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消費税アーカイブ第5回 福田政権(前編)
写真提供 共同通信社

消費税アーカイブ第5回 福田政権(前編)

February 1, 2021

【福田内閣】
前編:概論、平成19年9月26日~平成201月3
後編:平成20年1月4日~9月24

概論

福田内閣は、2007年(平成19年)9月26日から2008年(平成20年)8月2日まで、福田改造内閣は2008年(平成20年)8月2日から同年9月24日までである。

福田内閣は、発足直後の所信表明演説(2007年(平成19年)101日)で、「財政再建と経済成長を車の両輪として……(後略)」と述べたように、政策面において基本的にバランスを重視する内閣であった。これは個人的な資質もあると思われるが、安倍政権の下で行われた参議院選挙により参議院の議席の多数を失い、ねじれ国会の下で政策運営に苦労し、一時期民主党との大連立を模索したことも影響をしていると思われる。

財政問題については、税制改革や社会保障改革に理解を示しつつ、「上げ潮派」と「財政規律派」の双方のどちらにも肩入れしない姿勢をとってきた。「上げ潮派」に軸足を置いた安倍内閣と比較すると、「財政規律派」の比重はその分高まったといえよう。

与謝野馨氏や谷垣貞一氏の主催する自民党政務調査会財政改革研究会(以下、「財革研」)は11月の「中間とりまとめ」で、社会保障税10%という具体的な提言を突き付けた。このころから福田総理は社会保障会議の設立(2008年(平成20年)125日閣議決定)に向かうなど、消費税議論の下地となる社会保障の議論、つまり「受益と負担」をセットで考えるアプローチに取り組みはじめた。

「消費増税を行わない」という小泉路線、「消費税に逃げ込まない」という安倍路線を目立たないよう転換させ、税制抜本改革や税・社会保障一体改革実現に向けての「橋渡し」を行ったという点に福田内閣の意義が見出せる。

福田内閣

平成19年(2007年)9月26日~平成20年(2008年)1月3日

福田内閣発足時、財務大臣は額賀福志郎氏、党政調会長は谷垣禎一氏、党税調会長は津島雄二氏、党税調小委員長は与謝野馨氏、政府税制調査会会長は香西泰氏という布陣である。

経済財政諮問会議は、安倍政権に引き続き大田弘子大臣の下で議論が行われた。2007年(平成19年)104日に開催された新政権初めての経済財政諮問会議には、民間議員ペーパーとして「改革の継続と安定した成長のために」が提出され、主要課題の一つとして「社会保障制度と財源のあり方(社会保障と税)」が示された。その上で、「受益と負担」の水準について、制度改革の選択肢や将来推計をベースに将来像を示しつつ議論を進めるべきであるという見解が示された。

諮問会議後の記者会見で大田大臣は、社会保障と税をセットで議論していくことの重要性を指摘しつつ、「社会保障は、国民の選択ですし、国民の目線に立ってということを繰り返し言っておられますので、選択肢を提示して、それは諮問会議、民間議員はこう考えるという議論もあるでしょうし、臨時議員としてお呼びする厚労大臣の御意見もあるでしょうし、財務大臣、経産大臣の御議論もあるんだろうと思います。その中で、諮問会議としてある方向に取りまとめができるようでしたら取りまとめますし、取りまとめられずに、さらに継続した議論になる場合もあるかと思います。選択肢について、まずは議論を詰めていくということを考えています。」と、選択肢の重要性について語っている。

91-FU-01-00 伊藤隆敏、丹羽宇一郎、御手洗冨士夫、八代尚宏. 改革の継続と安定した成長のために. 2007年(平成19年)10月4日.

