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なぜ韓国の若年男性はジェンダー平等政策に反対するのか
写真提供:Getty Images

なぜ韓国の若年男性はジェンダー平等政策に反対するのか

June 16, 2023

R-2023-017J

(日本語訳 貫井光・尾野嘉邦)

韓国の有権者を対象とした最近の調査によると、高齢男性と比べ若年男性の間でよりジェンダー平等の制度化への反対が高まっていることが明らかになった。筆者は、これは若年男性が保守的な価値観へと移行しているからではなく、経済成長の停滞により若年層のあいだで経済的不安が高まっていることが原因であると述べる。 

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若い世代の有権者は、一般的に平等や多様性に対して肯定的な意見を持っていると考えられている(Norris and Inglehart 2003; Nteta and Greenlee 2013)。ところが、韓国で行われた世論調査では、20代から30代の若年男性がジェンダー平等政策に反対する傾向にあることが明らかになった(Jeong and Lee 2019)。図1に示す世論調査の結果は、韓国において(男性と比較して)女性がジェンダー・クオータ制(以下、クオータ制)により賛成の態度を示している一方、男性に関しては、若い有権者であるほど、クオータ制に反対する傾向が見て取れる。興味深いことに、この傾向は韓国に特有のものではない。他国で行われた研究でも、20代や30代の若年男性は、ジェンダー平等政策や女性の政治的リーダーシップに対して否定的な意見を抱いていることが指摘されている(Burden et al. 2017; Ono and Burden 2019)。

図1:ジェンダー・クオータ制に対する性別・年代ごとの支持の度合い

出典:Jeong and Lee (2019)

先行研究では、ジェンダー平等政策に対する否定的な態度を規定する要因として、保守的なジェンダー規範やステレオタイプの存在が挙げられている(Barnes and Cόrdova 2016; Keenan and McElroy 2017; Beauregard 2018; Smith et al. 2017)。しかし、若年男性は高齢男性と比べてよりリベラルな価値観を有しており、先行研究で挙げられている保守的なジェンダー規範やステレオタイプは、ジェンダー平等政策に対する若年男性の反発を必ずしも説明できていない。それでは、なぜ韓国の若年男性は、ジェンダー平等政策に反対する傾向にあるのだろうか。

筆者とキム氏(Jeong Hyun Kim)による共著論文「Why Do Young Men Oppose Gender Quotas? Group Threat and Backlash to Legislative Gender Quotas」では、ジェンダー平等政策に対する若年男性の反対が、自身の社会的な地位が脅かされるという「地位脅威」によって生じる集団的な不安に起因することを明らかにしている(Kim and Kweon 2022)。社会・経済・政治といった様々な分野において、女性の存在感が高まっており、それを自身に対する地位脅威として捉える男性の不安も、また高まっている。そして、この若年男性の不安が、女性の社会進出を促す政策に対する反対へと導いていると考えられる。

筆者らの研究は、特に20代や30代の若年男性が、そうした地位に対する脅威により敏感に反応すると主張する。その理由として、次の2点が挙げられる。まず第1に、若年層が直面する経済状況が、いまの高齢者が若かった時代と比べて、厳しいものであるという点である。経済が停滞することにより、若年層にとって、安定した職業に就くことや住宅の所有といった「モノ」の確保が、より難しいものになっている。若年層の教育水準は高まっているにも関わらず、この世代は、高失業率、仕事の不安定さ、高額な住宅価格などに苦しめられている。こうした経済状況の停滞が、若年層の経済的な脆弱性を助長し、ジェンダー平等政策に対する支持の低下へとつながっていると考えられる。

第2に、若者たちは、大学を卒業して間もなく最初の仕事をスタートしたばかりであり、キャリア形成の初期段階にいるという点である。これらの若者は、40代やそれ以上の世代の人々とは異なり、まだ自身の経済的基盤を確立できていない。この経済的な不安定さが、地位脅威に対して若年男性をより敏感にしていると考えられる。

筆者らは、若年男性が実際に地位脅威により敏感に反応するかどうか、またこの脅威がジェンダー平等政策に対する支持を低下させるのかを検証すべく、2つのサーベイ実験を実施した。これらの実験では、ジェンダー平等政策に対する態度を測定するため、クオータ制、賃金の平等、企業におけるクオータ制という3つの政策に注目している。図2の結果にも示されるように、地位脅威はクオータ制に対する若年男性の支持を低下させている一方で、この脅威は40代以上の男性有権者、そして全ての年齢層の女性有権者のジェンダー平等政策に対する態度には影響を与えていなかった。この結果は、特に若年男性が、自身の社会的な地位への脅威に対して敏感であることを示している。さらに、賃金の平等や企業におけるクオータ制に関しても、同様の結果が確認できた。

