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消費税アーカイブ第7回 麻生政権(後編)
写真提供 共同通信社 「安心社会実現会議」の成田豊座長(右)から報告書を受け取る麻生首相

消費税アーカイブ第7回 麻生政権(後編)

April 1, 2021

【麻生内閣】
前編:概論、平成20年9月24日~12月24
後編:平成20年12月24日~平成21年9月16

麻生内閣

平成20年(2008年)12月25日~平成21年(2009年)9月16日

2008年(平成20年)1224日に、消費税を含む税制抜本改革の具体的なスケジュールが書きこまれた「中期プログラム」が閣議決定された。以後これを立法化していくわけだが、注目すべき点は、「2009年度(平成21年度)の税制改正に関する法律の附則において、前記の税制抜本改革の道筋及び基本的方向性を立法上明らかにする。」としたことである。

附則というのは、法令において、法令の施行期日、経過措置、関係法令の改廃等に関する事項などの付随的な事項を定める箇所である。一方、附則は法律の一部(つまり「国会の意思」)であり、附則の内容が不適当と思うならば、法律を改正して改める必要がある。法律を変えない限り国会や政府を拘束するわけで、「政府の意思」にすぎない閣議決定とは大きく異なる意味合いがある。

閣議決定を踏まえて、平成21年度税制改正に係る「所得税法等の一部を改正する法律」(以下「21年度改正法」2009年(平成21年)331日公布)の附則第104条に、消費税を含む税制の抜本的な改革の道筋と基本的方向性に関する規定が設けられた。

92-AS-09-00 所得税法等の一部を改正する法律(平成21年法律第13号)附則(抄). 2009年(平成21年)331.

同条第1項では、「政府は、(中略)平成20年度を含む3年以内の景気回復に向けた集中的な取組により経済状況を好転させることを前提として、遅滞なく、かつ、段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、平成23年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする。」と規定された。

これは、税制の抜本的な改革の実施時期は経済状況等によって変わり得るとしても、法制上の措置自体は、経済状況の如何に関わらず、2011年度(平成23年度)までに講ずるべきとの観点から、政府に対し、2012年(平成24年)331日までに消費税を含む税制の抜本的な改革に係る具体的な改正内容を定める法案を国会に提出することを義務付けたものである。

中期プログラムの閣議決定、さらには国会での法律化(プログラム法)により、税制の抜本改革と社会保障・税一体改革は国会をも縛る約束となったのである。

実は税法の附則による国会意思の拘束については貴重な前例がある。消費税率の5%への引き上げ時である。消費税率の見直しを含む抜本的税制改革の議論は、1993年(平成5年)に成立した細川内閣から始まった。1994年(平成6年)2月の国民福祉税構想を経て細川内閣は崩壊、羽田内閣に変わったが、少数与党のため総辞職し、税制改革は実現しなかった。 しかし、羽田内閣で成立した平成6年の税法(「平成六年分所得税の特別減税のための臨時措置法」(平成6年法律第29号))の附則第5条に、「平成7年分以後の所得税については、速やかに、税制全般の在り方について検討を加えて税制改革を行い…(後略)」と定められた。非自民政権である細川・羽田政権から、自社さ連立政権(自由民主党・日本社会党(1996年1月19日以降は社会民主党)・新党さきがけ)へと政権交代が起きたにもかかわらず、この附則が「橋渡し」となって、村山内閣の下で消費税引き上げを含む税制改革が引き継がれることになったのである。

話はまだ続く。消費税率5%への引き上げを柱とする「所得税法及び消費税法の一部を改正する法律案」が国会に提出され、平成7年12月に公布された。その際この法律に、また重要な附則がつけられた。それは、附則25条「見直し条項」と呼ばれるもので、「消費税の税率については、社会保障等に要する財源を確保する観点、行政及び財政の改革の推進状況、租税特別措置等及び消費税に係る課税の適正化の状況、財政状況等を総合的に勘案して検討を加え、…(中略)…平成8年9月30日までに所要の措置を講ずるものとする。」という内容である。

筆者は、1997年(平成9年)4月からの消費税率5%の引き上げ実施を行う際、主税局の担当課長として実務を担当した。最大の仕事は、消費税率を3%からさらに引き上げるにことついて、「検討条項」に記された検討が適切に行われているかどうかを改めてチェックして決定するということであった。この附則の検討課題をこなすことで、平成9年4月1日からの消費税引き上げが実行されたのである。この点については拙著『日本の消費税 導入・改正の経緯と重要資料』(納税協会連合会)に詳しい。

