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我が国における少子化と社会経済的要因の関係性について
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我が国における少子化と社会経済的要因の関係性について

September 20, 2022

R-2022-042

止まらない少子化
社会経済的要因と交際・婚姻の関係
子供の数と社会経済的要因について
女性の高学歴化は少子化につながるのか
社会として何が必要か?

止まらない少子化

近年、我が国において急速な少子化の進行が指摘されているが、2021年に出生した子供の数は81万人と、統計開始以降の1899年以降で最小となった[ⅰ]。政府としても少子化対策を優先課題として掲げているものの、合計特殊出生率は近年では1.3前後を推移しており[ⅰ]、抜本的な解決には至っていない。20224月、筆者らは我が国の少子化の要因を分析した論文を発表したが、子供を持たない人の割合の増加も著しく、1943-1948年に生まれた人と、1971-1975年の間に生まれた人を比較すると、その割合は男性では14.4%から39.9%に、女性では11.6%から27.6%と実に3倍近くまで増えていることがわかっている[ⅱ]。(図1)本稿ではこの論文の解説を中心に我が国の少子化の要因について概説していきたい。

 図1 世代別・男女別の子供を持っている割合(1943-1975年生まれ)

少子化の原因には様々な可能性が指摘されているが、その大きな要因の一つは未婚者の増加であろう。我が国においては、婚外子は極めて少なく結婚した夫婦から子供が生まれることが一般的であることを踏まえると、未婚者の増加は少子化につながると言える。事実、結婚した夫婦の間における合計特殊出生率は過去数十年の間に大きな変化はないことからも[ⅲ]、この未婚者の急激な増加が日本の少子化に拍車をかけているといえる。我が国の未婚者の推移については、1980年と2015年で50歳時点の生涯未婚率を比較すると、男性では2.6%から23.37%に、女性では4.45%から14.06%といずれも大幅に増えていることがわかっている[ⅳ]

 社会経済的要因と交際・婚姻の関係

こうした未婚者の増加に関しては、ともするとステレオタイプに、「最近の若い人は(他人と付き合うような)面倒なことを嫌うから」「最近では娯楽が増え価値観が多様化し、恋愛や交際、結婚に価値を感じない人が増えたから」と指摘する声が上がるが果たして本当にそうなのであろうか。当然ながら、婚姻や交際は完全に個人の自由意志のもとで行われるものであり、全ての人が必ずしも婚姻や交際に意義を見出さないのは事実であろう。しかしながら、この婚姻・交際への興味に関しては、収入や学歴、雇用形態と行った社会経済的要因と関連があることをここで述べておきたい。 

2022年に筆者らが発表した別の研究では、特に男性の収入と婚姻の間には相関があることがわかっている(年収が高いほど既婚者の割合は増える)[ⅴ]。年収700万円以上の男性では、84%25-39歳)、92%40-49歳)が既婚者であるのに対し、年収0-100万円未満では既婚者の割合は23%25-39歳)、33.4%40-49歳)であった。同様に、正規雇用と非正規雇用で比較した場合には正規雇用で、また学歴で見た場合も学歴が高いほど既婚者の割合が増えることもわかっている。 

また、我が国では婚姻の多くが恋愛結婚であるが、この交際相手の有無やそもそも異性[1]と交際することへの興味の有無についても社会経済的要因との関連があることがわかっている[ⅵ]。同研究によると1992年から2015年の間に、18-39歳のシングル(未婚かつ交際相手がいない人)の割合は、女性では27.4%から40.7%に、男性では40.3%から50%と着実に増加しているが(図2)、特に男性においては、シングルである割合や、異性との交際に興味がない割合は、収入や学歴、雇用状況との相関が見られている。つまり、異性との交際に関心がないと回答したシングルは、関心があると回答した人に比べて、収入や学歴が低く、定職についている割合も低かったのである。定職についている割合は既婚者(85.8%)が最も高く、交際中(63.2%)、交際に関心のあるシングル(53.2%)、交際に関心のないシングル(42.6%)と段階的に減少している。年収についても、年収500万円以上の割合は、既婚者では32.2%であるのに対し、同割合は交際中では8.4%、交際に関心のあるシングルでは7.1%、交際に関心のないシングルでは3.9%となっている。価値観や娯楽が多様化したとはいえ、実際には高収入高学歴の男性の多くは既婚者もしくは現在交際中の相手が存在し、逆に近年増え続けている未婚者やシングル(未婚かつ交際相手なし)の多くが、低収入かつ非正規雇用などの不安定な就労形態の人々なのである。

 図2 年齢層別異性との婚姻・交際関係の推移(1987年から2015年)

なお、女性に関しては男性ほど収入や学歴と婚姻や交際との明確な関係は見られず、U字型の結果となっている(一番収入の低い層と収入の高い層で最も結婚している)[ⅴ]。特筆すべきは、近年では高収入の女性の方がそれ以下の収入の女性よりも既婚者の割合が増えていることであろう。共働きになることで将来のリスクに備える、家計も家事育児も夫婦で共に負担するという価値観の変化(昭和世代のような外で働く夫と家庭を守る専業主婦という構図からの変化)など要因は様々考えられるが、いずれにせよ「高学歴・高収入の女性は結婚できない」というのも徐々にステレオタイプになりつつある。 

