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政策対話レポート「日米の経済政策と税制改革」

September 11, 2017

日米両国の経済学者が登壇する政策対話「日米の経済政策と税制改革」が2017年8月2日に東京財団で開催された。このレポートでは、主に米国の税制改革に焦点を当てて議事概要を報告する。

PDF版はこちら(2.3MB)


東京財団主催政策対話「日米の経済政策と税制改革」開催概要
開催日:2017年8月2日(水)
進行概要:
  基調講演「米国における税制改革~課題と展望」
      アラン・オーバック(カリフォルニア大学バークレー校教授)
   パネルディスカッション「日米の税制改革について」
   パネリスト(順不同):
      アラン・オーバック(カリフォルニア大学バークレー校教授)
      デービッド・ワインスタイン(コロンビア大学教授)
      アニル・カシャップ(シカゴ大学教授)
      佐藤主光(一橋大学教授、東京財団「税・社会保障調査会」メンバー)
      森信茂樹(東京財団上席研究員、「税・社会保障調査会」座長)
      <モデレーター>星 岳雄(東京財団理事長)


各登壇者の発表概要は以下の通りである。

Alan Auerbach, Robert D. Burch Professor of Economics and Law, University of California, Berkeley

「米国における税制改革~課題と展望」 (“US Tax Reform: Prospects and Roadblocks”)
アラン・オーバック(カリフォルニア大学バークレー校教授)
→ 当日の発表資料をみる

●   トランプ政権が今年6月に公表した税制改革案は、所得税最高税率を現行の39.6%から35%に引き下げる、法人税率を35%から15%に引き下げ、個人の事業所得税率を39.6%から15%へ引き下げる、全世界課税方式から国外所得免除方式に転換する、相続税を廃止する、個人の様々な所得控除を廃止するという内容である。この案には、共和党で議論されてきた国境調整キャッシュフロー税(以下、DBCFT)は含まれなかった。

●   しかし、米国では、DBCFTが重要な政策案件である。なぜならば、法人税の課税ベースがキャッシュフローになるので、投資が減価償却に変えて即時全額経費化されること、利子控除を排除することができること、全世界課税方式の下で海外に利益を留保するという企業行動を防ぎ、税による内外立地の有利・不利がなくなることなどのメリットがあるからである。この税制は、控除方式の付加価値税(以下、VAT)と賃金控除(社会保険税の税額控除)の組み合わせと同じことで、米国ではVATを採用することが難しく、その代替という意味合いもある。

●   最近、米国企業が海外に持つ資産のうちに占める無形資産(IP)の割合が拡大し、同時にそこから上がる収益の割合も急速に増えている。また、IT産業は製造業と異なり、簡単にロケーションを移動させることができる。つまり、高率の法人税率を持ち全世界課税方式の現行税制の下では、米国企業はコーポレートインバージョンによる税負担軽減行動をとるなど、国内に利益を還流しないというロックアウト現象が生じている。

●   DBCFTは、そのような課題を解決する代替案である。利益や製造拠点の国外移転、コーポレートインバージョンやロックアウト効果の防止に役立つ。

●   一方で問題もある。導入に伴う為替の変化により効果が相殺されるのではないか、利子控除ができなくなることで特定の産業に影響が出るのではないかという問題である。また国際的な影響として、利益や生産が海外から米国にシフトすることへの海外の懸念が生じること、EUからWTOルールとの整合性の問題が提起されることなどがあり、また、為替への変動が予想されるので金融界もネガティブである。

●   そこで6月27日に公表された政権案では、DBCFTは見送られた。一方、利子控除については何も言及されていない。これは、政権内部の混乱や中身を吟味する時間がなく、準備不足により頓挫したといえよう。

●   この税制の導入により、相当の財源が得られる(増税)予定であったが、それがなくなるので、公約通り法人税率を引下げると大幅な財政赤字をもたらす。税制改革は規模が小さく、さらには時限的なものになる可能性がある。大きな税制改革はできないといえよう。

●   2018年に控える中間選挙の結果次第では、税制改革ではなく、保護主義的な関税措置になる可能性も排除できない。

Alan Auerbach, Robert D. Burch Professor of Economics and Law, University of California, Berkeley

「わが国における所得税制の課題」(“Issues of Japanese Income Tax”)
森信茂樹(東京財団上席研究員/税・社会保障調査会座長)
→ 当日の発表資料をみる

わが国の所得税の課税ベースを米国と比較すると、半分程度と小さいことがわかる。これが所得税の再分配機能を弱め、中間層の二極分化をもたらしている。わが国の所得税の課税ベースを小さくしている最大の原因は、年金への課税が極めて弱いことである。具体的には、積立時・運用時非課税、給付時公的年金等控除により大部分が非課税と、優遇された税制になっている。米国は積立時の控除(社会保険料控除)がなく、その分課税ベースが広い。これを是正することが世代内・世代間の負担の公平性につながる。

