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「未来の水ビジョン」懇話会11「近年の土地制度の見直しについて―「適正な利用・管理」に向けた動きと課題―」
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「未来の水ビジョン」懇話会11「近年の土地制度の見直しについて―「適正な利用・管理」に向けた動きと課題―」

June 20, 2023

R-2023-019

「未来の水ビジョン」懇話会では、人口減少・高齢化社会における土地の適正な利用・管理のあり方が課題となっている中、近年の土地制度の見直しの動きを整理し、土地と水に共通する点について議論を行う。(2023414日 東京財団政策研究所にて)

Keynote Speech(概要)
1.土地制度見直しの契機:所有者不明土地問題
2.背景
3.主な制度見直し:土地制度の転換期
4.諸制度における「地域」の役割と課題
5.国土形成計画と「国土の管理構想」
6.提言:土地と水に共通する点
さらなる議論

Keynote Speech(概要)

吉原祥子/東京財団政策研究所研究員

1.土地制度見直しの契機:所有者不明土地問題

近年、土地制度の見直しが進んでいる。その契機となったのは、所有者不明土地問題だ。所有者不明土地とは、「不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地」または「所有者が判明しても、その所在が不明で連絡がつかない土地」を指す。法務省が管轄する不動産登記簿は、本来は相続の時に書き換えてもらうべきだが、適時に更新されないこともしばしばあり、実際の所有者と不動産登記簿の情報に乖離が生じる。自治体のアンケートによれば、「土地の売買等も沈静化しており、正しく相続登記を行っていなくても当面実質的問題が発生しないケースが増えている」「相続人が地元に残っていない。山林・田畑について、所有する土地がどこにあるかわからない方が多い」「土地は利益となる場合よりも負担(毎年の税金)になる場合が多いので、相続人も引き受けたがらない」といった意見が示されており、人口減少・高齢化、土地利用ニーズの低下、相続増加、所有意識の希薄化などによってこのような問題が生じる。[1]

1は「不動産登記簿のみでは所有者不明」の土地の比率の推移を示している。2016年度では全体で20.1%だったが2020年度では24.0%となっている。ここで示す所有者不明とは実際に所有者がいないという意味ではなく、不動産登記簿では直ちにはわからないという意味だ。司法書士などが住民票や戸籍などをたどっていけば、相続人が一人も見つからないという土地は、わずか0.22%になる(表2)。

ここで問題となるのは、不動産登記簿からはわからない所有者を探索する負担が、社会的・行政的コストとして看過できないものとなっている点だ。所有者を探索するには、戸籍や住民票などを役所で請求し、相続人が複数いる場合は一人一人に当たる必要があるため、それに対する費用や時間がかかる。例えば、東日本大震災で震災復興のために土地を活用するとか、耕作放棄地対策や農地や林地の集約的な施業を推進するために、土地所有者に連絡を取りたいといったときに、このような所有者特定のコストがかかるということになる。

1 「不動産登記簿のみでは所有者不明」の土地の比率の推移

 

全体

都市部

宅地

農用地

林地

2016年度

20.1%

14.5%

17.4%

16.9%

25.6%

2017年度

22.2%

16.1%

19.3%

19.0%

28.2%

2018年度

23.4%

15.3%

21.0%

21.2%

29.7%

2019年度

23.5%

14.2%

18.7%

22.5%

30.7%

2020年度

24.0%

17.1%

20.8%

23.1%

29.8%

※各年度に一筆地調査を実施した地区を対象に調査(対象地区は各年度で異なる)
出所:国土交通省土地政策審議官部門土地政策課 [2]

2 地籍調査における土地所有者等に関する調査(2020年度)

 

全体

都市部

宅地

農用地

林地

①登記簿上で所在確認

76.0%

82.9%

79.2%

76.9%

70.2%

②登記簿のみでは所在不明

24.0%

17.1%

20.8%

23.1%

29.8%

③最終的に所在不明

0.22%

0.14%

0.13%

0.18%

0.34%

出所:国土交通省土地政策審議官部門土地政策課 [3]

