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産業集積形成を促進する国内政策の再評価 - 小泉政権期から菅政権期まで-
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産業集積形成を促進する国内政策の再評価 - 小泉政権期から菅政権期まで-

April 28, 2022

R-2021-097

本レビューは、筒井清輝研究主幹による研究プロジェクトである「次世代の国際競争を勝ち抜くための技術革新と経済再生に向けたシリコンバレーからの政策提言」における主要研究テーマのひとつである、日本における市場と投資環境の再整備の視点から、小泉政権から菅政権期(2001年~2021年)における日本経済再生のために産業集積形成を試みた政策に焦点を当て、日米政策比較の基盤となる日本側の政策形成プロセスの評価を行うことを目的とする。特に、日本を取り巻くマクロ経済環境の変化とそれらに呼応する官邸主導の政策形成が、日本国内に産業集積を促進する政策にどのような影響を与えたのかを考察する。

小泉政権から麻生政権にかけて(2001年~2009年)
民主党政権発足から退陣まで(2009年~2012年)
第2次安倍政権発足から第3次安倍政権発足まで(2012年~2016年)
第3次安倍政権後半から菅政権まで(2016年~2021年)
終わりに

小泉政権から麻生政権にかけて(2001年~2009年)

小泉政権から麻生政権にかけては、日本における特定の産業集積形成を支援する産業クラスター政策が本格的に始動した時期と位置付けられる。特に小泉政権においては、「聖域なき構造改革」「官から民へ、国から地方へ」のスローガンの下、国立大学等の独立行政法人化、構造改革特区の設置や規制緩和の推進、地方交付税交付金制度の改革等が推し進められた。このような政策背景の下、日本国内における産業クラスター形成は、主に文部科学省および経済産業省の二つのアクターによって進められている。

まず文部科学省であるが、小泉政権下の2001年に第2期科学技術基本計画を発表し、1990年代から米欧で発展してきていたマイケル・ポーター等の産業クラスターの理論的な発表・著作を引用しつつ、知的クラスターの形成を図った。具体的には、2002年から文部科学省主導で、知的クラスター創成事業および都市エリア産学官連携推進事業が開始されている。また経済産業省においても、2001年から「企業・大学・研究機関・自治体等が相互連携により、地域の強みを生かした新事業の創出を目指す」として、産業クラスター計画が開始され、約20のプロジェクト選定を目指した。また2007年からは、企業立地促進法(正式名「企業立地の促進等による地域における産業集積の形成及び活性化に関する法律」)が制定される。国の同意の下、自治体や商工会議所等産業集積戦略を盛り込んだ基本計画を策定し、設備投資促進税制や人材育成支援税制を掛け合わせることで、地域経済の自立的発展を目指した。文部科学省、経済産業省が政権の政策方針の下、独自に知的クラスターや産業クラスターの名の下で、産業クラスター政策の立ち上げを目指した試行錯誤期といえるだろう。

地域によっては、浜松市における高機能内視鏡と手術ナビゲーションシステム開発[1]のような、一部知的クラスター事業によって芽生えた成果を、産業クラスター計画で事業化する事例も出現した。しかしながら、大部分は1件数億円規模の比較的少額の助成金ベースの取り組みにとどまり、継続的に発展したものは少ない[2]。またこのような参加企業の売上高成長率や生産性への平均的な効果は中小企業にのみ有意に見られた[3]が、参加企業の成長や生産性への直接的な効果や、地域の製造業企業へのスピルオーバー効果がかなり限定されたという先行研究[4]も存在し、クラスター政策立ち上げの試行錯誤期にあたり全体としての政策効果は限定的であったと言えるだろう。

民主党政権発足から退陣まで(2009年~2012年)

2009年に民主党政権が発足した後は、「家計重視」「政治主導」を謳ったマニフェストの下、子ども手当や高校無償化、雇用対策など家計重視の政策や、事業仕分け(行政刷新会議)の実施等政治主導で予算配分プロセスの見直しが行われた。また当時は2008年に米国で発生した世界的金融危機(通称リーマン・ショック)の影響により、製造業不況を中心とする国内経済の疲弊からの脱却が焦点になっていた。具体的には、製造業中心の支援からの分散や、ヘルスケア・ロボット・宇宙産業等、成長産業創出への枠組みが積極的に議論された[5]

