東京財団政策研究所 Review No.01

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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010たわけではありません。経済学は面白い、もっと勉強したいという知的好奇心を追求していて、気が付いたら経済学者になっていました。その過程でサックスらの影響を受けた。日本には優れた若手研究者が大勢います。そうした人たちに政策研究は面白い、政策研究をテーマに選ぼう、と思ってもらえるようになれば、研究水準はすぐに高まります。そうなったら、自分がこの役職をお受けした価値が生まれると思うのです。小林若手研究者の目が開いていき、一般社会の人たちの目が開いていく、ということにつながりそうですね。私は当研究所で、西條辰義高知工科大学教授らと共同で「フューチャー・デザイン」という研究を進めています。地球環境問題、人口減少、政府債務の膨張など、世代を超えた持続性に関する政策課題を解決し、将来世代に持続可能な自然環境と人間社会を引き継いでいくために、どのような社会制度をデザインすべきかを追求するプロジェクトです。その一つの目標は「現時点の政治的意思決定の場に、将来世代の利益を代表するアクター(演者)を現出させること」です。2015年、岩手県矢巾町で、今、黒字の上下水道事業について、2060年までの長期ビジョンを住民に作成してもらう実験を行いました。一般市民5、6人のグループ4組で議論して政策案をつくってもらうのですが、2組は通常の現在世代グループ、残り2組は「2060年に生きる将来世代」の立場になりきる役割を与えます。その結果、現在世代グループは、今、黒字なのだから、値下げして、全住民で利益を分け合えばいいのではないか、という議論になりました。一方、将来世代グループは、将来必要な上水道の設備交換のための資金を蓄えなければならないことを考慮し、今、黒字だけれども値上げしようという議論になった。実際、同町では2017年に水道料金の値上げを実施しています。環境問題、高齢化やグローバル化などの長期課題に対しても、意思決定のやり方を変えることで解決策を見出すことができるかもしれません。本日は貴重なお話をありがとうございました。(2018年12月20日収録。編集・構成:東京財団政策研究所広報)に新興国を加えて自由貿易による利益をもたらそうと動いてきたのですが、多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の妥結のめどが立たない。この先をどう考えるか。中国など新興国が入った形でルールづくりをすることになるのですが、現実はなかなか難しい。小林経済学を越えたグローバルガバナンスの仕組みをどう考えるのかということですね。伊藤ケインズはまさに1940年代中頃にそれを一所懸命考えていたわけです。小林経済学のロジックや視点を持ちながら、領域を踏み越えて、米中が対立する中で世界全体の運営をどう考えるか。なかなかチャレンジングです。松山シンクタンクの役割として、問題提起は重要です。そのためには、繰り返しになりますが、現実にあった理論的枠組みで物事をとらえること、虚心坦懐に現場を知っている人たちの話を聞くこと、そして必要であればそれを理論に組み込み、説得力あるものにしていく不断の努力が不可欠です。所長として、みなさんに期待されていることはもちろんやっていきます。それらに加えて、私自身のイニシアティブとして、政策研究に興味を持つ若手研究者の励みになることをやっていきたい。例えば、海外の審査付きのジャーナルに掲載された政策研究に関する優れた論文を、一般の日本人に日本語でわかりやすく説明する機会を提供する。そうした情報が蓄積すれば、若手研究者の励みになるし、学部学生の教材にもなるかもしれない。そして何より、政策研究は面白い、魅力があるのだということを、特に若手研究者に伝えたい。実は、私は経済学者になりたいと思って経済学を勉強し将来世代の利益を代表するアクターの登場で解決策を見出せることも特別対談


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