多国間協調主義の体制を発展させることを目指すべきなのである。

忘れてならないのは、米国が要であることに変わりはないということである。ウィキリークスによる機密の公電のリークの際には、米国の役割について多くの議論が巻き起こった。恥ずかしい事態ではあったが、個人的には、いくつかの公電を例外として、これらのリークは米国にはむしろよかったのではないかと思う。グローバルコモンズ(世界の共有財)を守るために手を尽くす政府の姿を浮かび上がらせたからである。

NATOは、安全保障は分割できないものだということを認識しつつある。実空間とサイバー空間のように、至るところでつながっている。欧州の人々は北朝鮮にあまり注意を払わないが、イランには注意を払う。この両国の動きには大きな関連性がある。NATOと日本のパートナーシップは、世界の新たな体制への移行をスムーズにするために不可欠なものである。

そのような体制の構築に関して、私は二つの点を大きく懸念している。一つ目は、新興国家がその責任を自覚しようとしないこと、二つ目は欧州や日本、その他の諸国が現状に満足してしまうことである。外から見れば、日本は首相のチェンジよりも国際環境のチェンジに対応するためにエネルギーを使った方が、より生産的だろうと思われる。


クレイグ・ケネディ GMF(ジャーマン・マーシャル・ファンド)会長
GMFのような米欧間の大西洋地域の組織が、東京で一体何をしているのか。これはつながりを築き、協力して世界規模の課題に取り組む大きな機会であるというのがその答えである。他のパネリストの方々がすでに主な理由について述べているので、私はいくつか付け加えるにとどめる。

日本とNATO、あるいは日本とEUの間に強い関係を構築することが、これまで難しかったのはなぜだろうか。

そこには多くの障壁があるが、第一にあげられるのは、日本側の障壁である。日本の国民も政治家も、既に米国と安全保障の同盟を結んでいるのに、どうしてこれ以上必要なのかと感じている。既に十分面倒なことになっているではないか。なぜ新たな同盟に加わって、さらに多くの要求にさらされ、多くの決断が必要な状況に巻き込まれなければならないのか。

そうした疑問に対して私は、欧州と連携することによって可能性を広げ、政治的な影響力を強め、国際的な場での正統性を高めることができるからだと答える。欧州の世界観は、日本の考え方と共存できるものである。米国政府の優先事項や関心事項が変化していく中で、欧州におけるNATOまたは個々の加盟国に関係を広げることは、一種の保険になる。

二つ目の障壁は、欧州側にある。欧州の方でも、ただでさえ域内で多くの経済問題や安全保障上の課題を抱えているのに、なぜアジアに関わり合う必要があるのだろうかと思っている。さらに世界のこの地域で、特に中国に関して、何を望んでいるのか意見が統一されていない。我々は、協調と協力についての意識を深める必要があるだろう。

三つ目の障壁は、米国にある。米国は、日本における欧州の役割が拡大すれば、状況が複雑になるだけだと考えている。現在米国は優先事項のバランスを見直しており、重点を欧州およびEUの機構からアジアに移そうとしている。

四つ目の障壁は、ロシアも中国も、NATOと日本および他のアジア諸国との協力が強化されることを歓迎しないということにある。従って我々は、信頼を築き、我々が脅威ではないことを示して両国を安心させる方法を見出す必要がある。

五つ目として技術的な障壁が存在する。それは、日本が開発援助やサイバー空間の脅威といった共通の問題への取り組みにおいて、NATOと協調するように引き込むことができるような明確な根拠が、今のところ見当たらないということである。

我々は、大西洋地域諸国と日本のパートナーシップを強化することに非常に大きな可能性があると考え、日本との対話を続けたいと考えている。しかし、本腰を入れて取り組む前に、克服しなければならない課題もあるということを認識すべきであろう。

<質疑応答>

― ロシアは現在NATOに加盟していない。もしロシアが加盟するようなことになれば、日本がNATOと連携するためには、ロシアとの平和条約が必要になるだろう。外務省では、NATOに対し、北方領土問題に関する決議の採択と平和条約を加盟の条件とするよう求めることを検討したことはあるか。

石井 NATOとロシアがそう簡単に接近することはないだろう。これは日本が二国間で解決しなければならない問題であり、NATOに助けを求めるべきではない。

― アフガニスタン問題への取り組みにおいて、パキスタンが鍵を握っているように思われる。どのようにしてパキスタンをNATOのグローバル戦略に組み込むのか。

ヴァンダー・ギンスト パキスタン当局との話し合いでは、常に意見が一致するわけではないが、我々は彼らの立場を理解しなければならない。我々は政治対話の場を設けて我々の方針をよく説明する必要があるが、意見が゙異なる点に関しては率直に認めなければならない。パキスタンは民主主義国家であり、治安状況の改善にも果敢に取り組み、ある程度の成果を上げているが、我々は自らの立場をよく説明し、何に取り組み、何に取り組まないのかをはっきり説明する必要がある。

石井 状況を大局的に検討することは重要だが、パキスタンに関しては個別に対応することも必要である。例えば、同国は核兵器を保有しているため、核拡散の問題とも関係してくる。パキスタンはアフガニスタンの安定にとって重要な要素だが、同時に、同国そのものが重要な存在である。

― NATOのねらいは、パートナーシップを構築して中国とロシアを包囲することにあるようだが。

ヴァンダー・ギンスト それは違う。我々が求めているのは同盟ではなくパートナーシップだ。中国やロシア、あるいは上海協力機構に対する封じ込め策を進めようとしているわけではない。

石井 同盟関係は重要だが、二国間の枠組を設けるだけでなく、ネットワークも構築したい。我々は中国やインドとも共存したいと考えている。何者も排除するつもりはない。いつでも中国と連携する用意はある。上海協力機構もそのようなネットワークであり、東アジアサミットはネットワークの好例である。

渡部 これは巧みな「挑発的な質問」といっていいかもしれない。忘れてならない大事なことは、我々はもはや力の均衡に基づく古い考え方に従って行動しているのではなく、新たなアプローチを模索しているのだということである。封じ込め策は、もはや現実味のある選択肢ではない。これは今日の討議の焦点である。

― NATOはもはや冷戦時代の組織ではないという発言があったが、そう確信できない人々もいる。東欧の新加盟国は、ロシアとの協力を拡大することについて、どのように感じているのか。NATOは、核兵器が存在する限り保有し続けることを確認しており、その意味で、NATOは核同盟であり続けることになる。今後10年間のNATOの戦略において、戦略的・戦術的核兵器は、どのように位置づけられるのか。

ヴァンダー・ギンスト ロシアとの協力をめぐっては、特にミサイル防衛に関して、NATO内部でもかなり意見が分かれている。私は、NATOは核のない世界を目指しているということを強調したい。全加盟国が拡不拡散体制に参加している。

スティーブンズ 欧州の歴史を振り返ると、国境紛争やその他の紛争が発生して非難の応酬が始まると、行き着くところは食うか食われるかのゼロサムゲームである。これは非常に危険な状況である。政治協力のしっかりした枠組が必要な理由はそこにある。