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連載コラム「税の交差点」第42回:森友・加計、安倍政権の最大の問題は結論ありきの政策決定

April 20, 2018

森友問題、加計問題など誕生して5年目の安倍政権が大きく揺れている。これまで維持してきた高い内閣支持率も危険水域に入りつつある。これらの問題は、単発の個別ケースではなく、5年強の安倍政権の下で形成されてきた底層でつながる大きな流れといえよう。そう考える理由は、次の2つである。

一つは、内閣人事局という制度を活用し、霞が関の官僚を震えあがらせてきた個別人事への直接介入、秘密警察張りの恐怖人事である。霞が関でささやかれている具体例を言えば、「ふるさと納税の問題点を官房長官に申し入れた総務省幹部が飛ばされた。」「森友問題で、国会答弁が下手だった国交省の局長が辞任せざるを得なかった。」など、枚挙にいとまない。

もう一つは、安倍政権のもとでの意思決定の手法にある。専門家を集めた十分な政策議論を行わないまま少人数の仲間内だけで政策決定を行ってきた。さまざまな審議会や検討会が設置されているが、ほとんどの場合、結論ありきの「お飾り審議会・検討会」である。実施的決定は、少数に握られ、あらかじめ結論は出されている。

筆者が最もこのことを痛感したのは、2度にわたる消費増税決定の延期である。

1回目の延期である14年11月は、衆議院解散とセットの増税延期、2度目の16年6月は、リーマンショック並みの世界経済変動という根拠なき延期で、いずれも議論の結果というものではない。消費税延期をどう演出するか、というだけの話である。

ちなみに、法律で決まっている引上げ時期を、総理の決断と言って総理記者会見で延期したわけだが、立法は国会の権能である。法律で決定している内容を、国会の意思決定より先に、行政の長である総理の一言で事実上決めるのは、三権分立に反した行為ではないだろうか。チェックアンドバランスの効かない「安倍一強」の姿が見えてくる。

次は、財政健全化計画である。毎年内閣府から「中長期の経済財政に関する試算」が公表され、この試算を前提として、2020年代の経済財政政策の運営の指針である新財政目標(プライマリーバランス黒字化の時期など)が決められていく。

多くの識者が指摘するのは、内閣府の非現実的な経済成長率(TFP増加率)を前提にした甘い財政の試算であるということだ。内閣府の官僚で、この甘い試算に異論を唱える者はいない。

政権発足以来、常に高めの経済成長を想定し、改定(年2回)ごとに下方修正していくということを繰り返してきており、そのことが歳出削減努力を損ない、歳入(税収)に関する正直な議論を遅らせてきた。

さらに問題は、この試算の前提に基づいて、我々の年金や社会保障の将来像が議論され(?)決められていくことである。本年秋口から、年金財政検証の議論が始まるが、甘い経済成長を前提にした議論では、意味がない。

このような議論なしの意思決定が行われるようになった最大の原因は、上述したような安倍一強政治、なかでも官邸の官僚人事の掌握にある。

では、今後政と官の在り方、公務員のガバナンスをどう変えていくべきか。2014年に内閣官房に内閣人事局ができ、幹部職員人事の一元管理など新たな制度が始まった。これまで各省ばらばらの省益を廃し、統一的な政策形成につなげるという問題意識は間違っていはいない。

しかし現在実際に行われているのは、経済産業省を中心とした少数の官僚で議論され結論があり、あとは実行のみ、という状況である。総理の諮問機関である経済財政諮問会議や政府税制調査会(総理の諮問機関)などは、議論の場として全く機能していないことがその証左である。

5年を超える長期政権、さらに今後も安倍一強が続くという状況のもとで、官僚や省庁の自由闊達な議論は封じられている。これは、「制度」が悪いというより、「制度の運用」の方に問題があるように見える。

ではどうするべきなのだろうか。

幹部公務員を政治任用すべしという意見も出ているが、猟官運動が跋扈する政治任用の弊害は、米国トランプ政権を見れば明らかである。それよりも、幹部公務員に政治との距離を置かせることによって、彼らの専門知識をより中立的・客観的に評価していく仕組みづくりの方がいいのではないか。

わが国官僚の最大の特色は、政治との距離が近すぎることである。省庁の課長クラスは多くの時間を議員との面会などに費やされる。政治の世界に込み組み込まれ、うまく立ち回る者が出世していく。つまり、官僚の評価は、専門的知識によってではなく、政治とのやり取りを通じて、法案や予算をスムーズに成立させたかどうかという点にある。

そこで、現在の「資格任用」は維持しながら、独立した機関が個々の官僚の専門的な知識や知見や職務遂行能力を評価する。それを基に、大臣や総理が最終決定するという仕組み作りこそが重要ではないか。

よく引きあいに出されるのが英国の官僚制(ウエストミンスターモデル)では、政治的中立が厳しく求められており、公務員と政治家との直接的な接触は制限されている。その中で、公募任用も含めた競争的な任命プロセスが形成されている。政治的な判断を行うのは、政治家と政治顧問と呼ばれる政治任用された人たちである。

わが国でも公務員制度改革では、官僚と政治との距離を改める観点から、内閣総理大臣や大臣の補佐官という地位を作り、民間人や元政治家などが配置されてきた。しかしこの制度はうまく機能しているとはいいがたい。その最大の理由は、各省の官僚が、直接政治とのやり取りを行っていくことにある。

まずは、その原点に戻って政と官の在り方を考えていく必要がある。

なお、本欄で2人の財務省OBに自由に議論していただいているので、参照ありたい。

<シリーズ>森友問題を考える -政策立案・実施と公務員制度-(明治大学公共政策大学院教授 田中秀明)

<シリーズ>森友問題を考えるー決裁文書の改竄問題にどう対応するか(法政大学教授 小黒一正)

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