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地域別支出総合指数(RDEI)からみた日本経済〈政策データウォッチ(29)〉
写真提供:GettyImages

地域別支出総合指数(RDEI)からみた日本経済〈政策データウォッチ(29)〉

June 30, 2020

東京財団政策研究所「経済データ活用研究会」メンバー

法政大学経営学部教授

平田 英明

速報性のある地域のマクロ経済データの必要性

 わが国の経済統計の課題については、2019年に浮上した統計不正問題が契機となり、様々な見直しが進められている。しかし、自治体レベルの統計は、見直しもさることながら、そもそもラインアップ自体が脆弱だ。それを端的に示しているのが、日本銀行(以下、日銀)が四半期毎に定期発行している地域経済報告の『さくらレポート』であろう。同レポートに用いられている指標は表1の通りであり、『展望レポート』に登場する国レベルの多様なデータに比べ、かなり限られた指標しか利用できない実情が垣間見られる。また、同レポートには都道府県別の国内総生産(GDP)すら登場しない。これは都道府県レベルの四半期毎のGDP統計が存在せず、年データでも数年前(令和2年6月時点で平成28年度まで)のデータが利用できないためだと考えられる。自治体レベルの経済分析が盛んな米国と比べると、日本の状況は極めて深刻といわざるをえない。

table1

 このような中で内閣府では2012年以降、地域別支出動向の捕捉を目的とした月次の地域別支出総合指数(Regional Domestic Expenditure Index, 以下RDEI)を発表しており、内閣府公表の月例経済報告にも活用されている。RDEIは、全国11の地域ブロック別の4支出項目の支出指数となっている。4支出項目とは、消費、民間住宅、民間企業設備投資、公共投資であり、政府支出を除けば、ラフにいうと支出面から見たGDPに相当すると考えることができる。ただし、指数のため、各支出指数を単純に足し上げることはできない。田邊他(2012)によると、迅速性、総合性、安定性及び持続可能性を意識して開発されたこともあり、20024月以降についてデータが公表されている[1]

 本稿では、各地域経済でどの程度、経済動向が域内都道府県で共有されているのかを分析する。換言すれば、各都道府県の支出動向はどの程度、地元地域経済圏とシンクロしているのかを定量的に評価する。なぜ、このような考察に意味があるのだろうか。一つ目は、地理的な区分けによって地域経済を考察することの意味を客観的に評価できることが指摘できる。例えば、日銀であれば支店長会議、財務省であれば全国財務局長会議において、東北、北陸といった地理的な地域毎の経済情勢に関する分析が報告され、政策に活用されている。単に事務的な理由から地理的な区分けを活用しているとも考えられるが、多かれ少なかれ地域内経済圏の存在を念頭においているものと考えられる。そのようなアプローチにどのような意味があるかを、定量的に評価できる。第二に、本稿では平田(2019)でも紹介した、動学ファクターモデル(Dynamic Factor Model: DFM)を使うことで、都道府県別の支出動向をいくつかの要因に分解し、各要因が都道府県レベルの支出の変動に与える影響を紐解くことができる[2]。具体的には、日本全体の要因(例えば、日本国内にあまねく同じような影響を与えるショック)と、地域的要因(例えば、域内での実体的・金融的な結びつきを通じた地域全体に影響を与えるようなショック、地域全体に影響を与える施策など)という県境をまたいで都道府県の支出の連動性を高めうる要因を考える。これら2要因に加え、各都道府県固有の要因(例えば、ある県内で集中的な被害を起こした自然災害)によって説明される部分が区別してDFMによって同時推定される。

ダイナミックファクターモデルによる分析

ここでは、支出の動きを測る3変数として、消費、住宅投資、設備投資の前年同期比を用いる。推定期間は2003Q12019Q4、地理的地域区分は経済産業局の管轄を参考に、北海道・東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州・沖縄の7地域とした。

