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深層中国第12回「緊急提言:三期目の習近平政権との付き合い方」 
2022年10月16日、中国共産党第20回全国代表大会が北京で開幕(写真提供:共同通信)

深層中国第12回「緊急提言:三期目の習近平政権との付き合い方」 

October 24, 2022

R-2022-062

1.内憂外患の10年-反腐敗と景気の急減速
2.三期目習政権の政策課題
3.緊急提言:三期目の習近平政権との付き合い方

今はまさに多事の秋である。ロシアによるウクライナ侵攻はまだ停戦に近づいている兆候がない。プーチン大統領は戦争を終わらせるのではなく、予備兵を動員し、戦術核兵器の使用までちらつかせている。あらためて問われるのは、これは何のための戦争なのかということである。

一方、東アジアに目を転じると、中国経済は厳格に進められているゼロコロナ政策によって急減速している。もともと20223月に開かれた全国人民代表大会で5.5%成長を目標として掲げられたが、中国国家統計局の発表によると同年1-9月期の成長率は3%と目標を大きく下回っている。

アメリカでは、連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のために、急激に利上げを実施しているため、アメリカ経済だけでなく世界の景気まで押し下げている。世界一位と二位の経済大国は急減速しており、世界経済の先行きが心配されている。

中国では、習近平国家主席は三期目の続投が確定した。20233月に開かれる全人代で国家主席としても続投される公算が高くなっている。もともと1980年代初期、最高実力者だった鄧小平は国家主席の任期を最長二期(10年)までと定め、それが憲法に盛り込まれた。習政権になってから憲法が改正され、国家主席の任期制限に関する規定が撤廃されてしまった。それによって習主席の任期は三期にとどまらず、終身制が可能となった。

ここで、まず習政権の今までの歩みを振り返ってみよう。

1.内憂外患の10年-反腐敗と景気の急減速

習政権が正式に誕生したのは20133月だった。同年3月に開かれた全国人民代表大会で胡錦涛政権から習政権にバトンが渡された。当時、中国内外から中国指導部の若返りに対して改革が深化すると強く期待されていた。事実、習政権は市場をさらに開放し、改革をさらに進めていくと公約した。

なによりも胡錦涛政権の10年間、ほとんどの改革はトーンダウンしてしまった。それは中国の失われた10年とまで揶揄されている。中国では、市場経済の基盤が多少なりとも整備されているとすれば、それは1990年代半ば以降、朱鎔基首相(当時)によって市場経済の法整備が進められた結果だったといえる。

一例をあげれば、朱首相は政府部門による金融政策への関与と国有銀行の融資への介入を排除するために、「中国人民銀行法」(1995年施行、2020年改正)と「中国商業銀行法」(1995年施行、2003年改正)を整備した。むろん、中国政治と社会の実状を踏まえれば、法律が制定されたから、それは効果を発揮できるとはかぎらない。しかし、少なくとも、関連の法律が整備されたことで、関連の責任の所在が明らかになった。市場経済の基盤づくりという意味では、大きな一歩だったといえる。

ただし、胡錦涛政権になってから、さらなる市場経済の制度改革がトーンダウンしてしまった。原因は胡錦涛政権(20022012年)にとって、無理して改革を進める必要はなかったことである。2008年の北京五輪とパラリンピックおよび2010年の上海万博の開催があって、それに関連するインフラ整備を進めるだけでも、経済は高く成長できた。そして、改革に抵抗する既得権益集団がすでに形成されている。さらに、胡錦涛政権にとって前政権、すなわち江沢民政権から受け継いだ富があって、2009年のリーマンショックの影響を抑制するために、なんの躊躇もせず、4兆元(当時の為替レートでは、約56兆円)の財政出動を実施した。

図1 中華人民共和国建国後の各時代の経済成長率(年平均)

(注:毛時代は1949-1976年だったが、経済統計の整合性から1953-1978年までとする)

