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明治150年を展望する:第4回「『明治150年』のなかの『平成30年』」

June 1, 2018

※本稿は2018年1月30日に開催した政治外交検証研究会の議論、出席者による論考をもとに東京財団政策研究所が構成・編集したものです。

第4回:「明治150年」のなかの「平成30年」

国際環境の変動と日本政治

細谷 小宮さんには、日本の近現代史のなかでメディアが政治とどう関わってきたのかを、やや厳しい言葉も含めてご指摘いただきました。

また、五百旗頭さん、小宮さんのお二人とも、150年を戦前と戦後の二つに分けたときに、通奏低音のように続いている共通点と、一方で戦争を契機に大きく転換した点を対照的に鮮やかに描いていただきました。

では、宮城さんには「平成30年」にまで及ぶ議論をお願いします。

宮城 私は二つの観点を軸に、「明治150年」と「平成30年」を考察してみます。一つは国際環境と日本の国内政治、もう一つは日本とアジアです。

国際環境と日本の国内政治という観点から「150年」を巨視的に見ると、幕末の日本を襲った黒船来港(1853年)など「西洋の衝撃」と明治維新、1920年代のワシントン体制と政党政治の安定、つづく30年代における国際秩序の不安定化と日本国内における「革新勢力」の台頭、と日本の国内政治体制は、その時どきの国際秩序の変動から決定的ともいえる影響を受けつつ変容を遂げてきたことがわかります。

第二次世界大戦後に定着した「55年体制」も、世界的なイデオロギー対立と冷戦という固定的な国際環境を反映して成立したものでした。

そして冷戦後です。「平成の30年」は国内政治においては連立再編と政権交代の時代でした。その間の変化を注意深く見てみると、1990年代におけるPKO法案成立と社公民ブロックの解体、第一次北朝鮮核危機と細川護煕・羽田孜の非自民連立政権の動揺、自社さ連立政権の分解と沖縄基地問題、ガイドライン関連法と自公政権の成立など、憲法とも絡む安全保障問題は冷戦後日本政治を基底で左右する課題であったことが窺われます。

また、55年体制崩壊後の日本政治におけるひとつの課題は、二大政党が志向されるなか、社会党衰退後の空白を、どのような政治勢力が埋めるのかという点にありましたが、そこでも安全保障政策は重要な論点でした。新進党は安全保障面において自民党以上に「現実的」な路線を志向し、これに対して民主党には有事駐留論や東アジア共同体への関心も垣間見えました。このような水脈を踏まえてみれば、今後の野党再編においても安全保障問題は重要な鍵になるのはある種当然のことといえるでしょう。

さらにいえば、アメリカの「自国第一」はドナルド・トランプ政権固有のものなのか、あるいは中長期的な潮流なのか、そのようなアメリカの動向とも関連する北朝鮮問題や米中関係の行方など、日本を取り巻く国際環境には、大きな変化がありえます。それは今後の日本の国内政治の展開に対して、相当程度、決定的な影響を及ぼすことになるでしょう。

アジアで「唯一」から「有力な一国」へ

細谷 二つめの日本とアジアという観点ではどういうことが言えますか。

宮城 明治以降の日本の歩みとは、「脱亜入欧」を実質化するかのように、非西洋で唯一列強の座にのぼり詰め、東アジアにおける伝統的な中国中心の朝貢体制を解体して日本自身が植民地帝国を築くことになりました。

戦後においても日本はアジアの混乱と停滞を傍目に、先進国の座を目指して邁進しつづけました。「世界第二の経済大国」と並んで、「アジアで唯一の」という枕詞は、比較的近年に至るまで戦後日本のアイデンティティを成したといえるでしょう。

ところが、中国をはじめ近年のアジア諸国の経済的成長は著しく、もはや日本がアジアで群を抜いた時代は過去のものとなりました。これを日本の没落であると嘆くのは一面的です。日本は依然として世界有数の経済規模と生活水準を誇るのであり、その日本がアジアで「断トツ」でなくなったのは、アジアが広く「面」として発展しているからにほかなりません。成長著しいアジアの活力を取り込むことは、日本にとって計り知れないほどのチャンスでもあるのです。

このような意味で「平成の30年」とは、明治以降の日本が歩んだアジアから抜け出し、群を抜いて発展を遂げた歴史から、発展を遂げたアジアにおける有力な一国としてその存在を相対化させる道程であったともいえるでしょう。

それを悲観的にとらえる必要がないのは先に述べたとおりですが、その一方で日本世論の心情からすれば、それを「日本の没落」と見なし、複雑な心境を抱きがちになることも、ある程度当然かもしれません。そのような難しい心理的調整を穏当なものとするうえで、政治指導は相当程度決定的でしょう。

とりわけ日本は近隣アジア諸国と歴史、領土問題を抱えており、それが発火点となって日本と相手国相互のナショナリズム感情が顕在化すると、厄介な問題となりかねません。ここでも政治の舵取りがきわめて重要です。

ただ、これらの問題は当事者にとっては重要であるものの、第三国にとっては無関係であることに留意すべきです。靖国神社や尖閣諸島の問題は、アメリカにとっては自分の問題ではないことが落とし穴です。

★続きはこちらから⇒ 第5回: 世界史と日本史のサイクル

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