このような背景により、小泉政権以降、文部科学省および経済産業省主導によって進められていた産業クラスター政策には大幅な変化が見られている。文部科学省主導の知的クラスター創成事業および都市エリア産学官連携促進事業は廃止が決定され、経済産業省主導の産業クラスター計画は国からの直接的な支援の打ち切りが決定される。一方で、民主党政権下では政治主導の下、産業集積形成においては各省連携が進み、例えば文部科学省主導の知的クラスター創生事業は2010年に地域イノベーションクラスタープログラム(イノベーションシステム整備事業)として改訂され、また2011年には、文部科学省・経済産業省・農林水産省および総務省が共同で「地域イノベーション戦略支援プログラム」を策定するなど、各省庁は民主党に対し、省庁横断的な施策を提案する等の対応[6]が見られた。またこれに加え、経済産業省では、産業クラスター政策の新展開として、地域主導型のクラスターおよび、先導的クラスターに分けて、地域の振興を目指すクラスターと、国際的な拠点を目指すクラスターに分割するという方向性が出されている。政治主導の下、産業クラスター政策がより各省連携による地域主導に方向転換したと言えるだろう。2011年以降は内閣府主導で総合特別区域制度が民主党政権の「21の国家戦略プロジェクト」として開始され、地域起点で、規制改革や財政支援などの総合的な支援が受けられるようになった。

民主党政権期には、政治主導による地域自立の考え方が根付き、また中長期的に製造業以外の成長産業の多様化の議論が、省庁横断的に盛んになったことは評価できる。一方で、引き続き国の小規模な支援状況や、クラスターの形成については政策評価が新事業の創出件数や特許件数等に限定されており、産業クラスター形成の前提であるイノベーション創発のための具体的な評価は引き続き限定的であった[7]と言えるだろう。

第2次安倍政権発足から第3次安倍政権発足まで(2012年~2016年)

2012年に第2次安倍政権が発足した後は、通称アベノミクス三本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略)と呼ばれる政府主導の経済政策の下、官邸主導で産業集積を促進する政策が引き続き行われた。また2011年の東日本大震災を受け、経済復興が一つの大きな政策アジェンダになる中、産業集積形成に加え、人口減少・少子高齢化・過疎化への対応に大きく焦点が当たるようになった。具体的には震災からの復興・再生が優先順位として最上位に挙がっている第4期科学技術基本計画の実行(2011年策定)のほか、2013年の日本再興戦略の発表、2014年の国家戦略特別区域の設置や「まち・ひと・しごと創生本部」(内閣府)の設置など、官邸主導で数多くの取り組みが進められた。

第2次安倍政権発足時こそ、日本再興戦略において「世界に冠たる産業集積を構築するため、有望な産業クラスター候補地を再定義した上で、地域中核企業を中心とした新たなクラスターを創出し、地域企業群の活性化を進める[8]」として、産業クラスター形成に対する引用があったが、ここにきて政策的な変化が見られる。一つは、上記の初代日本再興戦略に記載のある地域中核企業への支援に注力するとしたバラマキ的な支援の終焉、および、地域中核企業に加えベンチャー企業創出への注力が明記され、KPI(Key Performance Index)も設定されるなど、支援対象が多様化している。また関係政府機関も内閣府・国立研究開発法人 科学技術振興機構・国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構・農林水産省など更に多様化し、産業集積の政策コンセプトも産業クラスター形成という概念の枠組みから、イノベーション・ネットワークまたはエコシステム形成という経済主体間に形成される協働的関係の総体[9]を対象にするなど、政策的な発展が見られる。民主党政権から自民党政権への回帰に伴い、アベノミクスの推進等、経済政策の変更もあるが、こと産業集積に関わる政策においては、関係政府機関の多様化をはじめ、一部政策の継続性が見られる。

課題としては、2000年代初頭から続けられてきた政策によって各地に生まれた核となるクラスターや連携体制の質の向上が求められ[10]、自律的な成長(独自の財源や経済性の設定等)が重要であること、また、それまでの産業クラスター政策の厳密かつ定量的な費用対効果分析を経ないまま、政策コンセプトの変更(クラスター→エコシステム)が行われている点であろう。

第3次安倍政権後半から菅政権まで(2016年~2021年)