2007年(平成19年)1017日の経済財政諮問会議では、2011 年度(平成23年度)までのプライマリー・バランス(基礎的財政収支)の推移を(114.3兆円の歳出削減を行ったケース、(211.4兆円の歳出削減を行ったケース、(314.3兆円の歳出削減を行ったケースに比べ、仮に2008年度(平成20年度)から2011年度(平成23年度)にかけて毎年度1兆円の歳出を積み増すとしたケースの3つのケースについて、新成長経済移行シナリオ(名目成長率3.0%、実質成長率2.4%:2007年度(平成19年度)~2011年度(平成23年度)平均)と、成長制約シナリオ(名目成長率2.2%、実質成長率1.6%:2007年度(平成19年度)~2011年度(平成23年度)平均)の2つのケースについて、つまり6つのケースについて試算が示された。さらに2025年度(平成37年度)についても、給付を維持する場合と負担を維持する場合についての社会保障給付と負担の選択肢も示された。

91-FU-02-00伊藤隆敏、丹羽宇一郎、御手洗冨士夫、八代尚宏. 有識者議員提出資料(給付と負担の選択肢について). 2007年(平成19年)10月17日.

この試算は、世の中に、2011年度(平成23年度)に最大7.5%、2025年度(平成37年度)に最大17%の消費増税が必要と受け止められ、大きな波紋を呼んだ。一方で、負担と給付を連動させて具体的な税率水準まで議論をするという手法は、小泉政権時代や第一次安倍政権時代の経済成長と財政赤字の関係を見ていく議論に比べてはるかにわかりやすいと高い評価があった。
なおこの試算は、後述する社会保障国民会議の最終報告書(公表は麻生内閣)(92-AS-04-00)にも添付され、麻生内閣の下で決定される「中期プログラム」につながっていく。

福田総理は会議を「人口減少、高齢化が進む我が国において、今後社会保障の給付を維持していくためには、国民の皆様に今まで以上の負担をお願いしなければならないし、 逆に負担を維持していくならば、社会保障給付のカットをお願いしていかなければならないという、非常に厳しい選択が示された。高齢化は確実に進行するために、問題の先送りはできない。選択肢は更に厳しいものになる。我が国の将来をしっかりと見据え、国民の立場に立った、わかりやすい議論を今後早急に詰めていただきたい。」と締めくくった。

福田総理は1022日、「安心できる社会保障・税制改革に関する政府・与党協議会」を発足させた。この会議は、閣僚と与党が一体となって、消費税を含む税制改革や医療・年金の水準維持などの財政再建について総合的に議論するために設けられたもので、総理から、「社会保障または少子化などについて将来のあるべき姿を描いた上で、それに必要な安定財源を確保し、負担の先送りを行わないようにすることも与野党を問わず政治の責任であります。」との発言がなされた。

このように政府・与党一体となった協議の場の重要性が格段に増し、それだけ諮問会議の位置の取り方は難しいものになっていったともいえる[1]

また具体的な消費税率を見せる手法に対しては、「上げ潮派」が反発、激しい議論になった。竹中平蔵慶應義塾大学教授は大田大臣を、「増税派」への変節ではないかとなじった[2]

一方党では、安倍内閣で活動を休止していた「財革研」が、与謝野馨氏を会長に議論を開始、1121日に「中間とりまとめ」を公表した。

  • 2009年度までの基礎年金国庫負担割合の引上げに要する財源を始め、少子高齢化に伴い増大する社会保障の安定財源を確保することにより、国民が安心でき、将来世代にツケを回さない社会保障制度を構築する。
  • 財政面では、2011年度における基礎的財政収支黒字化を確実に達成する。その後は、利払費を含む財政収支の均衡を、例えば概ね10年程度をかけて目指すこととし、それにより、2010年代半ばにおける債務残高対GDP(国内総生産)比の安定的引下げを実現する。
  • (前略)消費税を国民に対する社会保障給付のための財源と位置づけ、その趣旨を明確にすべく、現行の消費税を社会保障税(仮称)に改組する。
  • また、財政を社会保障と非社会保障に大きく二分割し、社会保障部門については給付に見合った負担を求め、負担の先送りを断ち切るとともに、給付と税負担との間に国民から見て透明な相互関係を構築する。
  • (前略)国民の理解を得ながら、2010年代半ばに向けて、社会保障給付に必要な税財源の確保を図ることとする。
  • こうした歳入面での取組に加え、歳出面での抑制努力の継続、成長戦略の実行等により、2010年代半ばにおける債務残高対GDP比の安定的引下げを実現し得る財政構造を確立する。
  • (前略)まずは、2009年度までの基礎年金国庫負担の2分の1への引上げのための安定財源を確保し、2011年度における基礎的財政収支の黒字化を確実に達成するため、「19年度を目途に税制の抜本的な改革を実現」とされた平成16年年金改正法を踏まえ、早期に税制上の措置を講じることとする。