2.背景

このようなことが起こるのは、今起きている社会の変化と明治時代から想定していた従来の土地制度との間にギャップがあるためと考えられる(図1)。

社会の変化としては人口減少や高齢化があり、それらに伴い、空き家や空き地が増加する。 経済活動はグローバル化し、東京23区で外国に住所を有する固定資産税の納税義務者数が2013年から2019年に6倍に増えるなど、都心部の高級マンションなどについては国際的な不動産投資が進んでいる[4]。地域外に住む相続人や国外在住の投資家など不在地主が増加する。その一方で、従来の土地制度が想定していたのは、人口増加であり、土地は資産であるという考えだ。土地の所有者は地域の人的なネットワークで把握でき、法律、政策の方向性も過剰な利用をどのように抑えるかという対応が中心だった。安全保障上の土地政策は不十分であった。

従来の土地制度の特徴は実態把握と規律の在り方という2つに分けられる。土地所有者の実態把握は不動産登記制度に基づく。これまで相続登記は任意であり、登記をするかどうかは、相続人の意思に任せられてきた。また、国内に住所を有しない不動産所有者へのアクセスは戸籍も住民票もないため特に困難である。さらに土地の境界、面積、地目などを調べて地図を整備する地籍調査においても、1951年の法制定以来の進捗率は52%にとどまるという状況がある。

一方、規律の在り方は、「土地の所有権は法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」と民法207条でうたわれているが、日本の土地所有権は、海外と比較して、自由度がかなり高い。売買規制は農地以外にはなく、利用規制も、農地法や森林法などがあるものの、実際には罰則の適用事例はほとんどない。

このような中で20143月に成立した水循環基本法では、地下水を含む水を「国民共有の貴重な財産であり、公共性が高いもの」と初めて法的に位置づけたという大きな一歩があった。民法207条では、「土地の所有権はその土地の上下に及ぶ」ということに基づいて、土地の所有者に地下水の権利も帰属するわけだが、水循環基本法の成立に伴い、地下水の利用や管理に関しても政策課題として認識が深まった。

このような制度上の課題があったがゆえに、所有者不明土地問題や安全保障上の懸念が生じたと整理できる。いずれも、制度における構造上の問題であり、市場に任せるだけでは解決は困難である。


3.主な制度見直し:土地制度の転換期

これらを踏まえた主な制度の見直しとして、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(所有者不明土地法)の制定(20186月成立、20224月改正)、土地基本法の改正(20203月成立)、民事基本法制の見直し(20214月成立、202341日以降順次施行)の3つを挙げることができる。

所有者不明土地法においてとくに重要なのは、地域のために所有者不明土地を利用できる「地域福利増進事業」が創設されたことだ。公園や広場の整備といった地域のための事業であれば所有者が不明になった土地を一定期間使っていいというもので、成立時は上限10年だったが、2022年の改正で民間が行う事業については、上限年限が20年に延長された。

土地基本法は、もともとは、土地は投機的な取引の対象ではなく、適切な利用をするものという観点から立法されたものだったが、改正においては、適正な利用だけではなくて、管理が必要という視点が加わった。土地所有者は適正な利用をするのみならず、適正な管理を行う責務を負っていることがここで明確化された。具体的には、登記をして権利関係を明確にすることや、所有権の境界の明確化に努めることが明示された。また、その責務を所有者のみに負わせるのではなく、周辺の地域住民らで補完し合うことを国や地方公共団体が政策として推進する重要性が示された。これが理論的な土台となって、民事基本法制の見直しが進んだ。

