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[解説動画] 緊急提言:新型コロナ感染急拡大に対応した医療提供体制拡充
写真提供:GettyImages

[解説動画/質疑要旨] 緊急提言:新型コロナ感染急拡大に対応した医療提供体制拡充について

December 1, 2020

2020年11月26日正午。財政学者・経済学者である小林慶一郎、佐藤主光、土居丈朗は連名の緊急提言を発表いたしました。提言には新型コロナウイルス感染症の大流行を封じるため、コロナに対応する医療機関等への思い切った財政支援により、医療提供体制を抜本的に拡充することなど、第三次補正予算を検討する上で現状必要と考えられる論点を盛り込んでいます。
本動画は当該提言を補足・解説するものとして、発表同日に行われた記者発表の一部を抜粋したものです。

 緊急提言本文ダウンロード [PDF:235KB]

記者発表質疑要旨

【Q1】予算執行は都道府県ではなく国が直接担うという提言だが、実際の実務作業は誰が担うのか?また、医療関係者などにヒアリングは行ったのか?

小林:
具体的なスキームの詳細は詰めていない。ただ、新型コロナウイルス対策の予備費には、すでに国が直接執行を行うものとなっていた項目もあったように思う。このスキームに乗れるのではと想定している。
佐藤:
このスキームで念頭に置いているのは病院・医療機関。診療所ではないので東京・大阪を除く地方ではそこまで数が多いわけではない。なので、国による直接執行という形をとったとしても、そこまで遅れが出るわけではないと思う。ただもし時間が過度にかかってしまうようなら都道府県を経由するのもよいだろう。
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金の仕組みは、病院側が計画を出して、都道府県が審査するというものだった。これに時間がかかってしまっていた。そういう意味で、事前の審査がないのであれば都道府県経由だとしても、そこまで時間がかからないと思われる。医療機関へのヒアリングについては、別の研究会において医療機関の方にメンバーに入っていただいた。
小林:
研究会では、病院のデータを、医療のコンサルティング企業が分析をした結果から、病床の偏在や、使われていない病床の存在が議題に挙がっていた。そういった議論が今回の提言につながった。

 

【Q2】実務を担うのは厚労省の職員になるのではと思うが、霞が関の政策スキームを積み上げる担当者の業務が過剰になっている。そこの手当ても必要なのではないか。

小林:
分科会で厚労省の方とディスカッションもしたが、これ以上やると死人が出るのではというコメントがあったくらい、霞が関の業務は逼迫している。今回の提言の狙いのひとつに、厚労省にまかせっきりにするのではなく、財務省や政府全体で医療業界を支援するという流れを促したいということがある。
佐藤:
事前審査無しに、事前支払いをすることで事務的な手間を減らしたいということがある。厚労省だけではなく、予算措置をする財務省であったり、財政当局を含めた霞が関全体で負担を分かち合うというのはあってしかるべきだと思う。

 

【Q3】2万床という数字の根拠としてイギリスの第一波のときの数字をあげているが、これを根拠とした理由を教えてほしい。また今回の措置の予算額はどれくらいを見込んでいるのか?

小林:
イギリスはヨーロッパを代表する例としてあげている。提言の脚注2で少し試算しているが、イギリスの入院患者2万人を日本の人口でひきなおすと4万人くらい、加えてイギリスよりも日本の方が入院措置とすることが多いことから、4~5万人と考えた。よって5万床程度を目標数値としている。
佐藤:
予算額の試算はこれからだが、第三次補正予算が組まれるタイミングなので、このようなことも考えてもらうきっかけになればと思う。病院の経営実態も正確に把握したうえで考えていただければと思う。

 

【Q4】医療現場では予算の問題もあるが、身体・感情面での疲弊感が大きいといった声も聞く。こういった医療従事者の方々に、どのように協力を求めていくのがいいのか?