所得税収を全額社会保障費にあて国民に還元することを前面に出しつつ税制改革を迫るアプローチであった。このようなアプローチは、「上げ潮派」の「歳出削減と高い経済成長による自然増収でプライマリー・バランス黒字化を目指す」という考え方との対立を回避させるという思惑もあった。

91-FU-05-00 自由民主党財政改革研究会. 中間とりまとめ. 2007年(平成19年)11月21日.

増税なき経済成長を目指す「上げ潮派」は、社会保障費の伸びを5年間で11千億円抑制するという目標が思うように進まないこともあって、埋蔵金論争を引き起こした。これまでの財政再建は経済成長で、という考え方に加えて、財源として、外為特会(外国為替資金特別会計)・財投資金特会(財政投融資特別会計)の積立金など、いわゆる「埋蔵金」の取り崩しを行うべきだという主張で、議論はますます白熱・複雑化していった。

埋蔵金があるという主張に対しては、埋蔵金が正確には何を示しているか定かでなく論者により異なること、特別会計に存在する運用益累積の繰越利益、具体的には財融資金特会の繰越利益と外為特会の繰越利益を指すのであれば、取り崩して国債残高の圧縮にあて国債残高を圧縮し財政健全化に使うこと、さらに取り崩しは毎年できるというものではないことなどが指摘され、この論争は一過性の議論で終わった。

政府税制調査会は1120日に答申を出した。各論として、消費課税について、その特徴、使途、消費税と再分配、消費税制度の信頼性・透明性を高めるための取組みの4点について、基本的な考え方を整理し、消費税引き上げの意義について以下のように記述した。

政府は、税財政改革の中期的な目標として、まずは 2011年度までに、プライマリー・バランス (基礎的財政収支)を確実に黒字化し、さらに 2010年代半ばに向けて、債務残高対GDP比を安定的に引き下げることを掲げている。財政支出の相当部分を社会保障費が占める現状に照らせば、社会保障制度の安定的な財源を確保することは、こうした政府の目標を達成することにも貢献することとなる。

91-FU-03-00 政府税制調査会. 「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」(抜粋). 2007年(平成19年)11月20日.

さらに1213日に「平成20年度与党税制改正大綱」が決定された。抜本改革に関しては、「消費税を含む税体系の抜本的改革については、今後、以下の「基本的考え方」に基づき、平成16年年金改正法やこれまで政府・与党が定めてきた累次の方針を踏まえ、早期に実現を図る。」と、所得・消費・資産の各税の役割についての記述だけで、具体的な増税の時期や内容には踏み込まないものとなった。これは、年明けに開催される「超党派」の社会保障国民会議の議論を踏まえて税率引き上げを決めたいという福田総理の意向を反映したものであった。

91-FU-06-00 自由民主党、公明党. 平成20年度税制改正大綱(抄). 2007年(平成19年)12月13日.

2007年(平成19年)1226日の経済財政諮問会議では、財政再建の第三ステージである2010年代半ばに向けて債務残高のGDP比を安定的に引き下げていく目標の議論を始めるべきだという民間議員の意見も出たが、それ以上踏み込んだ議論は行われなかった。

消費税アーカイブ第5回 福田政権(後編)に続く


過去の記事はこちら


[1] 大田弘子『改革逆走』(日本経済新聞出版社、2010年)
[2] 清水真人『首相の蹉跌』(日本経済新聞出版社、2009)

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