民事基本法制の見直しとして、まず、不動産登記法の改正が行われた。相続登記・住所変更登記の申請義務化、相続人申告登記の新設(手続き負担の軽減)、職権的に住所変更等を登記に反映させる方策の整備、所有不動産記録証明制度の新設(登記漏れの防止)、外国に居住する所有権の登記名義人の国内連絡先の登記、などが順次施行される。所有者不明土地問題を受けて、これまで任意であった相続登記について義務化という大きな変更がなされたことになる。また、基本情報を公示する台帳としての不動産登記簿の役割の重要性が再認識されたことを意味する。

民事基本法制の見直しの2点目は民法改正である。不明共有者がいる場合における金銭供託等により共有関係を解消する方策の整備、所有者不明土地・建物に特化した財産管理制度や管理不全土地・建物の管理制度の整備、水道・ガスなどライフライン設置のための隣地使用を可能とする相隣関係規定の整備、相続開始から長期間経過した遺産の分割方法の見直し(10年経過後は法定相続分で簡明に分割)、などが施行された。これらの改正によって、所有者不明土地だけではなく、財産全般に関わる規律が見直されたということになる。これは、人口減少時代における財産承継のあり方への認識に根差した改正が行われたということを意味している。

民事基本法制の見直しの3点目は、相続土地国庫帰属法という新法の制定である。これは相続した土地の国庫帰属を可能にする制度として創設されたものだ。さまざまな厳しい要件があるほか、負担金の納付なども求められるが、国に帰属させる仕組みができたのは大きな一歩である。

4.諸制度における「地域」の役割と課題

今回の制度見直しでは、土地について適正な利用と管理の重要性が示されたことに加えて、所有者、近隣住民・地域コミュニティ等、地方公共団体、国などの土地に関係する者の適切な役割分担を明らかにすべきとされた[5]。また、所有者が責務を果たしてないことにより悪影響が生じている場合は、所有者以外の者、すなわち地域住民や自治体などが補完し、その利用・管理が所有権を制限し得る場合があるとされた。

これを整理すると、3つのアクターに区分できる(図2)。自治体、地域住民・NPO等、土地所有者本人の役割があることになる。重要なのは、土地所有者以外の者が取り得る方策が、行政的措置、民事的措置、それぞれにおいて増えてきているということだ。行政的措置としては、所有者不明土地法の枠組みで自治体は地域住民・NPO等を所有者不明土地利用円滑化等推進法人に指定できる。また、自治体は所有者不明土地対策計画の策定を行うことができ、所有者不明土地利用円滑化等推進法人からの提案も可能である。民事的措置としては、所有者不明土地・建物管理制度等を用いて、自治体や地域住民・NPO等も土地の適正な利用・管理を図ることができる。

このような制度上の改正が進んでいるとはいえ、実際に地域で制度を活用するには課題も多い。例えば、地域福利増進事業は施行から3年以上たっても、実際に地域の土地を使った事例は1件に過ぎない。土地所有者が不明になったとしても、第三者が簡単に利用できるわけではなく、地域住民等が制度を使って土地を利用するには、所有者探索、権利関係の調整、費用負担など依然として大変な手続きを伴う。そうした面ではまだ解決すべき課題は多いのが実態である。

5.国土形成計画と「国土の管理構想」

次期国土形成計画がこのような土地利用・管理に関する政策動向も踏まえて2023年夏に公表される予定だ。地域主体の管理構想が大きな国土形成の全国計画の中に位置づけられていく方向性になっている[6]。「人口減少下では全ての土地について、これまでと同様に労力や費用を投下し、管理することは困難」との認識から、地域の住民が優先順位をつけて合意形成をしていく、というのが基本的な考え方である。とはいえ、住民参加を軸として地域主体で進めるのは、実際にはかなりの困難が伴う。話し合いの場をつくるコーディネーターを誰が担うのか、どのように専門知識を提供し、意見の集約や合意形成を進めるのかといった課題が残る。