小林:
離職された方など、(今医療現場に関わっていない)新しい人に来てもらうのが肝要。まずは資金の面で資源を投入することによって、人や病床を増やしていくことを考えている。疲弊している医療従事者の方に休んでもらう、人間的な就労環境で働ける状況を作りたいという思いが前提にある。コロナ対応可能な医療従事者を増やすことによって、現在対応している医療現場の疲弊状態を解消できればと考えている。
佐藤:
新型コロナ感染症の感染拡大第一波のときは短期決戦を志向していた。人の善意に頼っていた部分がある。今は第三波のタイミングであり、ワクチンの開発はあるかもしれないが長期戦を考えることが必要。医療現場における人材のやりくりが重要となる。前線に同じ人が立ち続けると疲弊する。病院の数は絞ったとしても、そこで働くスタッフにはローテーションをかけていく必要がある。だからこそ財政的な支援に加えて、医療スタッフの派遣を提案している。これも、医療機関の方の声から考案した部分になる。

 

【Q5】医療現場の実態を精査・把握することが必要だと思う。現在、現場に出ていない人を不足人員の拡充に充てるという話だが、そんな人は本当にいるのか。またインセンティブを付けて人員を増員した場合、他の医療への悪影響がでる可能性はないのか。

小林:
病床使用率が数字の上では低いのに、実際、現場は逼迫しているということ。これは昨日(11/25)の分科会でも話題にのぼった。例えば北海道・札幌では病床使用率が上がる前に、現場では医療崩壊という声があがってきたという話もあった。また、分科会で出している6つの指標が、指標として有効なのかという議論もあった。医療現場の現状を反映する指標を考える必要はあると思う。
人材をどこから確保するのかという話については議論の余地があるが、ただ、現状の医療現場の逼迫具合においては、他の診療科ではまだ余裕があるはずだという認識でいる。具体的にはまだ考えを詰めていく必要があるが、何らかのインセンティブでそうした他の診療科からコロナ対策に人員を回してもらう。
佐藤:
ポイントは優先順位。コロナを抑え込むべきということであれば、それに応じて人員は配分されるべき。もちろん通常の医療行為というのはあるが、考えるべきは医療機関の間での役割分担。今回のコロナで露呈したのは医療機関の間での機能分担が、いかに進んでこなかったかということ。病院と開業医間の関係もしかり。仮にどこかの医療機関からコロナ対応の医療機関に人が派遣されたとして、派遣元医療機関の通常診療、たとえば内科が対応できなくなるということであれば、内科であれば開業医でも対応ができる可能性がある。日本国内では開業医の方の数が多い。開業医と病院の間での連携があれば、もちろん今と同じレベルでの医療水準が保てるかというと正直わからない部分があるが、最低限、あるレベルの医療提供は保てると思う。医療機関の間での、全体としてのネットワークの在り方を再考する契機なのではないか。
小林:
開業医10万人が第一波、第二波のときは力を活かしきれなかった。これは反省点。また、受診控えもあり、診療所を中心に医療資源が余ってしまっていたということもある。そういう意味で佐藤先生のいう連携は必要だし、かかりつけ医を制度化し、医療資源を適正配分することもできるのではないか、という思いがある。

 

【Q6】前回の提言(2020319日発表)では専用の病院を作るという提案もあったが、緊急になってくるとそこまでの余裕はないということなのか?

小林:
今回の緊急提言は第三次補正予算に対し影響を与えられないかという思いで作った提言なので、短期的な視点からのものといえる。

  

【Q7】「本提言の発表は個人として行う」とあるが、政府の分科会では同様の議論はされなかったのか?

小林:
「財政面を含めた医療への支援を行う」という内容は、分科会からの政府に対する提言にも書かれている。ただ時間の制約もあり、今回の提言のような内容を細かく分科会で議論することはできなかった。分科会の議事録からも分かるとおり、医療の拡充が重要なのだという指摘は、何度か分科会の中でも発言している。ただ、財政措置がメインなので、分科会の感染症の専門家の方は、こういった論点を書くことに躊躇されるという面もあるように思う。財政支援は政府に考えてほしいというのが、感染症の専門家の方のスタンスであると考える。

 

【Q8】広域連携の現状は、今どうなっているのか?また、長期的な感染症対策をどのように考えるべきか?コロナ禍の長期化や、次の新型ウイルスが出てくる可能性もある。

小林:
広域連携を有機的に作るべきではという話はしている。札幌で医療従事者が足りていないのにそこに人を集められていないのは問題だと思っている。広域連携は平時に対応しておくべきこと。それが緊急時に対応できていない。中長期的な医療のあり方も、かかりつけ医のような制度化を考えたりすることは必要。佐藤先生、土居先生、医療関係者の方とも研究会を行っており、来年の早い時期にこの点についても議論していきたいと思う。
佐藤:
広域連携も、コロナ以前にやっておくべきことだった。地域医療構想の中で医療機関の間での役割分担や病床の機能分担はやらなければならないアジェンダだ。それが進んでいないなかでのコロナ禍だった。もしそれが機能していたら、人のやりくりというのもできていたのかもしれない。
沖縄で看護師を派遣したという事例が、今年の夏にあったように記憶している。これは全国知事会を通してのものだったはず。東日本大震災のときも全国知事会を通して公務員の派遣を行った。公立病院を中心に、全国知事会などを通して、本当に危機にある、医療崩壊をきたしたような地域に対して人を派遣するというスキームは、この提言とは別に考えていかないといけないと思う。本来は、地方六団体のレベルで考えるべきことではと思う。