出典:中国国家統計局、CEICデータを基に筆者作成

20133月、習政権は誕生した。習政権が誕生してからの10年間、中国経済は下り坂を辿っている。図1に示したのは毛時代以降の中国経済の年平均成長率である。習政権下の経済成長率は歴代政権の二番目の低い成長となっている。鄧小平時代、江沢民時代と胡錦涛時代の経済成長はいずれも経済の自由化を進めた結果だった。毛時代の中国経済は年々の権力闘争の結果だった。習政権になってから経済統制が強化され、成長率が急減速している。

かつて、毛沢東は経済成長が大きく減速しても、毛自身の絶大な権威により、統治を全うできた。それに対して、習政権は権力基盤を十分に固めているとはいえない。経済はこのまま減速していけば、習政権への求心力が低下してしまう心配がある。

振り返れば、これまでの10年間、習政権は幹部の腐敗撲滅に力を入れてきた。腐敗撲滅は広く支持されているが、腐敗を未然に防ぐガバナンスの監督制度が用意されていないため、このままでは、反腐敗はエンドレスのゲームになる。コロナ禍においてウィルスが変異し、感染力が強くなっているが、毒性が弱くなっている。諸外国では、ウィルスとの共存に方針を転換しているのに対して、習政権は頑なにゼロコロナ政策を実施している。ウィルスの感染抑制を理由に人々が家のなかに長期間にわたって閉じ込められ、それに対する反発は容易に想像できる。なんといっても、習政権が誕生するまでの30余年間、中国人はかなり自由を味わった。習政権は人々の行動を制限しようとしているが、逆効果になると思われる。

さらに、習政権はこれまでの10年間、戦狼外交を展開しG7を中心とする先進国のほとんどと激しく対立している。だが、中国経済、とりわけハイテク技術については先進国に大きく依存している。このままでは、中国のイノベーションは大幅に遅れることになる。

2.三期目習政権の政策課題

これまでの改革・開放を総括すれば、「開放>改革」、すなわち、改革よりも開放が進められた結果、制度面の構築が遅れ、政治、社会と経済のバランスが大きく崩れている。習政権は政治、社会と経済のバランスが崩れたのは統制が行き届かなくなったからと考えているようだ。

中国社会の細部を考察すれば、格差が予想以上に拡大していることがわかる。なぜ格差が拡大しているかについて、60代以上の中国人は本能的に毛時代の中国と比較して、当時の中国では、格差が小さかったと指摘する。実は、毛時代は格差がないわけではなくて、ほとんどは目に見えないinvisible disparityだった。現在の格差は目に見えるvisible disparityである。毛時代の格差は共産党高級幹部の特権に起因するものだったが、現在の格差は共産党幹部が特権を享受し国有企業と民営企業の経営者と結託して生じるものである。

中国のリベラルな知識人の多くは政府に対して共産党幹部の財産公開を求めている。しかし、習政権はそれに応じる意思はまったくない。表面上、腐敗撲滅で格差の縮小を図ろうとしているようにみえる。しかし、習政権が進めている反腐敗はセレクティブな反腐敗であり、すなわち、政敵を倒すための政治キャンペーンである。ガバナンスの法制度が整備されなければ、すべての腐敗幹部を追放することはできない。否、むしろ、エンドレスなゲームになるだろう。

毛時代に匹敵する言論統制が敷かれているなかで、はっきりと習主席を批判する言論を展開することができない。しかし、不満は溜まっている。ここで習政権の統治能力が問われている。習政権は自らへの求心力を強化することができなければ、政権運営をますます不安定化させてしまう。

鄧小平時代と比較すれば、問題の存在は一目瞭然になる。鄧小平は政治改革を拒否する代わりに、市場開放を進め、外国資本を取り入れ、中国経済を離陸させた。経済さえ成長できれば、政治改革を先送りすることができる。一般的に中国で政治改革というのは政治の民主化を意味するものである。共産党一党独裁と政治の民主化は水と油の関係にあり、両立できない。

習政権は鄧小平と同じように、政治改革を拒否しているが、異なる点は経済統制が強化されていることである。このままいくと、経済がさらに減速すると予想される。図2に示しているのは2010年以降の経済成長であり、減速しているトレンドははっきりしている。202210月に開かれた20回共産党代表大会で習主席は自らへの権力集中を図るため、党員に自らへの崇拝を強く求めている。共産党中央委員会の発表によると、全国には9000万人以上の党員がいるといわれている。共産党の平党員はともかく、共産党幹部が習主席を支持する条件は経済的な利益を得ることである。経済成長が減速していくと、共産党幹部にとって得られる経済的な利益も縮小する。このため、共産党内の習主席への求心力も低下していくと予想される。

