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新型コロナ、ウクライナ侵攻後の各都市のテクノロジー強化
画像提供:Getty Images(Mobile World Congress 2022 Barcelonaの様子)

新型コロナ、ウクライナ侵攻後の各都市のテクノロジー強化

April 6, 2022

R-2021-085

新型コロナ、ウクライナ侵攻によって、テクノロジーに関する情勢が大きく変わりつつある。新型コロナの影響が小さくなり始め、人の移動が再開しつつある中での各地での様子をレビューする。

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ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、米アップルはiPhoneを筆頭に自社製品のロシア国内での販売を中断しました。ロシアのApple Storeは全店休業状態となり、決済サービス「Apple Pay」の利用も制限されています。

アップルだけではありません。マイクロソフト、GoogleやFacebookを運営するメタ・プラットフォームズなどのビッグテック企業もまた、ロシアに対してアクセス制限や記事のブロック、販売禁止などの厳しい措置に乗り出しました。

一方で、金融取引の停止の影響もあり、ビットコインなどの暗号資産の取引が活発になっています。

この動向から、いまやデジタルテクノロジーは、欧米諸国による金融・経済制裁に加えて地政学への影響が増加しつつあります。昨今のサイバー攻撃やフェイクニュースなども、物理的な攻撃と同時に行われる、この情勢を反映しており、もはや従来の枠組みから、デジタルも含めたテクノロジーの視野を持たなければ地政学・経済安全保障を考える事ができなくなりつつあります。

深刻化するウクライナ情勢と時期を同じくして、スペイン・バルセロナでは2月28日から世界最大級のモバイルテクノロジー見本市「Mobile World Congress 2022」(以下、MWC)が開催されました。年初にラスベガスで開催されたアメリカでのCESはアメリカ中心のテクノロジーの見本市のため、また違った様子が見て取れます。ウクライナ情勢とも決して無関係ではないテクノロジーの動向をお伝えします。

新型コロナウイルスの感染拡大により一昨年は中止、昨年は大幅な縮小を迫られたMWCでしたが、2022年は大手スマートフォンメーカーがほぼ全社出展するなど、現地はかつての活気を取り戻しつつありました。その中で日本企業は日本独特の水際対策の影響もあり、三木谷社長が参加した楽天や富士通、NECなどを除き、出展やトップの参加は少なく、ほぼ存在感はありませんでした。

アメリカ企業ではCESと比較すると、アマゾンがクラウド事業のAWSや、今やYouTubeよりも規模が大きいと言われる広告事業のAmazon Adsやサブスクリプションサービスを手掛ける

Amazon Fuseを、マイクロソフトがクラウド事業と、Surface Duoなどの新規端末をアピールしています。

このMWCではロシア関連企業の出展は中止されました。しかし、それはビジネス上の影響が軽微であるが故に、主催者は決断しやすかったでしょう。一方で特に注目すべきは、中国系企業の動向です。アメリカで開催されるCESとは異なり、ヨーロッパが開催地となるMWCにはアメリカと安全保障において関係が緊張している中国の企業が比較的多く出展しています。韓国メーカーのサムスンが自社のビジョンや新製品のプレゼンをCESで積極的にアピールし、半導体の製造拠点など主にアメリカに重きを置いているのと同様の熱量で、中国メーカーは欧州に向けてアピールするため、MWCでの発表に重きを置いています。彼らの強みは他国のメーカーと遜色ない、もしくは同等以上の品質と価格の安さです。それに対抗して、アップルは価格帯の安い5G対応のスマートフォンiPhone SEの最新機種を2022年3月に投入しています。最近では特にクラウド事業の市場シェア争いが活発で、アメリカと近い関係ではない欧州などの一部の国ではその魅力に惹かれて導入を検討しています。