6.提言:土地と水に共通する点

最後に、土地と水に共通する点に言及する。

まず、人口減少時代における「適正な利用・管理」の実現の課題がある。すなわち、「個人の財産であり公共性の高い財」に対して、どのように両立するのかといった管理の在り方が課題だ。また、その管理の在り方において、国、自治体、住民、企業等、それぞれの役割を再検討する必要がある。

役割の再検討には、コスト分担の在り方が内包される。解決にかかるコストがそれによって得られる便益よりも大きければ、解決のインセンティブは低く、先送りとなり、結果、時間の経過とともに解決はさらに困難になる。個人では解決できないことも多く、そうなる前に社会で予防することが必要となる。一方で、行政だけでは担えないことを踏まえれば、民間の取組みを支える制度の在り方について、行政的措置と民事的措置の両観点からの整理が必要であろう。

長期的には、計画づくりとその実効性を確保できるような、地域管理構想に資する仕組みが必要だ。水の保全や土地の管理についてのマクロの構想とそれを実現していくための日々のミクロな取り組みをいかに連結するのかが大きな課題だろう。例えば、流域水循環計画と地域管理構想を連携させる上では、いかにマクロとミクロの整合性を持たせるかが計画づくりの実効性を高めるうえで重要となる。

さらなる議論


所有者不明土地(左手前)のために河川整備事業が中断した事例(筑後川水系早津江川)
(撮影:吉原祥子氏)

土地利用と権利と管理


土地所有者不明のリスクと所有者特定のコスト


地域コーディネーター育成

議論を振り返って


 

<参考>

[1]「土地の『所有者不明化』――自治体アンケートが示す問題の実態」東京財団政策研究所、2016

[2] 国土交通省土地政策審議官部門土地政策課「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の改正について」令和468日(土地総合研究所における千葉信義課長[当時]発表資料)、13

[3] 同上、12

[4]「資産評価情報」20201月、234号別冊、34頁、53

[5] 国土審議会土地政策分科会特別部会「とりまとめ」平成312月、8頁、1314

[6] 国土審議会第16回計画部会 資料1「新たな国土形成計画に向けた主要論点整理」令和523日、4頁、71

「未来の水ビジョン」懇話会について

我が国は、これまでの先人たちの不断の努力によって、豊かな水の恵みを享受し、日常生活では水の災いを気にせずにいられるようになった。しかし、近年、グローバルな気候変動による水害や干ばつの激化、高潮リスクの増大、食料需要の増加などが危惧されている。さらには、世界に先駆けて進む少子高齢化によって、森林の荒廃や耕作放棄地の増加、地方における地域コミュニティ衰退や長期的な税収減に伴う公的管理に必要な組織やリソースのひっ迫が顕在化しつつある。

水の恵みや災いに対する備えは、不断の努力によってしか維持できないことは専門家の間では自明であるが、その危機感が政府や地方自治体、政治家、企業、市民といった関係する主体間で共有されているとは言い難い。

そこで「未来の水ビジョン」懇話会を結成し、次世代に対する責務として、水と地方創成、水と持続可能な開発といった広い文脈から懸念される課題を明らかにしたうえで、それらの課題の解決への道筋を示した「水の未来ビジョン」を提示し、それを広く世の中で共有していく。

※「未来の水ビジョン」懇話会メンバー(五十音順)
沖大幹(東京財団政策研究所研究主幹/東京大学大学院工学系研究科)
小熊久美子(東京大学大学院工学系研究科)
黒川純一良(公益社団法人日本河川協会専務理事)
坂本麻衣子(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
笹川みちる(東京財団政策研究所主席研究員/雨水市民の会)
武山絵美(愛媛大学大学院農学研究科)
徳永朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
中村晋一郎(東京財団政策研究所主席研究員/名古屋大学大学院工学研究科)
橋本淳司(東京財団政策研究所研究主幹/水ジャーナリスト)
村上道夫(東京財団政策研究所研究主幹/大阪大学感染症総合教育研究拠点)

 

 

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