図2 中国の実質GDP伸び率の推移(20102022年第2四半期)

出典:中国国家統計局、CEICデータを基に筆者作成

3.緊急提言:三期目の習近平政権との付き合い方

50年前、日中国交正常化と米中国交正常化のとき、日米中の三者共通の目的はむろんソ連の脅威を抑制するためだったが、その後、日米による対中経済援助はいうまでもなく中国の民主化を期待する前提のものだった。1989年の天安門事件をきっかけにアメリカの世論は大きく転換し、対中経済制裁が実施された。その後、中国政府はさらなる改革・開放を進めるとして、アメリカの対中世論は再び中国の経済発展を支援する方向へ転向した。

一方、日本では、左派の支持者の高齢化に伴い、中国文化への憧れは次第に低下しているが、日本経済のデフレが進行するなか、日本企業は新たな市場を追い求めて、東南アジアに散在する工場の多くを中国に集約させた。日本のシンクタンクは投資が中国に集中しすぎた場合のリスクを分散すべきと警鐘を鳴らしているが、日本企業は収益を最大化するために、こうした警鐘にそれほど耳を傾けていなかった。ビジネスマンは国際政治についてほとんど無関心だからである。

近年、米中関係も日中関係も不安定化している。オバマ政権のときに、胡錦涛国家主席(当時)はアメリカ政府に対して、共同で太平洋地域を管理するG2の構想を提案したことがある。残念ながら、米中の連携が強化されなかった。否、両者はむしろ反目するようになった。トランプ政権になってから中国に対する経済制裁が強化された。表面的に理由が二つあげられている。一つは米中貿易不均衡の拡大、もう一つは中国企業による知財権侵害である。

日中の間に貿易不均衡の問題が存在しないが、日本企業は中国で日本企業の知財権が侵害されていることについて米国企業と同じ悩みを持っている。ただし、日本政府は中国に対する制裁を実施できない。左派の政治家は中国との対話を通じて問題の解決を主張するが、日本企業は政治対話の効果を期待するよりも、機微技術のブラックボックス化の対策を講じて自らの知財権保護に取り組んでいる。

米中対立が激化するなかで、米中ディカップリングが指摘されている。それについて、評論家の間で賛否両論の意見がある。そのいずれも間違っていない。日用品について米中のディカップリングはあり得ないが、半導体などのハイテク技術について米中のディカップリングがすでに進んでいる。

かつて松本重治氏が指摘したように、日中関係は米中関係によって大きく左右される。その構図は今も変わっていない。日本企業は日用品や耐久消費財についてこれからも中国市場に依存していくだろう。米国政府は中国の半導体企業に対する制裁を強化しているため、日本企業も米国政府に同調するしかない。日本では、経済安全保障に対する関心が日増しに高まっている。ハイテク技術についてかつての冷戦時代と同じように、専制政治と民主主義陣営が対立する構図ができている。

習政権の基本的なスタンスは外国の制裁に屈することなく、自力更生で対処すると国内で呼び掛けている。2022年は日中国交正常化50周年の記念すべき年であるが、両国関係について友好なムードはまったく感じられない。これからの日中関係を展望すれば、今の冷めた日中関係からスタートしていくしかない。

これからの日中関係を展望すれば、かつての一衣帯水の友好関係にかわって、「よき隣人、よきパートナー、よき競争相手」を目指すべきである。よき競争相手とは互いにルールを守ることが前提になる。すなわち、これからの日中関係においてもっとも重要なのはルールを共有し互いにそのルールを守ることである。目先、もっとも重要なのは日中両政府が政治対話を行い、ルールを作成していくことである。ルールなき友好関係は絵に描いた餅になる。日本にとって安定した日中関係を構築することは自らの国益に資すると思われているが、米中新冷戦に巻き込まれないために、両国間のルール作りは一番の急務である。

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