消費税アーカイブ第12回 野田政権(後編) | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

消費税アーカイブ第12回 野田政権(後編)
写真提供 共同通信社

消費税アーカイブ第12回 野田政権(後編)

September 1, 2021

【野田内閣】
前編:概論、平成23年9月2日~平成24年3月30日
後編:平成24年3月30日~12月26

野田内閣

平成24年(2012年)3月30日~12月26日

法律案の国会提出

2012年(平成24年)3月30日、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する法律案」(以下「当初政府案」)が国会に提出された。

95-NO-17-03 社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案(抄). 2012年(平成24年)330.

この当初政府案について三党協議を踏まえた修正が行われ、810日の参議院での可決・成立へとつながっていく。その原動力となったのは、政権交代前の自民党麻生内閣の下で策定された「中期プログラム」と「所得税法等の一部を改正する法律(「21年度改正法」)附則第104条」である。

「中期プログラム」では「平成21年度の税制改正に関する法律の附則において税制抜本改革の道筋及び基本的方向性を立法上明らかにする」とされ、「21年度改正法」の附則第104条に、消費税を含む税制の抜本的な改革の道筋と基本的方向性に関する規定が設けられたことは麻生政権(後編)で詳述した。(92-AS-16-00

また「21年度改正法」では、消費税の全額が年金、医療、介護、少子化対策の4経費へ充当されること(社会保障目的税化)と、低所得者対策を検討することが示されていたことも重要である。

このように、税制に関する抜本的な改革及び関連する社会保障諸施策について、基本的方向性に基づきそれぞれ検討し、その結果に基づき速やかに必要な措置を講じなければならない旨の規定を設け、法律上もそれに沿った検討を政府に対し義務付けることとなった。

具体的には、閣議決定された「社会保障・税一体改革大綱」に沿った形で2012年通常国会において衆参両院に特別委員会が設置され、集中的な審議を経て、税制抜本改革法、社会保障制度改革国民会議の設置等を定めた社会保障制度改革推進法、子ども・子育て支援関連の3法案、年金関連の 2法案等が可決・成立した。

その後、第2次安倍政権のもとで、社会保障制度改革推進法に基づき設置された社会保障制度改革国民会議の取りまとめ報告書等を踏まえ、社会保障制度改革の全体像及び進め方を明らかにするためのプログラム法である「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案」が 2013年(平成 251015日に国会に提出され、同年 12 月5日に成立・施行されることになる。

もう一つ重要な点は、消費増税と経済情勢との関係であった。
消費税率の引上げと経済状況等との関係については、民主党の厚生労働、財務金融、総務部門の各会議、社会保障と税の一体改革調査会、税制調査会合同会議における議論を踏まえ、最終的に抜本改革法案の附則第18条に以下のような記述が盛り込まれた。

「消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成二十三年度から平成三十二年度までの平均において名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。」

この抜本改革法案の附則第18条については、第1項に示された「名目の経済成長率で3%程度かつ実質の成長率で2 %程度」が消費税率引上げの前提条件か否かについて、2012年(平成24年)511日の衆議院本会議において野田総理大臣は以下のように述べ、これらが税率引上げの前提条件ではない旨を明確にした。

「デフレ脱却や経済活性化に向けた取り組みは重要であり、これらと一体改革は同時に進めていかなければなりません。このため、法案では、平成23年度から32年度までの10年間の平均において、名目3%程度、実質2%程度の経済成長を目指すという政策努力の目標を示し、こうした望ましい経済成長のあり方に早期に近づけるため、デフレ脱却や経済活性化に向けて必要な施策を講じていく責務を課していますが、これは、消費税率引き上げの前提条件として規定しているものではございません。また、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、税率の引き上げに当たっては、経済状況の好転について種々の経済指標を確認し、デフレ脱却や経済活性化に向けた総合的な施策等を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、必要と認められる場合に、引き上げの停止を含め、所要の措置を講ずることとしております。」(下線筆者)

この問題は、第2次安倍政権において、消費増税引き延ばしの議論へとつながっていく。

三党合意に向けて

先述の通り、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(以下「抜本改革法」)は、2012年(平成24年)330日に第180回通常国会に提出された。

それに先立つ229日、野田総理は自民党谷垣総裁との党首会談で、与野党協議を申し入れた。これに対し谷垣氏は衆議院の解散を要求し物別れに終わった。国会会期は621日までで、それまでに採決するには自民党の協力が不可欠と言う状況となり、野田総理は追い込まれる形となっていく。

511日に衆議院本会議における趣旨説明・質疑が行われ、同日、抜本改革法は社会保障と税の一体改革に関する特別委員会に付託された。同特別委員会における審議が積み重ねられる中、6月に入り、民主党、自民党及び公明党の三党間において、社会保障及び税制それぞれの分野ごとに協議が行われることとなった。

