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1~3月期の実質GDP成長率~コロナ禍の影響をどれだけ織り込めているのか?~〈政策データウォッチ(28)〉
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1~3月期の実質GDP成長率~コロナ禍の影響をどれだけ織り込めているのか?~〈政策データウォッチ(28)〉

June 2, 2020

東京財団政策研究所「経済データ活用研究会」座長
神奈川大学経済学部 教授

飯塚 信夫

はじめに

2020年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値が518日に公表された。物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.9%減、年率換算で3.4%減と2四半期連続のマイナス成長となった。マスコミでは新型コロナウイルスの感染拡大の影響を指摘する一方で、市場関係者の中では民間調査機関の事前見通しよりも下落幅が小さくて済んだことを評価する声もあった。この1~3月期の成長率は、コロナ禍の影響をどれだけ織り込んでいるのか。本稿では2つの観点から検討したい。結論を先に述べれば、①コロナ禍の影響は2020年3月から出始めており、四半期単位で反映されるのは2020年4~6月期から、②リーマン・ショック時と同様、経済指標は急激な経済変動をすぐには織り込めず、今後の改定幅が大きくなる可能性がある――ことである。

消費税率引き上げ後のリバウンドとコロナ禍の影響が混在

2020年1~3月期の実質GDP成長率は2四半期連続のマイナスながら、20191012月期の前期比1.9%減(年率7.3%減)よりはマイナス幅が小さい。201910月の消費税率引き上げに伴い、20191012月の個人消費は実質GDP成長率を1.6ポイント押し下げた。これに対し、2020年1~3月期の個人消費は実質GDP成長率を0.4ポイント押し下げるにとどまっている(表1)。これは、消費税率引き上げ直後の201910月に大きく落ち込んだ個人消費が2020年初頭にかけて持ち直す一方で、2020年3月からコロナ禍による押し下げが本格化したためである。

 

四半期単位のGDP統計では追えない月単位の動きは、財の生産活動を表す鉱工業生産指数とサービスの生産活動を表す第3次産業活動指数で確認できる。図1図2ともに、点線グラフについては20081月から2009年2月までの生産、第3次産業活動指数の推移を示している。実線グラフについては20196月以降の生産、第3次産業活動指数の推移を示している。両者の推移を見ると、2020年3月までに限ってみれば鉱工業生産指数には大きな影響が確認できず、第3次産業活動指数は3月に急落している。図1図2とも、リーマン・ショックの起点となったリーマン・ブラザーズの破綻が起きた20089月と、日本政府が新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策の第1弾を打ち出した2020年2月の軸を合わせている。リーマン・ショックは、米国発のショックが全世界に波及し、それが輸出減という形で日本に波及した。コロナ禍は、経済活動自粛が国内の経済活動、とりわけサービス業に先んじて影響を与えたという違いが観察できる。

第3次産業活動指数は、消費税率引き上げ直前の駆け込みで20199月に106.4まで上昇した後、10月には100.5と前月比5.5%も低下した。その後、2020年1月にかけて緩やかに上昇し、2020年3月には96.9まで低下している。駆け込みの前月(20198月)から2020年3月までの累積の低下幅は6.3%。これは、リーマン・ショックの前月(20088月)から2009年3月までの3.5%低下の2倍弱の落ち込みである。以上から、コロナ禍の影響が本格的に出始めたのは2020年3月からであり、1~3月期の実質GDP成長率は、コロナ禍の影響を3分の1しか織り込めていないことが確認できる。

業種別に見たコロナ禍の影響

第3次産業活動指数の業種別指数の動きを見ても、コロナ禍の影響は2020年3月から本格的に表れていることがわかる(表2)。宿泊業、飲食サービス業などが含まれる「生活娯楽関連サービス」は、2月に前月比3.6%低下とマイナスに転じたが、3月には同24.8%低下をマイナス幅が急拡大した。運輸業・郵便業も3月は16.7%低下の大幅マイナス、百貨店やスーパーが含まれる小売業も3月は前月比5.2%低下とマイナスに転じた。