「わが国の法人税制の課題」(“Corporate income tax reform in Japan”)
佐藤主光(一橋大学教授、税・社会保障調査会メンバー)
→ 当日の発表資料をみる

わが国の法人税は新たな経済環境に直面している。具体的には、経済のグローバル化に伴い国際的租税競争(企業・利益の誘致合戦)が激化していることである。政府は、法人税率を30%以下に下げてきたが、実効税率を高めてきたのは地方法人二税であり、その見直しは必須である。法人税減税と合わせて外形標準課税が強化されているが、同じ付加価値税でも消費税に比して歪みが大きく、むしろ地方消費税化することが望ましい。研究開発税制についても、その効果を検証することが求められよう。トランプ税制は、法人税の抜本的な改革を求めていた。日本でも法人税の「キャッシュフロー税化」(およびその税等価)を含めた課税ベースの見直しを考える時期に来ているのではないだろうか。

このほか米国側のパネリストからは、米国の経済政策と税制改革の現状について、下記の通り発表があった。

アニル・カシャップ(シカゴ大学教授)
現行政権は混乱している。包括的な税制改革を行うには、ホワイトハウスのスタッフが不足しており、議会とのやり取りが十分に行える状況ではない。したがって、税制改革の内容は、代替ミニマム税の廃止や減税など単発的なものになるのではないか。

デービッド・ワインスタイン(コロンビア大学教授)
政権は混乱しており、米国経済界の税制改革に対する不確実性は高まっている。国境調整税(DBCFT)は、輸入産業に大きな打撃を与えるとともに輸出産業に大きなメリットが生じる。このインパクトは、時間をかけて為替で調整されるだろうが、それが3年か、5年か、10年か、このあたりがわからないので、不確実性が高くなっている。

続いて質疑応答に移り、活発な議論がなされた。

20%の国境調整税を導入すると25%の為替変動が生じて効果を相殺するということをおっしゃっていたようだが、実際に起こるのかとの質問には、オーバック教授は、「国境調整税を入れた場合、それに伴う為替調整が生じることはエコノミストの間でコンセンサスがある。しかしそれがどの程度の期間に生じるのかはいろいろな見方がある。自分は、3年から5年よりは早く生じると考えている」と述べた。

また、トランプ税制改革において、財政責任という要素はどの程度重要視されているのか、減税をする場合、優遇税制を廃止したりして税収中立で行うという考え方があるのかとの質問に、教授は、「なかなか難しいというのが自分の見解。税率を引き下げて、減税分を優遇措置の廃止ですべてカバーするという方法は見つからないのでは。2018年には中間選挙があり、ティーパーティーの支援を受ける議員は財政赤字の拡大を批判するだろうが、それが全体に広がるとは思えない」と答えた。

トランプ大統領の保護主義的な政策に対する米国議会の反応に関する質問では、ワインシュタイン教授が、「共和党議員はもともと自由貿易主義者が多い。しかし一方で、日米の貿易摩擦問題が生じたのは共和党政権の時である。したがって、トランプが保護主義を打ち出した際、共和党議員が本当に反対するかどうかはわからない」と語った。

対話を終えて、米国の税制改革の主要人物であるオーバック教授らとの議論を通じて痛感したことは、国境調整(輸入時課税、輸出時免税)を行うためには、それなりの仕組みが必要だということである。日本の消費税は、輸入・輸出を許可制にして税関で手間暇をかけて課税や輸出還付という国境調整を行っているが、米国がDBCFTを実行するなら、日本のような仕組みが必要ではないか。
米国民の理解を得るためには、この税制により、税負担がどのように消費者や事業者に配分されていくかについての説明が重要ではないか。DBCFTが消費課税である以上、税負担がスムーズに次の取引段階に転嫁されて、最終的に消費者負担になるためのインボイスなどの仕組みも必要ではないか。
WTOの問題は、輸出より輸入について議論となるのではないか。WTOは、輸入品が同種の国内産品に直接・間接に課せられる内国税を超えてはならないと規定している。DBCFTは、国内産品にも課税されているが、輸入品の価格には賃金(人件費)が入っており、国内品への課税ベースには人件費部分はコストとして排除されるので、この点内外無差別違反ということになるのではないか。米国には、直接税と間接税の区分はなく、所得課税ベースか消費課税ベースかという区分だけなので、WTOとの整合性の問題についてどうこたえるかが難しい。

(了)

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