一方民主党内では63日に小沢氏が法案への反対を正式表明し、党内の分裂は決定的になった。

64日、第二次改造内閣が発足、藤村修官房長官、安住淳財務大臣は留任した。

68日から三党協議が動き出す。協議は税制分野と社会保障分野に分けられ、税制の責任者は民主党が藤井税制調査会会長、自民党が町村信孝氏となった。社会保障については、民主党が細川律夫前厚労相、自民党が鴨下一郎氏とされ、全体を総括するのは、民主党が前原誠司政務調査会会長、自民党は伊吹文明氏と野田毅税制調査会会長であった。

自民党は、6月11日に消費税率を10%に引き上げることについて合意をした。難航したのは、民主党の公約撤回を迫る社会保障の部分で、種々議論の結果14日に民主党が自民党の社会保障制度改革基本法案の骨子にしたがって修正すること(丸呑み)により決着した。15日には低所得者対策の必要性を訴える公明党も参加し、抜本改革法案についての税関係と社会保障に関してそれぞれ確認書が作成され、三党合意が成立した。

95-NO-20-01 自由民主党. 社会保障制度改革基本法案(仮称)骨子. 2012年(平成24年)67日.
95-NO-22-00 民主党、自由民主党、公明党. 確認書. 2012年(平成24年)6月15日.
95-NO-21-00 民主党、自由民主党、公明党. 社会保障・税一体改革に関する確認書(社会保障部分). 2012年(平成24年)615.

筆者は、611日のテレビ番組(BSフジLIVEプライムニュース)で、民主党藤井税務調査会会長と公明党石井啓一政務調査会会長と対談したが、その時の状況は複雑であった。公明党は婦人部などが消費税引上げに消極的で態度を決めかねていたが、一方で民主党と自民党の2党で協議が進んでいくことには焦燥感を持っていた。そこで公明党が三党合意に参加するために大義名分としたのが低所得者対策としての軽減税率であった。民主党の主張する低所得者対策である給付付き税額控除に比べて、日々買い物をする主婦層にわかりやすいというのがその理由であった。軽減税率については、後述するような様々な課題・問題があったが、この段階では、両論併記となった。

三党合意について
(*は法改正に係るもの)

  • 4条(所得税)について

    • ・(*)所得税に係る規定(第4条)は削除するが、最高税率の引上げなど累進性の強化に係る具体的な措置について検討し、その結果に基づき平成25年度改正において必要な法制上の措置を講ずる旨の規定を附則に設ける。
       具体化にあたっては、今回の政府案(課税所得5,000万円超について45%)及び協議の過程における公明党の提案(課税所得3,000万円超について45%、課税所得5,000万円超について50%)を踏まえつつ検討を進める。