3月の生活娯楽関連サービスの内訳を見ても、宿泊業が46.3%低下と大きな落ち込みになっているほか、飲食サービス業、娯楽業なども2~3割の低下だ(表3)。

前述した通り、日本政府が新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策の第1弾を打ち出したのは2月13日。この時点での日本政府の対応は水際対策が中心だった。中国で年初から感染が拡大した影響で、春節の日本への旅行がキャンセルされた影響は2月から出始めていたものの、日本国内の経済活動が停止するほどではなかった。

しかし、2月26日に安倍晋三首相が以降2週間の全国的なスポーツや文化イベントの中止や延期、規模縮小を要請すると、経済活動の自粛が始まる。各地の学校が休校となり、3月後半には週末の外出自粛要請が首都圏や近畿圏で打ち出された。日本政府が3月9日に中韓両国からの入国制限を強化したことに加え、週末臨時休業もあり、百貨店の売上高も減少し始めた。

4月以降はさらなる落ち込み

一方、経済活動の自粛が一段と強まったのは4月7日の新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言(以下「緊急事態宣言」)の発令以降だ。第3次産業活動指数の4月の実績値が判明するのは6月18日であるが、サービス関連業界の統計は4月分が明らかになりつつある。例えば、日本百貨店協会の「全国百貨店売上概況」によれば、3月は前年同月比33.4%減であった百貨店売上高は4月には72.8%減と減少幅が急拡大している。日本フードサービス協会による外食産業の3月の売上高は17.3%減であったが、4月は39.6%減まで落ち込みが拡大している。また、観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、3月に48.9%減まで落ち込んだ延べ宿泊者数が、4月は76.8%減まで落ち込みが拡大している。
3月までコロナ禍の影響がはっきりしなかった鉱工業生産についても、4月は前月比9.1%減と影響が現れ始めた。生産と連動性が高い、日本銀行の実質輸出は4月に前月比14.2%もの減少となった。図3に示したように、実質輸出は4月まではリーマン・ショック時と似通ったパスを経ている。リーマン・ショック時は金融危機をきっかけに世界中の需要が蒸発し、それが日本の輸出減につながった。今回は、コロナ禍の影響による操業停止と原因は異なるものの、やはり日本の輸出減につながっている。

なお、図4で財別の実質輸出の動きをみると、4月は自動車関連の落ち込みが突出して大きい(前月比40%減)。リーマン・ショックの際は、すべての財の輸出がそろって減少したのと対照的である。コロナ禍の第一段階の影響である操業停止が直撃したと拝察される。自動車産業のすそ野の広さを考えると、今後、他産業の輸出にも影響が表れることが懸念される。

4~6月期のGDP成長率はどこまで落ち込むか

2020年4~6月期の実質GDP成長率のマイナス幅はどこまで拡大するだろうか。①4月の実質輸出が1~3月平均に比べて15.6%減少したのを踏まえ、鉱工業生産の4~6月平均は1~3月平均に比べて15.6%減少する、②第3次産業活動指数は3月の実績値で4月から6月まで横ばいで推移する(4~6月期平均は、1~3月期に比べて3.1%低下)――という前提で予測してみる。実質GDP成長率の前期比を、鉱工業生産と第3次産業活動指数の前期比で回帰し、そこに上記の前提を当てはめてみると、前期比でマイナス4.34%(前期比年率でマイナス16.27%)となる(注1)。第3次産業活動指数は4月以降も低下することが見込まれることを踏まえれば、実質GDP成長率はもっとマイナス幅が大きくなるだろう。
5月21日の衆議院厚生労働委員会で、厚生労働省はコロナ禍関連の解雇や雇止めが1万人近くに上ることを明らかにしている。緊急事態宣言による休業による財やサービスの生産活動の急低下が、雇用所得環境の悪化につながり、今後の国内需要を低迷させて、生産活動をさらに押し下げることも懸念される。日本経済研究センターが民間調査機関の予測を毎月集計している「ESPフォーキャスト調査」による最新の民間エコノミストの見通し平均は年率マイナス21.53%であるが、実現可能性は十分高いといえよう。

1~3月期の成長率が改定される可能性も

1~3月期の前期比0.9%減という実質GDP成長率が、今後改定される公算も大きい。そもそも、飯塚(2017)などが示すように、実質GDP成長率の改定幅は1次速報から2次速報で前期比0.2ポイント、1次速報から確報(年次推計)で同0.5ポイント程度ある。さらに、リーマン・ショックのような急激な経済変動があったときに、実質GDP成長率の改定幅は大きくなる傾向がある。本研究会で作成しているリアルタイムデータベース(公表時点ごとの経済データの時系列を利用しやすくデータベース化したもの)を用いて、2008年7~9月、1012月、1~3月期の各公表時点の前期比成長率をまとめたのが表4である(注2)。リーマン・ショックが発生したのは2008911日。2008年7~9月期の実質GDP、現在の実績値では前期比1.2%減であるが、1次速報の公表時点(20081117日)では0.1%減に過ぎなかった。

一方、今回の1次速報においては、内閣府は推計方法を一部変更している。その詳細は428日に内閣府が公表した「2020年1-3月期のGDP速報における推計方法の変更等について」というリリースにある(注3)。財やサービスの動きからGDPを推計(供給側推計と呼ばれる)する際に、利用する統計(基礎統計)の3ヵ月目(今回であれば2020年3月)の実績値が間に合わないことがある。通常は、1ヵ月目や2ヵ月目の実績値の前年同月比などの情報を使って3ヵ月目を仮置きして対応している。実績値の間に合わない基礎統計はサービス業関連が多く、今回のコロナ禍の影響が、実績値の間に合わない2020年3月に本格化したことから、内閣府は業界統計などを用いて3ヵ月目の仮置きを行った。しかし、すべて業界統計を活用できたわけではない。内閣府には、2次速報の公表もしくはそれ以降のタイミングで、今回の民間統計の活用によって2次速報への改定幅がどれぐらい押さえられたかを示していただきたい。

なお、本稿で注目した第3次産業活動指数についても、毎月の速報公表時に前月指数の暫定確報値、前々月指数を確報値へ修正している。経済産業省にヒアリングしたところ、毎月の速報値において指数作成に用いる基礎統計の3割超(ウエートで換算)は入手が間に合わず、推計値を用いているという。こちらの今後の改定動向にも注目していきたい。

(注1)Δlog(実質GDP)=0.18×Δlog(鉱工業生産)+0.429×Δlog(第3次産業活動指数)。推定期間 2008年4~6月期から2020年1~3月期。自由度修正済み決定係数は0.769である。

(注2)東京財団政策研究所・経済データ活用研究会「リアルタイムデータベース」
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=2983

(注3)2020年1-3月期四半期別GDP速報(1次速報値)における推計方法の変更等について」https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/reference1/siryou/2020/pdf/announce_20200428.pdf

 


参考文献

飯塚信夫(2017)「GDP速報改定の特徴と、現行推計の課題について」、『日本経済研究』No.74、日本経済研究センター、2017年3月


飯塚 信夫
神奈川大学経済学部 教授

東京財団政策研究所 政策データラボ アドバイザー

1963年東京都生まれ。86年一橋大学社会学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局経済解説部記者、日本経済研究センター主任研究員などを経て、2011年神奈川大学経済学部准教授、14年より現職。2004年千葉大修士(経済学)。専門は日本経済論、経済予測論、経済統計。著書に『入門日本経済(第5版)』(共編著、有斐閣、2015年)、『世界同時不況と景気循環分析』(共編著、東京大学出版会、2011年)

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