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アメリカ連邦議会選挙での女性の躍進:史上最多の 女性議員が誕生した第117議会
ナンシー・ペロシ下院議長(前列左から4人目)と下院民主党の女性議員たち(2019年1月4日、第116回議会にて)(写真提供 Getty Images)

アメリカ連邦議会選挙での女性の躍進:史上最多の女性議員が誕生した第117議会

February 1, 2021

早稲田大学社会科学総合学術院教授
中林美恵子

 

昨年の大統領選挙においては、前代未聞の混乱が大きな注目となった。コロナ禍での郵便投票やトランプ氏による不正選挙の訴え、そして議事堂占拠事件など、異例の事態が相次いだ。そのような経緯もあり、同時に行われていた議会選挙で史上最多の女性議員が誕生した事実などは、相対的にかすんでしまったようにもみえる。そこで本稿では第117議会[1]がスタートしたのを機に、連邦議会レベルで女性議員たちの傾向にどのような変化がみられたのかを、概観しておきたい。 

2020年議会選挙と女性議員
政党別の女性議員数
下院で多くの女性が出馬し予備選を通過
おわりに

2020年議会選挙と女性議員 

435議席の下院では、127日時点で欠員が1議席(ルイジアナ州第5選挙区の当選者がコロナ感染で死亡したため)および未確定が1議席(ニューヨーク州第22選挙区では民主党の男性候補と共和党の女性候補の得票数僅差が解決せず法廷闘争継続中)となっている。したがって、確定している議席は433であり、女性議員数やその割合を見る上での基礎となる。またこれに加えて、投票権のない6人の代表(Delegate)が、下院でオブザーバーとして出席できる仕組みになっており、それを含めて女性議員数をカウントする調査会社(ピュー・リサーチセンター[2]など)もあれば、含めないものもある(CAWPCenter for American Women and Politics[3]など)。本稿では、後者の数字を基本とするため、除外される女性当選者(代表)をここに予め記しておきたい。代表を選出できる選挙区は、コロンビア特別区、アメリカ領サモア、プエルト・リコ、アメリカ領ヴァージン諸島、グアム、そしてアメリカ領マリアナ諸島であり、6人のうち4人が女性である。

また女性議員の数は今後、変化する可能性がある。ニューヨーク州第22選挙区が未定であることは既に触れたが、他にも例えば下院では、女性のマルシア・ファッジ下院議員が次期住宅都市開発省(HUD)長官の候補になっているため、上院で承認されれば議員を辞職する。さらに、デブ・ハーランド下院議員も内務長官候補として指名されているため、上院で承認されれば下院を去る。カマラ・ハリス上院議員は、120日付けで副大統領に就任した。地元カリフォルニア州の知事がハリス氏の残った任期を埋める議員として男性を指名したため、女性上院議員数が1議席減少する。また、女性のケリー・ロフラー上院議員が議席を失ったのは15日になってから(ジョージア州決選投票日)だったので、宣誓就任式の13日には、まだ最終選挙結果が出ないまま第117議会の開会を迎えたことになる。

このような背景があるため、女性議員の数を細かくみると少々の流動性が残る。ただし、史上最多の女性議員数が確定したことには変わりがない。特に下院での女性議員の増加は著しかった。第116議会に101人だった女性議員は、第117議会では少なくとも118[4]を確保した。比率にすると23%から27%へ上昇したことになる。

一方の上院では、ハリス副大統領の誕生で、100議席中女性議員は両党の総数では24議席となり、2020年の26議席(ロフラー氏を含む)を下回った。上院の議席総数は100であるため、女性の割合では26%から24%へと減少したことになる。

政党別の女性議員数

民主党と共和党では、女性議員の数に大きな開きがある。13日の連邦議員宣誓就任式の日における女性議員の政党別バランスをCAWPの数字[5]で見てみると、下院では民主党が89人、共和党が29人となっている。上院のほうは、民主党が17人(120日以降はカマラ・ハリス氏を除くので16人)で、共和党は8人(15日以降のロフラー氏を除く)である。2020年の選挙では、共和党の女性が史上最多数を記録したことが特筆される。もともと民主党に比べ女性現職議員の数が少なかった共和党だが、今回は僅かながらも追いつく傾向を見せた。

特に下院で共和党女性議員の躍進が目立ったことは特徴的である。共和党の過去に獲得した最多女性議員数は2006年にさかのぼる25議席であったため、今回はそれを4議席上回った。2019年の共和党女性議席数は13議席[6]であったので、今回の29議席確保は大きな躍進である。一方の下院民主党女性議員は、2019年に記録した最多記録と同数を維持するに止まった。つまり、第117議会で史上最多の女性議員数を記録できたのは、共和党の下院議員が増加した影響だといえる。

上院に目を転じると、2020年の選挙では民主党が2018年の女性議員数最多記録(17議席)を1議席下回った。この1議席はハリス上院議員の副大統領就任によるものなので、悲観はされていない。また共和党も、2020年の最多記録(9議席[7])を下回った。両党ともに、上院では女性議員の減少となったが、やはり下院で共和党女性議員が大幅に増加した影響は大きく、上下両院を合わせても第117議会では史上最多の女性議員が誕生したという記録がつくられたわけである。上下両院の女性議席総数では、20191月時点の127議席から20211月時点の142議席(ハリス氏を除く)と、確実な増加を記録した。(図1.参照。) 

図1.