このように、消費税は附則と極めて深いつながりを持つのだが、与謝野氏は、1997年の「検討条項」の見直しの際、政調会長代理として党内の議論を完全に仕切っていたこと、連日与謝野事務所に集まって作戦会議を開いたことなどをなつかしく思い出す。

21年度改正法」の附則104条制定には、麻生内閣で経済財政政策担当大臣となった与謝野氏が、このように過去の実例を熟知していたという背景がある。

麻生内閣から政権交代した民主党野田内閣は、この規定に基づき、2012年(平成24年)330日に抜本改革法を国会に提出することになるが、そのことについては機会を改めて触れることとする。

また、附則第104条第1項では、「当該改革は、2010年代(平成22年から平成31年までの期間をいう。)の半ばまでに持続可能な財政構造を確立することを旨とするものとする。」と規定し、税制抜本改革が2010年代半ばまでに持続可能な財政構造を確立するための取組みの一環であることを明確化した。政府の財政健全化目標については、政権交代後の「財政運営戦略(2010年(平成22年)622日閣議決定)」において具体化されることになる。

3項では、税制の抜本的な改革に向けての検討の基本的方向性について、各税目ごとに規定された。
消費税に関する検討の方向性として、「その負担が確実に国民に還元されることを明らかにする観点から、消費税の全額が制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する費用に充てられることが予算及び決算において明確化されることを前提に、消費税の税率を検討すること。」(下線、筆者)と規定されており、「中期プログラム」と同様、消費税収を社会保障4経費(子育て・医療・介護・年金)に充てることにより、国民にその負担を確実に還元するとの方向性が法律上でも明確にされた。
また、消費税率について検討を行う際には、所得の低い方々への配慮にも留意する必要があるとの観点から、「歳出面も合わせた視点に立って複数税率の検討等の総合的な取組を行うことにより低所得者への配慮について検討すること。」(下線、筆者)との方向性も併せて示された。

年が明け2009年(平成21年)116日の諮問会議では「経済財政の中長期方針と10年展望」について議論が行われた。会議には、内閣府の作成した「経済財政の中長期方針と10年展望 比較試算」が提出された。これについて与謝野大臣は、諮問会議後の記者会見で以下のように語っている。

「この試算の読み方が大事である。第1に、成長率は2018年まで全体として見ると、消費税を上げても上げなくても大きな違いはない。第2に、財政再建で見ると、消費税を上げないと発散する。債務残高が発散するという意味です。それから、第3に社会保障で見ると、消費税を上げないと社会保障の機能強化が全くできない。以上で考えると、消費税を上げない方がデメリットが大きいと。第2に、消費税を一気に上げるのと、例えば1%ずつ上げたケースと比較すると、一気に上げると経済は不安定化することが示されている。」

1月19日には「経済財政の中長期方針と10年展望」が閣議決定、公表された。この中で、中期プログラムに従って、消費税を含む税制抜本改革を実施することが明記された。

92-AS-08-00 経済財政の中長期方針と10年展望について(抄):  閣議決定. 2009年(平成21年)119日.

一方、リーマンショックのわが国経済に及ぼす影響は大きく、それに対する経済対策もいろいろ議論され、4月10日に「経済危機対策」(「経済危機対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議)が公表された。

92-AS-10-00 「経済危機対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議. 「経済危機対策」. 2009年(平成21年)410.

413日には「安心社会実現会議」が発足した。「我が国の経済・雇用構造の変化や少子高齢化の進展等の環境変化を踏まえ、国民が安心して生活をおくることができる社会(安心社会)の実現が急務となっています。安心社会の実現には、国家として目指すべき方向性や基本政策の在り方について、幅広い視点から、総合的な検討を行うことが必要です。」として、電通の成田豊最高顧問を座長、吉川洋氏を座長代理とし、与謝野賢人会議と称された。消費増税への国民の理解を得ていくためには社会保障の充実が必要で、そちらの面に焦点を当てた会議である。会議の目的として、現下の経済社会情勢にあって、わが国が目指すべき「国家像」「社会の姿」を提示することと、国民が先行きの生活に抱く「大きな不安」に応えることがあげられた。

