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連載コラム「税の交差点」第5回:AI(人工知能)と資産課税 

February 20, 2017

人工知能(AI)に関する報道が連日マスメディアにあふれている。昨年11月には、日本人研究者の開発した囲碁ソフト「DeepZenGo」が、趙治勲名誉名人と対局し、敗れはしたがプロ棋士からはじめての1勝を挙げた。これは、米グーグルの子会社が開発し韓国のプロ棋士イ・セドル氏を破ったAlphaGo(アルファ碁)とは異なるが、わが国においても、AI,ディープラーニング(深層学習)の発達が進んでいることを認識させるには十分な出来事であった。AIの学習がますます進化し、医療・介護、自動車の自動操縦など経済社会のあらゆる分野に活用され、飛躍的な生産性の向上をもたらす第4次産業革命が成功し、バラ色の現実が見えてきたと考えるべきなのだろうか。

しかし一方では、野村総研と英オックスフォード大学マイケル・A・オズボーン准教授の共同研究に見られるように、AIの発達により、日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替される可能性が高い、というセンセーショナルな予測も公表されている(詳しくは、「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」をご参照ください)。国・地方の行政職員、スーパー店員、生産現場事務員、ビル清掃員、保険事務員などは高い確率(66%以上)でコンピューターに代替されるという。医者、弁護士、大学教授もその例外ではないようだ。

筆者の問題意識は、そうなった場合の経済社会の姿、つまり大量に職を失った人たちはどうやって生活していくのかということに思いを致し、それへの対応をあらかじめ考えておく必要があるのではないか、というものである。

たとえAIの活用により生産性は高まったとしても、経済が持続するためには消費する恒常的な購買力が必要となる。半数近くの労働者が失業・低賃金の世界でそれは期待できるのか。はなやかな第4次産業革命の負の影響を考慮した対策を検討しておく必要がある。

一部の経済学者はその対策として、昨年9月号で紹介した、国家が無条件に(勤労や所得・資産の多寡にかかわらず)最低限の生活を保障するための給付、つまりベーシックインカムの導入を提言している。しかし一人当たり年間100万円(月8万円)配るには120兆円の財源が必要になる。今日の税収が50兆円そこそこなのに、どこからどうやって調達するというのであろうか。

AIを使いこなす人の所得やAIを活用して業績を上げる法人から課税すればよいという意見が多いが、彼らに高税率で課税することは容易ではない。個人も法人も、グローバルな資金移動の中で容易にタックスヘイブンなどへ資金移動してしまうだろう。

そこで筆者は、AIが生み出す付加価値の源である「無形資産」に適切な課税を行うことが重要だと考えている。AIを活用して生み出される付加価値の根源は、特許や商標、ノウハウなどの無形資産なので、ここに課税することが最も効率的である。

具体的な課税の方法としては、イスラエルが参考になる。イスラエルでは、リスクの高い革新的な技術アイデアを持つ企業のスタートアップ支援として、国が税金で補助する代わりに、成功した場合には収益の3-5%のロイヤルティーを持つという制度が存在する。国が「無形資産」への持ち分を持つのである。

わが国でも、国はAI関連の研究に国費を投入し研究開発に補助したり減税を行っている。そこで、そこから生み出された「無形資産」の所有権の一部を国が持ち、AIが生み出す付加価値を、ロイヤルティーとして回収する仕組みを考えておくことが考えられる。これを財源として、AI社会に落ちこぼれないような教育の整備、最低限のセフティーネットの完備などを行っていくのである。

国民の半分が失業するような社会をもたらすAIの発達には、だれも賛同しないはずだ。

(2017年1月号『月刊資本市場』連載「明日へのかけ橋」(82話)より転載)

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