出所: BBCニュース(元のデータはCAWPのもの)[8], November 10, 2020.  

下院で多くの女性が出馬し予備選を通過

CAWPのレポート[9]によれば、2020年の選挙は両党合計で298人の女性が政党の予備選挙を勝利して指名候補となった。これは2018年の前回選挙と比較すると約27%の増加だった。前回の2018年中間選挙の時は、下院で本選挙に臨むため予備選挙で政党の指名を勝ち取った女性候補は234人であり、2016年の167人と比較しても順調に増加している。

政党別では、2020年の選挙で204人の女性が民主党の指名候補として予備選を勝ち残った。これは2018年の182人と比べて増加となった。共和党のほうも、予備選で勝ち残った女性は2020年に94人となり、2018年選挙の52人に比べて増加となっている。(図2.参照。) 

図2.

出所: CAWP[10]


上院では、女性候補者数が減少したことが明らかになっている。CAWPの同レポートによれば、上院選で政党の予備選を勝ち抜いたのは、両党合わせて20人に止まった。2018年には23人であったため、減少となった。2020年に予備選を通過した女性候補20人の内訳は、民主党が12人であり、2018年の15人から減少している。また共和党では8人が予備選を勝ち抜き本選挙に挑んだ。この人数は2018年の中間選挙と同数であった。(図3.参照。)


図3.

出所: CAWP[11]

  

下院の共和党女性候補が増えた要因の一つには、積極的なリクルートメントが指摘されている[12]。背景に、2018年の中間選挙で共和党が大幅に女性議員を減らしたことによる危機感の高まりがあったようだ。2018年、共和党は下院で23人から13人まで議席を減らした。逆に民主党は、女性を64議席から89議席に増加させた年であった。

この数字を受けた共和党の危機感が、保守的な女性候補の擁立を支援するPAC(政治行動委員会[13])などを始めとして、予備選挙の段階から女性候補支援に本腰を入れるきっかけになったとされる[14]。その際に参考にしたのは民主党の女性を多く支援するEMILY's List[15]だった。Republican Women for ProgressRWFP[16]で政治部長を務めるKodiak Hill-Davis氏は取材に対し、女性は予備選挙を勝ち抜かない限り議席を増やせないと分かり、EMILY’s Listを参考にしたという[17]。一周遅れではあるが、共和党も女性候補の擁立の面で民主党から学ばねばならない状況に認識が至ったようである。

共和党の女性候補を支援する団体には、他に例えばWinning for Women[18]VIEW PAC[19]、そして E-PAC[20]などがある[21]。責任ある政治センター(Center for Responsive Politics[22]によれば、これら女性支援に特化した団体の献金額については次のような状況だった。202010月の報告時点で、E-PAC425,000ドルを連邦議会議員候補に献金しており、2018年の118,000ドルに比較して献金額の増加が見られた。また、VIEW PACの献金額は2018年の410,000ドルから2020年の10月時点で530,000ドルへ増加した。さらに、E-PACによって推薦を受けた11人の候補者は、結果として予備選を勝ち抜くことができ、その後の本選挙でも数人が当選を果たした(例えばアイオワ州のAshley Hinson氏、サウスカロライナ州のNancy Mace氏など)。なお、Winning for Womenについては、2018年の143,000ドルの献金額から202010月時点で125,000ドルという実績だったようである。

また共和党から立候補したいと希望する女性も増えたとされる。Winning for Womenの広報担当であるOlivia Perez-Cubas氏によれば、2018年の中間選挙で女性候補者が大量に当選する姿に共和党の女性が刺激されたという[23]。その結果、共和党から2020年の選挙に出馬した女性は、予備選を含めると下院で227人、上院で23人を数えた[24]

このように2020年は、共和党の女性議員が一回の選挙で獲得した議席としては最多を記録したわけである。しかしながら、実はそのほとんどが2018年の中間選挙で失った議席を取り戻しただけという見方もできる。(図4.参照。)ただ、もし今回の選挙を機に共和党が大きく方針転換したとすれば、このトレンドが継続されていく可能性も十分あるだろう。