図2:「地位脅威」の実験刺激の限界効果

出典:Kim and Kweon(2022)

図2からは、地位脅威を感じさせる実験刺激に対して、若年男性の方が高齢男性に比べてより大きくかつネガティブに反応していることが分かる。一方、女性の被験者では、そうした傾向や年齢による違いは見られなかった。

さらに筆者らの調査では、実験参加者に対してジェンダー平等政策に反対する理由について、自由記述回答形式でも尋ねている。興味深いことに、ジェンダー平等政策に反対する参加者のうち、20代や30代の若年男性の回答は、高齢の男性参加者の回答と異なるものであった。高齢男性らがジェンダー平等政策に反対する理由は、主に女性が政治リーダーに適していないという思い込みに根ざしている傾向が見られた。彼らは、女性が適切なリーダーシップを有しておらず、クオータ制の導入が政治家の質の低下をもたらす可能性を懸念しているのである。これらの回答は、高齢男性のほうが保守的なジェンダー規範やステレオタイプにもとづき、クオータ制に反対していることを示唆している。

他方、20代や30代の若年男性参加者の回答では、ジェンダー規範やステレオタイプへの言及があまり見られなかった。彼らの回答は、主にジェンダー平等政策が自身の社会的な地位に与えるネガティブな影響を懸念するものであった。多くの被験者が、「逆差別」という言葉に触れ、このような懸念を打ち明けていた。地位脅威にさらされる若年男性の間では、自身の社会的な地位がさらに低下してしまう懸念が特に強いことを示唆している。

現在、世界各国の政府において、社会的・政治的な多様性の向上を目指し、女性の社会進出を促進しようとする様々な取り組みがなされている。しかし、ジェンダー平等政策が世論の支持を得られないままに実行された場合、むしろ有権者の反感を招く可能性があることを指摘する研究がある(Clayton 2015; Kerevel and Atkeson 2017)。それでは、世論の支持を得るためにはどうすればよいのだろうか。筆者らの研究は、ジェンダー規範やステレオタイプの解消だけで、世論がジェンダー平等政策に対してポジティブな態度を示すように変化するわけではなく、経済状況とその影響にも目配せすることが重要であるということを示唆するものである。


参考文献

Barnes, Tiffany D., and Abby Cόrdova. 2016. “Making Space for Women: Explaining Citizen Support for Legislative Gender Quotas in Latin America.” Journal of Politics 78: 670–86.

Beauregard, Katrine. 2018. “Partisanship and the Gender Gap: Support for Gender Quotas in Australia.” Australian Journal of Political Science 53: 290–319.

Burden, Barry C., Yoshikuni Ono and Masahiro Yamada. 2017. “Reassessing Public Support for a Female President.” Journal of Politics 79: 1073–78.

Clayton, Amanda. 2015. “Women’s Political Engagement under Quota-Mandated Female Representation: Evidence from a Randomized Policy Experiment.” Comparative Political Studies 48: 333–69.

Jeong, Hanwool, and Jeong-Jin Lee. 2019. Perceptions of Women’s Political Participation. Technical Report. Seoul: Hankook Research.

Keenan, Lisa, and Gail McElroy. 2017. “Who Supports Gender Quotas in Ireland?” Irish Political Studies 32: 382–403.

Kerevel, Yann P., and Lonna Rae Atkeson. 2017. “Campaigns, Descriptive Representation, Quotas and Women’s Political Engagement in Mexico.” Politics, Groups and Identities 5: 454–77.

Kim, Jeong Hyun, and Yesola Kweon. 2022. “Why Do Young Men Oppose Gender Quotas? Group Threat and Backlash to Legislative Gender Quotas.” Legislative Studies Quarterly 47(4): 991–1021.

Ono, Yoshikuni, and Barry C. Burden. 2019. “The Contingent Effects of Candidate Sex on Voter Choice.” Political Behavior 41: 583–607.

Norris, Pippa, and Ronald Inglehart. 2003. Rising Tide: Gender Equality and Cultural Change around the World. New York: Cambridge University Press.

Nteta, Tatishe M., and Jill S. Greenlee. 2013. “A Change Is Gonna Come: Generational Membership and White Racial Attitudes in the 21st Century.” Political Psychology 34: 877–97.

Smith, Amy Erica, Katherine Warming, and Valerie M. Hennings. 2017. “Refusing to Know a Woman's Place: The Causes and Consequences of Rejecting Stereotypes of Women Politicians in the Americas.” Politics, Groups, and Identities 5: 132–51.

    • 成均館大学校助教授
    • Yesola Kweon
    • Yesola Kweon

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