子供の数と社会経済的要因について

ここまで、婚姻や交際相手の有無、異性との交際の興味と社会経済的要因との関係について見てきたが、では子供の数と社会経済的要因はどのようになっているのであろうか。一昔前には「貧乏子だくさん」など言われることもあったが、低所等世帯の方が多くの子供を有しているのであろうか。本稿冒頭にて筆者らは我が国における少子化の要因を分析しその結果を論文として発表したと述べたが、実のところその研究結果は正反対であった。婚姻や異性との交際と同様に、収入・学歴が高いほど子供を持っている割合は多く、また3人以上の子供を持っている割合も収入・学歴と相関することが判明したのである[ⅱ]。男性では、1943-1975のどの年代に生まれた人でも、収入が高いほど子供を持たない人の割合は少なかった。また、いずれの年齢層でも子供を持たない人の割合は増えているがその増え幅は特に収入が低い層で大きいこともわかっていて、最も所得が高い層(年収600万以上)では子供を持たない人の割合は6.9%から20.0%の増加であったのに対し、最も所得が低い層(年収300万以下)ではこの数字は25.7%から62.8%であった(図3)。男性では3人以上子供がいるかどうかという点も収入と関係しており、高収入の人ほど3人以上の子供がいる割合も多かった。また、非正規雇用・パートタイムの人では、子供を持っている人の割合及び3人以上の子供がいる割合ともに正規雇用の人と比べて少なかった。

 図3 収入と子供の数の推移(1943年―1975年生まれ、男性)

女性の高学歴化は少子化につながるのか

もう一点、少子化の原因に女性の高学歴化・社会進出を指摘する声もあるが、本当であろうか。過酷な労働条件では女性が出産後にも仕事を継続することが難しく、高学歴な女性ほど子供を諦めている可能性があることも示唆されている。実際にはこちらについても、「女性の高学歴化が少子化につながる」と言うのはステレオタイプになりつつある。今回の研究でも、女性では、1956-1970年の間に生まれた人では、大卒の人ではそれ以外の人と比べて子供を持っている人の割合が少なかったが、1971年以降に生まれた場合は、大卒とそれ以外の人とでの差異は見られなかった[ⅱ]。つまり女性の学歴と子供の数の間にはもはや相関が見られなくなっているのである。欧米諸国に目を向けるとむしろ逆転現象が起きており、高学歴・高収入の女性の方がより子供を持っている割合や子供を複数持つ割合が増えている。これら背景には、性別に関係なく子育てと仕事を両立しやすい社会環境等が考えられ、日本でもこの先逆転現象が見られるかどうかは現時点ではわからない。しかしながら、女性の社会進出が少子化につながると言うのは少なくとも現時点ではもはや見られない現象である。 

社会として何が必要か?

ここまで見てきて、それでもなお少子化やその背景にある未婚化は、「若い人たちが結婚しなくなったから、子供を産まなくなったからであり、原因は若い世代にある」と言えるだろうか。繰り返しであるが、子供をいつ何人産むかどうかはセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ[2]の根幹部分であり、完全に個人の意思が尊重されるべきものである。同様に、子供を産む前提となる結婚や異性との交際に関しても完全に個人の自由意志に基づいて行われるべきものである。しかしながら、「個人の自由・個人の価値観の問題」と片づけてしまうことによって、その根源的な理由、すなわち若い世代の貧困・不安定な雇用が若い世代の婚姻、交際、子供を産むことに密接に関わっているという構造上の問題を隠してしまわないだろうか。若い世代に対する安定した雇用環境、さらに結婚・子育てを考えられるような十分な収入があってこそ、結婚やその先に子供を持つことを考えられるようになるのであり、まずはこの部分に対する介入が必要であろう。当然ながら、少子化の要因は複合的であり、妊娠出産に関する様々な支援に加えて、出産後も働きやすい育児と仕事の両立環境の整備が男女ともに重要となることは言うまでもない。本来的に、子供を持つことは生物の本能的行為であるが、現在の日本ではそれがある程度の学歴や所得を有する人に限られているのが現状である。このような社会を許容するのではなく、誰もが望むタイミングで望む数の子供を持つことができるよう、若者世代への支援が早急に必要である。 

<参考文献>

[ⅰ] 厚生労働省. 人口動態月報.

  https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai21/index.html

[ⅱ] Ghaznavi, C., Sakamoto, H., Yamasaki, L., Nomura, S., Yoneoka, D., Shibuya, K., & Ueda, P. (2022). Salaries, degrees, and babies: Trends in fertility by income and education among Japanese men and women born 1943–1975—Analysis of national surveys. Plos one, 17(4), e0266835.

[ⅲ] 内閣府 参考資料

  https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/kokufuku/k_2/pdf/ref1.pdf

[ⅳ] 人口統計資料集 国立社会保障・人口問題研究所

[ⅴ] Ghaznavi, C., Sakamoto, H., Nomura, S., Kubota, A., Yoneoka, D., Shibuya, K., & Ueda, P. (2022). Fish in the sea: Number, characteristics, and partner preferences of unmarried Japanese adults-analysis of a national survey. Plos one, 17(2), e0262528.

[ⅵ] Ghaznavi, C., Sakamoto, H., Nomura, S., Kubota, A., Yoneoka, D., Shibuya, K., & Ueda, P. (2020). The herbivore’s dilemma: Trends in and factors associated with heterosexual relationship status and interest in romantic relationships among young adults in Japan—Analysis of national surveys, 1987–2015. Plos one, 15(11), e0241571.


[1] 交際に関しては異性間に限らず同性間交際など様々な形態が含まれる。しかしながら、本研究は国立社会保障・人口問題研究所が実施する出生動向基本調査を利用しており、当該調査では異性間以外の交際に関する質問は含まれていないため、本コラムにおいても異性間交際に限定して概説する。

[2] セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(Sexual and Reproductive Health and Rights, SRHR, 性と生殖に関する権利):性や子どもを産むことに関わる全てにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも本人の意思が尊重され、自分らしく生きられること。また、それらを自分自身で決められる権利のこと(出典:ジョイセフ)

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