2022年は通信機器大手のファーウェイ、スマートフォンを主力製品とするOPPO(オッポ)、ファーウェイから独立したHONOR(オナー)、昨年日本にも進出した新進スマホメーカーrealme(リアルミー)など、50社以上もの中国企業が新製品を発表。ソフトウェアからモバイルデバイス、高速充電システムまで、最先端を行く自社のテクノロジーと存在感を欧州市場にアピールしました。

とりわけ中国最大のテック企業であるファーウェイは、アメリカ政府による半導体の入手制限などの制裁措置を受け、「安全保障上の脅威」という判断からファーウェイを含む中国企業5社の製品は、アメリカ国内で販売ができなくなりました。イギリス、スウェーデンもアメリカの動きに追随しています。

今回のMWCでファーウェイが発表した2-in-1のタブレットPC「MateBook E」やE-Inkディスプレイ搭載の手書きメモも可能な電子書籍リーダー「MatePad Paper」などは、各国メディアの注目を集めましたが、いずれもアメリカへの上陸予定はありません。近年、スマートフォン事業の不振が続くファーウェイが、次にどの領域に活路を開くのかを見極める上でも、MWCのような場は重要な機会といえるでしょう。 

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新型コロナの影響が小さくなりつつある中、もう一つ注目すべき都市があります。それはテキサス州のオースティンです。EV大手のテスラはベルリンでモデルYを生産する工場、ギガファクトリーを3月に稼働し始めましたが、一方で、アメリカでは新型コロナの感染拡大の際にカリフォルニア州と工場稼働に意見の衝突があったこともあり、テキサスに本社を移しています。同時に、オースティンでの工場お披露目イベントを4月7日に予定しており、テクノロジーの中心地がシリコンバレーだけではないという情勢を映し出しています。テスラは、現CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏が他に経営するSpaceXもテキサスにあり、税制が有利という一面もありますが、他のテクノロジー企業では、オラクルやヒューレット・パッカード・エンタープライズ社も2020年12月にテキサス州に本社を移しています。また、アップルも1万5000人ほどが入る大規模な社屋をテキサス州に建設中で、そのなかには200室規模のホテルを含め、2022年には開業予定としています。半導体についてはサムスンも最新式の半導体工場を、約2兆円を投資してテキサスに設立すると発表しています。

優遇された税制だけではなく、元々音楽祭だったSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)というイベントにテクノロジーを組み込み、イノベーションをテーマにした文化祭の様なイベントにしています。今年は3年ぶりの現地開催となり、議論の質が良いとは現状ではいえませんが、東海岸、西海岸の両方から地理的に近い利点や世界の文化を取り込んでいこうという地元の強いイニシアティブが窺えます。アジアの中の日本の立ち位置や、日本の地方創生についての示唆になるでしょう。

新型コロナによって多くのテック企業がリモートワークになり、どこの州から働いても問題ないという企業が多くなりました。2022年から徐々にオフィスに週の数日だけ戻る様になりつつありますが、また次の危機、有事にも備え、大規模な社屋をシリコンバレー以外にも持つというのはリスク回避という観点でも合理的です。

例えば、グーグルもトロントでのスマートシティのプロジェクトは断念したと伝えられていますが、地元での新社屋や、サンノゼ市でのスマートシティ化プロジェクトに力をいれると同時に、ニューヨークのオフィスビルを約2300億円で購入する計画を発表しており、2023年にも開業する予定としています。

これをシリコンバレーからの企業の脱出と捉えるのは時期尚早でしょう。テスラに関してはテキサスに本社を移しつつも、スタンフォード大学近くの旧ヒューレット・パッカードの社屋にもオフィスを拡大しており、ソフトウェアなど中核となる開発については引き続きシリコンバレーが重要な拠点になります。テスラはイーロン・マスク氏の様な強いブランディングがあるからこそ、テキサスでも人を採用できると考えるのが自然です。まだ無名でガレージや大学の寮などから起業を考え、大きく成功する人が出てくることが、シリコンバレーと無縁で起こる現象が続いてきたときに、大きな転換点になる可能性があります。

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