 

【Q9】第三次補正予算が国会を通るのは来年の12月。予備費を取り崩してもやるべきことはあると思う。今やるべきこと、優先順位は何なのか。

小林:
この提言を書き始めたのは第三波が始まった頃だったので、現状を反映した優先順位は示せていかなった。提言中の「①コロナ対応に参加することに対する強力なインセンティブの付与」以上に、「②コロナ対応医療機関に他の医療機関から医師・看護師の派遣を迅速柔軟に行う」ことや、「③コロナ対応する医療従事者本人への手当て」の方が現状では重要かもしれない。また指摘の通り、予備費を使う方が現実的かもしれない。
佐藤:
刻一刻と状況は変わっているので、優先順位をつけることは非常に重要だし、それが提言通りに行く必要もないと思う。ただ予備費と第三次補正予算の問題は一体であると考える。予備費で残ったお金を第三次補正予算に組み込むのか、組み込まないのか。その議論はこれから始まると思う。予備費について話すことは、つまり第三次補正予算について話すのと同じことではないか。

 

【Q10】コミットメント料について。要請にしたがって何人までは受け入れる、というような話になると思っているが具体的な想定はどうなのか。前年の診療報酬の収入分を保障するということになると、月割計算で前年と合わせるような想定なのか。また専用病床がない施設については、病床面積などで計算をするのか。またコロナ以外の診療を行うところへのディスインセンティブになってしまう可能性もある。それはどう考えるのか。

小林:
コミットメント料は何らかの定量的な基準で、コロナ対応へのコミットメントを測り、事前に迅速にお金を払おうという考え。ここではコロナ対応をすることによって生じる収入の減少を補填したいということなので、第三波以降の時期について、前年分をカバーする金額に設定する可能性もある。どうやって計算をするのかという点については、提言のなかで以下のように書いている。とにかく迅速に、事前に支給することが大切だという考え。

▼提言より抜粋
たとえば、「コロナ専用病棟」を作って他の病棟との分離ができているなら、当該専用病棟で従前行っていた診療行為に見合う金額とする。コロナ受け入れにあたって感染防止のために外来を停止しているなら、外来も対象にする。これらの金額の精査に時間をかけては迅速性に欠けるので、事前の一括補助金は概算で支給し、年度が終わった後で精算すること(今年の診療報酬の収入分を返金してもらうことを含む)を制度化するべきである。

佐藤:
診療報酬自体が月ベースで払うので、月割りで払うのは正しい。前年同月の収入を保障するという形。12月の実際の収入分を事後調整で差し引くというのが正しいと思う。こちらが念頭に置いているのは小さい病院というよりも大学病院や地元の中核病院など。そういうところがコロナ患者を多く受け入れるということであれば、診療科ごとの管理会計は彼らの中でできているであろう。それに基づいて案分というやり方はありうると思う。

 

【Q11】5万床というのは最悪のシナリオなのか。またこのシナリオはどういう前提で考えているものなのか。例えばGo Toキャンペーンが継続して人の動きも制限されないような場合のワーストケースなのか。

小林:
細かい設定や計算をしているわけではなく、提言内の脚注2にある通り、イギリスの例からかなりラフに計算をしたものになる。日本の場合はイギリスよりも医療へのアクセスがしやすいため、さらに多く4~5万床とした。これくらいを最大のキャパシティとすべきではないかという考えで提言にした。

▼提言より抜粋
[2] 4月の第一波のピーク時において、イギリスの入院患者は約2万人、重症者(人工呼吸器装着者)約3,200 人。これを人口比で補正すると、日本では、入院患者約3.8 万人、重症者約6,000 人に相当する。日本では英国より入院措置が多いので最大病床数の目安は5 万床(重症者用約6,000 床)と考えるべきである。

佐藤:
コンティンジェンシープランなので、ある程度ラフにならざるを得ないのではと考えている。

 

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