第3次安倍政権後半(第2次改造内閣以降)においては、米国シリコンバレーをはじめとする世界的なスタートアップ企業の躍進とイノベーションの加速化により、各省主導で世界レベルの新事業創出を促進、支援集中する動きが加速している。具体的には、将来大きなビジネス展開が見込まれる地域の有望なコア技術の事業化によって、新たな国富を創出することを目指した、文部科学省による「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」(2016年)や、産官学金(金融機関)の連携によるイノベーション創出を目指した「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム」(2015年)が開始されている。また経済産業省からは、2017年以降デジタルトランスフォーメーション(DX)や、第4次産業革命をコンセプトに、AIやデータを活用した街づくりを含む、日本国内のイノベーションエコシステムの形成を目指す政策提言が出されている。また内閣府からは文部科学省、経済産業省との連携の下、2019年に開催された「統合イノベーション戦略推進会議」で2020年中にスタートアップが集積する「スタートアップ・エコシステム拠点都市」を全国で数ヵ所選び、規制緩和や起業家、投資家の招致などでそれら都市を集中的に支援することを決定するなど、それまで見られていた地方創生の延長線上の中で、より都市にフォーカスしたエコシステム形成を目標としている。エコシステム形成の対象が拡がる中、省庁横断的な取り組みが更に拡大した形である。

これらの取り組みを受けて、菅政権下ではデジタル庁設置やグリーン成長戦略など新たな政策体系の整備を行っているが、新型コロナウイルス感染症の拡大と対策に伴い、エコシステム形成に関わる本格的な政策はいったん菅政権下において棚上げになっている。その後、岸田政権下におけるデジタル田園都市国家構想の中でエコシステム形成が引き続き謳われているが、産業クラスター計画同様、エコシステム形成にかかわる政策効果は一度精査される必要があろう。

終わりに

本レビューでは、小泉政権から菅政権に至るまで、産業集積形成に関わる政策形成プロセスを過去20年に渡り概観してきた。マクロ経済環境の変化、自然災害、政権交代により政策主体や対象の変化が見られるものの、地域指定・財政的支援の枠組みはこの20年大きくは変化しておらず、政策効果として国際的に競争力のある産業集積ができているとは言い難い。また世界的企業の誘致などの実績もほぼ見られない。外部環境の変化に伴い、機動的に政策アジェンダを変化させていることは評価できるものの、定量的な効果検証がなく、結果として自律的な経済成長につなげられているとは言い難い現状から、「次世代の国際競争を勝ち抜くための技術革新と経済再生に向けたシリコンバレーからの政策提言」プロジェクトでは、今後米国において産業集積形成を促進した政策のケーススタディを複数行う事で、日本国内における産業集積形成の政策における課題抽出を行っていきたい。

 


[1] 産業クラスター計画第Ⅱ期中期計画活動総括 (2011) https://www.meti.go.jp/policy/local_economy/tiikiinnovation/source/chuukikeikakusoukatsu.pdf

[2] 星貴子 (2016)「地域産業振興策の現状と課題」JRIレビュー 2016 Vol.7, No.37, p.9

[3] Junichi Nishimura and Hiroyuki Okamuro(2016 “Knowledge and rent spillovers through government-sponsored R & D consortia”, Science and Public Policy, 43/2, 207─225.

[4] 岡室博之・池内健太(2019)「知的クラスター政策による産学官連携支援の効果」企業家研究〈第 16 号〉p.38

[5] 産業構造ビジョン2010(骨子)
https://warp.da.ndl.go.jp/collections/info:ndljp/pid/3486530/www.meti.go.jp/committee/summary/0004660/vision2010gist.pdf  (平成22年6月 経済産業省)

[6] 文部科学省、経済産業省、農林水産省および総務省共同「地域イノベーション戦略支援プログラム」(2011)

[7] 星岳雄・岡崎哲二(2016)「日本型イノベーション政策の検証」(NIRA オピニオンペーパー no.19p.5-7

[8] 首相官邸(2013)「日本再興戦略 - JAPAN is BACKhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/saikou_jpn.pdf

[9] 藤田誠(2019)地域イノベーション・ネットワークの戦略提携論的展開(早稲田商学第 454号)p.92

[10] 経済産業省(2019)令和元年度産業技術調査事業(地域におけるオープンイノベーションハブの活用と発展に関する調査)報告書 p.4 https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000352.pdf 

※本Reviewの英語版はこちら

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