 分析に入る前に、消費を例に地域ごとの動向を考察してみたい。図1は消費動向の全国平均、関東、近畿、九州の動きを示しているが、動きの方向感は総じて似ているものの、変化率の水準にはかなりのばらつきが見られる。実際、全国平均との相関係数を計算してみると、関東こそ0.97という高い相関を見せたものの、近畿と九州は0.8を下回る相関となっていた。この事実は、全国的に共通な支出の動きを決める要素だけではなく、地域ごとの違いも少なからず存在することを示唆する。

figure1

 本稿では、推定期間にわたる支出変動の各要因の相対的な重要度を試算する。つまり、日本全体の要因、地域的要因、各都道府県固有要因、残差の4つの合計で各変数の経済変動が説明されるため、分散分解と呼ばれる手法を用いて、各要因の説明割合の合計を100%とし、各要因がそのうち何%となるかを示す。この分析における日本全体の要因とは、47都道府県の消費、住宅投資、設備投資という3支出系列すべて、つまり141系列に共通する部分をとらえたものである。3支出系列の時系列的な動きは大きく異なる中で、この要因が消費の成長の変動の5~10%程度を占めている。一方、住宅投資や設備投資の場合は、より少ない割合にとどまった。これは、住宅投資や設備投資がより地域や都道府県の経済動向に大きく影響されている可能性を意味すると同時に、金融を通じた消費のリスク・シェアリング効果の存在を示唆していると考えられる[3]。次に、地域要因についてみる。これはそれぞれの都道府県が属する地域に属する都道府県の中で3支出系列に共通する要因をとらえたものであり、地域毎に区々なものの、概ね日本全体の要因と同程度の変動を説明していた。

速報性のある都道府県レベルでの日本のマクロ経済に向けて

これらの結果からのインプリケーションは何だろうか。第一に、多くの支出系列の変動が一定程度は所属する地域に共通する要因によって引き起こされているものの、都道府県固有の要因に大きな影響を受けていることである。平田(2019)では、106か国・7地域(北米(3か国)、欧州(19か国)、オセアニア(2か国)、アジア(日本を含む15か国)、ラテンアメリカ(22か国)、中東・北アフリカ(8か国)、他アフリカ(37か国))を分析対象とした。この場合に比べると、都道府県レベルの分析の場合は、地域間の地理的距離も近く、言語に差もないため、地理的な地域の役割は限定的なのかもしれない。

 第二に、本稿の分析では地域間の関わり(例えば、域境を接している関東と東北間の関わり、接していない関西と九州間の関わり)については、分析手法の仕組み上、無視をしていることになる。しかし、特に県境を共有している都道府県同士は相互の経済関係も強く、支出系列の変動を自ずと共有していると考えられ、本稿の分析ではこれは残差として扱われることになるが、高速道路や鉄道を通じた物資の移動が国内の経済活動を支えていく上で重要な役割を担っている現実に照らし合わせると大きな課題といわざるをえないだろう。

 第三に、RDEIを用いた研究が非常に限られ、データの特徴を理解していく上でも、より多角的な分析を行っていく必要があることを指摘しておきたい。経済統計は作ること自体にも意義はあるが、やはり使われてこそ意味がある。使われることでデータのクセやデータの長短所が理解されることで、統計としての改善も進む。今後も、迅速性、総合性を具備した希少な地域経済統計である本データを用いた考察を深めていくべきだ。


[1] 田邊靖夫他 (2012)「地域別支出総合指数(RDEI)の試算について」内閣府『経済財政分析ディスカッション・ペーパー』DP/12-3(https://www5.cao.go.jp/keizai3/discussion-paper/dp123-1.pdf)。本データは2020年5月末時点で2020年3月までのデータが利用可能。なお、消費系列は作成方法に変更があったため途中で断絶があるが、本稿では新旧指数を変化率で接続して時系列データとして用いている。詳細は三谷信彦他(2019)「地域別消費総合指数の改訂について」内閣府『経済財政分析ディスカッション・ペーパー』DP/19-4(https://www5.cao.go.jp/keizai3/discussion-paper/dp194.pdf)を参照。 

[2] 平田英明「「グローバル化の下で世界経済の連動性は高まっている」と言えるか」東京財団政策研究所『政策データウォッチ』4

[3] リスク・シェアリングについては、例えば、Iwamoto, Yasushi, and Eric van Wincoop, “Do Borders Matter? Evidence from Japanese Regional Net Capital Flows,” International Economic Review, 41 (1), 2000, pp. 241-269 (https://www.jstor.org/stable/2648831) などを参照。



平田 英明      法政大学経営学部 教授 

1974年東京都生まれ。96年慶応義塾大学経済学部卒業、日本銀行入行。調査統計局、金融市場局でエコノミストとして従事。2005年法政大学経営学部専任講師、12年より現職。IMF(国際通貨基金)コンサルタント、日本経済研究センター研究員などを歴任。経済学博士(米ブランダイス大学大学院)。

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