図4

出所:CNN[25] 

おわりに

2020年選挙における民主党と共和党の女性立候補者数を合計すると、その人数は643人に上り、下院で583人、上院で60人となった。立候補者数でも史上最多を記録しており、2016年の選挙と比較すると2倍にもなっていた。しかしながら、女性の当選者は2倍にはなってはいない[26]

その理由の一つは、より多くの女性が出馬することによって、女性の候補者同士が選挙戦を戦うケースが増えたからだとされる[27]。これは本選挙のみならず予備選挙でも起こっていた。2016年との比較でみると、女性候補者同士が争ったのは、上下両院で17の選挙区だったが、2020年の選挙ではこれが51選挙区に増えていた[28]

このように、今後の女性議員数の増加には新たな問題も生じるようになってきている。女性議員の増加は確かに進みつつあるが、女性議員が占める割合は上下両院合わせて議席の4分の1ほどだ。米国ではまだ女性の過小代表が続いている。今後その解消に向けて、民主党とともに共和党がどこまで女性議員の数を増やせるのか、そしてそれぞれの政党にとって安定した選挙区での女性議席増加ができるのかどうか等が注目のポイントとなろう。
 


[1] 2年ごとに一会期となっており、第117議会は202113日から202313日までとなる。

[2] https://www.pewresearch.org/ 

[3] https://cawp.rutgers.edu/ 

[4] Center for American Women and Politics, “Women in the 117th Congress.” January 1, 2020. https://cawp.rutgers.edu/sites/default/files/resources/press-release-women-in-the-117th-congress_0.pdf (accessed on January 18, 2021.)

[5] Center for American Women and Politics, “History of Women in the U.S. Congress.” https://cawp.rutgers.edu/history-women-us-congress 

[6] 前脚注5参照。

[7] 202016日に空席を埋めるためにジョージア州知事によって指名されたケリー・ロフラー氏、および201913日にアリゾナ州知事によって空席を埋めるために指名され2020122日に退職したマーサ・マクサリー氏を含める。

[8] Lucy Rodgers, “Women continue to change the face of US politics.” BBC News, November 2020.  https://www.bbc.com/news/election-us-2020-54853289 

[9] Kelly Dittmar,The 2020 primaries are over. Here’s what you need to know about the record numbers of women nominees.” CAWP, September 18, 2020. https://cawp.rutgers.edu/election-analysis/post-primary-analysis-women-2020 

[10] 前脚注9参照。

[11] 前脚注9参照。

[12] Simone Pathe, Renée Rigdon and Janie Boschma, “A record number of women will serve in the next Congress.” CNN, November 13, 2020. https://edition.cnn.com/2020/11/13/politics/election-2020-record-women-in-congress/index.html

[13] political action committee。選挙において活動する政治資金の受け皿となる団体。

[14] Rachael Bade. “GOP women’s record-breaking success reflects party’s major shift on recruiting and supporting female candidates.” The Washington Post, December 7, 2020. https://www.washingtonpost.com/politics/house-republicans-women-election/2020/12/07/0563e418-367c-11eb-8d38-6aea1adb3839_story.html

[15] "Early Money is Like Yeast"を意味しており、予備選挙の早い段階で女性に資金提供などの支援を行うことで、女性が予備選から頭角を現すことを狙った。1985年設立。https://www.emilyslist.org/ 

[16] 2017年設立。https://www.gopwomenforprogress.org/

[17] Li Zhouli, “A historic number of women have been sworn in to Congress.” J Vox Media, January 4, 2021. https://www.vox.com/21562289/republican-women-election-records 

[18] 2017年設立。https://winningforwomen.com/ 

[19] “Value In Electing Women Political Action Committee” の略。1997年設立。https://viewpac.org/ 

[20] Elevate PAC” 2011年設立 https://elevate-pac.com/

[21] Erin Delmore, Inside the movement that swept Republican women into Congress.” November 21, 2020. https://www.nbcnews.com/know-your-value/feature/inside-movement-swept-republican-women-congress-ncna1248394 

[22] https://www.opensecrets.org/political-action-committees-pacs/e-pac/C00570945/candidate-recipients/2018 

[23] Erin Delmore, Inside the movement that swept Republican women into Congress.” November 21, 2020. https://www.nbcnews.com/know-your-value/feature/inside-movement-swept-republican-women-congress-ncna1248394 

[24] Amanda Becker. “More Republican women are running for the U.S. House than ever before. Will they win?” August 7, 2020. https://19thnews.org/2020/08/republican-women-us-house-races-2020/ 

[25] 前脚注12参照。 

[26] 前脚注12参照。 

[27] 前脚注12参照。 

[28] 前脚注12参照。

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