  • 5条、第6条(資産課税)について
    • ・(*)資産課税に係る規定(第5条、第6条)は削除するが、相続税の課税ベース、税率構造等、及び贈与税の見直しについて検討し、その結果に基づき平成25年度改正において必要な法制上の措置を講ずる旨の規定を附則に設ける。
       具体化にあたっては、バブル後の地価の大幅下落等に対応して基礎控除の水準を引き下げる等としている今回の政府案を踏まえつつ検討を進める。
  • 7条(消費税率引上げに当たっての検討課題等)について
    • ・ 消費税率の引上げに当たっては、低所得者に配慮した施策を講ずることとし、以下を確認する。
      • ⑴(*)「低所得者に配慮する観点から、給付付き税額控除等の施策の導入について、所得の把握、資産の把握の問題、執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する」旨の条文とする。
         また、「低所得者に配慮する観点から、複数税率の導入について、財源の問題、対象範囲の限定、中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する」旨の条文とする。
      • ⑵(*)簡素な給付措置については、「消費税率(国・地方)が8%となる時期から低所得者に配慮する給付付き税額控除等及び複数税率の検討の結果に基づき導入する施策の実現までの間の暫定的及び臨時的な措置として実施する」旨の条文とする。
         その内容については、真に配慮が必要な低所得者を対象にしっかりとした措置が行われるよう、今後、予算編成過程において、立法措置を含めた具体化を検討する。簡素な給付措置の実施が消費税率(国・地方)の8%への引上げの条件であることを確認する。
    • ・(*)転嫁対策については、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保する観点から、独占禁止法・下請法の特例に係る必要な法制上の措置を講ずる旨の規定を追加する。
    • ・ 医療については、第7条第1号ヘ(注:法案修正後はト)に示した方針に沿って見直しを行うこととし、消費税率(国・地方)の8%への引上げ時までに、高額の投資に係る消費税負担について、医療保険制度において他の診療行為と区分して適切な手当を行う具体的な手法について検討し結論を得る。また、医療に関する税制上の配慮等についても幅広く検討を行う。
    • ・ 住宅の取得については、第7条第1号トの規定に沿って、平成25年度以降の税制改正及び予算編成の過程で総合的に検討を行い、消費税率(国・地方)の8%への引上げ時及び10%への引上げ時にそれぞれ十分な対策を実施する。
    • ・ 自動車取得税及び自動車重量税については、第7条第1号ワの規定に沿って抜本的見直しを行うこととし、消費税率(国・地方)の8%への引上げ時までに結論を得る。
    • ・(*)扶養控除、成年扶養控除、配偶者控除に関する規定を削除する。
       ただし、成年扶養控除を含む扶養控除及び配偶者控除の在り方については、引き続き各党で検討を進めるものとする。
    • ・(*)歳入庁に関する規定を「年金保険料の徴収体制強化等について、歳入庁その他の方策の有効性、課題等を幅広い観点から検討し、実施する。」とする。
  • 附則第18条について
    • ・ 以下の事項を確認する。
      • ⑴ 第1項の数値は、政策努力の目標を示すものであること。
      • ⑵ 消費税率(国・地方)の引上げの実施は、その時の政権が判断すること。
    • ・ 消費税率の引上げにあたっては、社会保障と税の一体改革を行うため、社会保障制度改革国民会議の議を経た社会保障制度改革を総合的かつ集中的に推進することを確認する。
    • ・(*)「税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略や事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する」旨の規定を第2項として設ける。
       原案の第2項は第3項とし、「前項の措置を踏まえつつ」を「前2項の措置を踏まえつつ」に修正する。
  • その他
    • ・(*)上記の見直しに関連し、題名と第1条について以下の修正を行う。
        • 題名:「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律案」とする。
        • 1条(趣旨規定):所得税、資産課税の見直しに係る箇所及び「により支え合う社会を回復すること」を削除する。「我が国が」を「我が国の」に修正する。
    • ・ 国分の消費税収の使途のうち年金、医療、介護に係るものについては、平成11年度以降、国分の消費税収は高齢者3経費に充当されてきた経緯等を踏まえるものとする。
    • ・ 上記の国税改正法の修正に伴い、地方税改正法についても所要の修正を行うものとする。

95-NO-23-02 公明新聞. 社会保障と税の一体改革 政府案 一体改革 政府案と3党合意の主なポイント. 2012年(平成24年)622日.
95-NO-27-00 社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(平成24年法律第68号). 2012年(平成24年)822.

三党合意に基づく修正法案については、5月8日から衆議院において審議が開始された。621日、閣法6法案の修正案が衆議院・一体改革特別委員会に提出され、626日に衆議院可決、711日から参議院において審議が始まり、810日に可決・成立(交付は822日)した。

この法律は、急速な少子高齢化や社会経済状況が大きく変化する中で、世代間及び世代内の公平性が確保された社会保障制度を構築することにより支え合う社会を回復することが我が国の直面する重要な課題であることに鑑み、社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指す観点から消費税法を改正し、消費税収の使途を明確化するとともに、2014年(平成26年)4月と2015年(平成27年)10月の2回にわたる消費税率引上げ等を内容としたもので、ここに社会保障・税一体改革は一応の完成を見る。

「三党合意」はいかなる意義をもつものであったのか、きちんとした評価が必要と思われるが、筆者が感じたことは以下の通りである。
本来「三党合意」の精神は、「消費税はわが国の社会保障など国民生活とは切っても切れないものなので、その増税については政争の具にしない」というものであったはずだ。ところがその後安倍政権のもとでは、消費増税の延期を理由に2度の選挙が行われた。野党(民主党)もそれに呼応、安倍総理の消費増税延期を容認したり直前に消費税引上げ延期法案を提出したりして、結局消費税が政治的な思惑に巻き込まれることとなり、その精神は消滅した。あらためて「三党合意」の精神である「消費税と政治」の関係について考える必要があるのではないか。

焦点は、衆議院の解散時期がいつかという点に移っていった。修正法案の可決成立直前の88日、野田―谷垣会談が行われ、野田総理は「法案が成立した暁には、近いうちに国民に信を問う」ことを確約した。

この間、73日に小沢グループが民主党から離脱、「国民の生活が第一」を立ち上げ、与党は分裂した。
926日には、自民党総裁選挙で、三党合意の責任者である谷垣氏ではなく、安倍晋三氏が選出された。
1116日に衆議院解散、1216日の総選挙を経て、第2次安倍政権の誕生となる。


過去の記事はこちら

注目コンテンツ

BY THIS AUTHOR

この研究員のコンテンツ

0%

PROGRAM-RELATED CONTENT

この研究員が所属するプログラムのコンテンツ

VIEW MORE

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム