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連載コラム「税の交差点」第30回:総理の解散会見―消費税の使途変更と財政目標の先送り

September 26, 2017

唐突の解散総選挙である。大義名分は、とってつけたような「消費税収の使途変更」である。確かに総理の言うように、「税は民主主義そのもの」ではあるが、それは「国民負担増を求める」ことの是非を指しているのであって、税収の使途変更は、歳出予算の話であるはずだ。

さて、一歩突っ込んで9月25日の総理会見内容を精査すると、アベノミクスの本質が見え隠れし問題点も多いので、以下私見を述べてみたい。

まずは、多くの国民が意義を唱えない内容となっている、という印象を受ける。

19年10月から消費税率を10%に引上げると、5兆円強の財源が得られるが、12年の三党合意ではその使途は、借金返済部分に約4兆円、社会保障充実分に約1兆円となっている(総理発言)。そこで、借金返済部分を縮小し、新たに幼児教育や高等教育の無償化の財源に回すことにより、全世代型の社会保障に変えていく、という内容だが、国民から見ればこれに反対する理由はない。

これまでシルバー民主主義の下で、年金・高齢者医療・介護という高齢者3経費は手厚い取り扱いがされてきた。それを12年の3党合意で、子育てにも使えるようにしたのだが、待機児童の解消が進まないように、現実には高水準の高齢者対策費が維持・確保されてきた。

今回はこれに、教育への使途拡大ということで、風穴を開けるという。幼児教育や高等教育への支援は、わが国の喫緊の課題ともいえる少子化対策でもあり、また、潜在成長力を高める人的資源の開発・向上でもある。これについても、大きな異論や反対はないだろう。

財政再建についてはどうか。これまで消費増税を2度延期してきた安倍総理だ。多くの関係者は、デフレ脱却道半ばを理由に、3度目の延期をするだろう、と見ていた。しかし今回総理は、19年10月からの消費増税にコミットしたわけで、それなりの評価も可能である。

こうしてみると、一見異議の唱える余地のない決断のように見えてくる。

しかし問題は山積している。

全世代型社会保障と銘打つ今回の対策は、単なるバラマキに終わる可能性が高い。先進国最悪の財政事情で、依然予算の4分の1を国債(借金)に頼る現状では、予算のバラマキだけは避けなければならない。

総理は、財政再建の旗は降ろさないと言うが、それを信じる者はどれだけいるだろうか。20年PB黒字目標の達成にはまだ3回の予算編成が残されているにもかかわらず現時点であきらめるというのは、前々から延期したかったPB黒字目標を、この機会(混乱)に乗じて先送りしようという魂胆であるといえよう。

目標先送りについて、市場は織り込んでいたとはいえ、ボディーブローのように、わが国の信任低下に結びつく。日銀の大量国債の購入・保有が財政ファイナンスということになれば、突然の国債暴落も起こりかねない。そのような大きなリスクを抱えながらの全世代型社会保障である。

欧米は金融緩和の出口に向かっているが、わが国だけは異次元の金融緩和が続いている。いずれやってくる金利正常化のためには、財政健全化への道筋がつくことが必須条件といえる。このままでは、いつ国債が暴落するかわからないという計り知れないリスクを抱えたままでの経済運営ということになる。

このリスクを軽減するには、全世代型社会保障の構築の一方で、手を付けるべき政策が必要だ。

まず、単なるバラマキにならないように、使途拡大の教育の中身を精査・吟味することである。とりわけ大学の無償化については、無償化により質の悪い大学や勉学意欲の足りない学生が増加しかねない。無償化は、低所得でかつ勉学意欲の高い学生に限定するべきだ。あわせて、大学教育の質を高める大学改革もセットとして行われるべきだ。

社会保障のぜい肉落としも必要だ。世界的に見ても高水準の医療費については、医療IDの活用によりエビデンスベースの政策を実現すれば一層の削減が可能になる。全世代型の社会保障は、社会保障内部の配分・シェアを変えることより行うことが必要だ。

加えて、前回(第29回)のコラム「総選挙と消費増税組み替え論を考える」で述べたように、富裕高齢者を対象にした所得税の増税、具体的には公的年金等控除の適正化などを行う必要があると考えている。

これらを合わせ行うことで、消費税の使途変更部分(2兆円?)を賄うことができれば、社会保障の充実も、財政再建も両立でき、さらには所得再分配が強化され、世代間・世代内の公平性も高まるのではないか。

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