417日の経済財政諮問会議には、吉川氏など4人の民間議員から、「安心実現集中審議に向けて」として、「経済危機克服に向け、当面の経済の底割れ回避と将来の成長につながる新対策を講じたが、経済財政状況の悪化の中で、以下の課題に具体的に対応し、社会保障制度の改革を通して国民の安心を確かなものにすることが不可欠である。今後、安心実現に向けて集中審議を行い、その成果を「基本方針 2009」及び「中期プログラムの改訂」に反映すべき。」という内容の資料が提出された。

92-AS-12-00 岩田一政、張富士夫、三村明夫、吉川洋. 安心実現集中審議に向けて. 2009年(平成21年)417.

6月15日に「安心と活力の日本へ」という表題の安心社会実現会議の報告書が公表され、2010年代半ばまでに達成すべきこととして、「消費税を社会保障給付のための目的税として、その収入はすべてこの『社会保障勘定』に入れるという方法も検討に値する」と記述された。

またこの報告書では、10の緊急施策として、(1)子育て世帯、働く低所得世帯を支援する給付付き児童・勤労税額控除の創設、(2)子育て支援サービス基盤の計画的整備(多様なサービスの実現、事業参入促進)、(3)就学前教育の導入およびその保育や育児休業制度との総合化、(4)所得保障付き職業能力開発制度など雇用・生活保障セーフティネットの構築、(5) 給付型奨学金制度の導入など高等教育の私的負担を軽減する措置、(6)非正規労働者への社会保険・労働保険適用拡大など非正規雇用の処遇格差の是正、(7)コミュニティにおける医療・介護連携の推進とそれに連動した独居高齢者に対する住宅保障、(8)安心保障番号/カード(社会保障番号/カード)の導入、(9)「安心社会実現本部」「安心社会実現オンブズマン」の設置、(10)政府をあげて改革に取り組むための行政組織の再編・人的資源の再配分、が記載された。この報告の内容については、中期プログラム改訂に反映された。

92-AS-13-00 安心社会実現会議. 安心と活力の日本へ(抄)(安心社会実現会議報告). 2009年(平成21年)615.

6月23日には「経済財政改革の基本方針2009」(骨太の方針2009)が閣議決定された。「中期プロクラム」と「平成21年度税制改正法」附則の税制の抜本改革の規定に則って、社会保障の機能強化と安定財源確保を着実に具体化することなどが明記された。

92-AS-14-00 経済財政改革の基本方針2009(抄)~安心・活力・責任~閣議決定. 2009年(平成21年)623.

92-AS-16-00 持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた「中期プログラム」: 閣議決定. 2008年(平成20年)1224.一部修正2009年(平成21年)623.

特筆に値するのは、「税制本改革の基本的方向性」として、個人所得課税について、「高所得者の税負担を引き上げるとともに、給付付き税額控除の検討を含む歳出面も合わせた総合的取組の中で子育て等に配慮して中低所得者世帯の負担の軽減を検討する。」とされ、政府の閣議決定文章に「給付付き税額控除」が記述されたことである。
さらに消費税について、「(消費税の税率を検討する)際、歳出面も合わせた視点に立って複数税率の検討等総合的な取組みを行うことにより低所得者の配慮について検討する。」とされた。政権交代後の民主党政権では、給付付き税額控除が消費税の逆進性対策として検討されるが、そのスタートはこの「中期プログラム」である。

なお「中期プログラム」の閣議決定が一部改訂となっているのは、経済危機対策及び関連補正予算において時限的に講じられた社会保障の機能強化措置のその後の対応については、 「経済財政改革の基本方針2009」における社会保障の機能強化の必要性の観点等を踏まえつつ、財源確保と併せて検討することなどが付け加えられたことによる。

「基本方針2009」の中には、「『官から民へ』、『大きな政府から小さな政府へ』といった議論を超えて、『安心社会』の実現に向けて無駄なく『機能する政府』への変革や、企業・ NPO・地域などの参加と役割・責任分担による新たな『公』の創造を国全体の課題として位置づけ直すことが必要である。」といった記述も見られ、事実上小泉内閣の路線を変更するものと受け止められた。

その後8月に衆議院選挙が行われ、自民党は大敗。民主党へと政権交代した。


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